【親子問題】子が夜中に大声を出し続ける、騒音で近所から苦情が来たら?
成人した子が、家の前や近所の道で通りがかりの人に怒鳴り声を上げてしまう。そうした場面に直面した親御さんからは、「いつか通行人にけがをさせるのではないか」「近所の方にどう顔向けすればよいのか」「親として責任を問われるのか」といったご相談が寄せられます。家の中の問題として抱えてきたことが、家の外にいる第三者に向かい始めると、親だけで受け止めるのは難しくなります。
本記事は、成人した子が自宅周辺で通行人に怒鳴っている場面を主に想定し、2026年10月時点の法令をもとに一般的な考え方を整理したものです。子が未成年の場合や、すでに相手の方にけがが生じている場合などは、扱いが変わることがあります。
通行人に怒鳴る行為は、法的にどう見られるのか
大声で怒鳴ったというだけで、直ちに犯罪として扱われるとは限りません。実際に問題になるかどうかは、何を言ったのか、どのくらい近づいたのか、物を投げたり追いかけたりしたのか、何度繰り返されているのか、といった態様によって大きく変わります。目安として、次のような整理ができます。
| 行為の態様 | 問題となりうる規定 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 「殺すぞ」など、身体や生命に危害を加えると告げる | 脅迫罪(刑法222条) | 言葉の内容と、その場の状況から相手が恐怖を感じる程度かどうかが問われます |
| 至近距離で詰め寄る、物を投げつける、つかみかかる | 暴行罪(刑法208条) | 身体に当たらなくても、状況によって暴行とされることがあります |
| 人前で相手をおとしめる言葉を浴びせる | 侮辱罪(刑法231条) | 公然性(不特定または多数の人が知りうる状態)が必要です |
| 公共の場所で多数の人に対して著しく粗野な言動で迷惑をかける | 軽犯罪法1条13号 | 個別の通行人への一時的な言動にどこまで当てはまるかは事情によります |
| 警察官の制止をきかずに大声を出し続け、近隣の静穏を害する | 軽犯罪法1条14号 | 「公務員の制止をきかずに」という要件があります |
また、怒鳴り続けたことで相手の方が心身の不調をきたした場合には、傷害罪(刑法204条)が問題になる余地もあると解説されています。ただし、こうした結果を生じさせることを本人が認識していたかの立証は簡単ではなく、実際に傷害罪として扱われる例は多くないとみられます。
ここで押さえておきたいのは、「罪になるかどうか」と「通行人の安全を守る必要があるかどうか」は別の問題だという点です。法的に処罰の対象とならない段階でも、相手の方が恐怖を感じ、通り道を変えざるを得なくなっているのであれば、家族として対策を考える必要があります。脅すような言葉の線引きについては、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きでも詳しく解説しています。
親が責任を問われる場面はあるのか
成人した子の行為については、原則として子自身が責任を負います。民法714条は、責任能力のない人が他人に損害を与えた場合に、監督義務者が責任を負うことを定めた規定です。成人して判断能力のある子であれば、損害賠償の責任は子本人にあり(民法709条)、親であることだけを理由に親が賠償を求められるわけではありません。
一方で、子が精神疾患などにより自分の行為の意味を判断できない状態にある場合には、同居する家族が監督義務者に準じる立場として責任を問われるかが議論になります。最高裁平成28年3月1日判決は、同居の家族であるというだけで直ちに監督義務者になるわけではなく、監督を引き受けたとみるべき特段の事情があるかを、生活状況や関わり方などから総合的に判断するという枠組みを示しました。
つまり、親の責任は一律に決まるものではなく、事案ごとの事情で判断されます。近所の方とのトラブルや賠償の考え方については、【親子問題】子が近所の人とトラブルを起こした|成人した子の賠償と親の責任で整理しています。
その場で怒鳴り声が上がったときの対応
子が通行人に怒鳴っている場面に居合わせたとき、親が慌てて間に入り、力ずくで子を止めようとすると、かえって子の興奮が高まり、親自身がけがをするおそれがあります。その場では、次の順序で考えると判断しやすくなります。
- 通行人の方がその場を離れられるようにし、親自身も子との間に距離をとります。
- 子がつかみかかろうとしている、追いかけている、物を手にしているといった場合は、ためらわずに110番通報します。
- 通報の際は、場所、子の様子、相手の方の状況(けがの有無など)、刃物などの所持の有無を落ち着いて伝えます。
- 相手の方への謝罪や事情の説明は、その場が落ち着いてから行い、連絡先の交換を無理に求めないようにします。
警察官が駆けつけた際、子の様子から、精神障害のために自身を傷つけたり他人に害を及ぼしたりするおそれがあると判断された場合には、警察官から保健所長を経て都道府県知事へ通報される仕組みがあります(精神保健福祉法23条)。この通報をきっかけに、精神保健指定医の診察が行われることもあります。通報の判断基準については【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるか、刃物が関わる場面については【親子問題】子が刃物を持ち出した|その場での判断と通報をご覧ください。
