【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないこと
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて作成しています。大麻の使用を処罰する改正(2024年12月施行)や、懲役・禁錮を拘禁刑に一本化する改正(2025年6月施行)を反映しています。
「息子の部屋で見慣れない袋を見つけた。警察に相談したら、その日のうちに逮捕されてしまうのだろうか」「このまま家族だけで抱えていても使用は止まらない。けれど、警察に話したことが本人に知られたら家の中がどうなるか分からない」。お子さまの薬物使用に気づいたご家族からは、こうした迷いの声が寄せられます。
警察の相談窓口では「最寄りの警察署に連絡し、警察官の指示に従ってください」と案内されることが一般的で、それ自体は誤りではありません。ただ、連絡した後に何が起き、どの段階で家族がどう関わることになるのかは、事前には見えにくいところです。見通しがないまま連絡をためらい、状況が長引いてしまうご家庭も少なくありません。
この記事では、ご家族が警察に相談した場合に、相談から捜査、逮捕、処分までがどのように進むのかを段階ごとに整理します。警察に通報すべきかどうかの判断そのものや、依存症の治療・回復支援の窓口については、それぞれ別の記事で扱います。
警察への「相談」はどう扱われるのか
相談と通報は、警察にとって大きく変わらない
ご家族としては「まずは話を聞いてもらうだけ」のつもりで相談しても、違法薬物の所持や使用は犯罪にあたるため、警察にとっては犯罪に関する情報提供として受け止められます。どの程度具体的な情報が伝わったかによって、その後の対応は変わります。「子どもが最近様子がおかしい」という段階の相談と、「自宅のこの場所に薬物らしき物がある」という相談とでは、警察が動く速さも方法も異なります。
なお、一般の方が犯罪を知ったときに届け出る法律上の義務はありません。告発は「することができる」と定められているにとどまります(刑事訴訟法239条1項)。相談するかどうか、どこまで話すかは、ご家族が選べる事柄です。
「逮捕はしないでほしい」という約束はできない
相談の際に「本人を逮捕しないでほしい」「治療につなげたいだけだ」と伝えることはできますし、その意向は記録として残ります。ただし、捜査をするか、逮捕するかは警察や検察が証拠と事案に応じて判断することで、家族の希望どおりになるとは限りません。相談の前に、この点は押さえておく必要があります。
相談先は警察署だけではない
違法薬物の捜査は、警察のほか、厚生労働省の麻薬取締部(麻薬取締官)も担っています。いずれも捜査機関であり、相談した後の流れは大きく変わりません。これに対し、精神保健福祉センターや保健所、依存症の専門医療機関は治療や回復支援を目的とする機関で、役割が異なります。どの窓口から当たるかは、次の記事も参考にしてください。
関連記事:【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担
相談から捜査が動くまでに起きること
家族から事情を聴き取る
相談を受けた警察は、まずご家族から、本人の年齢や生活の様子、薬物に気づいたきっかけ、物がある場所などを聴き取ります。内容によっては、参考人として改めて事情を聴かれ、供述調書が作られることもあります(刑事訴訟法223条1項)。
このとき、見つけた物を家族が持ち出して警察署へ持参したり、捨ててしまったりするのは避けたほうが安全です。所持の問題や、証拠の扱いをめぐる問題が生じかねないためです。置き場所をそのままにして、写真などで状況を伝え、警察の指示を受けるのが基本になります。
裏づけとなる証拠を集める
家族の話だけで直ちに逮捕に至るとは限りません。警察は、本人の行動や入手経路などを確認しながら、裏づけとなる証拠を集めていきます。どのくらいの期間がかかるかは事案によってさまざまで、相談から数日で動く場合もあれば、しばらく目立った動きがない場合もあります。
家宅捜索と尿検査
証拠がそろってくると、裁判官の令状に基づく家宅捜索が行われることがあります(刑事訴訟法218条1項)。同居しているご家族の生活空間も捜索の対象になり得るため、あらかじめ想定しておくと落ち着いて対応しやすくなります。
