わいせつ動画の購入・所持・再配布|刑法175条の射程
本記事は、2026年10月時点の刑法(2023年改正後の不同意性交等罪の規定を含む)、刑事訴訟法、民法と、刑事手続の一般的な考え方に基づいて解説しています。個別の事案での見通しは、飲酒の程度や、手元に残っている記録の状況によって変わります。
飲み会の帰りに風俗店を利用したものの、途中から記憶が途切れている。翌日になって店から「女の子が本番をされたと言っている」と連絡があり、「していない」とも「した」とも言えずに困っている、というご相談は少なくありません。
「覚えていないなら、正直に『覚えていない』と言えばよい」という説明は、それ自体誤りではありません。ただ、相手が具体的に話し、こちらは「覚えていない」としか言えない状況で話がどちらに傾きやすいのか、どう答えればそのまま記録に残るのかといった点までは、見えにくいところがあります。
この記事では、酔っていて記憶があいまいな状態で本番を疑われた方が、その日から何をどの順で整えればよいかを整理します。酩酊と責任能力の関係や、双方が酔っていた場合の不同意の認定といった法的な論点の詳細は、文中で紹介する別の記事に譲ります。
「覚えていない」状態が不利に傾きやすい理由
相手の説明だけが具体的になる
ホテルや個室での出来事は、行為中の映像や録音が残っていることはまずなく、双方の説明と、その前後に残った記録とを照らし合わせて判断されます。申告する側が「いつ、どのように」と具体的に話し、疑われた側が「覚えていない」としか言えない場合、比べられたときに相手の説明が採用されやすい構図になります。
記憶がないこと自体が、ただちに不利な事情として扱われるわけではありません。しかし、記憶がないと述べるだけで疑いが晴れる場面も多くはありません。こちらの説明に中身がないと、相手の説明に食い違いがあっても、それを指摘する材料を自分で示しにくくなるためです。
推測で埋めた言葉が「認めた」記録になる
記憶が抜けている部分を、「酔っていたので、たぶん」「もしかしたら入ったかもしれない」と推測で埋めて話してしまう方がいます。その場を収めたい気持ちや、相手に申し訳ないという気持ちから出る言葉ですが、こうした発言は、後から「本人も認めていた」という記録として扱われることがあります。
覚えていないことを推測で補って答えないことが、記憶があいまいな場面で最初に守りたい点です。すでにそうした発言をしてしまった方は、本番を認める発言をしてしまった後にできること|自認の撤回と限界もあわせてご覧ください。
あいまいな記憶を三つに分けて書き出す
「記憶があいまい」といっても、すべてが抜け落ちていることは多くありません。ホテルに入ったところは覚えている、サービスの途中から退室までが思い出せない、というように、覚えている部分と覚えていない部分がまだらになっているのが一般的です。まずは、その日の出来事を次の三つに分けて書き出します。
| 区分 | 例 | 書き方 |
|---|---|---|
| 自分で覚えていること | ホテルに入った時刻、女性と最初に交わした会話 | 覚えている範囲を、言葉のまま書く |
| 覚えていないこと | サービスの途中から退室までの流れ | 「覚えていない」とそのまま書き、推測で埋めない |
| 後から知ったこと・推測 | 店から聞かされた内容、「酔っていたのでたぶん」という考え | 誰から聞いたのか、推測であることを区別して書く |
書き出したメモは、作成した日付が分かる形で保存しておきます。時間が経つほど、店から聞いた話や自分の推測が、もともとの記憶と混ざりやすくなるためです。
なかでも注意したいのが三つ目の区分です。店から聞かされた内容は、自分の記憶ではなく「相手の主張」として別に書いておきます。何度も聞かされるうちに、聞いた話を自分の記憶のように話してしまうことは、誰にでも起こり得ます。
記憶の空白を、手元の記録で補う
飲み始めから店を呼ぶまで
どこで、誰と、何をどのくらい飲んだかを確かめます。飲食店の会計記録や領収書、カードの利用明細、同席していた人の記憶、移動に使った交通系ICカードやタクシーの記録などが手がかりになります。どの程度酔っていたかは、後で記憶があいまいな理由を説明するうえでも関わってきます。
店とのやり取りとホテルでの時間
予約の画面や通話履歴、選んだコースと時間、支払いの記録、ホテルの入室・退室の時刻、店のスタッフが部屋に来た時刻とそのときの発言、店や女性とのLINE・ショートメッセージ、スマートフォンに残った写真の撮影時刻や位置情報、歩数の記録などを集めます。記憶がない時間帯に、誰と、どのようなやり取りをしていたかを外側からたどる材料になります。
店や女性から届いたメッセージは、内容にかかわらず削除せずに残します。ホテルの入退室記録や防犯カメラの映像は一定の期間で消去されることがありますが、ご自身でホテルに問い合わせるよりも、必要に応じて弁護士を通じて保全の方法を検討するほうが無難です。
