店が用意した示談書にサインする危険性|宥恕条項・清算条項の落とし穴

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

 風俗店でいわゆる「本番トラブル」などが起きたとき、その場で店側から示談書を差し出され、「ここにサインすれば警察には言わない」と署名を求められることがあります。焦っているときほど、早く終わらせたい一心でサインしてしまいがちです。

 しかし、店側があらかじめ用意した示談書は、店に有利な内容になっていることが少なくありません。内容を十分に確認しないまま署名すると、お金を払ったのにトラブルが解決しない、あるいは後から蒸し返される、といった事態も起こり得ます。

 この記事では、店が用意した示談書にサインすることの危険性を、示談書の要となる「宥恕条項」と「清算条項」を中心に整理します。トラブルの渦中で冷静な判断をするための材料として役立てていただければと思います。

この記事のポイント

  • 店が用意した示談書は、店側に有利な内容に偏りがちである
  • 「清算条項」がないと、示談後に追加請求を受けるおそれがある
  • 「宥恕条項」がないと、示談金を払っても刑事事件化を防げない可能性がある
  • 店と示談しても、被害者本人(キャスト)との示談が別途必要になる場合がある
  • その場で署名・支払いをせず、弁護士に相談してから対応するのが安全

そもそも「示談書」とは何か

 示談書とは、当事者同士が話し合いで争いを解決し、その合意内容を書面にしたものです。刑事事件が絡む場面では、示談書は次の2つの意味を持ちます。

  • 民事の側面:損害賠償や慰謝料をいくら払い、それ以上は請求しないという金銭的な清算
  • 刑事の側面:被害者が加害者を許し、刑事処罰を望まないという意思の表明

 示談書は契約の一種であり、一度成立すると、双方の合意がなければ原則としてやり直しはできません。だからこそ、署名する前に内容を正確に理解しておくことが重要になります。

 そして、この「民事」「刑事」の両面をきちんとカバーするための条項が、後述する清算条項と宥恕条項です。店が用意した示談書では、このどちらか(あるいは両方)が欠けていたり、こちらに不利な形になっていたりすることがあります。

なぜ「店が用意した示談書」は注意が必要なのか

理由1:内容が店側に有利になりやすい

 風俗店は、この種のトラブルに慣れているため、示談書のひな型をあらかじめ持っていることがあります。しかし、その書面はあくまで店側の立場で作られたものです。金額の設定、支払い条件、記載された「事実」などが、利用者にとって不利な内容になっていても不思議ではありません。

理由2:示談の相手が「被害者本人」とは限らない

 見落とされがちですが、本来、示談は被害を受けた本人と結ぶものです。本番トラブルなどで想定される被害者は、実際に接客したキャスト(女性従業員)本人です。

 ところが、店が用意した示談書は「店」との間で交わす形になっていることがあります。この場合、たとえ店と合意しても、被害者本人との間で示談が成立していなければ、本人が改めて被害を訴えたり、刑事処罰を求めたりすることを妨げられない可能性があります。「店に払って解決したはずなのに、後から本人(や別ルート)から請求が来た」という事態が起こり得るのは、このためです。

理由3:個人情報を渡すリスク

 示談書には、氏名・住所・連絡先などを記載するのが一般的です。相手が信頼できる窓口かどうか分からない段階で、その場の勢いでこれらを書き込むと、個人情報が意図しない形で利用されるおそれがあります。身分証のコピーを求められるケースも同様です。

落とし穴①:清算条項がない ―― 払っても蒸し返される

清算条項とは

 清算条項とは、**「この示談で定めた以外に、お互い一切の債権・債務がないことを確認する」**という趣旨の条項です。かみ砕けば、「この示談で決めた金額以上のお金は、今後もう請求しません」という約束です。

清算条項がないとどうなるか

 店が用意した示談書にこの条項が抜けていると、示談金を払った後になって、次のような追加請求を受けるおそれが残ります。

  • 「動画の削除費用が別途かかる」などと、名目を変えた請求
  • 「精神的苦痛の慰謝料」として、キャスト本人からの別途請求
  • 一度払った後に、繰り返し金銭を求められる

 清算条項は、「これで終わり」という区切りを法的に確定させるための条項です。これがない示談書は、いくら金額を払っても、トラブルの「終わり」が担保されていない状態だといえます。

落とし穴②:宥恕条項がない ―― 刑事リスクが消えない

宥恕条項とは

 宥恕(ゆうじょ)とは「許す」という意味です。宥恕条項とは、**「被害者が加害者を許し、刑事処罰を求めない」**という被害者の意思を示す条項です。

 刑事事件では、この「被害者が処罰を望んでいない」という事実が、検察官の処分(起訴するか・不起訴にするか)や、逮捕を避けられるかどうかの判断に影響します。宥恕条項付きの示談が成立していれば、前科がつく事態を回避できる可能性が高まります。

宥恕条項がないとどうなるか

 店が用意した示談書が「お金の清算」だけで、宥恕(=刑事処罰を求めない意思)に触れていない場合、示談金を払ったにもかかわらず、後から被害届が出され、刑事事件として動き出すというリスクが残ります。

