【親子問題】ひきこもりの子にアルバイトを勧めたら暴れた、どうすればいい?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

ひきこもり状態が続く子に「そろそろアルバイトでも始めてみたら」と声をかけたところ、子が大声を上げて物を投げた、壁を叩いた、親につかみかかった――。親子問題のご相談のなかで、こうした場面は決して珍しいものではありません。子の将来を思って口にした一言だけに、なぜここまで反発されるのか分からず、次に何を言えばよいのか迷ってしまう親御さんも多いのではないでしょうか。

この記事は、成人した子がひきこもり状態にあり、親と同居している場面を想定しています。18歳未満の子の場合は、児童相談所など相談できる窓口が異なることがあります。


 この記事では、仕事の話をきっかけに子が暴れたとき、親がまず何を優先し、どこまでを家族で担い、どこから外部の手を借りるのかを、法律の考え方も交えて整理します。

暴れた直後に、まず優先すること

 子が暴れ始めたときは、仕事の話を続けたり、子の言い分を正したりするよりも、その場の安全を確保することが先です。興奮しているときに説得を重ねると、かえって行動が激しくなることがあります。

  • 話をそこで打ち切り、子と物理的な距離をとります。
  • 鍵のかかる部屋や屋外、人目のある場所など、安全なところへ移ります。
  • きょうだいや配偶者など、ほかの家族も一緒にその場を離れます。
  • けがをしている、刃物などを持ち出している、身の危険を感じるといった場合は、ためらわずに110番します。


 「親子のことで警察を呼ぶのは大げさではないか」とためらう方は少なくありません。しかし、身体に危険が及んでいるときに通報することは、家族を守るための正当な手段です。通報するかどうかの判断や、その場で伝える内容については、【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで解説しています。
 暴れることが繰り返され、家の中にいること自体が怖いと感じる段階であれば、一時的に親のほうが家を離れることも選択肢になります。考え方は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択をご覧ください。

なぜ「アルバイト」の一言で反発が起きることがあるのか

 自治体の精神保健福祉センターなどが公表しているひきこもりの解説資料では、ひきこもり状態にある人の多くが、働けない自分を責め、焦りや、外に出て失敗することへの不安を抱えていると説明されています。本人がすでに自分を責めているところに親から仕事の話が出ると、励ましではなく「責められた」「急かされた」と受け止められることがあります。
 また、家族が不安や焦りから強く励ますほど、本人は「分かってもらえない」と感じてさらに閉じこもる、という悪循環が生じやすいとも指摘されています。親が何年も我慢を重ねた末にようやく口にした一言でも、子にとっては、これまでのやり取りが一度に重なって聞こえている場合があるのです。
 とはいえ、こうした背景があることは、暴力を受け入れなければならない理由にはなりません。本人の気持ちを理解しようとすることと、暴力を認めないことは両立します。背景を知るのは、次の声のかけ方を見直すためであり、暴力を我慢するためではない、と整理しておくことが大切です。

起きたことを記録に残しておく

 暴れた後、落ち着いたら、その日のうちに起きたことを書き留めておくと、後で警察や支援機関に相談する際の土台になります。記録しておきたいのは、次のような事柄です。

  • 日時と場所。
  • きっかけとなったやり取りと、親がかけた言葉。
  • 子の言動(言われた言葉、叩く・押す・物を投げるなどの行為)。
  • けがの有無と程度、受診した医療機関。
  • 壊れた物と、その写真。
  • その場にいた家族と、警察や相談窓口への連絡の有無。


 けがをした場合は、軽く見えても早めに受診し、医師に経緯を伝えておくことをおすすめします。診断書の取り方や、壁や家具を壊されたときの扱いについては、次の記事が参考になります。


 警察に相談した場合は、相談した日時と、対応した警察署・部署も控えておくとよいでしょう。相談の記録が残っていることの意味は、【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で解説しています。

親子の間でも、暴力は罪に問われうる

 「家族のことだから法律は関係ない」と考えられがちですが、成人した子が親を叩けば暴行罪(刑法208条)に、けがをさせれば傷害罪(刑法204条)にあたる可能性があります。家族間の窃盗などには刑を免除する特例(親族相盗例)がありますが、暴行や傷害、器物損壊はこの特例の対象ではありません。

起きたこと問題になりうる罪残しておきたいもの
叩く・押す・つかみかかる暴行罪(刑法208条)日時と状況のメモ、居合わせた家族の話
けがをさせる傷害罪(刑法204条)診断書、けがの写真
物を投げて壊す・壁に穴を開ける器物損壊罪(刑法261条)壊れた物の写真、修理の見積り
「殺す」などと告げる脅迫罪(刑法222条)言われた言葉のメモ、録音


