「本サロ」「裏オプ」等の違法サービスでのトラブル|客のリスク
「電話で聞いた金額と、当日に言われた金額が違う」「サイトの料金表になかった名目が上乗せされている」。性風俗店の料金をめぐって、こうした食い違いが起きることがあります。
このとき、多くの方の中で二つの気持ちが同時に動きます。払った分を返してほしいという気持ちと、こういう店は行政に申告して止めてほしいという気持ちです。
この二つは似ているようで、担い手が別です。返金は当事者どうしの話し合いか裁判で決まるもので、行政への申告は店に対する指導や処分につながることはあっても、あなたのお金を戻すための手続ではありません。順番と伝え方を誤ると、返金の話が止まったり、こちらの立場が弱くなったりすることがあります。
この記事では、料金の説明が事前と違ったという場面に絞って、行政への申告と返金交渉をどう並行させるかを整理します。支払義務そのものの有無、写真と実際が違う場合の考え方、クレジットカードの手続については別の記事で扱っていますので、ここでは手順に焦点を当てます。
「通報したい」と思ったときに、まず分けておくこと
最初にすべきなのは、窓口を探すことではなく、自分が何を求めているのかを二つに分けることです。
二つの目的は、担い手が違う
一つは、店の営業のやり方を改めさせたい、同じ被害を出させたくないという目的です。これは行政の手続が担います。もう一つは、支払った金を戻してほしい、これ以上払わずに済ませたいという目的です。これは民事の交渉や裁判が担います。
行政の手続は、あなたへの返金を命じるものではありません。逆に、返金交渉がまとまっても、店の営業のやり方が変わるとは限りません。両方を望むのであれば、二本の線を同時に引く必要があります。
「通報」という言葉が指す先は一つではない
通報という言葉は日常語で、法律上の一つの制度を指しているわけではありません。実際には、その場の安全を守るための110番、営業についての情報を受け付ける警察の窓口、届出や許可のある営業への処分を扱う公安委員会、消費生活相談の窓口、広告や表示の問題を扱う部署と、性格の異なるものが並んでいます。
どこに何を伝えるかで、返ってくるものが変わります。まずは自分の話がどの箱に入るのかを見きわめることが、遠回りに見えて早い道になります。
何が「説明と違った」のかを言葉にする
申告でも交渉でも、最初に問われるのは「何と何が食い違っているのか」です。ここが曖昧なままだと、どの窓口でも話が前に進みません。料金の食い違いは、おおむね次のように分かれます。
| 食い違いの型 | 事前にあったもの | 軸になる点 |
|---|---|---|
| 表示された料金と請求が違う | 掲載されていた料金表・コース表示 | 表示の内容と、それがいつ時点のものか |
| 電話や受付での説明と請求が違う | 予約時のやり取り | 誰が、いつ、何と言ったか |
| 説明になかった名目が後から加わる | 当初示された総額 | 名目ごとの根拠と、事前の説明の有無 |
| 割引や指名の条件が適用されない | クーポンや指名料の条件表示 | 条件を満たしていた事実 |
| 前払いの後にさらに求められる | 支払済みの額と受けた説明 | 追加を求められた時点と理由 |
「高い」と「説明と違う」は別の主張
相場より高いという言い方は、行政の窓口でも交渉でも扱いにくい主張です。価格そのものは店が決められるのが原則だからです。
これに対して、事前に示された内容と実際の請求が違うという言い方は、表示や説明という手がかりのある主張になります。同じ出来事でも、後者の形に整えて伝えるほうが、話が進みやすくなります。
行政の窓口は、何を担い、何を担わないのか
窓口ごとに、動くものと動かないものがあります。整理すると次のようになります。
| 窓口 | 主に動くこと | 期待しにくいこと |
|---|---|---|
| 110番 | その場の安全の確保、帰れない状況への対応 | 料金の当否の判断、返金の取りまとめ |
| 警察署の生活安全担当 | 営業や取立てについての情報の受付、悪質な取立てへの対応 | 民事の交渉の代行 |
| 公安委員会(警察経由) | 届出や許可のある営業への指示、営業停止などの処分 | 個別の返金の命令 |
| 消費生活相談の窓口 | 助言、事業者との間に入るあっせん、相談内容の集約 | 強制力のある解決、内容によっては相談を受けられない場合があること |
| 表示・広告を扱う部署 | 料金表示や広告についての情報の受付 | 個別の返金の命令 |
