【親子問題】夫婦で方針が割れる|一方の親が子をかばうとき

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は、2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。2026年4月1日に施行された改正民法(親権の行使方法、父母相互の協力義務)の内容を反映しています。


子が親に暴力をふるう、お金を求め続ける。そうした状況で、父親と母親の考えが分かれてしまうご家庭は少なくありません。一方は「警察に相談したい」「もうお金は渡さない」と考え、もう一方は「大ごとにしたくない」「かわいそうだから」と子をかばう。どちらも子と家族のことを考えた結果であるだけに、話し合いが平行線のまま時間だけが過ぎていくことがあります。

 本記事では、夫婦で方針が割れたときに何が起きやすいのか、法律は夫婦の意見の不一致をどう扱っているのか、そして意見がそろわないまま動く場合の線引きを、親御さんの立場から整理します。

夫婦で方針が割れるのは珍しいことではない

 家庭内暴力の向き先は、家族の中で均等ではありません。犯罪白書(令和6年版)によると、警察が把握した少年による家庭内暴力は令和5年に4,744件あり、対象は母親が2,781件と最も多くなっています。成人した子のケースでも、一緒に過ごす時間が長い親に暴力や要求が向きやすいことがあります。

 そのため、同じ家に暮らしていても、夫婦の一方は暴力や要求を日常的に受け、もう一方はその場面をあまり見ていない、という差が生じがちです。見えている景色が違えば、判断が分かれるのは自然なことでもあります。方針が割れやすいのは、たとえば次のような場面です。

  • 警察を呼ぶか、被害届を出すか。
  • お金を渡すか、断るか。
  • 家から出てもらうか、同居を続けるか。
  • 外部の機関や弁護士に相談するか、家族の中で収めるか。


 子をかばう側の親にも、理由があります。前科がつけば子の将来に響くのではないか、自分の育て方に原因があったのではないか、外に知られたくない、強く出ればもっと荒れるのではないか。こうした不安は、どれも理解できるものです。かばう親を責めることから始めると、夫婦の溝がかえって深くなることがあります。

一方がかばうことで起きやすいこと

 夫婦の対応が分かれていると、子の側から見れば「頼めば聞いてくれる親」と「断る親」がいる状態になります。その結果、次のようなことが起きやすくなります。

  • 要求の窓口が、かばう側の親に集中します。
  • 一方が断っても他方が応じるため、要求が止まりにくくなります。
  • 断る側の親が「悪者」として扱われ、暴言や暴力の矛先が向きやすくなります。
  • 夫婦の言い争いそのものが、子にとって交渉の材料になります。


 かばう側の親が人知れずお金を渡し、断った親が後からそれを知る、という形が続くと、夫婦間の信頼も損なわれていきます。応じた金額や日付は、のちに方針を考え直すときの材料になりますので、夫婦それぞれで記録を残しておくことをおすすめします。記録の意味については【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかで解説しています。

法律は「夫婦の意見が一致すること」を前提にしていない

 夫婦の意見がそろわないと何もできない、と考えている方もいらっしゃいます。しかし、法律上の扱いは、子が成人しているか未成年かで大きく異なります。

子が成人している場合

 成年に達した子には親権が及びません。親はそれぞれ、自分の判断で行動することになります。

 たとえば、暴力を受けた親は、配偶者の同意がなくても警察に相談し、被害届を出すことができます。被害を受けた本人の判断で足り、もう一方の親が反対していることは手続の妨げにはなりません。ただし、被害届を出すかどうかは家族関係に影響しますので、【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることもあわせてご覧ください。

 お金についても同じです。民法は、婚姻中に自分の名で得た財産をその人のものとしており(民法762条1項)、自分名義の預金をどう使うかは、それぞれの判断になります。裏を返せば、かばう側の親が自分のお金を子に渡すことを、もう一方の親が法的に止める手段は限られています。そのため、断る側の親としては、自分の家計を守る仕組みを整えることが現実的な対応になります。具体的な手順は【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかをご参照ください。

 住まいについては、家の名義が誰にあるかによって、子に退去を求められる立場が変わります。夫婦の共有名義の場合は、一方の判断だけでは決めにくい場面もあります。詳しくは【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。

子が未成年の場合

 子が18歳未満で父母が婚姻中の場合、親権は父母が共同して行います。2026年4月1日に施行された改正民法は、親権の行使方法をあらためて整理しました(民法824条の2)。

場面親権の行使
原則父母が共同して行う
監護・教育に関する日常の行為父母の一方が単独で行える
子の利益のため急迫の事情があるとき父母の一方が単独で行える
特定の事項について父母の協議が調わないとき家庭裁判所が、その事項について一方が単独で行えると定めることができる


