【風俗トラブル】家族に知られた後の話し合い|夫婦の問題と店との問題を分ける

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

この記事は、2026年10月2日時点の民法、弁護士法、弁護士職務基本規程の規定に基づいて書いています。夫婦間の契約取消権を定めていた民法754条は、令和6年の民法改正(令和6年法律第33号)により削除され、2026年4月1日から施行されています。本文はこの改正を反映しています。


「妻に知られてしまい、店への支払いは『もう払って終わりにして』と言われている」「夫が店に直接電話をかけると言って聞かない」。風俗店の利用をめぐるトラブルが家族に知られた後のご相談では、こうした声を伺うことがあります。

 家族に知られた後の対応としては、配偶者に誠実に説明して謝ること、離婚や慰謝料の問題に備えることが挙げられるのが一般的で、それ自体は誤りではありません。ただ、実際のご相談では、夫婦の話し合いと店やキャストとの話し合いが一つに混ざってしまい、どちらも進めにくくなっている場面が少なくありません。

 この記事では、家族、とくに配偶者に知られた後の段階で、店との問題と夫婦の問題を分けて考えるための視点を整理します。知られる前の段階での工夫は既婚者が風俗トラブル|家庭への影響を抑える秘匿の実務で、風俗の利用が不貞行為にあたるかどうかの判断は後半で紹介する別の記事で、それぞれ扱っています。

家族に知られた後、二つの話し合いが同時に始まる

店との問題|相手は店やキャスト

 店との問題は、店やキャストから示談金や損害賠償を求められている、被害届を出すと言われているといった、利用した本人と店側との間の問題です。請求の根拠は店の規約や不法行為(民法709条)であり、刑事手続の見通しが絡むこともあります。

 この話し合いの当事者は、利用した本人と、店またはキャスト本人です。店の損害とキャスト個人の損害を分けて考える点については、誰に払うのか|店の損害とキャスト個人の損害は別で整理しています。

夫婦の問題|相手は配偶者

 夫婦の問題は、信頼をどう回復するか、家計をどうするか、場合によっては離婚や慰謝料をどう考えるかという、本人と配偶者の間の問題です。根拠となるのは婚姻に関する民法の規定で、店やキャストはこの話し合いの当事者ではありません。

 二つの問題を並べると、次のようになります。

項目店との問題夫婦の問題
話し合いの相手店・キャスト本人配偶者
主な中身示談金・損害賠償、被害届の扱い信頼の回復、家計、離婚や慰謝料
主な根拠店の規約、民法709条、刑事手続民法752条・762条・770条など
決着の形店・キャストとの合意書夫婦間の話し合い、協議・調停・訴訟
弁護士の立場本人の代理人として交渉する本人の相談相手。配偶者の代理人を兼ねることには制約がある


 同じ出来事から生じていても、相手方も、話し合う中身も、決着の形も異なる二つの問題として扱うことが出発点になります。

二つの問題が混ざると起きやすいこと

早く終わらせたい気持ちから、条件を確かめずに支払う

 配偶者に知られた直後は、「店のことを早く片付けて家庭の話に集中したい」という気持ちが強くなります。配偶者から「払って終わりにして」と言われることもあるでしょう。

 しかし、店からの請求は、根拠も金額も確かめられていないことが少なくありません。誰に、何の名目で、どこまでの清算として支払ったのかが曖昧なままだと、後から別の名目で請求が続く余地が残ります。急いだ支払いが、かえって夫婦の話し合いを長引かせる原因になることもあります。

配偶者が店やキャストに直接連絡する

 配偶者が怒りから店やキャストに直接連絡し、事情の説明や謝罪を求めたり、抗議したりすることがあります。配偶者は店との問題の当事者ではないため、そのやり取りで店との条件が決まるわけではありません。

 かえって、店側が配偶者の発言を記録して交渉の材料にしたり、キャストが不安を感じて被害届を考え始めたりするなど、話し合いが複雑になることがあります。本人以外が交渉に出ることの問題点は、【風俗トラブル】家族が代わりに交渉に出た|本人以外が動くことの是非で詳しく扱っています。

店との合意に夫婦のことを、夫婦の約束に店のことを持ち込む

 店との合意書に「配偶者も今後一切請求しない」といった一文を入れるよう求められることがあります。しかし、契約は原則として当事者の間でだけ効力をもつため、本人が配偶者に代わってそのような約束をしても、配偶者自身の権利を縛ることはできません。