消費生活相談の窓口については、注意点があります。自治体によっては、公序良俗に反する内容の相談や個人間のトラブルは対象外と案内している例があります。性風俗店の料金トラブルは、この線引きに触れる場合があります。使えないと決めつける必要はありませんが、どの相談も受けてもらえるとは限らない窓口だ、という前提で臨むほうがよいでしょう。
条例による規制がある地域がある
東京都には、性風俗営業等に係る不当な勧誘や料金の取立てなどを規制する条例があります。指定された区域内の営業について、客が支払うべき金銭の内容を営業所内に見やすく表示する義務や、実際より著しく安いと誤認させる勧誘の禁止、乱暴な言動を交えるなど迷惑を覚えさせる方法での取立ての禁止が定められています。
同じような条例は他の一部の道府県にもありますが、名称も内容も対象区域も地域ごとに異なります。まずは店の所在地の条例を確認することになります。なお、条例に違反しているからといって、支払義務が当然になくなるわけではありません。条例は行政上の取締りのための決まりであり、私人どうしの契約の効力を直接左右するものではないためです。この点は、返金の見通しを立てるうえで大切な前提です。
風営法の改正で加わった規定との関係
2025年に施行された改正風営法では、料金についての虚偽の説明などが、営業者の守るべき事項として定められました。ただしこれは、ホストクラブやキャバクラのような接待を伴う飲食店の営業に向けられた規定です。性風俗店の料金説明がそのまま対象になるわけではありませんので、報道や解説を読むときは、どの業態の話かを分けて受け取る必要があります。
是正を求める申出という仕組みもある
行政手続法には、法令に違反する事実があり、その是正のためにされるべき処分や行政指導がされていないと考えるときに、権限のある行政庁に対して書面で申し出て、その処分などをすることを求める仕組みが置かれています。申出を受けた行政庁は、必要な調査を行い、必要があると認めるときは処分などをすることとされています。
ただし、これは申し出た人の損害を回復するための制度ではありません。調査の結果や処分の有無が申出人に知らされるとも限らず、時間もかかります。申し出たから返金される、という関係にはならないという前提で使う仕組みです。
返金の話は、別のルートで進める
返金を求める理由は、行政の規制ではなく、事前の説明や表示と実際の請求が違うという点に置きます。合意していない名目の代金を払う義務はない、あるいは説明を誤って受け取ったまま契約に至ったという組み立て方です。
支払う前か、支払った後かで難しさが変わる
まだ支払っていない段階であれば、争いは「いくら払う義務があるか」の話にとどまります。すでに支払った後は、こちらから取り戻す話になり、相手が応じない場合の負担が重くなります。
支払義務の有無や、キャンセル料・延長料金といった名目ごとの考え方は、別の記事で詳しく扱っています。ここでは、支払う前と後で立ち位置が変わるという点だけ押さえてください。
カード払いは、時間の制約が先に来る
クレジットカードで支払った場合、カード会社を通じた手続には期限の目安があります。また、翌月一括払いかどうかで使える枠組みが変わります。行政への申告を先に済ませてから、と考えているうちに期限が過ぎることがありますので、カード払いの確認だけは先に動かすのが実際的です。手続の中身は別の記事にまとめています。
申告と交渉を並行させる手順
二本の線を同時に引くとき、順序は「期限のあるものから」で決めます。おおまかな流れは次のとおりです。
- その場では支払いと署名を保留し、安全を優先する。帰してもらえない状況であれば110番を使う。
- 当日から翌日にかけて、事前の表示と当日のやり取りを保存する。画面の保存、料金表の撮影、時刻の記録まで残す。
- カード払いであれば、カード会社に連絡し、支払区分と手続の期限を確認する。
- 店への連絡窓口を一つに決め、返金を求める理由を「説明と違う」という事実で伝える。
- 行政への申告は、返金交渉の条件にせず、独立した申告として行う。
- 相手の対応が止まったら、書面での請求や民事の手続に切り替えるかを検討する。
- 自分の行為をめぐるトラブルが同じ日にあった場合は、窓口に行く前に弁護士に相談する。
この順序には理由があります。証拠は時間とともに失われ、カードの手続には期限があり、行政の申告には期限が定められていないからです。戻らないものから先に手を付けるという考え方です。
立場が入れ替わってしまう伝え方
