無許可メンエスを利用しただけで罪になる?客の立場を弁護士が解説
風俗店でのトラブルのあと、「あのとき認めてしまった」という一点が頭から離れなくなる方は少なくありません。店のスタッフに問い詰められてうなずいた、その場で謝ってしまった、警察で聞かれて話した、送られてきた書面にサインした。形はさまざまですが、共通しているのは「もう取り返しがつかないのではないか」という不安です。
この点について、インターネット上の説明は「あとから撤回できます」と「一度認めたらもう覆せません」という正反対の二種類に分かれています。どちらも実際の仕組みとは少しずれています。法律の世界で「撤回」という手続きが用意されている場面はかなり限られていて、多くの場面ではそもそも撤回という枠組み自体がありません。ただし、枠組みがないことと、できることが何もないことは別です。このコラムでは、その区別を順に整理します。
このコラムが扱う範囲
前提として、次の範囲で書いています。
- 成人同士のトラブルを想定しています
- 相手方が18歳未満である可能性がある場合は、別の法律が関わるため個別にご相談ください
- すでに逮捕されている、警察から呼び出しを受けているという段階の方は、記事を読むより先に個別の相談をご検討ください
- 店のルールに反する行為を勧める趣旨ではありません
- 事実と違う説明を組み立てる方法をお伝えするものでもありません。扱うのは、事実でないことが事実として固定されてしまうのを防ぐ方向の話です
罪が成立するかどうかの要件、店からの金銭請求に支払義務があるかどうか、示談交渉の進め方については、それぞれ別のコラムで扱っています。このコラムは「認めるという発言そのものが、その後どう扱われるか」に絞ります。
「認めた」という一語には四つの中身が混ざっている
まず切り分けたいのは、自分が何を認めたのかという点です。「認めてしまった」と感じている方の発言をほどいていくと、たいてい次の四つが混ざっています。
| 認めた中身 | よくある言い方 | 相手が受け取る意味 | 後で問題になりやすい場面 |
|---|---|---|---|
| ①事実 | 「してしまいました」 | その行為があったこと | 刑事の手続と金銭の請求の両方 |
| ②評価 | 「すみませんでした」 | 自分に落ち度があったこと | 請求の前提として引用される |
| ③責任 | 「自分が払います」 | 支払う立場だと認めたこと | 金銭の請求、時効の扱い |
| ④金額 | 「その額で結構です」 | 提示された金額への同意 | 示談書、清算の範囲 |
この四つは本来別の話です。ところが会話の中では一続きに流れていくため、①のつもりで言ったことが③まで含めて受け取られたり、②しか言っていないのに①も認めたことにされたりします。
「すみません」は事実を認めた言葉とは限らない
その場の空気に押されて出る「すみません」は、ほとんどの場合②です。相手を不快にさせたことへの反応であって、具体的な行為があったと述べたものではありません。ただし、聞いた側は①も含めて理解しますし、後に説明を求められたときに「謝っていた」という事実だけが残ります。
逆に、行為そのものは正直に述べた一方で、金額や支払義務については何も言っていない、という方も多くいます。この場合、認めているのは①だけで、③④はまだ何も動いていません。自分がどこまで言ったのかを整理することが、最初の作業になります。
誰に対して言ったのかで、扱いは変わる
次に効いてくるのが宛先です。同じ「やりました」という言葉でも、誰に向けたものかによって、その後の位置づけが変わります。
| 誰に対して言ったか | その発言の位置づけ | 取り消しの窓口 | 後で関わってくる場面 |
|---|---|---|---|
| 店のスタッフ・店長 | 相手の記憶や記録として残る | ない | 通報、金銭の請求 |
| 相手方のキャスト | 被害を訴える側の説明の一部になる | ない | 刑事の手続と金銭の請求 |
| 警察官・検察官 | 供述として書面にまとめられる | ない(訂正を求める手続は別にある) | 捜査、公判 |
| 店の代理人弁護士 | 交渉の経過として記録される | ない | 示談の交渉 |
| 誓約書・示談書などの書面 | 書面そのものが残る | ない(効力を争うという別の話になる) | 金銭の請求 |
表を見ていただくと分かるとおり、「取り消しの窓口」の列はすべて「ない」です。役所の届出のように、出せば発言がなかったことになる手続きは、どの宛先にも用意されていません。ただし、その理由は宛先ごとに違います。次の章で見ていきます。
