【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違い
この記事は、2026年10月時点の刑法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)、民法の規定に基づいて書いています。お子さまがすでに自分を傷つけている、危険な物を手にしているなど、命に危険が迫っている場合は、この記事を読むより先に110番または119番へ連絡してください。
「お金を渡さないと死ぬ、と言われると、本当に何かあったらと思って断れない」。親子問題のご相談では、こうしたお話を母親の側から伺うことが少なくありません。一方で、父親の側からは「渡しても、翌月にはまた同じ言葉が出てくる」という声も聞きます。どちらも、同じ家庭の中で実際に起きていることです。
世間では「金銭の要求には応じず、毅然とした態度を」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、その説明だけでは「命に関わる言葉を、どう受け止めればよいのか」という親御さんの一番の不安には答えきれません。
この記事では、「金を出さないと死ぬ」という一つの言葉を、命の安全の問題と、金銭の要求の問題の二つに分けて考えます。そのうえで、法律上の位置づけ、言われたその場での対応、繰り返されるときに家族で整える体制を順に見ていきます。暴力を伴う場合や「殺す」と言われた場合の扱いは、それぞれ別の記事で解説しています。
「死ぬ」と「金」を分けて受け止める
一つの言葉に二つの問題が重なっている
「金を出さないと死ぬ」という言葉には、子の命に関わるかもしれないという問題と、親の財産をどうするかという問題が、一つの文の中に重なっています。この二つが結びついたままだと、親御さんは「お金を渡すこと」と「子の命を守ること」を同じものとして考えざるを得なくなります。
しかし、お金を渡すことで子の命が守られるとは限りません。渡したお金で目の前の状況がいったん収まっても、子が抱えている苦しさや生活の行き詰まりそのものが解消されるわけではないからです。命の問題には命を守るための手段で、お金の問題にはお金の問題として、それぞれ別の対応をとるという考え方が出発点になります。
命に関わる部分は、親の判断だけで抱えない
子の言葉が本心なのか、要求を通すための言葉なのかを、親が見分けることは困難です。専門家であっても、短いやり取りだけで判断することは難しいとされています。そのため、「どうせ口だけだ」と決めつけることも、「本気かもしれないから払うしかない」と抱え込むことも、どちらも避けたい対応です。
命に関わる部分は、警察や救急、保健所、精神保健福祉センター、医療機関といった、その役割を持つ機関に委ねるべき領域です。親御さんに求められるのは、子の気持ちを一人で見極めることではなく、必要なときにそうした窓口へつなぐことだといえます。
金銭の部分は、命の話と切り離して判断する
一方、お金を渡すかどうかは、家計の状況やこれまでの経緯を踏まえて、親御さんが判断してよい事柄です。命の話を理由に金額や回数がふくらんでいく状態が続くと、「この言葉を使えばお金が出てくる」という形が家庭の中に定着していきます。子の側にとっても、本当に必要な支援から遠ざかる結果になりかねません。
成人した子から金銭を求められたときの法的な考え方は、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで詳しく扱っています。
法律から見た「金を出さないと死ぬ」という言葉
自分の命を持ち出す言葉は、原則として脅迫罪に当たらない
脅迫罪(刑法222条)は、相手方本人またはその親族の生命、身体、自由、名誉、財産に害を加えると告げた場合に成立します。「死ぬ」「死んでやる」といった言葉は、話している本人が自分自身のことを述べているにとどまるため、原則として親に対する脅迫には当たりません。
これに対し、親の生命や身体に危害を加えると告げる言葉や、「親のせいだと親戚や近所に言いふらす」のように親の名誉に触れる言葉が加わると、脅迫として扱われる余地が出てきます。親に向けた危害の言葉がどう評価されるかは、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きで解説しています。
恐喝が問題になる場面と、親子間の特例
脅迫にあたる言葉を用いて金銭を出させた場合は、恐喝罪(刑法249条)が問題となります。ただし、恐喝罪には窃盗などと同じく親族間の特例が準用されており(同法251条、244条1項)、直系血族である親子の間では、財産を取る罪としての恐喝については刑が免除されます。
