【親子問題】子が警察に保護された|引き取りを求められたとき

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の警察官職務執行法、酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(令和4年改正のうち令和6年4月施行分を反映)をもとにしています。お子さんが18歳以上の場合を中心に説明しており、18歳未満の場合は児童福祉法による通告や一時保護など、別の手続が動きます。


「夜中に警察署から電話があり、息子を保護しているので迎えに来てほしいと言われた」「暴れた子のことで110番をしたら、警察官に連れて行かれ、数時間後に引き取りを求められた」。親子の問題のご相談では、こうした連絡を受けて戸惑った経験を伺うことが少なくありません。

 警察の保護は逮捕とは違い、本人の身柄を一時的に預かる制度です。そのため、保護の理由がなくなれば家族へ引き渡すことが前提となり、一般的な説明も「迎えに行って本人を引き取る」という流れで終わることが多いようです。その説明は誤りではありませんが、暴力の直後や本人の状態が落ち着いていない場面で、そのまま自宅に連れて帰ってよいのかという点までは触れられていないことがあります。

 この記事では、成人した子が警察に保護された場面を取り上げ、保護の仕組み、引き取りの法的な位置づけ、自宅に戻すことが難しいときの考え方を整理します。逮捕された場合の対応や、110番をするかどうかの判断については、それぞれ別の記事で扱っています。

警察の「保護」とは何か|逮捕との違い

 警察官は、一定の状態にある人を見つけたとき、警察署や病院などの適当な場所で一時的に保護することとされています(警察官職務執行法3条1項)。犯罪の疑いを理由に身柄を拘束する逮捕とは目的が異なり、本人や周囲の安全を確保するための措置です。

保護の対象になる二つの場面

 保護の対象は大きく二つに分かれます。一つは、精神錯乱や泥酔のため、自分や他人の生命・身体・財産に危害を及ぼすおそれがある人です(同項1号)。もう一つは、迷い子や病人、負傷者などで、適当な保護者がおらず応急の救護が必要と認められる人で、こちらは本人が拒んだ場合には保護できません(同項2号)。

 家庭内で暴れた子について110番をした場合や、外出先で錯乱した状態で見つかった場合は1号に当たることが多く、自殺をほのめかして家を出た子が見つかった場合も、自分の生命に危害を及ぼすおそれがあるとして1号で保護されることがあります。体調を崩して路上で動けなくなっていた場合などは2号の場面です。酒に酔って公衆に迷惑をかけた場合については、別の法律にも保護の定めがあります(酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律3条)。

保護できる時間には上限がある

 警察による保護は24時間を超えてはならず、延長するには簡易裁判所の裁判官の許可状が必要です。延長する場合も、通じて5日を超えることはできません(警察官職務執行法3条3項・4項)。保護は本人を長く預かっておく制度ではなく、短い時間のうちに家族などへ引き継ぐことを前提にした制度です。夜中であっても引き取りを急いで求められるのはこのためです。

保護と同時に動くことがある別の手続

 警察官は、精神障害のために自分を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる人を見つけたときは、保健所長を経て都道府県知事に通報しなければなりません(精神保健福祉法23条)。この通報をきっかけに精神保健指定医の診察が行われ、その結果によっては措置入院となることがあります(同法27条・29条)。また、家族へのけがや物の損壊の内容によっては、保護ではなく、暴行や傷害などの疑いで逮捕に切り替わる場合もあります。

 電話の段階では、どの手続が動いているのかが家族に十分伝わっていないこともあります。まずは何が起きているのかを確かめることが出発点になります。

引き取りの連絡が来たとき、最初に確認すること

 警察官は、保護をしたときは、できるだけ速やかに家族や知人などに通知し、引き取りについて必要な手配をすることとされています(警察官職務執行法3条2項)。警察署からの電話はこの規定に基づくものです。慌てて向かう前に、次の点を聞いておくと、その後の判断がしやすくなります。

  • どこの警察署が保護したのか、本人はいま警察署と病院のどちらにいるのか。
  • 保護の理由が、泥酔、錯乱、自傷のおそれ、けがや体調不良のいずれに当たるのか。
  • 本人がけがをしていないか、受診の必要があるか。
  • 保健所への通報や、医師による診察の予定があるか。
  • 家族へのけがや物の損壊があったか、事件として扱う見込みがあるか。
  • いつまでに来てほしいのか、来られない場合はどうなるのか。