 反対に、夫婦の間で「店に払う金額は配偶者が決める」といった約束をすると、店との交渉で柔軟に条件を調整しにくくなることがあります。一方の話し合いで、もう一方の当事者の権利や判断を決めようとしないことが、二つの問題を混ぜないための基本です。

店との問題を、夫婦の問題から切り離して進める

請求を受けているのは利用した本人

 店やキャストからの請求は、利用した本人に向けられたものです。夫婦の一方が日常の家事について負った債務については、他方も連帯して責任を負うとされていますが(民法761条)、風俗店の利用をめぐる示談金や損害賠償が日常の家事に関する債務にあたるとは通常考えられません。店が配偶者に支払いを求めてきた場合も、配偶者が応じる義務を負うものではないことを前提に対応を考えます。

 配偶者が支払いに協力する場合でも、合意書の当事者は本人と店・キャストとし、支払いが誰の債務についてのものかを明確にしておくと、後の夫婦の話し合いでも整理しやすくなります。

「家族に知らせる」という圧力が薄れた後の交渉

 知られる前の段階では、「家族に知らせる」という言葉が交渉に大きな影響を与えていることがあります。家族に知られた後は、この圧力は以前ほど働かなくなります。そのため、示談金の中に「知られないための対価」として上乗せされていた部分がないかを見直し、請求の根拠と金額を改めて確かめる機会になります。告知を持ち出した要求の違法性については、「家族と職場にバラす」と言われた|告知の中身別に見る違法性で整理しています。

 ただし、被害届や刑事手続の見通しは、家族に知られたかどうかとは別に動きます。家族に知られたことは請求の中身を見直すきっかけにはなっても、刑事の見通しを変えるものではないため、交渉そのものを打ち切ってよいことにはなりません。

口外禁止条項の例外に配偶者を書いておく

 店との合意書には、この件を第三者に話さないという口外禁止条項が入るのが一般的です。配偶者がすでに事情を知っている場合に条項をそのまま受け入れると、夫婦の話し合いで店との合意内容を説明すること自体が条項に触れるおそれがあります。

 配偶者への説明や、法律の専門家への相談を例外として明記しておくと、合意後の夫婦の話し合いを進めやすくなります。合意書に入れておきたい条項の全体は、風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで解説しています。

夫婦の問題を、店との問題から切り離して考える

夫婦の法律問題になるかどうかは別の物差しで判断される

 店との示談が成立しても、それで夫婦の問題が片付くわけではありません。反対に、店との示談がまだ成立していないことが、夫婦の問題で直ちに不利に働くわけでもありません。

 配偶者が離婚や慰謝料を求めるかどうか、それが認められるかどうかは、風俗の利用の態様や婚姻関係の状況など、夫婦の側の事情によって判断されます(民法770条1項)。この判断の考え方は、配偶者に発覚した場合の民事責任|風俗利用は不貞になるのかで取り上げています。

示談金をどこから支払うか

 夫婦の一方が婚姻前から有する財産や、婚姻中に自分の名で得た財産はその人の特有財産とされ、どちらに属するか明らかでない財産は夫婦の共有と推定されます(民法762条1項・2項)。

 共同の貯蓄から示談金を支払った場合、後に離婚が問題になると、財産分与(民法768条)の場面でその支出がどう扱われるかが論点になることがあります。どの口座から支払うかは配偶者と話し合ったうえで決め、支払いの記録を残しておくとよいでしょう。

夫婦の間で交わす約束と、2026年4月の民法改正

 知られた後、夫婦の間で誓約書や約束の書面を交わすことがあります。以前は、夫婦間の契約は婚姻中いつでも取り消すことができるとされていましたが(旧民法754条)、この規定は令和6年の民法改正で削除され、2026年4月1日から施行されています。

 そのため、夫婦の間で交わした約束も、通常の契約と同じように拘束力をもつことを前提に、内容を考える必要があります。もっとも、過大な違約金を定める内容や、身分関係にかかわる事項を一方的に約束させる内容は、公序良俗(民法90条)との関係で効力が問題になることがあります。

配偶者への説明と、弁護士との関わり方

説明した内容は夫婦の話し合いの材料にもなる

 配偶者に誠実に説明することは、信頼の回復に欠かせません。一方で、説明した内容や書いて渡した文書は、後に離婚や慰謝料が問題になった場合、夫婦の話し合いや手続の中で材料として扱われることがあります。