帰宅後や翌朝の状況
帰宅した時刻、服装や持ち物の状態、財布の現金の減り方、身体の状態など、翌朝の時点で気づいたことも書き留めておきます。単独では意味が分からなくても、ほかの記録と並べたときに流れがつながることがあります。
ただし、記録を見ながら「そうだったはずだ」と考えた内容と、もともと覚えていた内容は、区別しておく必要があります。記録を見て組み立てた流れは、思い出した記憶とは分けて扱います。両者が混ざると、後で説明の食い違いを指摘されたときに、どこまでが自分の記憶なのかを説明しにくくなります。
酔っていたことは、法的にどう扱われるか
酔っていたから責任が軽くなる、とは考えにくい
刑法は、心神喪失の状態での行為は罰しない、心神耗弱の状態での行為は刑を減軽すると定めています(刑法39条)。もっとも、飲酒による酩酊でこれが認められる場面は限られており、記憶がないほど酔っていた場合でも、通常の責任能力があったと判断されることが多いとされています。民事の賠償責任についても、自ら飲酒して判断能力が落ちた状態を招いた場合には、責任を免れないとされています(民法713条ただし書)。
「酔っていた」という事情は、責任を軽くする材料というより、記憶の空白を説明する事情として扱うのが現実的です。酩酊の程度と責任能力の関係は、飲酒時の記憶がない|酩酊と責任能力の関係で詳しく解説しています。
「同意があると思っていた」は、記憶があってこそ語れる
不同意性交等罪は、相手が同意していないことを認識しながら行為に及んだ場合に成立する罪で、故意が必要です(刑法38条1項、177条)。法定刑は5年以上の有期拘禁刑と重く定められています。相手が同意していると思っていた事情は争点になり得ますが、その根拠となるやり取りや相手の言動を自分の記憶で語れないと、主張の裏づけは乏しくなります。
この点の考え方は、「同意があったと思っていた」|不同意性交等罪で争点になる事情で整理しています。記憶があいまいな場合に、責任をどう問われるかという全体像は、記憶が曖昧なまま責任を問われている|飲酒と本番トラブルもご参照ください。
女性の側も飲酒していた場合
不同意性交等罪では、アルコールの影響があることも、同意しない意思を形成したり表明したりすることが困難な状態を生じさせる事由の一つとして挙げられています(刑法176条1項3号、177条1項)。女性の側もお酒を飲んでいた場合には、その影響がどの程度だったかが、別の争点として加わることがあります。双方が酔っていた場面の考え方は、双方が酔っていて記憶がない|アルコールと不同意の認定で解説しています。
店や警察から聞かれたときの答え方
店からの電話やその場での話し合い
店から連絡があったときは、認めも否定もせずに、確認中であることを伝えるのが一つの方法です。たとえば、「その時間のことは、酔っていてはっきり覚えていません。確認したうえで、改めてお返事します」といった伝え方です。その場で結論を出そうとせず、いったん持ち帰ることを優先します。
次のような言動は、後の判断の妨げになりやすいため、避けておきたいところです。
- 「酔っていたので、たぶんしたと思う」と推測で答えること。
- 記憶の裏づけがないまま、「間違いなくしていない」と言い切ること。
- 事実を認める内容の念書や謝罪文に署名すること。
- 身分証を持った状態で、行為を認める内容を話す動画の撮影に応じること。
- 店の事務所など、相手が指定する場所へ一人で出向くこと。
- 女性本人に直接連絡して、何があったのかを確かめようとすること。
二つ目は意外に思われるかもしれませんが、記憶がない状態で強く否定した後に、それと合わない記録が出てくると、説明全体の信用が損なわれることがあります。否定するにしても、何を根拠に否定しているのかを自分で説明できる範囲にとどめておくことが大切です。被害届が出る前の時間の使い方は、【風俗トラブル】店から「警察に行く」と言われた翌日にすること|被害届が出る前の時間で解説しています。
警察から事情を聞かれる場面
取調べでは、自分の意思に反して供述する必要はないことが告げられます(刑事訴訟法198条2項)。作成された調書は読み聞かせや閲覧の機会があり、誤りがあれば増減や変更を申し立てることができ、内容に納得できなければ署名押印を拒むこともできます(同条4項・5項)。
記憶があいまいな場合は、覚えていない部分を「覚えていない」とそのまま調書に記載してもらうことが基本になります。取調べへの備えは、「認める調書」を作られないために|風俗トラブルの取調べ対応の注意点と黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理で整理しています。
あとから思い出したことが出てきたら
時間が経って、断片的に思い出すことがあります。ただ、最初の説明と違う内容をそのまま店や警察に伝えると、説明が途中で変わったと受け止められるおそれがあります。思い出したことは、まずメモに残し、いつ、何をきっかけに思い出したのかも含めて、弁護士と整理してから伝え方を考えるのが無難です。説明が変わった場合の評価については、供述が途中で変わると不利になる理由|変遷の評価をご覧ください。
