録音はどこまで証拠になるか|風俗トラブルでの残し方
この記事は、2026年10月13日時点の法令にもとづいて作成しています。刑法の性犯罪規定は令和5年7月13日施行の改正後のもの(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪)、刑罰は令和7年6月1日から導入された拘禁刑の表記によっています。
「利用した翌朝、店から『女の子が痛がっているので、今日病院に行って診断書を取る』と電話があった」「『診断書が出たら金額の話も変わってくる』と言われ、そのまま電話を切られた」。風俗店の利用後に、こうした連絡を受けて不安になったというご相談が寄せられています。一方で、「強く触れた覚えはないのに、けがをしたと言われた」「本当に病院に行ったのかも分からない」と、言われた内容そのものに納得がいかないというご相談も少なくありません。
診断書は怪我の証拠になる、診断書が出ると刑事事件になりやすい、という説明は、それ自体は誤りではありません。ただ、「診断書を取る」という言葉を受け取った段階では、まだ診断書が実際に作られたかどうかも、それが警察に出されるかどうかも決まっていないことが多く、この時点で何をし、何をしないかが、その後の流れに影響することがあります。
この記事では、店やキャストから「病院で診断書を取る」と言われた客側の立場から、その言葉が刑事と請求の両面で何を意味し、診断書が出る前の時間に何ができるのかを整理します。すでに診断書を示されて請求を受けている場合は【風俗トラブル】キャストの診断書を見せられた|怪我や体調不良を理由にした請求、診断書の記載の読み方はケガをさせたと主張された場合|致傷の主張と診断書の読み方で扱っています。
「診断書を取る」と言われたとき、何が起きているのか
診断書は、医師が診察の結果を記す書面
診断書は、医師が患者を診察したうえで、傷病名や症状、治療に要する見込み期間などを記す書面です。診察をした医師は、診断書の交付を求められた場合、正当な事由がなければ拒んではならないとされています(医師法19条2項)。受診した人が求めれば作成されるのが通常であり、診断書を取ること自体は特別な手続ではありません。
また、どのような経緯でけがをしたのかという点は、受診した人の説明をもとに記載されることが一般的です。診断書は医師の医学的な所見を示すものであり、誰がどのような行為をしたのかを医師が確認した書面ではないという点は、この問題を考えるうえでの出発点になります。
診断書を取ることと、事件になることは別の段階
「診断書を取る」と言われると、それだけで刑事事件が始まったように感じるかもしれません。しかし、刑事事件として扱われるかどうかは、キャストが警察に相談し、被害届を出すかどうか、警察がそれを受けて捜査を進めるかどうかによって決まります。診断書が作られても、それが警察に出されなければ、それだけで捜査が始まるわけではありません。
一方で、診断書は、警察に被害を申告する際に添えられることの多い資料です。キャストが受診した後に警察に相談するという流れも見られるため、「まだ診断書の段階だから心配はない」とも言い切れません。被害届が出る場合と出ない場合の分かれ目については、被害届が出る場合と出ない場合|キャスト・店の判断で何が変わるかで詳しく扱っています。
店やキャストがこの言葉を使う場面
ご相談の中で「診断書を取る」という言葉が出てくるのは、次のような場面が多くみられます。
- プレイ中や終了後に、キャストが「痛い」と訴えていた。
- 本番行為があった、あるいはあったと主張され、検査や受診をすると告げられた。
- 店のスタッフから、示談金や「罰金」の話と合わせて受診の予定を伝えられた。
- 性感染症や妊娠の可能性を理由に、検査を受けると言われた。
- その場では何も言われず、後日になって店から受診の報告があった。
キャストが実際に体の不調を感じて受診することもあれば、交渉の中で請求の根拠として持ち出されることもあります。どちらの場合でも、言葉を受け取った側がその場で判断を急ぐ必要はありません。
刑事の面|診断書が持つ意味
けがの有無と程度を示す客観的な資料になる