返金を求める側が、途中から責められる側に回ってしまうことがあります。多くは、求め方の問題です。
- 支払わないまま店にとどまり、帰るよう求められても居続けること。
- 返金を求めるために、家族や勤務先に知らせると告げること。
- 返金しなければ申告すると告げて、支払いの条件にすること。
- 店名を挙げて、事実と異なる内容を書き込むこと。
- 申告の書面に、記憶が曖昧な部分や推測を、事実として書くこと。
申告したことを相手に伝えてよいのか
伝えること自体が直ちに問題になるわけではありません。問題になりやすいのは、申告を返金の条件として結び付けたときです。「返さなければ申告する」「申告を取り下げるから返してほしい」という形にすると、手続の告知という枠を超えて、金銭を得るための働きかけと受け取られるおそれがあります。
申告は申告として事実を伝え、返金は説明と違うという理由で求める。この二つを混ぜないことが、自分を守る作法になります。権利や手続を告げることと、それを材料に金銭を求めることの境目については、別の記事で詳しく扱っています。
自分の利用が問題にならないか、という不安
申告をためらう理由として多いのが、店を利用したこと自体を咎められるのではないか、という不安です。
成人どうしで、対価を払って店を利用したこと自体に罰則が定められているわけではありません。ただし、当日に自分の行為をめぐるトラブルもあった場合や、相手の年齢に不安がある場合は、話が別の枠組みに移ります。この場合は、窓口に出向く前に弁護士に相談してください。順序を誤ると、料金の話をしに行ったはずが、別の話として扱われることがあります。
残しておきたい記録
申告でも交渉でも、使う材料は同じです。次のものを、日付が分かる形で保存してください。
- 予約前に見ていた料金表やコースの表示。画面の保存に加え、見ていた日時とアドレスも控える。
- 予約時の電話やメッセージのやり取り。通話であれば、日時と相手の名乗り、聞いた金額のメモ。
- 当日に示された料金表や説明の紙。撮影できるものは撮影する。
- 請求された金額と、その名目ごとの内訳。
- 支払いの記録。現金であれば領収書、カードであれば明細と加盟店の表示。
- 店名、所在地、連絡先、対応した人の名前や呼称。
なお、当日その場で相手を撮影することは、別の問題を生みます。残すのは料金表や書面、自分が受け取った説明の記録にとどめてください。
よくあるご質問
匿名のままでも申告できますか
窓口によって異なります。相談として匿名で受け付けられることもありますが、書面での申出のように、氏名や住所の記載が求められるものもあります。また、匿名のままでは事実の確認が進みにくく、結果として動きが鈍くなることがあります。名前を出す範囲をどこまでにするかは、目的と併せて決めることになります。
申告すれば、お金は戻ってきますか
行政の手続は、事業者に対する指導や処分のためのものであり、返金を命じるものではありません。申告は、店の営業のやり方に働きかける手段として位置づけ、返金は交渉や民事の手続で求めるという整理になります。
警察で「民事の話だ」と言われました
料金が高いか安いかは民事の問題として扱われます。一方で、その場から帰してもらえなかった、乱暴な言動を交えて取り立てられたといった事情は、別に評価されるものです。伝える順番を、料金の話からではなく、その場で何が行われたかから始めると、受け止められ方が変わることがあります。相談した事実と日時は記録しておいてください。
まとめ
- 返金と行政への申告は、担い手が別の手続として並行させる。
- 「高い」ではなく「事前の説明・表示と違う」という形に整えて伝える。
- 窓口ごとに動くものと動かないものがあり、返金を命じる窓口はない。
- 条例違反があっても、支払義務が当然に消えるわけではない。
- 期限のあるもの、特にカード払いの確認から先に動く。
- 申告を返金の条件として結び付けない。
- 自分の行為をめぐるトラブルが絡む場合は、窓口の前に弁護士へ相談する。
料金の食い違いは、その場では言い返しにくく、後から考えるほど納得がいかなくなる種類のトラブルです。時間が経つほど記録は失われ、選べる手段も減っていきます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店とのトラブルについてのご相談をお受けしています。どの窓口に何を伝えるか、返金をどう求めるかを、状況を伺ったうえで一緒に整理します。まずはお気軽にご相談ください。


