【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならない
本記事は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(令和4年改正のうち令和6年4月1日施行分を含む)と、厚生労働省「地方公共団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン」(平成30年3月)をもとに、2026年10月時点の情報で作成しています。退院後支援の具体的な運用は、都道府県・市区町村や病院によって異なります。
親子の問題のご相談では、「病院から、近いうちに措置が解除されると連絡があった。また家で暴れるのではないかと思うと、迎えに行く気持ちになれない」という声を伺います。反対に、「本人は家に帰りたいと言っている。ここで断ったら、子を見捨てることになるのではないか」と迷われる方もいらっしゃいます。
措置入院について調べると、入院の要件や入院までの流れを解説した情報は数多く見つかります。それ自体は正確な説明ですが、入院が終わった後、家族が子をどう受け入れるのか、受け入れないという選択はできるのか、という点はあまり語られていません。
この記事では、措置が解除されてから退院後の生活が始まるまでの間に、親として判断すること、入院中に準備しておくことを整理します。措置入院の要件や、医療につなぐかどうかの判断は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で扱っていますので、あわせてご覧ください。
措置入院は「症状が落ち着けば終わる」入院
解除の時期は家族の都合とは別に決まる
措置入院は、精神障害のために自傷他害のおそれがある人を、都道府県知事(政令指定都市の市長)の権限で入院させる制度です(精神保健福祉法29条)。そのため、入院を続けなくても自傷他害のおそれがないと認められれば、病院の管理者は知事に症状消退の届出を行い(同法29条の5)、知事は措置を解除しなければなりません(同法29条の4)。
この仕組みからわかるとおり、解除の時期は医療上の判断で決まり、家族の受け入れ準備が整っているかどうかは考慮されません。措置入院は、ほかの入院形態と比べて期間が短くなる傾向があるといわれています。「まだ先のこと」と考えず、入院が決まった段階から退院後のことを考え始めておくことが大切です。
解除の後に続く三つの道
措置が解除されても、そのまま退院するとは限りません。解除後の道筋はおおむね次の三つに分かれ、それぞれ家族の関わり方が異なります。
| 解除後の道筋 | 内容 | 家族の関わり |
|---|---|---|
| 退院する | 自傷他害のおそれがなく、入院治療の必要もないと判断された場合 | 帰住先(どこで暮らすか)の調整が中心になる |
| 任意入院に切り替わる | 本人が入院の継続に同意した場合 | 本人の意思による入院のため、家族の同意は不要 |
| 医療保護入院に切り替わる | 自傷他害のおそれはないが入院治療が必要で、本人が同意しない場合 | 家族等のうちいずれかの同意が必要(同法33条) |
医療保護入院への切り替えには家族等の同意が求められますが、同意するかどうかは家族が判断することです。また、家族が退院後の受け入れを拒んでいることは、それだけで入院を続ける理由にはならないとされています。
入院中の費用と、解除後の費用
措置入院の費用は、原則として都道府県が負担します(同法30条)。ただし、本人や、その配偶者、生計を同じくする直系血族・兄弟姉妹に負担能力がある場合には、所得税額などに応じて費用の全部または一部が徴収されることがあります(同法31条)。措置が解除された後の入院や通院は、通常の医療保険による扱いに移ります。通院の自己負担を軽くする自立支援医療(精神通院医療)の利用も、退院前に確認しておきたい事項の一つです。
家族に「引き取る義務」はあるのか
保護者制度の廃止で、引取りの義務はなくなった
かつての精神保健福祉法には「保護者」という制度があり、家族の中から選ばれた保護者が、本人に治療を受けさせることや、措置入院から退院する本人を引き取ることなどの義務を負っていました。この保護者制度は、平成26年4月施行の法改正で廃止されています。
現在の法律には、家族に退院後の本人を自宅に受け入れることを義務づける規定はありません。改正の施行時に厚生労働省が示した考え方でも、措置入院からの退院にあたって家族が受け入れを拒否し、本人が自宅に帰れない場合には、グループホームなどの福祉サービスとの連携を検討することとされています。自宅に受け入れないという判断は、法律上は家族に認められた選択肢の一つです。
扶養義務は「同居させる義務」ではない
親子は互いに扶養する義務を負います(民法877条1項)。しかし、成人した子に対する親の扶養義務は、自分の生活を維持したうえで余力の範囲で援助するという性質のものと理解されており、同居して面倒をみることまでを求めるものではありません。経済的な援助をどこまで行うかと、自宅に受け入れるかどうかは、分けて考えることができます。扶養義務の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく扱っています。
受け入れた家族は、子の行動に責任を負うのか
受け入れをためらう理由として、「退院後に子が他人に危害を加えたら、同居する親が賠償責任を負うのではないか」という不安を伺うことがあります。民法714条は、責任能力のない人が他人に損害を与えた場合に、その監督義務者が責任を負うと定めています。