性的な行為をめぐる事件では、当事者の説明が食い違うことが少なくありません。その中で、医師による診察の記録は、けがの有無や部位、程度を示す客観的な資料として扱われます。受診が行為の直後であるほど、その時点の体の状態を示すものとして重視されやすいといえます。
警察に届け出た性犯罪の被害については、初診料や診断書料、検査の費用などを公費で負担する制度が各都道府県警察に設けられています。キャストにとって、受診や診断書の取得が費用の面で大きな負担になりにくい仕組みがあることも、知っておいてよい点です。
診断書だけで「誰が・どのように」まで決まるわけではない
他方で、診断書に記載されたけががあることと、そのけがが客の行為によって生じたことは、別々に確かめられるべき事柄です。受診までに日数が空いている場合や、その間に別の仕事や出来事があった場合には、けがとの因果関係が問題になることがあります。
また、性的な行為の場面では、けががないことが同意があったことの裏付けになるわけではなく、反対に、けががあることが同意がなかったことを直ちに示すわけでもありません。診断書は判断の材料の一つであり、行為の内容や同意の有無は、当日のやり取りや前後の状況とあわせて判断されることになります。
「致傷」と評価されると罪の重さが変わる
診断書が刑事の面で特に意味を持つのは、行為によってけがをさせたと評価されると、問題になる罪名と法定刑が変わる点です。同意のない性交等やわいせつな行為によって相手を負傷させた場合には、それぞれ致傷罪が検討されます(刑法181条)。主な罪名を整理すると、次のとおりです。
| 主な行為の内容 | 検討される罪 | 法定刑 | 公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 同意のない性交等 | 不同意性交等罪(刑法177条) | 5年以上の有期拘禁刑 | 15年 |
| 同意のない性交等で負傷させた | 不同意性交等致傷罪(刑法181条2項) | 無期または6年以上の拘禁刑 | 20年 |
| 同意のないわいせつな行為 | 不同意わいせつ罪(刑法176条) | 6月以上10年以下の拘禁刑 | 12年 |
| 同意のないわいせつな行為で負傷させた | 不同意わいせつ致傷罪(刑法181条1項) | 無期または3年以上の拘禁刑 | 20年 |
| 性的な行為とは別に、乱暴に扱って負傷させた | 傷害罪(刑法204条) | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 10年 |
公訴時効は刑事訴訟法250条によります。どの程度のけがであれば「傷害」にあたるかは、症状の内容や治療の期間などから判断され、ごく軽微なものが常に傷害と評価されるわけではありません。精神的な不調についても、医学的な診断の内容によっては傷害にあたるとした最高裁の判断があります(最高裁平成24年7月24日決定)。傷害の範囲の考え方はけがを負わせた場合|不同意わいせつ致傷の「傷害」の範囲、診断書が後から出てきて罪名が切り替わる場面はあとから診断書が出てきた|暴行が傷害に切り替わる場面と対応で扱っています。
請求の面|診断書が持つ意味
治療費・検査費・休業損害の根拠として示される
キャストが受診した場合、治療費や検査費、仕事を休んだ期間の収入について、損害賠償として支払いを求められることがあります(民法709条)。このとき、診断書や領収書は、損害が実際に生じたことを示す資料として提示されます。
ただし、損害として認められるのは、問題とされた行為との間に相当な因果関係がある範囲に限られます。検査の内容が行為と関係のないものであったり、休業の期間が診断書の内容と合っていなかったりする場合には、請求の全額がそのまま認められるとは限りません。請求項目ごとの考え方は、治療費・検査費・休業損害は認められるのか|請求項目別の検討で整理しています。
「診断書が出たら金額が変わる」と言われたとき