本人の状態を電話で確かめる

 酔いが覚めれば落ち着く状態なのか、興奮が続いているのか、医療が必要な状態なのかによって、取るべき対応は変わります。「迎えに来てください」とだけ言われた場合でも、本人の状態と保護の理由を聞いたうえで、どう対応するかを決めて差し支えありません。

医療につなぐ必要があるかを伝える

 精神疾患の治療歴がある、服薬を中断している、幻覚や妄想と思われる言動が続いている、といった事情があれば、電話の段階で警察官に伝えておくことが大切です。それによって、保健所への通報や受診の判断が変わる場合があります。医療につなぐかどうかの目安は、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で詳しく扱っています。

逮捕に切り替わっている場合

 保護の連絡と思って話を聞いていたところ、実際には逮捕されていたという場合は、身柄の扱いも、家族にできることも大きく変わります。その場合は【親子問題】子が逮捕された|親が最初にすべきことをご覧ください。

成人した子の引き取りは法律上の義務か

 引き取りを求められると、断ることはできないと感じる方が多いようです。ここでは、引き取りをめぐる規定の位置づけを整理します。

「引き取りの手配」は警察の側に求められた務め

 警察官職務執行法3条2項は、家族などへの通知と引き取りの手配を警察官に求める規定です。同じ項は、責任ある家族や知人などが見つからないときは、公衆保健や公共福祉のための機関など、適当な公の機関に引き継ぐことも定めています。条文の文言は「見つからないとき」ですが、家族が引き取りに応じられない事情がある場合にも、警察と関係機関との間で調整が行われることがあります。この規定は家族に引き取りを義務づけるものではなく、家族が引き取れない場合を想定した受け皿も法律の中に置かれています。

かつてあった家族の「引取義務」は廃止された

 精神保健福祉法には以前、精神障害のある本人の「保護者」として、家族に治療を受けさせる義務や、退院する本人を引き取る義務などを課す規定がありました。この保護者制度は平成25年の法改正で廃止され、平成26年4月以降、家族の引取義務を定めた規定はなくなっています。

扶養義務との関係

 親は成人した子に対しても扶養義務を負いますが(民法877条1項)、これは主に経済的な援助をめぐる義務で、本人を自宅に住まわせることや、身柄を引き取ることまでを直接求めるものではないと考えられています。扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで説明しています。

 もっとも、引き取りに応じないことを選んだ場合でも、本人がその後どこで過ごすのかという問題は残ります。保護は長くても数日で終わるため、引き取らなかった子が自分で帰宅してくることも考えられます。実際には、引き取るか断るかの二択よりも、「本人をどこに帰すのか」を警察や関係機関と話し合うことが焦点になります。

引き取りに行く場合の手順と注意点

 引き取りに行くと決めた場合も、準備を整えてから向かうことで、その後の負担を減らすことができます。

できるだけ一人で行かない

 保護の直後は、本人が興奮していることもあります。配偶者やきょうだい、親族など、もう一人の大人と一緒に向かうほうが安全です。高齢の親御さんが夜間に向かう場合は、帰りの移動手段も含めて警察官に相談しておくとよいでしょう。

警察署で求められること

 引き取りの際には、身分証の提示や、本人の引き渡しを受けたことを確認する書面への署名を求められるのが一般的です。保護の際に警察が預かった所持品があれば、その返還も受けます。書面の様式は都道府県警察によって異なりますので、署名する前に内容を確かめておくと安心です。

 なお、刑事事件で釈放される際の身元引受は、保護の引き取りとは目的が異なります。身元引受人の役割については、【親子問題】身元引受人になることの意味と責任をご参照ください。

帰宅した夜に気をつけること

 引き取った当日に、保護に至った理由を問い詰めたり、今後の約束を迫ったりすると、再び衝突が起きることがあります。その夜は本人を休ませることを優先し、話し合いは落ち着いてから、必要であれば第三者を交えて行うほうが安全です。刃物や酒類など危険につながる物は目の届かない場所に移し、再び身の危険を感じたときはためらわずに110番をしてください。通報の目安については、【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで説明しています。

自宅に戻すことが難しいとき

 家庭内で暴れたことがきっかけで保護された場合、引き取るということは、暴力のあった場所に本人を戻すことを意味します。ご相談では、この点に悩まれる方が多い印象です。

引き取れない事情は率直に伝える

 自宅に戻ると再び暴力が起きるおそれがある、家族が怖くて同じ家で過ごせない、といった事情があれば、警察官にそのまま伝えてかまいません。これまでの暴力の経緯や警察への相談歴があれば、あわせて伝えると状況が伝わりやすくなります。相談記録の意味については、【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続もご覧ください。