繰り返さないために、ふだんから整えておけること
出来事を記録に残す
怒鳴った日時と場所、口にした言葉、相手の方の様子、近所から寄せられた苦情の内容などを、その日のうちにメモしておきます。警察に相談した際は、相談日と対応した部署、担当者名も残しておくと、後に保健所や医療機関、弁護士に事情を伝える際の資料になります。記録の意味については【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で解説しています。
医療や保健の窓口につなぐ
怒鳴る行為の背景に、精神的な不調が隠れていることもあります。保健所や精神保健福祉センターでは、本人が来所しない段階でも家族からの相談を受け付けています。本人が受診を拒んでいる場合でも、家族が先に相談しておくことで、いざというときの対応を事前に確認できます。【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断や【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲もあわせてご参照ください。
近所の方には必要な範囲で伝える
近所の方に事情を伝える場合、子の病名や家庭の詳しい事情まで話す必要はありません。「家族として対応を進めていること」「危険を感じたときは遠慮なく110番してほしいこと」を伝えておくだけでも、相手の方の不安を和らげることにつながります。マンションであれば、管理会社や管理組合に状況を共有しておくことも考えられます。
家族の中で役割を決めておく
誰が通報するのか、誰が子に付き添うのか、誰が近所の方への連絡を担うのかを、あらかじめ家族で話し合っておきます。いざというときに全員が子に向き合ってしまうと、通行人の安全確保や通報が後回しになりがちです。
通行人の方から苦情や請求が来たとき
怒鳴られた方やその家族から、謝罪や治療費などを求められることもあります。親が子に代わって謝罪すること自体は問題ありませんが、親の名前で金銭の支払いを約束すると、本来は子が負うはずだった責任を親が引き受ける形になることがあります。合意書を交わす場合は、誰が当事者になるのか、どこまでで解決とするのかを確認してから署名することが大切です。
また、相手の方が被害届を出した場合には、子に対する捜査が進むことになります。示談金の考え方は【親子問題】示談金を親が払うべきか|払う場合の条件、警察が動いた後の流れは【親子問題】家族が警察に相談した場合の流れ|相談から捜査・逮捕・処分までの見通しで解説しています。
弁護士が関われること
当事務所では、親御さんの代理人として、親子の問題に介入するサービスを提供しています。通行人や近所の方とのやり取りを弁護士が窓口となって引き受けることで、親が一人で謝罪や交渉を抱え込む状態を避けることができます。
また、子と直接話し合い、家を出て自立する道を一緒に考えることもあります。その際は自立支援カウンセラーとチームを組み、弁護士は親の保護を、カウンセラーは住まい探しや就労、通院などの生活面の支援を担います。危険が見込まれる事案では、警察とも連携しながら、可能な限り安全に配慮して進めます。なお、医療的な判断は医師や保健所の役割であり、弁護士はそれと並行して法的な面から関わる立場です。
サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応、ご相談から自立までの流れと費用は【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問で紹介しています。
よくあるご質問
子が通行人に怒鳴っただけでも、110番してよいのでしょうか
相手の方に近づいている、追いかけている、物を手にしているなど、身体への危険が感じられる状況であれば、110番通報をためらう必要はありません。緊急性が低いと感じる場合は、警察相談専用電話「#9110」で相談することもできます。
怒鳴られた方の連絡先を聞いておくべきでしょうか
相手の方が応じてくださる場合は、後日のお詫びのために連絡先を伺うことも考えられます。ただし、相手の方が怖い思いをしている直後に連絡先を求めると、かえって負担になることがあります。警察が対応した場合は、警察を通じて謝罪の意向を伝えてもらう方法もあります。
子が未成年の場合は、考え方が変わりますか
未成年でも責任能力があれば子自身が責任を負いますが、親の監督が不十分だったことと損害との間に因果関係があるとして、親自身の責任(民法709条)が問われることがあります。また、刑事手続も少年事件として扱われるなど、成人の場合とは異なる点があります。
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通行人に怒鳴る行為は、それ自体がすぐに罪に問われるとは限らない一方で、繰り返されるうちに相手の方の安全や近所との関係に影響が広がっていきます。その場では通行人と親自身の安全を優先し、ふだんから記録と相談先を整えておくことが、事態を大きくしないための備えになります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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