「撤回」という手続きがあるのは、限られた場面だけ
裁判の中でした陳述には、撤回の制限がある
民事訴訟法179条は、裁判所において当事者が自白した事実は、証明することを要しないと定めています。訴訟の中で相手の主張と一致する事実を述べると、その事実については証拠による証明が不要になる、という仕組みです。
証明しなくてよいと決まった以上、相手はその点について証拠を集めるのをやめます。そこで後から自由に前言を翻せてしまうと、相手が不当に不利益を受けます。そのため、裁判上の自白の撤回には制限がかかると理解されています。撤回が認められるのは、判例・通説では大きく三つの場合です。相手方が同意したとき、刑事上罰すべき他人の行為によって自白するに至ったとき、そして自白した内容が真実に反し、かつ錯誤に基づいてされたときです。三つ目については、真実に反することが証明されれば錯誤に基づくものと推定される、という判例の考え方が示されています(最高裁昭和25年7月11日判決)。
裁判の外でした発言には、そもそも撤回の窓口がない
ここが最も誤解されやすいところです。上の話はあくまで訴訟の中でした陳述についてのものです。店のスタッフに言ったこと、キャストに言ったこと、警察の取調べで話したこと、LINEやメールで送った文章は、いずれも訴訟の外での発言です。
訴訟の外での発言には、撤回の制限がかからない代わりに、撤回という手続き自体が存在しません。それらは証拠のひとつとして残り続け、他の材料と一緒に評価されます。つまり問題は「取り消せるか」ではなく、その発言が、あとで出てくる他の材料や説明とどう噛み合うかという形に変わります。
「撤回できる」「もう覆せない」はどちらも足りない
「あとから撤回できる」という説明は、取り消しの手続きがあるかのように読めてしまう点で不正確です。一方で「一度認めたらもう覆せない」という説明も、実際とは違います。前の発言と違う説明をすること自体は禁じられていませんし、後から出てきた客観的な材料のほうが重く見られることもあります。
正確に言えば、前の発言は消えず、後の説明は可能で、両者の食い違いは食い違いとして評価される、ということです。だからこそ、次に何を言うかを整える前に、まず「自分がすでに何を言ったのか」を確定させる作業が要ります。
刑事の手続で「認めた」がどう扱われるか
条文の「自認」は日常語より狭い
刑事訴訟法319条3項は、同条1項2項にいう自白には「起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む」と定めています。条文の「自認」は、起訴された事件について有罪であることを認めることを指しており、日常語で言う「認めた」よりずっと狭い言葉です。
店の一室で「やりました」と言ったことは、この意味での自認ではありません。もっとも、だから軽いという話でもなく、供述や証拠のひとつとして扱われます。
認めた供述だけで結論が決まる仕組みにはなっていない
刑事訴訟法319条1項は、強制、拷問または脅迫による自白、不当に長く抑留または拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑いのある自白は、証拠とすることができないと定めています。
さらに同条2項は、公判廷における自白であるかどうかを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には有罪とされない、と定めています。憲法38条3項と対応する規定で、認めた供述のほかに何の材料もないという状態では有罪の認定に至らないという意味です。
ここは正確に受け取っていただきたいところで、「認めても大丈夫」という趣旨ではありません。実際の事件では、認めた供述以外の材料が集められるのが通常です。それでも、認めた一言だけで自動的に結論が決まる建て付けにはなっていない、という点は知っておいて損はありません。
説明が変わること自体が見られる
前に述べたことと違う説明をすると、その食い違いがなぜ生じたのかが問われます。事実に沿った説明に戻す場面であっても、経緯の説明は求められます。最初に何を言ったかを正確に把握しておくことが、ここでも土台になります。
なお、取調べで作成される調書について、内容の訂正を求める手続や署名押印の扱いは、それ自体でひとつのテーマになるため、別のコラムで扱っています。
お金の話で「認めた」がどう扱われるか
「払います」と言った場合