この点について、最高裁判所は平成28年3月1日の判決で、精神障害のある人と同居する配偶者であるというだけで、法律上の監督義務者に当たるとはいえないと判断しました。ただし同じ判決は、実際に監督を引き受けていたといえる事情がある場合には、監督義務者に準ずる者として責任を問われる余地があることも示しています。同居したことだけで責任を負うわけではない一方、家族がどのような関わり方をしていたかが問われる場面はある、という理解が適切です。
受け入れるかどうかを決める前に確かめたいこと
入院の前に家の中で何が起きていたか
措置入院に至るまでには、多くの場合、家庭内で何らかの出来事が積み重なっています。受け入れるかどうかを考えるときは、気持ちだけで決めるのではなく、入院前の生活を一度振り返ってみることが役に立ちます。次のような点を、日付や具体的な出来事とあわせて書き出しておくと、病院や支援者に状況を伝えるときにも使えます。
- 暴力や物を壊す行為があったか、あった場合はどの程度の頻度だったか。
- お金の要求があったか、応じた金額や回数はどのくらいか。
- 通院や服薬が途切れていた時期があったか。
- 近隣や親族との間でトラブルが起きていたか。
- 警察や保健所に相談・通報したことがあるか。
暴力を受けていた場合の安全確保と記録の残し方は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、警察への相談記録の意味は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。
家族の側の体力と、ほかの家族の安全
親が高齢である、ほかに同居している家族がいる、親自身が体調を崩している、といった事情も、受け入れの判断に欠かせない要素です。受け入れるかどうかは、子の回復だけでなく、家族全員が安全に暮らし続けられるかという視点で考えることが大切です。親が無理を重ねて生活が立ち行かなくなれば、結果として子の生活の支えも失われてしまいます。
治療を続けられる環境かどうか
措置入院からの退院後に通院や服薬が途切れると、症状が再び悪化することがあります。自宅に戻る場合でも、そうでない場合でも、退院後の通院先や通院の方法を誰が確認するのかを決めておく必要があります。自宅に戻ることで通院が続きやすくなるのか、かえって親子の衝突が増えて治療が途切れやすくなるのかは、家庭ごとに異なります。
入院中に家族が関われる場
退院後生活環境相談員という窓口
令和4年の法改正により、令和6年4月から、措置入院の患者についても、病院が「退院後生活環境相談員」を選任することが義務づけられました。精神保健福祉士などが担い、退院後の生活環境について本人や家族からの相談に応じ、地域の支援者との調整を行う役割を持っています。
入院先の病院に、相談員が誰なのかを確認し、退院の見通しが立ったら早めに連絡がほしいと伝えておくと、解除が急に決まった場合にも準備の時間を確保しやすくなります。
退院後支援計画と支援会議
厚生労働省のガイドラインでは、措置入院の患者などのうち、自治体が退院後の支援を行う必要があると認めた人について、帰住先を管轄する自治体が中心となって「退院後支援計画」を作ることとされています。計画に基づく支援の期間は、退院後6か月以内が基本です。計画の作成にあたっては、本人や家族、病院、保健所、市区町村、福祉サービスの事業者などが集まる会議が開かれることがあります。
この計画は、本人の同意を得て作成するものとされており、本人が同意しない場合には作られないこともあります。家族としては、会議の場や相談員を通じて、自宅に受け入れられるかどうか、受け入れる場合の条件は何かを、計画が固まる前に伝えておくことが重要です。退院の日が決まってから「やはり受け入れは難しい」と伝えると、帰住先の調整が間に合わないことがあります。
地域の福祉サービスとの接続
自宅以外で暮らす場合や、自宅に戻っても日中の居場所が必要な場合には、障害者総合支援法に基づく福祉サービスが選択肢になります。退院に向けた住まい探しや福祉サービスの見学への同行を行う地域移行支援、退院後の緊急時の相談に応じる地域定着支援、グループホームなどです。収入の見通しが立たない場合には、生活保護の申請も検討の対象になります。申請の実際については【親子問題】生活保護の申請に同行するということ|扶養照会の実際をご覧ください。
自宅に受け入れる場合の取り決め
生活のルールを退院前に決めておく
自宅に受け入れる場合でも、入院前と同じ生活に戻るだけでは、同じことが繰り返されるおそれがあります。通院と服薬をどう続けるか、お金のやり取りをどうするか、家の中でそれぞれがどの部屋を使うか、といった生活のルールを、退院前に話し合っておくことが望まれます。親子だけで話すと感情的になりやすい場合は、相談員や支援者が同席する場で確認する方法もあります。
不調のサインと連絡先を共有しておく
支援の現場では、本人の調子が崩れ始めたときのサインと、そのときに誰に連絡するかをあらかじめまとめておく「クライシスプラン」と呼ばれる取り組みが行われています。眠れなくなる、独り言が増える、服薬を嫌がるなど、本人ごとのサインを家族と支援者で共有しておくと、早めの受診につなげやすくなります。
主治医の病院、保健所、夜間・休日の精神科救急の窓口など、連絡先を一覧にしておくことも大切です。そのうえで、身の危険を感じる場面では、ためらわずに110番通報をするという線引きを家族の中で決めておきます。通報の判断基準は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで扱っています。