使用の疑いがある場合には、本人に尿の提出が求められます。任意の提出を断っても、令状に基づいて強制的に採尿される場合があります。
関連記事:家宅捜索(ガサ入れ)が来た|立ち会いでできること・できないこと
関連記事:尿検査を求められた|拒否できるか、強制採尿とは何か
相談から捜査の開始までを整理すると、おおよそ次のようになります。
| 段階 | 主に起きること | ご家族の関わり |
|---|---|---|
| 相談 | 事情の聴き取り、情報の記録 | 本人の状況や物の場所を伝える |
| 捜査の準備 | 裏づけ証拠の収集 | 参考人として事情を聴かれることがある |
| 強制捜査 | 家宅捜索、尿検査、薬物の押収 | 自宅の捜索に立ち会うことがある |
| 逮捕 | 本人の身柄の拘束 | 面会や差し入れ、弁護士への依頼を検討する |
逮捕された後の流れと期間
最初の72時間
逮捕されると、警察は48時間以内に本人を検察官へ送り、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します(刑事訴訟法203条1項、205条1項)。この合計72時間は、ご家族であっても本人と面会できないのが通常で、自由に会えるのは弁護士だけです。
勾留は最大20日間
裁判官が勾留を認めると、原則10日間、延長されると最大でさらに10日間、身柄の拘束が続きます(同法208条)。薬物事件は、入手経路や共犯者の有無を調べる必要があるとして勾留が認められやすく、家族との面会や手紙のやり取りを禁じる「接見禁止」が付くこともあります。所持と使用を分けて再逮捕され、拘束が長引く場合もあります。
関連記事:覚醒剤事件はなぜ勾留・保釈が厳しいのか|起訴前からの保釈準備
関連記事:接見禁止がついて家族が会えない|解除に向けた動き
起訴された後の見通し
勾留の期間内に、検察官が起訴するか不起訴にするかを決めます。起訴されると保釈を請求できるようになり、裁判を経て判決が言い渡されます。法定刑は、覚醒剤の所持・使用がそれぞれ10年以下の拘禁刑(覚醒剤取締法41条の2第1項、41条の3第1項)、大麻は2024年12月の改正で「麻薬」に位置づけられ、所持・使用ともに7年以下の拘禁刑です。初めての事件で、治療や家族の監督の体制が整っている場合には、執行猶予が付く例が多いとされています。ただし、判断は所持量や経緯、前歴などによって異なります。
関連記事:逮捕から解決までの流れ【フローチャート】|今どの段階かがわかる
関連記事:大麻の「使用」も処罰対象になった|2024年12月施行の改正の要点
お子さまが20歳未満の場合
家庭裁判所に送られる
お子さまが20歳未満の場合も、逮捕や勾留といった捜査の段階は成人とほぼ同じように進みます。違いが出るのはその後で、捜査を終えた事件はすべて家庭裁判所に送られます(少年法41条、42条1項)。刑罰を科すことよりも、立ち直りに必要な環境を整えることに重きが置かれた手続です。
観護措置と審判
家庭裁判所は、必要に応じて本人を少年鑑別所に送り、心身の状態や生活環境を調べます(観護措置、同法17条)。期間は原則2週間で、多くの場合は更新されて4週間程度になります。その後の審判で、保護観察や少年院送致などの処分が決まります。家庭での監督の体制や治療の見通しは、処分を決めるうえでも重視されます。18歳・19歳の「特定少年」には、一部異なる扱いがあります。
ご家族が相談する前に考えておきたいこと
身の安全を最優先にする
本人が興奮して暴力を振るっている、幻覚や妄想のような症状が強く出ているといった場面では、相談の段取りを考えるより、110番や119番で安全を確保することを優先してください。ご家族がけがをされている場合は、その記録を残しておくことも後の手続に関わります。
関連記事:【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続
相談した後の家族関係を想定する
捜査が進めば、本人が「家族が話したのではないか」と考える場面も出てきます。逮捕や処分の後に本人がどこで暮らすのか、ご家族がどこまで関わるのかを、相談の前に少しでも考えておくと、その後の対応が落ち着いたものになります。被害届を出すときの考え方と重なる部分も多いため、次の記事も参考になります。
