【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲
「子が何度も110番をかけてしまい、そのたびに警察官が家に来る」「近所の目もあり、どうしたらよいか分からない」というご相談を、親御さんからいただくことがあります。通報の中身は、親とのけんかを訴えるもの、「親に虐待されている」と訴えるもの、事実とは異なる内容を告げるものなど、ご家庭によってさまざまです。この記事では、子が110番を繰り返しているときに、親がその場で何をし、その後にどのような準備をしておけばよいかを整理します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて記載しています。2025年6月の刑法改正により、懲役刑と禁錮刑は「拘禁刑」に一本化されています。
まずは通報の中身で状況を分けて考える
「110番を繰り返す」といっても、子が何を伝えているかによって、親が取るべき対応は変わります。思い当たるものがどれに近いかを、最初に確かめておくと考えやすくなります。
| 子が伝えている内容 | 考えられる状況 | 親がまず意識したいこと |
|---|---|---|
| 親とのけんかや暴力を訴える | 口論の延長で、子自身が危険を感じている場合もある | 家の中で実際に何が起きているかを落ち着いて振り返る |
| 「親に虐待された」と訴える | 親子の対立の中で、子が警察や行政を頼ろうとしている | 事実関係を整理し、警察官には経緯を順に伝える |
| 「家に誰かいる」など事実と異なる内容 | 不安や思い込みが強まっている、心身の不調がある | 責めるより、医療や保健の窓口につなぐことを考える |
| 要求が通らないときに通報する | 親への当てつけや、要求を通すための手段になっている | 要求には応じない姿勢を保ちつつ、記録を残す |
| 「死にたい」など命に関わる内容 | 子自身が追い詰められている | 子の安全を最優先し、警察の対応に協力する |
実際には、いくつかが重なっていることも少なくありません。どの場合でも、親が一人で抱え込まずに、外の窓口や専門家と状況を共有していくことが出発点になります。命に関わる言葉が出ている場合の考え方は、【親子問題】「金を出さないと死ぬ」と子に言われた|命の問題と金銭の問題を分けて考えるでも触れています。
子の通報を親がやめさせることはできるのか
110番は、誰でも、どのような理由でもかけることができる仕組みです。親が「もう警察を呼ばないで」と頼むことはできても、子の通報そのものを法的に禁じる手段はありません。
気をつけたいのは、通報を止めようとして電話を取り上げたり、もみ合いになったりすることです。こうした行動は、子の興奮を強めて暴力のきっかけになるおそれがあるうえ、駆けつけた警察官から見ると「親が通報を妨げようとした」と受け取られることもあります。通報されたときは、止めずに警察官の到着を待ち、来てから事情を説明するほうが、結果として親にとって不利になりにくいといえます。
子の携帯電話が親名義である場合、解約を考える親御さんもいます。ただ、通報の問題だけを理由に解約しても、固定電話や別の端末から通報が続いたり、子の反発を招いたりすることがあります。名義と契約の整理については、【親子問題】子の携帯料金やサブスクを止めたい|名義と契約の整理を参考にしてください。
警察官が来たときに親が伝えること
その場で伝えておきたい内容
警察官が来ると、親も動揺しがちです。次のような点を、短く順に伝えることを意識しておくと、状況が伝わりやすくなります。
- 今日どのような出来事があり、子が何をきっかけに通報したと思われるか。
- これまでに何回くらい同じような通報があったか。
- 子から親への暴力や金銭の要求など、背景にある問題があるかどうか。
- 子に通院歴や服薬があるか、最近の様子に変化があるか。
- 以前に警察署へ相談したことがあれば、その時期と警察署の名前。
親と子は別々に話を聞かれることが多い
家庭内の通報では、警察官が親と子を別々の場所に分けて話を聞くことがよくあります。子の言い分と親の説明が食い違っていても、その場で子と言い争う必要はありません。親としては、自分が見聞きした事実を落ち着いて伝えることに集中してください。
子が「親に虐待された」と訴えている場合、警察は事実を確かめるために慎重に話を聞きます。子が18歳未満であれば、警察から児童相談所に情報が伝えられることもあります。こうした訴えへの向き合い方は、【親子問題】子が「親に虐待された」と警察や行政に訴えた|窓口ごとの扱いと親が整理しておきたいことで詳しく扱っています。
繰り返しが続くときは、警察署に事前に相談しておく
通報が何度も続いている場合は、通報があった日とは別の日に、最寄りの警察署の生活安全課などへ相談に行くことを検討してください。家庭の状況をあらかじめ伝えておくことで、次に通報があったとき、駆けつけた警察官が背景を踏まえて対応しやすくなることがあります。
どこに相談すればよいか迷う場合は、警察相談専用電話の「#9110」も利用できます。#9110は緊急ではない相談のための窓口で、平日の日中を中心に受け付けています。今まさに危険が迫っているときは、親の側からも110番をためらう必要はありません。親が通報するかどうかの判断は、【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで整理しています。
相談した内容は、警察で記録として残されることがあり、後に別の手続を考える際の経緯を示す材料にもなりえます。詳しくは【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。警察が「家庭の問題」として深く関わらない場合の考え方は、【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかで解説しています。