この特例が及ぶのは、財産に関する罪に限られます。暴行や傷害、金銭の要求を伴わない脅迫には特例が及ばず、親子の間でも処罰の対象になります。「家庭の中のお金の問題」として警察が慎重になりやすい背景には、この特例があります。詳しくは【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかと【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲をご覧ください。
断ったことで親が責任を問われるのか
親子は互いに扶養する義務を負います(民法877条1項)。もっとも、成人した子に対する扶養は、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で行うものと一般に考えられており、求められるままに金銭を渡し続ける義務まではありません。扶養義務の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで整理しています。
金銭の要求を断ったことだけを理由に、親が法的な責任を問われることは基本的にありません。ただし、断る際に「勝手にすればいい」などと突き放す言葉をかけたり、子の考えを後押しするような言動をとったりすることは避けてください。法的な面でも、親子関係の面でも、取り返しのつかない影響を残すおそれがあるためです。お金は断っても、話を聞く姿勢は残しておくことが大切です。
言われたその場でとる対応
差し迫った危険があるときは110番・119番へ
子がすでに自分を傷つけている、危険な物を手にしている、家を飛び出して連絡がつかないといった、命に危険が迫っている状況では、迷わず110番または119番に連絡してください。警察官は、精神障害のために自分を傷つけるおそれがあると認められる人を見つけたときは、保健所長を経て都道府県知事に通報することとされており(精神保健福祉法23条)、その後の医療につながる場合があります。
通報の際に何を伝えればよいかは、【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで解説しています。
その場で金額や約束を決めない
差し迫った危険がない場面では、その場でお金を渡すかどうかを決めず、「今日は決めない」「少し考えさせてほしい」と伝えて時間を置く対応が考えられます。強い言葉を前にすると、その場を収めるために金額や今後の約束を口にしてしまいがちですが、一度示した金額や約束は、次の要求の起点になりやすいためです。
同時に、子の苦しさを否定しない言葉を添えることも大切です。「お金のことは今は決められないが、つらいなら一緒に相談先を探す」といったように、お金の話と気持ちの話を分けて伝えることが、命の問題と金銭の問題を切り離す第一歩になります。
言われた言葉と状況を記録しておく
言われた日時、言葉、要求された金額、そのとき渡したかどうかを、日付ごとにメモに残しておきます。LINEやメールであれば画面を保存しておきます。こうした記録は、警察や医療機関、弁護士に相談するときに状況を正確に伝える材料になり、要求の頻度や金額の変化を客観的に把握することにも役立ちます。記録の生かし方は、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかもあわせてご覧ください。
繰り返されるときに家族で整える体制
医療・保健の窓口につなぐ
「死ぬ」という言葉が繰り返される背景には、心の不調や生活の行き詰まりが隠れていることがあります。子本人が受診を拒む場合でも、家族だけで保健所や精神保健福祉センターに相談することができます。医療につなぐ判断の目安は、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で取り上げています。
入院による治療が必要な状態でありながら本人が同意できない場合には、精神保健指定医の診察と家族等の同意による医療保護入院(精神保健福祉法33条)という制度もあります。ただし、入院の要否は医師が判断するもので、家族の希望だけで決まるものではありません。家族や本人が利用できる主な相談窓口は、次のとおりです。
| 窓口 | 内容 |
|---|---|
| 110番・119番 | 命に危険が差し迫っているとき |
| 警察相談専用電話(#9110) | 緊急ではないが、警察に相談したいとき |
| 保健所・精神保健福祉センター | 心の不調や受診について、家族だけでも相談できる |
| こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556) | お住まいの地域の公的な相談窓口につながる |
| よりそいホットライン(0120-279-338) | 暮らしや心の悩みを幅広く相談できる |
| #いのちSOS(0120-061-338) | つらい気持ちを抱える本人や、周りの家族が相談できる |