家族だけで支えようとしない
精神科の訪問看護、相談支援事業所、保健所の保健師など、退院後に家庭の外から関わる支援者を確保しておくことは、本人だけでなく家族を守ることにもつながります。同じ立場の家族が集まる家族会も、経験を共有できる場として役立ちます。
自宅以外を帰住先にする場合
帰住先の選択肢
自宅以外の帰住先としては、単身でのアパート暮らし、グループホーム、救護施設などが考えられます。どれが適しているかは、本人の症状や生活能力、収入の見通しによって変わるため、病院や保健所と相談しながら決めることになります。アパートを借りる場合の保証人の問題は【親子問題】家を借りる際の保証人・保証会社の問題|無職の子のために親が引き受ける前に、独立に向けた手順は【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順をご覧ください。
受け入れないことと、関係を絶つことは別
自宅に受け入れないという判断は、親子の関係を絶つことを意味するわけではありません。離れて暮らしながら、通院の状況を支援者を通じて確認する、必要な範囲で経済的な援助をする、といった関わり方もあります。距離を取ることが、かえって親子双方の生活を安定させることもあるという視点は、【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点で紹介しています。
本人への伝え方
「家には戻れない」と伝えることは、親にとっても大きな負担です。病院の相談員や支援者が同席する場で伝える、退院後の住まいや支援の見通しとあわせて伝えるなど、本人が「見捨てられた」と受け止めにくい形を工夫することが考えられます。退院後に本人が自宅を訪ねてきた場合にどう対応するかも、あらかじめ支援者と方針をそろえておくと、その場で迷わずにすみます。
弁護士が関われること
医療の判断と、家族の側の整理を分ける
措置の解除や入院の継続は医療と行政が判断することであり、弁護士がその判断を左右するものではありません。一方で、退院後に親子の間で生じる問題、たとえば金銭の要求、住まいの契約、連絡の取り方、退院後に関係がこじれたときの対応などは、家族の側で整理しておく必要があります。
親の代理人として窓口を担う
当事務所の親子問題への取り組みでは、弁護士が親の代理人として子との連絡の窓口を担い、お金の要求などから親を守ります。そのうえで、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、カウンセラーが住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理など、子の生活の立て直しを支えます。親を守ることと、子の自立を支えることを、役割を分けて同時に進めるという考え方です。この体制については【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由で説明しています。
よくあるご質問
措置が解除される日は、家族に前もって知らされますか
解除は病状に基づいて決まるため、家族への連絡が退院の直前になることもあります。病院の運用によって異なりますので、入院中に退院後生活環境相談員へ、見通しが立った段階で連絡してほしいと伝えておくことをおすすめします。
受け入れを断ったら、子は行き場を失ってしまいませんか
家族が受け入れない場合、病院や保健所、市区町村などが、グループホームなどの福祉サービスや生活保護の利用も含めて帰住先を調整することになります。ただし、調整には時間がかかることがあるため、受け入れが難しいことはできるだけ早く伝えることが大切です。
本人が退院後支援を断った場合、家族は何もできませんか
退院後支援計画は本人の同意を前提としているため、本人が断れば計画が作られないこともあります。ただし、保健所や精神保健福祉センターは、家族からの相談にも応じる役割を持っています(精神保健福祉法47条)。家族として不安な点は、本人の同意の有無にかかわらず相談することができます。
まとめ
- 措置入院は、自傷他害のおそれがなくなれば家族の準備とは関係なく解除される(精神保健福祉法29条の4)。
- 解除後は、退院、任意入院への切り替え、家族等の同意による医療保護入院への切り替えに分かれる(同法33条)。
- 保護者制度の廃止により、家族に退院後の本人を引き取る法的な義務はない。
- 成人した子への扶養義務は、同居させる義務ではない(民法877条1項)。
- 同居しているというだけで、監督義務者として賠償責任を負うわけではない(民法714条・最高裁平成28年3月1日判決)。
- 受け入れの可否と条件は、退院後生活環境相談員や支援会議を通じて、計画が固まる前に伝える。
- 自宅に受け入れる場合も受け入れない場合も、家族だけで抱えず、支援者と連絡先を共有しておく。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の家庭内暴力やひきこもり、お金の要求など、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方にお住まいの方からのご相談にも対応しています。
子の退院を前に受け入れを迷っている方、退院後の生活をどう組み立てればよいか分からない方は、一人で抱え込まずにご相談ください。ご相談から支援の開始までの流れは【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご案内しています。