店のスタッフから、「今払えば済むが、診断書が出たら金額が上がる」「警察に行くかどうかは診断書次第だ」といった形で、支払いを急ぐよう促されることがあります。けがの程度によって損害の額が変わること自体はありうることですが、診断書がまだ作られていない段階では、どの程度のけがなのかも、何に対していくら支払うのかも、確かめようがありません。
根拠となる資料が出ていない段階で金額を決めて支払うと、後から診断書を理由に追加の請求を受けたときに、前の支払いが何に対するものだったのかが曖昧になりやすいという点にも注意が必要です。その場での即時払いを求められたときの考え方は、【風俗トラブル】「今すぐ払えばこの場で終わる」と言われた|即時払いを求められたときの判断で扱っています。
「診断書を取る」と言われた直後にしておきたいこと
その場で認める書面に署名せず、金額を決めない
受診の話と合わせて、示談書や誓約書、念書への署名を求められることがあります。こうした書面には、事実を全面的に認める文言や、「今後発生する治療費・検査費をすべて負担する」といった範囲の定まらない条項が入っていることがあり、署名した後で効力を争うのは容易ではありません。
謝罪の気持ちを伝えること自体は問題ありませんが、事実関係や金額について、その場で相手の示す内容どおりに約束する必要はありません。店が用意した書面の問題点は、店が用意した示談書にサインする危険性|宥恕条項・清算条項の落とし穴をご覧ください。
自分の側の記録を、記憶が新しいうちに残す
診断書はキャストの側の資料です。これに対して、客の側でもできるだけ早く次のような記録を残しておくことが、後で事実を整理するときに役立ちます。
- 予約から退室までの時刻と、行為の流れを時系列で書き出したメモ。
- キャストが痛みや拒否を口にした時点があったか、そのとき自分がどうしたか。
- 予約の記録、店とのメッセージ、利用したホテルの領収書などの客観的な資料。
- 店やキャストから受けた連絡の日時と内容、受診について告げられた言葉。
- 自分の体にできた傷やあざなど、当日の状況をうかがわせるもの。
記録は、自分に有利な点だけでなく、思い当たる点も含めてありのままに残しておくことが大切です。都合のよい部分だけを書き出した記録は、後で事実を説明する際の助けになりにくいためです。
キャストに直接連絡して受診や届出をやめるよう頼まない
「病院には行かないでほしい」「診断書を出さないでほしい」とキャスト本人に直接連絡したくなる方もいます。しかし、こうした連絡は、相手から見れば圧力として受け止められることがあり、その後の交渉を難しくするだけでなく、事件になった場合には、証拠に働きかけようとしたものとして不利に扱われるおそれもあります。
キャストの連絡先を知っている場合でも、直接のやり取りは控え、連絡は店や弁護士を通じて行うことが望ましいといえます。店から「警察に行く」と告げられた後の過ごし方については、【風俗トラブル】店から「警察に行く」と言われた翌日にすること|被害届が出る前の時間でも扱っています。
診断書が出る前に弁護士に相談する意味
診断書がまだ作られていない段階で弁護士が窓口になると、受診の有無や診断の内容を店側に確認し、示された資料にもとづいて請求の範囲を整理することができます。キャスト本人を当事者に含めた示談を早い段階で検討できれば、刑事手続に進む前に解決の道筋をつけられることもあります。
もっとも、すでに警察が捜査を始めている場合には、示談が成立しても、それだけで手続が終わるとは限りません。この点は示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由で扱っています。
けがに心当たりがない・行為の内容に争いがあるとき
認める部分と争う部分を分けて整理する
強く触れた覚えがない、本番行為はしていない、といった場合には、相手の主張のうち何を認め、何を争うのかを分けて整理することが出発点になります。けがの存在は争わないが、それが自分の行為によるものではないと考える場合と、行為の内容そのものに争いがある場合とでは、確認すべき事柄が異なります。
身に覚えのないけがを主張された場合の考え方は、【風俗トラブル】キャストに怪我をさせたと言われたが身に覚えがないで詳しく扱っています。