通報があったときの記録を残しておく
繰り返される通報は、その一回一回を覚えておくのが難しくなります。後から警察や弁護士、医療機関に状況を説明するためにも、通報があるたびに簡単なメモを残しておくと役に立ちます。
| 記録しておく項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 日時 | 10月20日 午後11時ごろ |
| 通報の前に起きていたこと | 小遣いの増額を断った後、大声を出し始めた |
| 子が警察に伝えた内容(分かる範囲で) | 「親に殴られた」と話していた |
| 来た警察官の人数や所属 | 2名、〇〇警察署の地域課と名乗った |
| 警察官の対応と、その後の様子 | 親子別々に話を聞き、30分ほどで帰った |
メモは事実だけを書き、親の感想や推測は分けて書いておくと、第三者に見せるときに伝わりやすくなります。
子が罪に問われる可能性はあるのか
事実と異なる内容の通報が繰り返された場合、法律上は、子の行為が罪にあたる可能性もあります。たとえば、ありもしない犯罪や災害を公務員に申し出ることは、軽犯罪法1条16号で禁じられています。また、うその通報を何度も重ねて警察の業務を妨げた場合には、偽計業務妨害罪(刑法233条)が問題になることがあり、法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
もっとも、家庭内での通報が罪として扱われるかどうかは、通報の内容や回数、警察の業務への影響などを踏まえて、警察や検察が判断することです。子が実際に危険や不安を感じて通報している場合に、罪が問題になることは通常考えにくいといえます。なお、14歳未満の子については刑罰の対象にならず、児童相談所などが関わる形になります。
親が「警察に逮捕されるぞ」と子を責めると、かえって対立が深まり、通報が増えることもあります。罪の可能性は、親が子を抑えるための材料として使うのではなく、状況の深刻さを測る目安の一つとして受け止めておくのがよいと思います。
医療や保健の窓口につなぐことを考える場面
「誰かに見張られている」「家に侵入者がいる」といった、事実とは考えにくい内容の通報が続くときは、子が心身の不調を抱えている可能性も考えられます。このような場合は、通報を問題行動として扱う前に、保健所や精神保健福祉センターに家族として相談してみることが一つの選択肢です。
警察官が対応する中で、本人に心の病気による強い不調があり、自分や他人を傷つけるおそれがあると判断した場合には、保健所などへ通報する仕組みもあります(精神保健福祉法23条)。医療につなぐかどうかの判断については、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断も参考にしてください。
弁護士に相談するとできること
子の110番が続く背景には、親子の距離が近すぎて衝突が絶えない、金銭の要求が止まらないといった、別の問題が隠れていることが少なくありません。通報への対応だけを繰り返していても、翌日には同じ家に同じ親子が残り、状況が変わらないこともあります。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の生活の立て直しを担うという形で、親子の問題に取り組んでいます。危険が心配される事案では、警察と連携を取りながら進めることもあります。弁護士が間に入ることの意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で、ご相談の流れや費用は【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問で紹介しています。
よくあるご質問
何度も警察官が来て、近所に知られるのがつらいです
近所への影響を気にされる親御さんは多くいらっしゃいます。事前に警察署へ家庭の事情を相談しておくと、駆けつけた警察官の対応が落ち着いたものになることもあります。近所への説明は、詳しい事情まで話す必要はなく、「家族の体調のことで、警察にも相談しながら対応しています」といった程度にとどめる方法もあります。
子がうその通報をしているとき、親が代わりに謝るべきでしょうか
警察官に迷惑をかけたことへの気持ちを伝えるのは自然なことです。ただ、事実と違う内容について親が「自分が悪かった」と認めてしまうと、後で経緯を説明するときに食い違いが生じるおそれがあります。謝意を伝えることと、事実を認めることは分けて考えてください。
子と別々に暮らせば通報は止まりますか
離れて暮らすことで衝突が減り、通報が落ち着くご家庭はあります。ただし、準備をしないまま家を出す、締め出すといった方法は、別のトラブルにつながることがあります。子の生活の基盤をどう整えるかを含めて、段階を踏んで進めることが大切です。
まとめ
- 子が何を伝えて通報しているかによって、親が取るべき対応は変わります。
- 子の通報を力ずくで止めようとすると、かえって親が不利に受け取られるおそれがあります。
- 警察官が来たときは、これまでの経緯や背景を短く順に伝えることを意識してください。
- 繰り返しが続くときは、警察署への事前の相談と、通報ごとの記録が役に立ちます。
- 事実と考えにくい内容が続く場合は、医療や保健の窓口につなぐことも考えてください。
子の110番が続く状況は、親御さんにとって心身ともに負担の大きいものです。通報そのものへの対応と、その背景にある親子の問題への対応を分けて考えることで、次に何をすればよいかが見えやすくなります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