医療の場につながる場合

 保健所への通報を経て診察が行われ、入院が必要と判断されることがあります。措置入院は都道府県知事の権限で行われますが、医療保護入院では、精神保健指定医の診察に加えて、家族等のいずれかの同意が必要とされています(精神保健福祉法33条)。令和4年の法改正により、令和6年4月からは、家族等が同意・不同意の意思表示をしない場合にも、市町村長の同意によって入院できるよう改められました。同意を求められたときは、入院の目的や見込まれる期間、退院後の支援について、医師や病院の精神保健福祉士から説明を受けてから判断することが大切です。

自宅以外の行き先を考える

 医療の対象にならない場合でも、親族の家に一時的に身を寄せる、宿泊施設を利用するなど、自宅以外の行き先を用意できることがあります。本人が生活に困っている場合は、福祉事務所や自立相談支援機関に相談できる場合もあります。親の側が一時的に家を離れるという選択肢については、【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で整理しています。

保護が繰り返される家庭で考えておきたいこと

 一度の保護で終わらず、泥酔や暴力のたびに保護と引き取りを繰り返している家庭もあります。この場合、引き取るたびに状況が元に戻り、問題が長期化していくことが少なくありません。

保護の経緯を記録しておく

 保護された日時、警察署の名称、保護の理由、引き取りの際に警察官から伝えられたことを記録しておくと、医療機関や行政、弁護士に相談する際に、これまでの経過を正確に伝えることができます。

親子の距離を見直す

 保護が繰り返される背景には、親子が近すぎる距離で暮らし続けていることが関係している場合があります。当事務所が関わってきた事案でも、子が家を出て生活の基盤を別に築くことで、双方の状態に変化が見られたケースがあります。ただし、経過はご家庭ごとに異なり、一律の見通しをお示しできるものではありません。距離を取ることの意味については、【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点で詳しく扱っています。

第三者が間に入るという方法

 当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、自立支援カウンセラーが子の住まい探しや仕事探し、日々の生活の立て直しを支える形で、親子の問題に取り組んでいます。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

よくあるご質問

夜間で迎えに行けない場合、翌朝の引き取りでもよいのでしょうか。

 保護には24時間という上限があるため、事情を伝えれば翌朝の引き取りで調整してもらえることもあります。ただし、本人の状態や警察署の体制によって対応は異なりますので、行けない理由と、行ける時間を具体的に伝えて相談してください。

引き取らなかった子が自宅に帰ってきた場合、家に入れないことはできますか。

 成人した子が実家で暮らしている場合、その家は子にとっても生活の本拠になっていることがあります。鍵を替えて締め出すといった対応は、かえって新たなトラブルを招くことがあるため、慎重な検討が必要です。詳しくは【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界をご覧ください。

保護されたことが、子の勤務先などに伝わることはありますか。

 警察官は、保護した人の氏名や保護の理由などを毎週簡易裁判所に通知することとされていますが(警察官職務執行法3条5項)、これは保護が適正に行われたかを確かめるための手続で、勤務先などに知らせる仕組みではありません。

まとめ


  1. 警察の保護は、精神錯乱・泥酔や、救護が必要な状態にある人を一時的に預かる制度で、逮捕とは目的が異なります(警察官職務執行法3条1項)。
  2. 保護は原則24時間までで、延長しても通じて5日を超えられないため、早い段階で引き取りを求められます(同条3項・4項)。
  3. 自傷他害のおそれがある場合は、警察官から保健所長を経て知事へ通報され、診察や措置入院につながることがあります(精神保健福祉法23条・29条)。
  4. 引き取りの手配は警察官に求められた務めで、家族が見つからない場合は公の機関に引き継ぐことも定められています(警察官職務執行法3条2項)。
  5. 精神障害のある本人についての家族の引取義務は、保護者制度とともに平成26年4月に廃止されています。
  6. 医療保護入院では家族等の同意が求められますが、令和6年4月からは家族等が意思表示をしない場合に市町村長の同意で入院できるようになりました(精神保健福祉法33条)。
  7. 自宅に戻すことが難しい事情は警察に率直に伝え、保護が繰り返される場合は記録を残し、親子の距離の取り方を含めて相談することが大切です。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、家庭内暴力やひきこもり、お金の無心など、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしており、遠方のご家庭からのご依頼にも対応しています。
子が保護されるたびに引き取りを求められ、どう向き合えばよいか分からなくなっている親御さんや、本人を自宅に戻すことに不安を感じているご家族は、一人で抱え込まずにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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