金銭の請求の場面では、支払う意思を示したこと自体に意味が出てくることがあります。民法152条1項は、権利の承認があったときは時効が更新される旨を定めています。「払います」と述べた、あるいは一部を実際に支払ったという事情が、この承認にあたると評価される可能性があります。
もっとも、認めたからといって、請求の中身がそれで固まるわけではありません。いくらの損害がどのように生じたのかは、請求する側が示す事柄です。この点は別のコラムで扱っています。
書面にサインした場合
誓約書や示談書に署名した場合、書面の性質によっては和解契約(民法695条)としての意味を持ち得ます。和解が成立した範囲については、後から争いを蒸し返しにくくなるのが一般的な理解です。
署名した書面の効力を争う余地があるかどうかは、書面の内容、署名に至る経緯、その場でどのような言動があったかによって変わります。錯誤や強迫といった主張が検討対象になる場面もありますが、これは個別の事情を見ないと判断できないため、ここで一般的な結論を書くことはできません。書面の写しを手元に確保しておくことが、その検討の入口になります。
認めてしまった後に、実際にできること
順序としては、次のようになります。
- いつ、どこで、誰に、どんな言葉で言ったかを、思い出せる範囲で書き出す。思い出せない部分は空欄のままにして、推測で埋めない
- やり取りが残っている媒体(LINE、メール、着信履歴、書面の写真)をそのまま保存する
- 署名した書面がある場合は、その写しを手元に置く。渡されていない場合は、その事実自体を記録しておく
- 追加の発言や書面を求められている場合は、その場で応じずいったん保留する
- 以後のやり取りの窓口を代理人に移すことを検討する
ここで目指しているのは、言ったことをなかったことにすることではなく、どこまで言ったのかをはっきりさせ、そこから先が自動的に広がらないようにすることです。
やらないほうがよいこと
- やり取りの記録を削除する。相手側にも同じ記録が残っていることが多く、消したこと自体が別の評価につながります
- 前の発言をなかったことにして、事実と異なる説明を組み立てる
- 記録が残っているにもかかわらず「そんなことは言っていない」と強く否定する
- 求められるままに、その場で追加の書面に署名する
- 相手方本人に直接連絡して、発言をなかったことにしてほしいと求める
最後の項目は特に注意が必要で、相手が被害を訴えている場面では、直接の接触そのものが別の問題として扱われることがあります。
限界のほうも書いておきます
このテーマでは、できることだけを並べると実態から離れます。次の点はそのまま受け止めていただく必要があります。
- 実際に起きた出来事は、発言の有無にかかわらず残ります
- 認めた発言がなくても、他の材料から同じ結論に至ることはあります
- 早く動いたからといって、望んだ結果が約束されるわけではありません
- 一方で、時間が経つほど、記録が消え、経緯を再現しにくくなるという方向の変化は起こります
相談の前に整理しておきたいこと
- 出来事の日時と場所、その日の流れを時系列で書き出す
- 「認めた」と感じている発言について、①事実、②評価、③責任、④金額のどれにあたるかを自分なりに仕分けてみる
- 署名した書面、受け取った書面、送受信したメッセージを一か所にまとめる
- 現在どこまで進んでいるか(店から連絡が来ている段階か、代理人が出てきているか、警察から連絡があったか)を把握する
仕分けが正確でなくても構いません。分からない部分を「分からない」と示していただくほうが、無理に整えた説明よりも役に立ちます。
まとめ
- 「認めた」の中身には、事実・評価・責任・金額という別々の話が混ざっている
- 「すみません」は評価についての言葉であって、事実を述べたものとは限らない
- 誰に対して言ったのかによって、その発言の位置づけは変わる
- 撤回に制限がかかるのは訴訟の中でした陳述の話で、訴訟の外の発言には撤回という手続き自体がない
- 問題は「取り消せるか」ではなく「他の材料とどう噛み合うか」という形になる
- 刑事の手続では、認めた供述だけが唯一の証拠という状態で有罪とされない旨の規定がある
- 金銭の話では、支払う意思を示したこと自体に意味が出る場面がある
- まずやることは、すでに何を言ったのかを確定させ、記録を保存し、以後のやり取りをいったん止めること
認めてしまったという一点で頭がいっぱいになると、その後の対応まで急ぎたくなります。実際には、急いで何かを言い足すよりも、いったん手を止めて現状を並べ直すほうが、選べる幅は広く残ります。ご自身の状況がどこにあたるか分からない段階でも、経緯を整理するところからご相談いただけます。


