【親子問題】子が闇バイトに関わっていると分かった|親の立場でできること・してはいけないこと
本記事は2026年9月時点の法令と、消費者庁・厚生労働省の公表資料、報道された裁判例に基づいて作成しています。個別の契約の有効性や解約の可否は、契約書の内容と経緯によって異なります。
公的な窓口に相談を続けてきたものの状況が動かず、民間の自立支援施設を調べ始めたという親御さんからのご相談は少なくありません。「寮で共同生活をしながら就労まで支援する」「専門のスタッフが本人と話をする」といった案内を読むと、ここに任せれば変わるかもしれないと感じるのは自然なことです。一方で、「施設から戻ってきた後の生活は以前と変わらなかった」「途中でやめたいと伝えたところ、前払いした費用は戻らないと言われた」というお話を伺うこともあります。
民間の支援には、公的な窓口にはない柔軟さや手厚さがあり、真摯に取り組んでいる事業者も多くあります。ただ、ひきこもりの自立支援という事業には、開業にあたって国の許可を受ける仕組みが設けられておらず、支援の中身を判断する材料は、事業者自身の説明に頼らざるを得ないのが実情です。消費者庁も、ひきこもり支援を掲げる民間事業者との間で、対応が説明と異なる、途中で解約できないといったトラブルが起きていることについて注意を呼びかけています。
この記事では、民間の自立支援施設と契約する前に確認しておきたい事項を、契約の内容・支援の担い手・解約の条件・本人の意思の4点に整理します。公的な窓口が担う範囲については【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことで扱っています。連れ出し型の支援をめぐる裁判例は、本記事では確認の視点に必要な範囲の紹介にとどめます。
契約前に確認したい4つの項目
まず全体像を表にまとめます。いずれも口頭の説明で済ませず、書面で受け取っておくことが、後で状況を振り返るときの手がかりになります。
| 確認する項目 | 事業者に尋ねること | 書面で受け取りたいもの |
|---|---|---|
| 契約の内容 | 誰と誰の契約か、何を・いつまで・総額いくらで行うのか | 契約書、重要事項の説明書面、費用の内訳 |
| 支援の担い手 | 誰が、どのような資格と体制で関わるのか、医療とどう連携するのか | スタッフ体制の説明資料、1日の生活の流れ |
| 解約の条件 | 途中でやめたときにどう精算するのか、クーリング・オフの対象か | 解約条項、返金額の計算方法 |
| 本人の意思 | 本人にいつ、どのように説明し、同意を確認するのか | 本人への説明方法と、退所や外部との連絡に関する規則 |
確認1 契約の内容|何に、いくら払うのかを分けて確かめる
契約するのは親、支援を受けるのは子という構造
民間の自立支援施設の契約は、多くの場合、親御さんが契約者となって費用を支払い、支援を受けるのはお子さんという形をとります。費用を支払う義務を負うのは契約者である親御さんです。一方で、お子さん自身はその契約の当事者ではありません。親が契約したからといって、お子さんが施設での生活に従う義務を負うわけではないという点は、後の「本人の意思」の項目にもつながります。
費用の名目と前払いの範囲
費用は、入会金や入所金、月々の寮費や支援費、面談や訪問にかかる費用など、複数の名目に分かれていることがあります。確認したいのは、総額がいくらになるのかに加えて、そのうちいくらを契約時に前払いするのか、食費や住居費がどこまで含まれているのか、という点です。前払いの額が大きいほど、途中でやめるときの精算が問題になりやすくなります。
広告の表現と契約書の文言を照らし合わせる
案内に「自立率」「就労率」といった数字が掲げられている場合は、その数字がどのような基準で計算されたものかを尋ねてみてください。そのうえで、契約書に何が約束として書かれているかを確認します。人が関わる支援である以上、結果そのものを約束する契約は通常ありません。広告で受けた印象と、契約書に書かれている義務の範囲が一致しているかを、署名前に確かめておくことが大切です。重要な事項について事実と異なる説明を受けて契約した場合には、契約を取り消せる場合があります(消費者契約法4条1項1号)。
確認2 支援の担い手|誰が、どのような体制で関わるのか
スタッフの資格と、日常的に関わる人
公的なひきこもり地域支援センターには、社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師などの資格を持つ支援コーディネーターが配置されています。民間の施設でも同じ資格が必須というわけではありませんが、どのような経験や資格を持つ人が、何人で、日々の生活にどう関わるのかは尋ねておきたい点です。「顧問の専門家がいる」という説明の場合は、その専門家が実際にどの程度の頻度で関わるのかも確認します。なお、一般社団法人やNPO法人といった法人の形は、支援の質を公的に認めたものではありません。
医療との連携がどう組まれているか
ひきこもりの背景に、心身の不調や発達の特性が関わっていることもあります。体調を崩したときに誰が判断し、どの医療機関につなぐのかは、事前に確認しておきたい事項です。精神科への入院は、医師の診察に基づいて精神保健福祉法の手続に沿って決まるものであり、民間の事業者が判断できるものではありません。入院の可能性を示して本人の行動を制限するような説明がある場合は、慎重に検討することをおすすめします。