診断書の日付と内容を確かめる
後日、診断書を示された場合には、受診した日と作成された日、傷病名と部位、治療の見込み期間、受傷の経緯がどのように書かれているかを確認します。行為の日から受診までに日数が空いている場合や、記載された部位が問題とされた行為と結びつかない場合には、その点が整理の手がかりになることがあります。
ただ、こうした点を客が自分で指摘すると、相手の反発を招いて話し合いがこじれることもあります。診断書の内容に疑問がある場合でも、その疑問を誰がどのように伝えるかまで含めて考えることが、結果として解決を早めることにつながります。キャストの怪我の主張に対して、店舗との合意書を結んで解決に至った例として、【解決事例】デリヘル利用後にキャストの怪我を主張された男性が、店舗との合意書締結で解決した事例もご参照ください。
よくあるご質問
「診断書を取る」と言われてから何日も連絡がありません。このまま終わったと考えてよいですか。
連絡が途絶えたことだけで、問題が終わったとは言い切れません。キャストが受診した後、時間をおいて警察に相談することもありますし、店が対応を検討しているだけということもあります。不同意性交等罪の公訴時効は15年とされており、時間の経過によって問題にされなくなるとは限りません。連絡がない間に、ご自身の記録を整理し、弁護士に相談して見通しを確認しておくことができます。キャストが警察に相談したと伝えられた場合の確かめ方は、【風俗トラブル】キャストが警察に相談したと聞かされた|本当かどうか確かめる方法はあるかで扱っています。
店に診断書のコピーを見せてほしいと頼んでもよいですか。
けがや受診を理由に金銭を求められている場合、その根拠となる資料を確認したいと伝えること自体は不自然なことではありません。ただし、店やキャストには提示に応じる義務があるわけではなく、氏名や住所など個人情報の扱いの問題もあるため、伏せた形での提示になることや、提示自体を断られることもあります。示し方や確認の範囲は、弁護士を通じて調整するほうが、双方にとって受け入れやすい形をとりやすいといえます。
性病の検査を受けるので、結果が出るまで待つように言われました。
性感染症の検査は、結果が出るまでに日数がかかることがあり、その間に請求の話が進まないまま時間が過ぎることもあります。検査の結果が陽性であったとしても、感染の時期や経路はそれだけでは特定できないことが多く、すぐに支払いの責任が決まるわけではありません。検査結果の扱いと請求への向き合い方は、【風俗トラブル】性病をうつしたと言われた|検査結果の扱いと請求への向き合い方で詳しく扱っています。
まとめ
- 診断書は医師が診察の結果を記す書面であり、受診した人が求めれば通常は作成される(医師法19条2項)。
- 診断書を取ることと刑事事件になることは別の段階であり、事件化するかは被害届の提出や警察の判断によって決まる。
- 診断書はけがの有無や程度を示す客観的な資料になるが、誰がどのような行為をしたかまでを示すものではない。
- 同意のない性交等やわいせつな行為で負傷させたと評価されると、致傷罪として法定刑が重くなる(刑法181条)。
- 治療費・検査費・休業損害の請求は、行為との間に相当な因果関係がある範囲で認められる(民法709条)。
- 診断書が出る前の段階で、事実を認める書面への署名や金額の決定、キャストへの直接連絡は避けることが望ましい。
- 不同意性交等罪の公訴時効は15年、致傷罪は20年とされており、連絡が途絶えても問題が終わったとは限らない(刑事訴訟法250条3項)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。店やキャストから「病院で診断書を取る」と告げられた方、診断書を理由に金銭を求められている方、ご自身の認識と違う内容で書面への署名を求められている方は、お一人で判断する前にご相談ください。
弁護士が窓口となって、受診や診断の内容を確認しながら、請求の面と刑事の面の両方を見通したうえで、キャスト本人と店のそれぞれに何をどこまで約束するのかを整理し、対応の方針をご提案します。


