けがを負わせた場合|不同意わいせつ致傷の「傷害」の範囲

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

わいせつな行為をめぐる事件で、相手にけがの結果が生じていると、罪名が不同意わいせつ罪ではなく不同意わいせつ致傷罪として扱われることがあります。刑法181条1項に定められた罪で、けがの重さによって刑の枠が分かれていないことが特徴です。

そのため、この罪では「けががどれくらい重いか」よりも先に、「そもそも刑法上の傷害といえるか」という点が、当てはまる条文の枠を決めることになります。ところが、この境目を正面から説明した情報は多くありません。

この記事では、181条1項の「傷害」がどこまでを指すのかという一点に絞って整理します。同意に関する要件の読み方や、わいせつな行為といえるかどうかの判断は別の問題として、ここでは結果の側だけを見ていきます。

「けがを負わせた」と言われる場面


相談の場面では、次のような形でけがの話が出てきます。

・相手を押さえたり振りほどいたりした際に、擦り傷やあざができたと言われた
・その場では何も言われなかったが、後日、診断書が出されていると聞かされた
・その場から離れようとしたときに相手が転倒し、けがをしたと言われている
・行為そのものではなく、その前後のもみ合いでけがが生じたと説明されている
・外からわかるけがはないが、体調を崩したと言われている
・相手が病院を受診したことは聞いているが、傷病名や診断の内容までは知らない

どの場面でも、共通して問題になるのは、その結果が刑法上の「傷害」と評価されるかどうかです。

条文が求めているもの


刑法181条1項は、176条の罪もしくは179条1項の罪、またはこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者を、無期または3年以上の拘禁刑に処すると定めています。

条文の作りからは、三つのことが読み取れます。第一に、わいせつな行為が既遂に至っていない場合でも、けがの結果が生じていればこの罪の対象になり得ます。第二に、けがをさせる意図までは求められていません。第三に、生じた結果と、わいせつな行為またはその手段との間に、つながりがあることが必要です。

このうち第一と第二については、条文の文言から比較的はっきりしています。実際の事件で争いになりやすいのは、結果そのものが「傷害」といえるかどうかと、そのつながりの有無です。

けがの重さで刑の枠が分かれていない


不同意わいせつ致傷罪には、けがの程度に応じた区分がありません。参考として、周辺の条文と並べると次のようになります。

罪名条文刑の範囲
不同意わいせつ罪刑法176条1項6月以上10年以下の拘禁刑
不同意わいせつ致傷罪刑法181条1項無期又は3年以上の拘禁刑
傷害罪刑法204条15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金


けがの重さで刑の枠が区分されていないため、傷害といえるかどうかという一点だけで、当てはまる条文の枠が大きく動くことになります。この罪で「傷害」の意味が繰り返し争われてきたのは、そのためです。

「傷害」の意味は傷害罪と同じに読まれている


刑法には「傷害」の定義規定がありません。判例は、人の生理的な機能に障がいを与えること、言いかえれば健康状態を不良に変更することを傷害として扱ってきました。

では、181条の傷害は、傷害罪の傷害よりも重いものに限られるのでしょうか。刑の重さを考えると、そう読むべきだという見解も学説にはあります。しかし最高裁は、昭和38年6月25日の決定で、軽微な傷でも人の健康状態に不良の変更を加えたものである以上は刑法にいう傷害に当たり、181条の傷害を204条の傷害と別に解釈すべき特段の事由はないと判断しました。

つまり、傷害罪で傷害と認められる程度のものであれば、致傷罪の傷害としても扱われるのが判例の立場です。

軽いけがでも傷害とされてきた


この立場のもとで、かなり軽い結果についても傷害と認められてきました。裁判例には、塗り薬を一度つけただけでその後は痛みを感じずに治った程度のものについて致傷罪の成立を認めたもの、放っておいても治る程度の傷であっても健康状態に不良の変更を加えたものだとしたもの、全治3日程度の擦過傷について、社会通念上、傷害とはいえないほど軽いものとは認められないとしたものがあります。