 「サインすれば警察には言わない」と口頭で言われても、書面にその趣旨が明記されていなければ、後で「そんな約束はしていない」と言われかねません。口約束ではなく、宥恕の意思が書面に残っているかを確認することが大切です。

落とし穴③:事実と異なる不利な内容が書かれている

 店が用意した示談書には、こちらに不利な「事実」が、あらかじめ書き込まれていることがあります。たとえば、実際は合意のうえでの行為だったにもかかわらず、「無理やり本番行為に及んだ」といった、事実と異なる経緯が記載されているケースです。

 このような文面に署名すると、その示談書が、あたかも自分の非を全面的に認めた証拠のように扱われかねません。合意なく本番行為をしたと認定されれば、不同意性交等罪という重い罪に問われる可能性が出てきます(法定刑は5年以上の拘禁刑)。

 一方で、その場で店側と口論したり、逆上して事実関係を強く争ったりするのも得策ではありません。署名も反論も急がず、事実確認は落ち着いた場で行うという姿勢が安全です。

落とし穴④:金額・支払い条件が不当

 その場で提示される金額が、相場からかけ離れて高額なこともあります。あまりに高額な請求は、事案によっては公序良俗に反するなどとして、支払い義務が認められない場合もあります。「掲示してあった」「事前に説明した」という理由だけで、高額な金額に必ず応じなければならないわけではありません。

 また、以下のような請求の仕方は、それ自体が問題となり得ます。

  • 執拗に金銭を求める(恐喝にあたる可能性)
  • 長時間その場に引き止める(監禁にあたる可能性)
  • 家族や勤務先へ連絡すると迫る(脅迫や名誉毀損にあたる可能性)

 その場の圧力に負けて金額や支払い条件を確定させてしまう前に、いったん立ち止まることが重要です。

その場で示談書を出されたときの対処法

 トラブルの現場でパニックにならないために、対応の原則を整理しておきます。

 1. その場で署名・押印しない
 「内容を確認し、相談してから返答します」と冷静に伝えましょう。急かされても、その場で結論を出す必要はありません。

 2. その場でお金を払わない
 一度支払うと、追加請求の呼び水になることがあります。「今すぐ払えば通報しない」と言われても、応じる前に立ち止まりましょう。

 3. その場から逃げ出さない
 黙って立ち去ると、かえって事態を悪化させることがあります。連絡先の交換など最低限の対応にとどめ、落ち着いて退出できる状況を作ります。

 4. 事実と異なる文面には同意しない
 経緯に事実と違う記載があれば、その点は認めない姿勢を保ちます。ただし、その場で激しく争う必要はありません。

 5. できるだけ早く弁護士に相談する
 署名前に相談できれば、選択肢は最も多く残ります。判断に迷う段階でこそ、専門家の視点が役立ちます。

すでに署名してしまった後でもできること

 「もうサインしてしまった」という場合でも、あきらめる必要はありません。内容に不備のある示談を、あらためて適切な内容で結び直せる可能性があります。

 ただし、いったん自分が署名した示談について「あの内容は不適切だった」と後から自力で主張するのは、簡単ではありません。適切な条件でトラブルを終わらせるためには、早い段階で弁護士に相談し、交渉を任せることが現実的な選択肢になります。

 弁護士が代理人として入る場合、店・キャスト本人を含めた当事者間で交渉し、宥恕条項と清算条項を漏れなく盛り込んだ示談書を作成したうえで解決を図ります。これにより、刑事・民事の両面でトラブルを終局的に区切ることを目指します。

若井綜合法律事務所の解決事例

 当事務所では、風俗店での本番トラブルに関するご相談・ご依頼を数多くお受けしてきました。以下は、当事務所が実際に取り扱った事案の一例です(プライバシーに配慮し、内容を一般化してご紹介します)。

 事例:風俗店での本番行為をめぐり通報されたケース
 酔った状態で風俗店を利用し、禁止されていた本番行為に及んだとして、警察に通報された事案。当事務所が速やかに介入し、被害者本人と店舗の双方との間で示談を成立させたことで、逮捕・起訴を回避することができた。

 この事例のポイントは、「店」だけでなく「被害者本人」との間でも示談を成立させた点にあります。前述のとおり、店との合意だけでは刑事リスクが残る場合があるため、当事者を正しく見極めて交渉することが、トラブルを確実に終わらせる鍵になります。

まとめ

 店が用意した示談書は、内容を確認しないまま署名すると、次のような落とし穴にはまるおそれがあります。

  • 清算条項がない → 払った後に追加請求を受けるおそれ
  • 宥恕条項がない → 払っても刑事事件化を防げないおそれ
  • 事実と異なる記載 → 不利な認定につながるおそれ
  • 相手が被害者本人でない → 本人からの請求・被害申告が残るおそれ

 風俗店でのトラブルは、早い段階で弁護士に相談することで、ご家族や勤務先に知られることなく解決できる可能性が高まります。「サインを迫られている」「高額な金銭を請求されている」といった状況でお困りの際は、署名や支払いをする前に、まずはご相談ください。

 若井綜合法律事務所では、風俗トラブルのご相談を24時間受け付けています。落ち着いて対応するための第一歩として、ご活用ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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