これらの窓口は、親御さん自身が追い詰められているときにも利用できます。
お金を渡す条件を家族で揃える
夫婦や同居の家族の間で、お金を渡すかどうかの判断が分かれていると、子は応じてくれる側に要求を集中させやすくなります。渡す場合の上限や使い道、渡さない場面を家族の間であらかじめ話し合い、誰が言われても同じ対応ができるようにしておくことが大切です。
生活費として一定額を支援すると決めた場合でも、渡し方を定額・定期に固定し、「死ぬ」という言葉が出たときに追加で渡すことはしない、という線を引いておくと、命の話と金銭の話が結びつきにくくなります。家計の切り分け方は、【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかで解説しています。
金銭の窓口を弁護士に代える
要求が長期にわたる場合や、親御さんが直接向き合うことが難しくなっている場合には、金銭に関するやり取りの窓口を弁護士に移すという方法があります。弁護士が親御さんの代理人として子と話し、親に直接向けられていた要求を受け止める形をとることで、親御さんは「命の言葉」と「お金の要求」を同時に受け止める立場から離れることができます。
ただし、子の側を孤立させてしまっては、根本的な解決にはつながりません。当事務所では、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、弁護士が親御さんの側を、カウンセラーが子の通院や仕事探し、生活保護の申請、日々の金銭管理といった生活の側を支える形で対応しています。役割を分ける理由は、【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由で紹介しています。
よくあるご質問
これまで何度か渡してしまいました。今から断ることはできますか
断ることはできます。過去に渡したことがあっても、それによって将来もお金を渡し続ける法的な義務が生じるわけではありません。ただ、対応を急に変えると、子の言葉や態度が一時的に強まることも考えられます。家族で方針を揃え、相談先を確保したうえで切り替えることをおすすめします。
「死ぬ」と言われたことを警察に相談したら、子は逮捕されるのですか
自分の命について述べる言葉だけであれば、原則として犯罪には当たらないため、それだけで逮捕につながることは通常考えにくいといえます。警察は、事件として扱うというよりも、本人の保護や医療へのつなぎという観点から関わることが多いと考えられます。暴力や親への危害の言葉を伴う場合は、別の判断になります。
断った後に子に万一のことがあったら、親の責任になるのですか
金銭の要求を断ったことだけを理由に、親が法的な責任を問われることは基本的にありません。それでも、親御さんが強い不安を抱えるのは自然なことです。だからこそ、断るときに突き放す言葉を避け、相談窓口や医療につなぐ行動をとっておくことが、子を守ることにも、親御さん自身の心の負担を軽くすることにもつながります。
まとめ
- 「金を出さないと死ぬ」という言葉は、命の安全の問題と金銭の問題に分けて対応する。
- 命に危険が差し迫っているときは110番・119番に連絡する。警察官からの通報を通じて医療につながる場合がある(精神保健福祉法23条)。
- 自分の命を持ち出す言葉だけでは、原則として脅迫罪(刑法222条)には当たらない。
- 脅迫にあたる言葉で金銭を出させた場合は恐喝罪(同法249条)が問題となるが、親子間では刑が免除される特例がある(同法251条、244条1項)。
- 成人した子への扶養は親の生活に余力がある範囲で行うもので、求められるまま渡し続ける義務はない(民法877条1項)。
- 断るときは突き放す言葉を避け、その場で金額や約束を決めず、言われた言葉を記録しておく。
- 繰り返される場合は、医療・保健の窓口と、金銭の窓口としての弁護士を分けて使う。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、お子さまからの金銭要求や家庭内暴力、ひきこもりに悩む親御さんからのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。ご相談は全国から承っており、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、親御さんの側とお子さまの生活の側の両方から対応します。
「死ぬ」という言葉を前にお金を渡すべきか迷っている方も、同じやり取りを何度も繰り返して疲れ切っている方も、一人で抱え込まずにご相談ください。ご相談から自立までの流れや費用は、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご案内しています。