関連記事:【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えること
処分の後の生活を見据える
刑事手続が終わっても、それだけで使用が止まるとは限りません。医療機関や回復支援施設とのつながり、生活の場や仕事をどう整えるかが、再び使ってしまうかどうかに関わってきます。治療への参加は、裁判での情状として考慮されることもあります。
関連記事:家族としてできること|身元引受・治療・監督体制の組み立て
関連記事:ダルク・依存症治療への参加|情状としてどう評価されるか
弁護士が関わることで変わること
相談の前に見通しを整理する
警察に連絡する前に弁護士へ相談すると、お子さまの状況からどのような流れが予想されるか、自宅にある物をどう扱うべきか、本人が自ら出頭する選択肢があるかといった点を整理できます。本人に出頭の意思がある場合は、弁護士が同行することもできます。
逮捕された後の本人とご家族を支える
逮捕後の72時間でも、弁護士は本人と面会し、取調べへの向き合い方を伝え、ご家族との連絡役を担えます。薬物事件には被害者との示談がないため、治療の予定や家族の監督体制を具体的に示すことが、身柄の解放や処分の見通しに関わってきます。
関連記事:薬物事件に「示談」はない|それでも弁護士に依頼する意味
親子それぞれの自立に向けて
当事務所では、ご家族の側に立つ弁護士と、お子さまの日常生活を支える民間の自立支援カウンセラーとがチームを組み、親と子がそれぞれ自立していくための取り組みを行っています。刑事手続が終わった後の住まいや仕事、金銭管理まで含めて、ご家族だけで抱え込まない形を一緒に考えます。
関連記事:【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応
よくあるご質問
警察に相談しただけで、すぐに逮捕されますか。
相談の内容や証拠の状況によります。具体的な情報があり、裏づけが取れれば短期間で捜査が進むこともありますが、相談の直後に必ず逮捕されるわけではありません。一方で、逮捕しないという約束を警察から得ることもできません。
家族が相談したことは、本人に伝わりますか。
捜査の段階で、警察が情報の出どころを本人に伝えることは通常ありません。ただし、ご家族の供述調書が裁判で証拠として使われる場合などには、本人や弁護人がその内容を知ることになります。本人に一切伝わらないとは言い切れないことを前提に考えておくのが安全です。
薬物があると知っていた家族も、罪に問われますか。
同居していて使用を知っていたというだけで、ご家族が罪に問われることは通常ありません。ただし、薬物を預かって保管していた、捜査を妨げるために隠したり捨てたりしたといった場合には、別の問題が生じ得ます。親族が本人のために証拠を隠した場合は刑が免除されることもありますが(刑法105条)、必ず免除されるわけではありません。見つけた物には手を触れず、置き場所を伝えて指示を受けるのが基本です。
関連記事:現場に薬物があった場合|同席していただけでも問われるか
まとめ
- 家族が犯罪を知っても届け出る法律上の義務はなく、相談するかどうか、どこまで話すかは家族が選べる(刑事訴訟法239条1項)。
- 警察への相談は犯罪に関する情報提供として扱われ、「逮捕しない」という約束は得られない。
- 見つけた物は持ち出したり捨てたりせず、置き場所を伝えて指示を受ける。
- 相談後は、事情の聴き取り、裏づけ証拠の収集、家宅捜索や尿検査を経て逮捕に至ることがある(刑事訴訟法218条1項、223条1項)。
- 逮捕から勾留決定までは最大72時間、勾留は最大20日間で、この間の面会は制限されやすい(同法203条1項、205条1項、208条)。
- 20歳未満の場合は、捜査を終えた事件がすべて家庭裁判所に送られる(少年法41条、42条1項)。
- 処分の見通しには、治療や家族の監督体制の整え方が関わってくる。
お子さまの薬物の問題でお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。これまで北海道から沖縄まで、全国のご家庭のご相談に対応してきました。
お子さまの薬物使用に気づき、警察に相談すべきか迷っている方も、すでにお子さまが逮捕されてしまった方も、ご家族だけで抱え込まず、まずは現在の状況をお聞かせください。