先に触れた昭和38年の決定も、加療約1週間を要する顔面の打撲傷などが問題になった事案でした。

「軽いけがだから致傷にはならない」という説明は、この流れとは一致しません。診断書に短い加療日数が書かれていても、それだけで傷害に当たらないという結論にはつながらないのが実務の出発点です。

それでも線が引かれた裁判例がある


もっとも、下級審には、致傷罪の成立を否定した裁判例もあります。

治療約2日を要するとされた掻き傷について、ごく軽微な創傷で健康状態にほとんど障がいを与えない場合は傷害とみるには足りず、暴行と考えるべきだとしたもの。治療約3日を要するとされた擦過傷について、一般の日常生活において見過ごされる程度の軽微な損傷であり、生理的機能に障がいを生じさせたとも健康状態を不良に変更したともいえないとしたもの。加療約1週間を要するとされた裂創について、医学上の創傷とはいえても刑法上の傷害には当たらないとしたもの。軽い上皮の剥離について、法定刑の重さからいっても、格別の治療を必要とせず数日のうちに自然に治る程度の損傷はここでいう傷害には当たらないとしたものなどです。

判例が傷害の意味を傷害罪と同じに読むという建前と、実際の事件で結果の軽さが争点になり得るという現実は、両立しています。実務でも、けがの程度によっては致傷ではなく不同意わいせつ罪として扱われることがあります。

否定された事案で重く見られていた事情


成立を否定した裁判例の判示には、共通して挙げられている事情があります。

見られている点否定された事案で述べられていた事情
本人の自覚傷の存在に気づいていなかった
痛みの訴え診察の際に痛みを訴えていなかった
治療の有無手当も消毒もされていなかった
治り方数日のうちに自然に治っていた
診断書の記載加療日数や全治日数の記載がなかった


これらは、いずれも診断書と受診の経過に表れる事情です。逆にいえば、痛みの訴えがあったこと、消毒や処置が行われたこと、加療日数が記載されていることは、傷害と評価される方向に働きます。

外から見えるけがに限られない


傷害は、目に見える傷に限られません。裁判例には、わいせつな行為によって被害を受けた側が急性ストレス反応やパニック障害を発症した事案について、国際的な診断基準に基づく診断であることや症状が一定期間続いたことを踏まえて、傷害に当たると認めたものがあります。

ただし、精神的な不調があればすべて傷害になるわけではありません。最高裁は、一時的な精神的苦痛やストレスを感じたという程度にとどまらず、診断基準が求める特徴的な症状が継続して現れていることなどを踏まえて判断しています。診断書があるかどうかだけでなく、そこに何が記載されているかが問われます。

けががわいせつな行為から生じたといえるか


結果が傷害と評価されるとしても、それがわいせつな行為と結びついていなければ、この罪にはなりません。

判例は、けがの原因を、わいせつな行為そのもの、その手段として加えられた行為に限らず、その機会に行われた行為から生じた場合も含めて考えています。たとえば、その場から逃れようとした相手が転倒したり、地面のものでけがをしたりした事案や、行為の後に腕をつかまれ、それを強く振り払った際にけがをさせた事案でも、致傷罪の成立が認められています。

「自分が直接けがをさせたわけではない」という説明が、そのまま結論につながるとは限らないのは、この点によります。

つながりが認められない場合


一方で、けがが別の原因によるもので、わいせつな行為との結びつきが認められない場合には、この罪は成立しません。

その場合でも結果が消えるわけではなく、不同意わいせつ罪と傷害罪という二つの罪として扱われる可能性があります。一つの罪として181条の枠で処理されるのか、二つの罪として併合罪の枠で処理されるのかによって、刑の枠の作られ方が変わります。どちらが有利かを一般論で決めることはできませんが、争点の置き場所は変わってきます。

「けがをさせるつもりはなかった」はどこで効くのか


先に触れたとおり、この罪はけがをさせる意図を求めていません。そのため、「そんなつもりはなかった」という説明は、罪の成立そのものを否定する主張としては働きにくいところがあります。