施設を出た後の生活が描かれているか
確認の中心に置きたいのが、支援の終わり方です。施設での生活が終わった後、どこに住み、どのように収入を得て、日々のお金をどう管理していくのか。その道筋が示されていない場合、期間が終わると自宅に戻り、以前と同じ生活に戻ってしまうことがあります。施設での生活に慣れることと、施設を出た後に自分で生活を維持できるようになることは別の事柄です。住まい探しや仕事探し、必要に応じた生活保護の申請などを、誰がどこまで支援するのかを尋ねてみてください。
確認3 解約の条件|途中でやめる場面を先に想定する
クーリング・オフが使える場合と使えない場合
自宅を訪問されて勧誘を受け、その場で契約した場合(訪問販売)や、事業者からの電話で勧誘を受けて契約した場合(電話勧誘販売)には、法律で定められた書面を受け取った日から8日間、クーリング・オフができます(特定商取引法9条1項、24条1項)。一方で、親御さんが自ら事業所に出向いて契約した場合や、インターネットから申し込んだ場合には、原則としてクーリング・オフの対象になりません。親御さんのほうから契約のために自宅へ来てもらった場合も、対象から外れることがあります(同法26条)。どの形で契約したのかは、契約日と経緯とあわせて記録しておきます。
「返金しない」という条項がそのまま通るとは限らない
契約書に「いかなる理由でも支払済みの費用は返金しない」「途中解約の場合は残期間分の全額を申し受ける」といった条項が置かれていることがあります。しかし、事業者と消費者との契約では、解約に伴う違約金などの定めのうち、同種の契約の解約によって事業者に生じる平均的な損害を超える部分は無効とされています(消費者契約法9条1項1号)。また、支援の内容によっては、途中で契約を終了させ、それまでに行われた支援の割合に応じて精算するという考え方がとられることもあります(民法651条1項、648条3項、656条)。どの考え方が当てはまるかは契約の中身によって異なりますが、条項の文言だけで返金をあきらめる必要はないという点は知っておいていただきたいところです。
本人が施設を出てしまった場合の扱い
お子さんが施設での生活を望まず、途中で出てしまうこともあります。その場合に契約が続くのか、費用の請求がどうなるのかを、事前に確認しておきます。解約条項は、支援がうまく進まなかった場面のために置かれているものです。うまくいく前提だけで契約書を読まないことが、後のトラブルを防ぐことにつながります。
確認4 本人の意思|親の同意で代えることはできない
連れ出しや閉じ込めが違法とされた裁判例
自立支援をうたう事業者に自宅から連れ出され、施設で自由を制限されたとして、元入所者が損害賠償を求めた裁判は複数あります。報道によれば、東京地裁は令和元年12月、令和4年1月、令和4年3月に、横浜地裁は令和7年5月に、それぞれ事業者側に賠償を命じる判決を言い渡しています。このうち令和4年1月の東京地裁判決では、本人の意に反して連れ出すよう依頼したとして、事業者と契約した母親にも連帯して賠償が命じられたと報じられています。本人の意思に反して連れ出し、外に出られない状態に置く行為は、事情によっては監禁罪(刑法220条)の問題にもなり得ます。監禁罪の考え方は車から降ろさなかった・部屋から出さなかった|監禁罪の成立で解説しています。
同意書への署名があれば問題ないとはいえない理由
事業者から「本人に同意書へ署名してもらうので問題ない」と説明されることがあります。しかし、令和7年5月の横浜地裁の事案では、事業者側が入寮時の同意書への署名を理由に本人の承諾があったと主張したものの、裁判所は連れ出しと施設内での自由の制限を一連の違法な行為と認めたと報じられています。突然の訪問を受け、断れない雰囲気のなかで書いた署名は、本人が納得したうえでの同意とは評価されにくいといえます。確認したいのは、本人に事前にどのように説明するのか、本人が拒んだときにどうするのか、入所後に本人が退所を望んだら出られるのか、携帯電話や所持金を本人が持っていられるのか、という点です。
成人した子の生活に親が関われる範囲
お子さんが成人している場合、どこに住み、誰と関わるかを決めるのはお子さん本人です。未成年の場合でも、親権は子の利益のために行使するものとされています(民法820条)。「家から出てほしい」という願いと、「本人の意思に反して施設に入れる」ことは、法的には別の事柄です。親御さんが法的に関われる範囲は【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲、同居を解消する場面の考え方は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで扱っています。
契約した後に困ったときの相談先
消費生活センター
説明と対応が違う、解約を申し出ても応じてもらえないといった場合は、消費者ホットライン(188)に電話すると、最寄りの消費生活センターなどの窓口を案内してもらえます。契約書や説明資料、やり取りの記録を手元にそろえてから相談すると、話が進みやすくなります。
弁護士に依頼する場面
