【親子問題】示談金を親が払うべきか|払う場合の条件

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は、2026年9月時点の法令に基づいて記載しています。個別の事案での結論は、事件の内容やご家庭の事情によって異なります。


「息子が逮捕され、弁護人から示談の話が出ている。本人には払えるお金がない。親が出すしかないのだろうか」。お子さまの事件の知らせを受けた親御さんから、このようなご相談が寄せられます。反対に、「これまで何度も肩代わりしてきたが、今回も払うべきなのか迷っている」という声をうかがうこともあります。

 示談金を家族が用意して示談を成立させることは、実務では珍しいことではありません。ただ、「親が払えば解決する」という受け止め方だけでは、そもそも親に支払義務があるのか、親が払ったお金は子との間でどう扱われるのか、といった点が見えにくくなります。

 この記事では、示談金を親が負担する場面に絞って、支払義務の有無、払うかどうかを考えるときの視点、払う場合に示談書と親子の間で整えておきたい条件を整理します。示談書全般の条項や、被害者への謝罪・交渉の進め方については、それぞれの解説記事に委ねます。

親に示談金を支払う法的な義務はあるのか


18歳以上の子の示談金は、原則として子本人の債務

 示談金は、事件によって被害者に生じた損害を賠償する性質をもつお金です。損害賠償の義務を負うのは、原則として行為をした本人です(民法709条)。2022年4月から成年年齢は18歳に引き下げられており(同法4条)、18歳以上の子が起こした事件について、親であることだけを理由に示談金の支払義務を負うことは、原則としてありません。

 これは、子が同居している場合や、経済的に親に頼っている場合でも同じです。親の扶養義務と、子が被害者に対して負った賠償の義務は、別のものとして扱われます。扶養義務の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで、成人した子の問題に親が関われる範囲については【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で解説しています。

 親が示談金を出すかどうかは、法律上の義務の履行ではなく、親の判断による任意の負担と位置づけるのが出発点です。

子が未成年の場合に親の責任が問題になる場面

 子が18歳未満の場合は、事情が少し異なります。自分の行為の責任を理解する能力(責任能力)がない子は賠償責任を負わず(民法712条)、その場合は監督義務者である親が、監督を怠らなかったことなどを示せない限り責任を負います(同法714条1項)。責任能力の有無は個別に判断されますが、一般には12歳前後が一つの目安とされています。

 中学生や高校生のように責任能力がある子の場合、賠償責任を負うのは子本人です。もっとも、親の監督が不十分だったことと損害との間に相当因果関係が認められる場合には、親自身が民法709条に基づいて責任を負うことがあるとされています(最高裁昭和49年3月22日判決)。これは親に具体的な監督上の落ち度があった場合の話であり、未成年の子の事件であれば常に親が支払わなければならない、という意味ではありません。

 なお、未成年の子が示談をするときは、親が法定代理人として示談書に関わるのが通常です(民法5条1項)。法定代理人として署名することと、親自身が支払義務を負うことは別の事柄なので、示談書のどの欄に、どの立場で署名するのかを確認しておくことが大切です。

子の年齢・状況示談金の支払義務を負う人親の立場
18歳以上子本人原則として法的な支払義務はない。負担するかどうかは親の判断
18歳未満で責任能力がある子本人法定代理人として示談に関与する。監督上の落ち度と損害との因果関係が認められる場合に限り、親自身の責任が問題になる
18歳未満で責任能力がない監督義務者(親)監督を怠らなかったことなどを示せない限り、親が賠償責任を負う


親が用意した示談金は、刑事手続でどう評価されるのか


原資が親でも、被害の回復という事実は考慮される

 「親のお金で示談しても、本人の反省とは受け取ってもらえないのではないか」と心配される方もいます。被害者のいる事件では、被害が回復されたか、被害者が処罰を望んでいるかどうかが処分の判断で重視されるため、示談金を親が用意した場合でも、示談の成立は本人に有利な事情として考慮されるのが一般的です。

 そのうえで、本人が謝罪文を書く、親に対して返済を約束するなど、本人自身が事件と向き合っている様子が伝わると、反省の深まりを示す事情にもなり得ます。なお、示談が成立しても処分がなくなるとは限りません。この点は示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由で説明しています。

成人の事件と少年事件では、示談の意味合いが異なる

 20歳以上の子の事件では、示談の成立は主に、検察官が起訴するかどうかを判断する際の事情になります。一方、20歳未満の子の事件は少年事件として扱われ、捜査の後は原則としてすべて家庭裁判所に送られます(少年法41条・42条)。示談によって手続そのものが終わるわけではありませんが、家庭裁判所が処分を決める際に、被害の回復や家庭の受け止め方を示す事情として考慮されます。

 18歳・19歳の子は、民事では成年として扱われる一方、刑事手続では「特定少年」として少年法の対象になります。民事上は親に支払義務がないのが原則でも、手続は少年事件として進むという組み合わせになる点に注意が必要です。