 最後の仕組みは「親権行使者の指定」と呼ばれ、婚姻中の父母の間でも、家庭裁判所に調停や審判を申し立てることができます。子の治療や居所など、子の生活に大きく関わる事項について夫婦の意見がどうしても合わない場合に、検討の対象となり得ます。

 また、改正民法は、父母が子の利益のために互いの人格を尊重し協力しなければならないことも定めています(民法817条の12第2項)。意見が分かれること自体が問題とされるわけではありませんが、対立が長引いて子の利益が損なわれている場合には、第三者を交えた話し合いを早めに検討する意味があります。なお、18歳未満の子については、児童相談所も相談先になります。

意見がそろわないまま動くときの線引き

 夫婦の話し合いがまとまるのを待つ間にも、暴力や要求は続きます。すべてで一致を目指すのではなく、事柄ごとに線を引いて考えると、動ける範囲が見えやすくなります。

身の安全に関わることは一致を待たない

 暴力を受けてけがをするおそれがあるときは、配偶者の賛否にかかわらず、110番通報や一時的な避難を優先してください。安全の確保と記録の残し方は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、親が家を離れるという選択肢については【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で解説しています。

お金は「出す側の財布」を分ける

 渡すか渡さないかで合意できない場合でも、家計の共通口座からは子に渡さない、渡すなら誰がいくら渡したかを夫婦で共有する、といった最低限の取り決めであれば結べることがあります。断ることの法的な位置づけは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけをご覧ください。

子の前で夫婦の議論をしない

 子の目の前で方針をめぐって言い争うと、どちらの親に頼めば要求が通るかを子に示すことになりかねません。夫婦の話し合いは子のいない場所で行い、子への伝え方は窓口を一本にしておくことが望ましいといえます。

かばう親もまた当事者である

 子をかばっている親自身が暴言や暴力を受けている、あるいは受けることを恐れてかばっている、という場合もあります。配偶者にも被害が及んでいる場合の対応は【親子問題】きょうだいや配偶者にも暴力が及んでいる場合で整理しています。

夫婦で相談に来る場合と、お一人で相談に来る場合

 弁護士への相談には、ご夫婦そろって行う形と、どちらかお一人で行う形があります。どちらの形をとるかで、依頼の進め方に違いが出ます。

 お一人で相談・依頼される場合、依頼者はその親御さんです。もう一方の親に相談の事実や内容をどう伝えるかは、依頼者と話し合いながら決めていきます。相談内容の取扱いについては【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方もご参照ください。

 ご夫婦そろって依頼される場合は、同じ事件について依頼者が複数いることになります。弁護士職務基本規程32条は、依頼者どうしの利害が対立するおそれがあるときは、受任にあたって辞任の可能性などの不利益を説明しなければならないと定めています。夫婦の方針が大きく割れている段階では、まずどこまで共通の方針をとれるかを確認したうえで、進め方を決めることになります。依頼後に夫婦の意見が正面から対立するに至った場合には、弁護士が双方の代理人を続けられなくなることもあります。

よくあるご質問


配偶者が反対していても、弁護士に依頼できますか

 子が成人している場合、親御さんお一人でもご依頼いただけます。配偶者の同意は法律上の要件ではありません。ただし、実際の進め方は家庭内の状況によって変わりますので、配偶者が反対している事情も含めてお聞かせください。

かばう側の親が子にお金を渡すのをやめさせられますか

 配偶者が自分のお金を渡すことを法的に止めるのは難しいのが実情です。家計を分ける、渡した記録を共有するといった方法で、影響を小さくすることを考えます。

夫婦の対立が深まり、離婚も考えています

 離婚の問題と子の問題は、切り分けて考える必要があります。子が未成年の場合、改正民法のもとでは離婚後も父母の双方を親権者とすることができるようになりました。まずは子の問題で何を優先するかを整理するところから、ご相談ください。

当事務所の取り組み|親の側と子の側を分けて支える

 当事務所では、弁護士が親の代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の日常生活を支えるという形で、親子の問題に取り組んでいます。

 夫婦の一方が子をかばう場面では、かばう側の親からの連絡や送金が、子が自分の力で生活を組み立てていく流れを止めてしまうことがあります。カウンセラーは子の生活の支援とあわせて、親への報告や、親から子への関わりの調整も担います。かばう親の気持ちを否定するのではなく、子への関わり方を第三者を通す形に置き換えることで、夫婦の対立を和らげることを目指します。

 役割を分ける理由は【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由で、親子が距離を取ることの意味は【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点で解説しています。ご相談から自立までの流れは【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問にまとめています。

 夫婦で方針が割れていること自体は、ご家庭が子のことを真剣に考えている表れでもあります。そろわない部分を無理に一致させようとするより、安全、お金、住まいといった事柄ごとに、誰が何を決められるのかを整理することが、次の一歩につながります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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