解約や返金について事業者との交渉が必要な場合、支払済みの費用が大きい場合、お子さんが意に反して施設に置かれている疑いがある場合には、弁護士が代理人として事業者と交渉することが考えられます。契約前の段階で、契約書の条項を確認することもできます。窓口ごとの役割の違いは【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担をご覧ください。
施設に預けることとは別の選択肢
親の側と子の側で担い手を分ける
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人としてお子さんと向き合い、民間の自立支援カウンセラーがお子さんの側の日常的な生活の立て直しを担う形でチームを組んでいます。カウンセラーは、住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理、悩みごとへの対応、親御さんへの報告などを行います。お子さんを施設に集めて管理するのではなく、お子さん自身が自分の生活を営めるようになることを目指す取り組みです。
距離を取ることで生まれる変化
人が関わることである以上、結果をお約束することはできません。ただ、親子の物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が生じることがあります。近すぎる距離のなかで互いに依存し合う関係が続いていることが、問題の一因になっている場合もあると考えています。取り組みの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応、弁護士が入ることで何が変わるのかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で説明しています。
よくあるご質問
すでに契約して費用を払ってしまいました。見直すことはできますか
契約の形によってはクーリング・オフができる場合があり、期間が過ぎていても、解約料の定めが消費者契約法によって一部無効となる場合や、それまでの支援の割合に応じた精算を求められる場合があります。契約書と支払いの記録をそろえたうえで、消費生活センターや弁護士にご相談ください。
本人が「行ってもいい」と言っていれば、どの施設でも問題ありませんか
本人が納得して利用するのであれば、支援が有効に働く可能性は高まります。ただし、入所後に本人が退所を望んだときに出られるのか、外部と連絡を取れるのかは、同意の有無とは別に確認しておきたい点です。契約の内容や解約の条件の確認も同じように必要です。
公的な窓口と民間の施設は、どちらか一方を選ぶ必要がありますか
併用することもできます。公的な窓口は、本人の意思を尊重しながら時間をかけて関わることを軸にしており、民間の施設を検討する際の相談相手にもなります。公的な窓口の役割は【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことをご覧ください。
まとめ
- 民間の自立支援施設と契約する前に、契約の内容・支援の担い手・解約の条件・本人の意思の4点を書面で確認する。
- 契約者は親、支援を受けるのは子という構造のため、親が契約しても子が施設に従う義務を負うわけではない。
- 重要な事項について事実と異なる説明を受けて契約した場合は、取り消せる場合がある(消費者契約法4条1項1号)。
- 支援の担い手と医療との連携に加え、施設を出た後にどう生活するのかという道筋が示されているかを確かめる。
- 訪問販売・電話勧誘販売にあたる契約は、書面の受領から8日間クーリング・オフができる(特定商取引法9条1項、24条1項)。
- 解約料の定めのうち平均的な損害を超える部分は無効とされ、支援の割合に応じた精算が問題になることもある(消費者契約法9条1項1号、民法651条1項・648条3項・656条)。
- 本人の意思に反する連れ出しや閉じ込めは違法とされた裁判例があり、依頼した親にも賠償が命じられた例が報じられている。
民間の自立支援施設の利用をご検討中の方へ
施設を探しているのは、ご家庭の状況を変えたいという思いがあるからだと思います。その思いが、契約の内容をよく確かめないまま進むことにつながらないよう、署名の前に一度立ち止まって確認していただければと思います。相談の前に整理しておくとよい事柄は【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報、遠方からのご依頼については【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際にまとめています。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ひきこもりや家庭内暴力など親子の問題に悩む親御さんからのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国のご家庭の問題に取り組んできました。電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご連絡ください。
これから施設との契約を検討している方も、すでに契約して解約や返金で困っている方も、契約書を手元にご用意いただければ、確認するところからご一緒できます。