 もっとも、罪にあたりうることと、実際に逮捕されることは別の問題です。弁護士ドットコムニュースに掲載された家庭内暴力についての弁護士の解説でも、重大な事件でなければ、警察はまず任意で事情を聞き、本人の言動を見ながら身柄を拘束するかどうかを判断することが多いと説明されています。同じ解説では、親の通報で逮捕されることは子にとって大きな出来事であり、前歴が残ることやその後の親子関係への影響も踏まえ、警察だけでなく医療や福祉などの機関とも相談しながら方針を決めることが勧められています。
 一方で、暴力の程度によっては、警察の介入を早く求めるべき場面もあります。どのような場合に立件されるのかは、【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で詳しく扱っています。

仕事の話は、いったん脇に置いてよい

 暴れた直後に、もう一度仕事の話を持ち出すのは避けたほうがよいでしょう。自治体が公表しているひきこもり支援の資料では、本人が安心して休める環境のなかでエネルギーを取り戻すことが社会参加の前提になるとされ、家族の声かけも、あいさつや簡単なお願いなど、本人が応じやすいものから続けていくことが勧められています。就労は、こうした段階を経た先にあるものと考えるのが現実的です。

仕事の話を切り出す役目を、親から第三者へ移す

 親が直接「働きなさい」と言うと、これまでの親子の衝突が重なって、話の中身よりも言い方や過去の経緯に反応されがちです。就労の話は、地域若者サポートステーションや、生活困窮者自立支援制度の就労準備支援事業など、第三者の支援者を介したほうが受け止められやすいことがあります。窓口ごとの特徴は、【親子問題】就労支援の選択肢|サポステ・就労準備支援事業の実際と【親子問題】仕事探しの現実|職歴の空白をどう埋めるかで解説しています。

医療が必要な状態ではないかを確かめる

 強い不安や不眠、周囲から攻撃されているといった考えなどがうかがえる場合は、ひきこもりの背景に心身の不調がある可能性もあります。その場合は、就労よりも先に、医療機関や保健所、精神保健福祉センターへの相談を検討します。判断の目安は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断をご覧ください。本人が受診や相談を拒んでいても、家族だけで利用できる窓口があります。詳しくは【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことで紹介しています。

家族だけで抱えきれないときの選択肢

 警察は事件として扱える範囲で動き、行政の窓口は決められた制度の枠内で支援を行います。どちらも大切な相談先ですが、家庭ごとの事情に合わせて、親子の間に継続的に立ち続けることまでは難しいのが実情です。また、暴力がある家庭では、親が子と同じ屋根の下で話し合いを重ねること自体が大きな負担になっていることも少なくありません。
 当事務所では、弁護士が親の代理人として子との窓口に立ち、親への暴力や金銭の要求を止める役割を担います。あわせて、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、住まい探しや仕事探し、日々のお金の管理といった生活面の支えをカウンセラーが受け持つことで、子が親と距離を置きながら自分の生活を組み立てていけるよう支援しています。
 仕事の話を「親が子に言う」形から、「第三者が子と一緒に考える」形に切り替えることで、親子の衝突を避けながら自立への道筋を探れる場合があります。具体的な進め方は、次の記事で紹介しています。


よくあるご質問


暴れた後に謝って、仕事の話を撤回したほうがよいですか

 その場を収めるために謝ることは、身を守る手段として理解できます。ただ、暴れれば親が話を取り下げるという経験が重なると、同じことが繰り返されやすくなります。落ち着いてから「言い方がきつかったなら、それは悪かった」と伝え方について謝ることと、暴力は受け入れられないと伝えることは、分けて考えるとよいでしょう。

警察に相談すると、子はすぐに逮捕されますか

 相談したからといって、すぐに逮捕されるとは限りません。暴力の程度や繰り返しの有無などを踏まえて、警察が対応を判断します。相談の記録を残しておくことは、その後に状況が悪化したときの備えにもなります。

本人が支援を受けることを拒んでいても、相談できますか

 ご家族だけでのご相談も可能です。本人が動かない段階でも、家族が先に相談先とつながっておくことで、取れる手段が見えてくることがあります。詳しくは【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲をご覧ください。

 子のためを思ってかけた言葉が暴力で返ってくると、親は自分の声かけが間違っていたのではないかと悩みがちです。まずは身の安全と記録を確保し、仕事の話は第三者の手を借りながら進める、という順序で考えてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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