 事実と異なる説明をすることは避けるべきです。そのうえで、店との交渉中の事項(相手方の主張や金額の見通しなど)にはまだ確定していない部分があることを伝え、確定したことから順に説明していくという進め方が現実的です。

弁護士は依頼した本人の代理人

 店との交渉を弁護士に依頼すると、弁護士は本人の代理人として動きます。配偶者が相談に同席することもできますが、同席が与える影響については相談に家族や知人を同席させてよいか|同席が与える影響で整理しています。

 また、夫婦の問題で本人と配偶者の利益が対立する場面では、同じ弁護士が双方の立場に立つことには職務上の制約があります(弁護士職務基本規程27条・28条)。店との問題は本人の代理人として弁護士に任せ、夫婦の問題は夫婦の間で話し合い、必要に応じてそれぞれが専門家に相談する、という分担が考えられます。

よくあるご質問

配偶者が自分の貯金から店に支払うと言っています。任せてよいのでしょうか

 本人以外の人が債務を支払うこと自体は可能です(民法474条1項)。ただし、支払う金額や条件は、本人と店・キャストとの話し合いで決めるべき事項です。配偶者に支払いだけを担ってもらう場合でも、合意書や受領書には本人の債務の支払いであることを明記しておくと安心です。

 また、配偶者が出したお金が贈与なのか立替えなのかを夫婦の間で確認しておかないと、後の夫婦の話し合いで食い違いが生じることがあります。前述のとおり夫婦間の約束も拘束力をもつため、取り決めた内容は書面に残しておくとよいでしょう。

店との示談が成立すれば、配偶者からの慰謝料請求もなくなりますか

 なくなるわけではありません。店との合意書の清算条項は、合意の当事者である本人と店・キャストとの間の権利関係を整理するものです。配偶者は当事者ではないため、配偶者が本人に対してもつ請求はこの条項の影響を受けません。

 店との問題と夫婦の問題は、決着のタイミングも別々になることが多いと考えておくのが現実的です。

配偶者がキャストに慰謝料を請求すると言っています。どう考えればよいですか

 配偶者がキャストに請求するかどうかは、配偶者自身の判断に属する事柄です。請求が認められるかどうかは、関係の内容や店での接客という性質などによって左右され、一律には言えません。この点は【不貞慰謝料】風俗店・接客業での関係は不貞行為になるのかで扱っています。

 一方で、本人が同じキャストと示談交渉をしている最中に配偶者が直接連絡すると、交渉が止まったり、キャストの受け止め方が変わったりすることがあります。配偶者には、強い言葉での連絡がかえって別のトラブルを招くおそれがあることも含め、配偶者自身が専門家に相談したうえで動くよう伝えることが考えられます。

まとめ


  1. 家族に知られた後は、店・キャストとの問題と夫婦の問題を、相手方・中身・決着の形が異なる別の問題として扱う。
  2. 風俗の利用をめぐる示談金や損害賠償は、通常、日常の家事に関する債務にはあたらず、配偶者が連帯して責任を負うものではない(民法761条)。
  3. 店との合意で配偶者の権利を縛ることはできず、店との清算条項は配偶者自身の請求に影響しない。
  4. 家族に知られた後は請求の根拠と金額を見直す機会になるが、被害届や刑事手続の見通しは別に動く。
  5. 口外禁止条項には、配偶者への説明や専門家への相談を例外として明記しておく。
  6. 共同の貯蓄から支払う場合は、財産分与で扱いが論点になることがあるため、話し合いと記録を残す(民法762条・768条)。
  7. 夫婦間の契約取消権(旧民法754条)は2026年4月1日施行の改正で削除されており、夫婦の約束も拘束力を前提に内容を考える。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店やメンズエステなどの利用をめぐるトラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。家族に知られた後で、店との話し合いをどう進めればよいか分からなくなっている方のご相談にも対応しています。

店から請求を受けていて配偶者にも事情を知られてしまった方、配偶者が店と直接やり取りを始めてしまいそうな方は、二つの問題を切り分けて整理するところからお手伝いします。夫婦の側のご事情も伺ったうえで、店との交渉の進め方と矛盾しないよう方針を立てていきます。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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