払うかどうかを決める前に考えておきたいこと


支払いが子の立ち直りにつながる形になっているか

 示談金は被害者に向けたお金であると同時に、親子の関係にも影響を及ぼします。親がすべてを引き受け、本人が事件の後始末に関わらないまま終わると、同じようなことが繰り返される場面もあります。当事務所がお受けしている家庭内暴力やひきこもりのご相談でも、親子の距離が近すぎることが問題の背景の一つになっていると感じるケースがあります。

 支払うかどうかは、金額の大きさだけでなく、本人が事実を認めているか、被害者への謝罪に関わる意思があるか、親への返済を含めて自分の責任として引き受ける姿勢があるか、といった点も含めて考えることをおすすめします。

親自身の生活と、ほかの家族との関係

 示談金を出すことで親の生活や老後の資金が大きく損なわれるのであれば、全額を負担することが適切とは限りません。一部だけを負担する、分割での示談を検討するなど、親の生活を守る形を選ぶことも考えられます。

 また、きょうだいがいる場合には、特定の子のために多額の支出をしたことが、将来の相続の話し合いで持ち出されることもあります。支出の経緯を記録に残しておくと、後から説明しやすくなります。

 判断の前に確認しておきたい点は、次のとおりです。

  • 子本人が事実を認め、示談に同意していること。
  • 子の年齢と責任能力からみた、親の支払義務の有無。
  • 提示されている示談金の金額と、その内訳。
  • 親が負担できる上限額と、生活への影響。
  • 過去の肩代わりの有無と、その後の経過。
  • 負担した分を本人に返済させるか、贈与とするかの方針。


払う場合の条件|示談書で整えておきたい点


当事者は子本人とし、親は「子の委託を受けて支払う者」とする

 示談は民法上の和解にあたり、合意した内容は後から覆すことが難しくなります(民法695条・696条)。親が示談金を出す場合は、署名する前に、誰が当事者で、誰がどの範囲の責任を負うのかを書面上で明確にしておくことが大切です。

 示談の当事者は、被害者と、事件を起こした子本人です。親が示談金を出す場合も、親が子に代わって示談の当事者になるのではなく、子が支払義務を認め、その支払いを親が子から頼まれて行う、という形に整えるのが基本です。

 親のように、支払うことについて法律上の利害関係をもたない第三者は、債務者である子の意思に反して支払うことができず、債権者である被害者の意思に反して支払うことも原則としてできません(民法474条2項・3項)。ただし、債務者の委託を受けて支払い、そのことを債権者が知っている場合には、有効な支払いになります(同条3項ただし書)。示談書に「親が子の委託を受けて支払う」旨を書いておくことで、支払いの効力をめぐる争いを避けやすくなります。

親が負う責任の範囲を限定しておく

 親が示談書に署名する場合、その署名が「支払いをする者」としてのものか、「連帯保証人」や「連帯債務者」としてのものかで、負う責任が変わります。定められた示談金を支払えば親の関与は終わる、という形にしたいのであれば、示談書で定めた金額のほかに親が被害者に対して債務を負わないことを明記し、清算条項の対象に親も含めておくことが考えられます。清算条項の働きについては清算条項の意味|後から追加請求されないためにをご覧ください。

分割払いで連帯保証を求められたとき

 示談金を分割で支払う場合、被害者から親に連帯保証人になるよう求められることがあります。保証契約は書面でしなければ効力を生じませんが(民法446条2項)、いったん署名すると、子が支払いを止めたときに、親が残額を請求される立場になります。

 子の収入が安定していない場合は、保証を引き受ける前に、親が負担できる範囲で一括払いにする、頭金を多めにして残額を減らすといった方法と比べて検討することをおすすめします。分割払いの示談書の作り方は分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書で解説しています。

 親が示談金を負担する場合に、示談書に入れておきたい条項の記載例は次のとおりです(甲=被害者、乙=子本人、丙=親)。

条項記載例
支払義務の確認乙は、甲に対し、本件の示談金として金○○万円の支払義務があることを認める。
親による支払い丙は、乙の委託を受け、乙に代わって前条の金員を甲に支払う。甲は、丙が乙の委託を受けて支払うことを承諾する。
親の責任の限定丙は、本示談書に定めるもののほか、甲に対し何らの債務も負わないことを確認する。
宥恕甲は、乙を宥恕し、乙の刑事処罰を求めない。
清算甲と乙、及び甲と丙は、本件に関し、本示談書に定めるもののほか、互いに何らの債権債務がないことを確認する。


 実際の文言は、事件の内容や被害者のご意向によって変わります。宥恕の文言がもつ意味は宥恕文言の意味|「許す」と書かれると刑事処分はどう変わるかで、示談書全般の条項は示談書に必ず入れる条項と、入れると危険な条項で解説しています。

親と子の間で取り決めておきたいこと


立て替えなのか、贈与なのか

 親が子に代わって示談金を支払った場合、親は子に対して、支払った分の返還を求められる立場になり得ます。もっとも、家族の間では「返してもらうつもりだった」「もらったものと思っていた」と認識が食い違いやすく、時間がたつほど整理が難しくなります。