もっとも、その説明が無意味なわけではありません。どのような動きの中で結果が生じたのかは、けがとの結びつきの判断にも、量刑の判断にも関わります。取調べで供述調書が作られる場面では、行為の順序や力の入れ方が言葉として固定されます。調書は読み聞かせを受けたうえで内容の訂正を申し立てることができるため、記載が自分の記憶と違う場合は、その場で申し出ることが考えられます。

罪名が動くと手続も動く


不同意わいせつ致傷罪には無期の拘禁刑が含まれているため、起訴された場合は裁判員が参加する裁判の対象になります。この場合、第1回の公判期日の前に公判前整理手続を行うことが法律上必要とされており、審理の準備に一定の期間がかかります。

公訴時効も変わります。不同意わいせつ罪の公訴時効が12年であるのに対し、負傷の結果がある場合は20年とされています。また、被害を受けた側が犯罪行為の終わった時点で18歳未満だった場合には、18歳に達する日までの期間が加算されます。

けがの評価は、処分の重さだけでなく、審理の形と時間の幅にも関わっています。

執行猶予の枠はどう作られるか


執行猶予は、3年以下の拘禁刑などを言い渡す場合に付けることができます。ところが、181条1項の有期拘禁刑は3年以上と定められているため、そのままでは3年を下回る言渡しができません。

ここで関わるのが減軽の規定です。犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは刑を減軽することができ、有期拘禁刑を減軽するときは上限と下限がそれぞれ2分の1になります。この場合、下限が1年6月まで下がるため、3年以下の言渡しをする余地が生まれます

執行猶予が付くかどうかは事案によりますが、その前提として、減軽を基礎づける事情をどれだけ示せるかが問われる構造になっています。

示談がどこで意味を持つか


検察官は、犯人の性格や年齢、犯罪の軽重や情状、犯罪後の状況を考慮して、起訴しないことができるとされています。示談や被害の弁償は、この判断の材料になります。

この罪では、起訴された場合の審理が大きくなることから、示談の意味は、処分の重さを調整する場面だけでなく、起訴されるかどうかが検討される段階でも問われます。もっとも、性的な被害を受けた側にとって、加害を主張されている側との接触は負担になります。連絡の方法や時期を含めて、代理人を介して進めることが検討されます。

なお、示談が成立していても起訴される場合はあり、示談だけで結論が決まるわけではありません。

相談の前に整理しておきたいこと


弁護士に相談する前に、次の点を書き出しておくと話が早く進みます。

・いつ、どこで、どのような経過があったのか
・けがの原因として説明されている行為は何か
・相手が受診したことを、いつ、誰から聞いたか
・診断書の内容として伝えられている傷病名と加療日数
・警察から聞かれている罪名と、これまでに作成された書面の有無
・すでに供述した内容と、それが自分の記憶と一致しているか

弁護士には、たとえば次のような点を確認できます。

・伝えられている診断の内容が、傷害として争う余地のあるものか
・けがとの結びつきについて、どのような事実が問題になるか
・罪名がどう構成される見込みか
・示談を申し入れる時期と方法をどう考えるか
・取調べで説明すべきこととそうでないことの整理

まとめ


・不同意わいせつ致傷罪は、けがの重さによって刑の枠が分かれていない
・傷害の意味は、傷害罪における傷害と同じに読むのが判例の立場である
・軽い傷でも傷害と認められた裁判例が積み重なっている
・一方で、本人が気づかず、治療も要せず自然に治った程度の損傷について、成立を否定した裁判例もある
・診断書に何が書かれているか、受診の経過がどうだったかが、判断の材料になる
・けががわいせつな行為の機会に生じたものであれば、直接の行為でなくても結びつきが認められることがある
・罪名が動くと、審理の形も公訴時効も変わる

けがの結果があるかどうかは、事件の見通しを左右する分かれ目になります。診断の内容が伝えられた段階で、それがどう評価され得るのかを整理しておくことが、その後の対応を考えるうえでの出発点になります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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