争うか、示談で区切るかを決める材料
記憶がないまま争うことの難しさ
刑事手続で犯罪にあたる事実を立証するのは検察官であり、疑われた側が「何もなかった」ことを証明する仕組みにはなっていません。とはいえ、記憶があいまいな場合、争う材料はほぼ記録に頼ることになります。女性側の申告がいつ、誰に対してされたのか、検査の結果はどうか、時刻や流れが申告と合っているかといった点を、記録から一つずつ確かめていくことになります。
何が判断の材料になるのかは、【風俗トラブル】本番はしていないのに「した」と言われたら、何をもって否定すればいい?で詳しく解説しています。
事実を認めない形での合意もあり得る
記憶がはっきりしないまま、刑事手続の見通しや仕事・家族への影響を考えて、示談による解決を選ぶ方もいます。その場合でも、合意書に「事実関係を認めるものではない」旨の文言を入れたうえで解決金を支払う形をとることがあり、示談に応じることが、相手の主張する事実を認めることと同じになるわけではありません。
反対に、店が用意した書面に、行為を認める内容や過大な違約金の定めがそのまま入っていることもあります。記憶があいまいなまま、相手の主張を前提にした書面に署名することは避けておきたいところです。書面の注意点は店が用意した示談書にサインする危険性|宥恕条項・清算条項の落とし穴、否認と示談の考え方は無実でも示談すべき?否認と示談のジレンマで解説しています。
判断に影響する事情
争うのか、どの段階で合意を目指すのかは、手元に残っている記録の量と中身、女性側の申告の経緯、被害届が出ているかどうか、ご自身の仕事や家族への影響などを踏まえて決めることになります。店から罪名を告げられている場合は、【風俗トラブル】不同意性交等罪と言われた|風俗の場面で罪名が出たときの整理も参考にしてください。
よくあるご質問
「覚えていない」と答えると、認めたのと同じに扱われますか?
「覚えていない」という答えが、そのまま行為を認めたものとして扱われるわけではありません。ただ、それだけで疑いが晴れるわけでもないため、覚えている部分は具体的に、覚えていない部分はそのまま「覚えていない」と区別して伝え、記録で補える部分は補っていくことが大切です。
思い出せないまま、店の用意した示談書に署名しても大丈夫ですか?
署名する前に、書面に何が書かれているかを確かめる必要があります。行為を認める文言や、支払いの根拠がはっきりしない違約金の定めが入っていると、後から刑事手続や追加の請求の場面で不利に扱われるおそれがあります。その場で署名を求められても、持ち帰って検討したいと伝えて構いません。
お酒を飲んでいたことは、店や警察に伝えないほうがよいですか?
飲酒していた事実を隠すと、飲食店の会計記録や同席者の説明と食い違い、かえって説明の信用を損なうことがあります。飲酒の事実は、記憶があいまいな理由として説明に含めておくほうが、話の筋は通りやすくなります。飲んだ量を多く言ったり少なく言ったりせず、記録で確かめられる範囲で伝えることが大切です。泥酔して記憶がない状態での請求全般については、泥酔状態で身に覚えのない請求・トラブル|記憶がない場合の対応、被害届が出された後の刑事手続については、【刑事事件】酔って記憶がないのに被害届が出された|思い出せないまま手続に向き合うためにで解説しています。
まとめ
- 記憶がない部分を推測で補って答えると、後から修正しにくい「認めた」記録として残ることがあります。
- あいまいな記憶は、「覚えていること」「覚えていないこと」「後から知ったこと・推測」の三つに分けて書き出します。
- 飲み始めから翌朝までの記録を集め、記憶の空白を外側から補います。記録から組み立てた流れは、思い出した記憶とは分けて扱います。
- 飲酒による酩酊で責任が軽くなる場面は限られ(刑法39条)、自ら招いた酩酊では民事の賠償責任も免れないとされています(民法713条ただし書)。
- 不同意性交等罪は故意が必要ですが(刑法38条1項、177条)、同意があると思っていた事情を自分の記憶で語れないと、主張の裏づけは乏しくなります。
- 取調べでは供述を拒むことができ、調書の訂正を求めたり、署名押印を拒んだりすることもできます(刑事訴訟法198条2項・4項・5項)。
- 示談を選ぶ場合も、事実を認めない形での合意を検討する余地があります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。全国から、電話・メール・LINEで24時間ご相談いただけます。
記憶があいまいで、何をどう説明すればよいのか分からない段階でも構いません。店や女性から連絡を受けている方、警察から連絡が来た方は、手元の記録やメッセージを消さずに残したうえで、お早めにご相談ください。