 返済を求めるのであれば、示談書とは別に、親子の間で立て替えた金額と返済の方法を記した書面を作っておくことをおすすめします。これは被害者に見せる必要のない、親子の間の取り決めです。返済を求めないと決めた場合も、その旨を書き残しておくと、ほかの家族への説明に役立ちます。

返済の約束を、実行できる内容にする

 収入のない子に高額の返済を約束させても、守られないまま親子関係が悪化することがあります。月々の返済額を少額にする、就労してから返済を始めるなど、実行できる内容にしておくことが大切です。

 当事務所では、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、子の仕事探しや日々の金銭管理の支援とあわせて、親と子がそれぞれ自立した生活を送れるよう取り組んでいます。返済の約束も、そうした生活の立て直しと切り離さずに考えることが現実的です。

金額によっては税の扱いも確認する

 親が対価を受けずに子の債務を支払った場合、子がその金額の贈与を受けたものとみなされることがあります(相続税法8条)。子が資力を失って支払いが困難な場合に、扶養義務者である親が支払ったときは、その困難な部分について課税されない扱いもあります(同条ただし書)。暦年課税の基礎控除額(年110万円)との関係も含め、金額が大きい場合は税理士に確認しておくと安心です。

支払いの手順で気をつけたいこと


被害者との連絡は、弁護人を通す

 性犯罪などの事件では、被害者の連絡先が家族に知らされることは通常なく、弁護人を通じて示談を申し入れるのが一般的です。親が独自に被害者を探して連絡を取ろうとすると、被害者を怖がらせたり、証拠隠滅を疑われたりするおそれがあります。弁護人に任せる理由は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で、お子さまが逮捕された直後の動き方は家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやることで説明しています。

支払いの記録を残しておく

 示談金は、弁護人の預り金口座を経由して被害者に支払う方法が多くとられます。親の口座から直接振り込む場合も、誰が、いつ、何の名目で支払ったのかが後から分かるよう、振込の記録と受領の書面を保管しておきます。具体的な方法は示談金の渡し方|振込名義・領収・受領証で残すべきもので解説しています。

よくあるご質問


被害者から「親が払え」と直接言われました。応じなければなりませんか。

 子が18歳以上であれば、親に支払義務がないのが原則です。子が18歳未満の場合でも、親自身が責任を負うかどうかは、子の責任能力や監督の状況によって決まります。その場で約束や署名をせず、弁護士に相談したうえで対応を決めることをおすすめします。

子本人が「払わなくていい」と言っています。それでも親が払えますか。

 子の意思に反して親が支払うことは、被害者がその事情を知らなかった場合を除き、法律上認められていません(民法474条2項)。また、示談は子本人が支払義務を認めることが前提になります。まずは弁護人から子に示談の意味を説明してもらうところから始めるのが現実的です。

以前にも示談金を肩代わりしました。今回は断ってもよいのでしょうか。

 成人した子の事件であれば、親が負担しないという判断も法的には問題ありません。親の支援がない場合でも、子が少しずつ支払う分割での示談を検討したり、示談が難しいときに贖罪寄付の申込み方と領収書の扱いで紹介している贖罪寄付を検討したりすることがあります。断ることが子を突き放すことになるのではと悩まれる場合は、親子の距離の取り方も含めてご相談いただければと思います。

まとめ


  1. 18歳以上の子の示談金は子本人の債務であり、親に法的な支払義務はないのが原則です(民法4条・709条)。
  2. 18歳未満で責任能力がある子の場合も賠償責任を負うのは子本人で、親が責任を負うのは、監督義務者の責任(民法714条1項)や親自身の不法行為(同法709条)が認められる場合です。
  3. 親が用意した示談金であっても、被害の回復は処分の判断で考慮されるのが一般的です。
  4. 親が支払う場合は、子が支払義務を認め、親が子の委託を受けて支払う形に整えます(民法474条3項ただし書)。
  5. 示談書では、親が負う責任の範囲を限定し、清算条項の対象に親も含めておくことが考えられます(民法695条・696条)。
  6. 連帯保証を求められた場合は、署名する前に、一括払いなどほかの方法と比べて検討します(民法446条2項)。
  7. 親子の間では立て替えか贈与かを書面にしておき、金額によっては税の扱いも確認します(相続税法8条)。


お子さまの示談金の負担でお悩みの親御さんへ


弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。お子さまの刑事事件・少年事件での弁護活動や示談交渉のほか、示談金を負担される親御さんからの、負担の範囲や親子間の取り決めについてのご相談にも対応しています。遠方の方からのご相談もお受けしています。

 示談金を出すかどうかは、目の前の事件だけでなく、その後の親子の関係にも関わる判断です。払うと決めている方も、迷っている方も、一度状況をお聞かせください。当事務所の親子問題への取り組みは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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