あとから診断書が出てきた|暴行が傷害に切り替わる場面と対応

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

その場では大きなけがの話は出ず、警察も呼ばずに別れたはずなのに、しばらく経ってから「診断書が出ている」と連絡が入る。あるいは、暴行事件として聞き取りを受けていたのに、途中から傷害事件として扱われるようになる。こうしたご相談は珍しいものではありません。

暴行罪と傷害罪は、けがという結果が生じたかどうかで分かれます。そのため、けがの内容を示す診断書があとから捜査機関に届くと、それまで暴行として扱われていた事件の見立てが動くことがあります。

もっとも、実際に何が起こるかは、その診断書が出てきた時点で手続がどこまで進んでいたかによってかなり違います。この記事では、時点ごとの違いと、それぞれの場面で確認しておきたいことを整理します。

「あとから診断書が出てきた」という場面


ご相談で多いのは、次のような流れです。

その場は口論やもみ合いで収まり、警察を呼ばずに別れたものの、数日後に警察から連絡が来て、相手が診断書を添えて被害届を出していたと知らされるケース。暴行罪として警察で事情を聞かれ、任意で捜査が進んでいた途中に、相手から診断書が提出されて扱いが変わるケース。すでに処分が終わったと思っていたところに、相手が改めて動き出したというケースもあります。

いずれも、自分がした行為そのものは変わっていないのに、事件の扱いだけが動いていく点が共通しています。この落ち着かなさが、ご相談時の不安の中心になっていることが多いように感じます。

捜査の途中で付いている罪名は動くことがある


罪名は、捜査機関が事件を整理し、手続を進めるために付けている名前です。警察が検察官に送るときの罪名、検察官が処分を決めるときの罪名、判決で示される罪名は、それぞれ別の判断であり、一致するとは限りません。

暴行罪から傷害罪へ扱いが移ることは、この意味で手続上あり得ることです。逆に、傷害として被害届が出されても、結果的に暴行罪として処分されることもあります。

なお、傷害罪について、けがをさせようという認識までは必要とされず、暴行を加えるという認識があれば足りるとした判断があります(最高裁昭和25年11月9日判決)。「けがをさせるつもりはなかった」という説明だけでは、扱いの変化を止めにくいのはこのためです。

ただし、診断書が提出されたことがそのまま傷害の認定につながるわけでもありません。その暴行によってそのけがが生じたといえるかという結び付きが、別途問われます。

手続がどこまで進んでいるかで展開は変わる


同じ「あとから診断書が出てきた」でも、その時点によって起こることは異なります。おおまかには次のように整理できます。

診断書が出てきた時点起こり得ること確認しておきたいこと
警察が事件として動き出す前傷害事件として被害届が受理され、そこから捜査が始まる当日の状況と、受診に至るまでの経過
暴行罪として捜査が進んでいる途中扱いが傷害に移り、聞かれる内容も変わるけがの内容と、自分の行為との結び付き
検察官の処分を待っている間傷害罪を前提に処分が判断される示談交渉の進み具合と、処分への影響
起訴された後検察官が訴因の変更を請求することがある変更後の記載と、準備に必要な時間
処分が終わった後終わり方の種類によって扱いが分かれるどの終わり方だったのかの確認


以下、それぞれの場面を順に見ていきます。

まだ捜査が続いている場合


警察から検察官に事件が送られる際の罪名に、検察官の処分が縛られるわけではありません。暴行罪として送られた事件が傷害罪として処分されることもあれば、その逆もあります。

そのため、この段階での見通しは「今どの罪名が付いているか」よりも、けがと行為の結び付きがどこまで資料で裏づけられているかによって考えることになります。

起訴するかどうかは、犯人の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重や情状、犯罪後の状況を考慮して検察官が判断します(刑事訴訟法248条)。扱いが傷害に移ったとしても、そのことだけで処分の中身が決まるわけではありません。

すでに起訴されている場合|訴因変更という手続


起訴された後は、裁判所が審理する対象が起訴状に記載された訴因に定まります。そのうえで検察官から請求があったときは、裁判所は、公訴事実の同一性を害しない限度で、訴因や罰条の追加・撤回・変更を許さなければならないとされています(刑事訴訟法312条1項)。

同じ暴行から生じた事実についての変更は、この範囲内のものとして扱われることが一般的です。つまり、暴行罪として起訴された後に傷害罪へ訴因が変更されることは、手続としてあり得ます。

同条には、訴因や罰条の追加・変更によって被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあると認めるときは、被告人側の請求により、防御の準備に必要な期間、公判手続を停止しなければならないという定めも置かれています。

この場面で慌てて認否を変える必要はありません。変更後の訴因にどう書かれているかを確認し、争う点と争わない点を整理する時間を確保することが先になります。

すでに手続が終わっていた場合


「もう終わったはずの事件」に診断書が出てきた場合、終わり方の種類によって話が変わります。

不起訴で終わっていた場合


不起訴処分は、検察官が起訴しないと判断したものであって、確定判決ではありません。そのため、新たな資料が出てきた場合には、いったん終えた事件について捜査が再び行われることがあります。不起訴処分告知書を受け取っていても、それだけで以後の手続がないことが保証されるわけではありません。

罰金の略式命令が確定していた場合


略式命令は、告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求ができ(刑事訴訟法465条1項)、その期間が過ぎるか請求が取り下げられると、確定判決と同一の効力を生じます(同法470条)。

そして、確定判決を経たときは免訴の言渡しをしなければならないとされています(同法337条1号)。この効力が及ぶ範囲は、起訴状に書かれた訴因そのものに限られず、公訴事実の同一性が認められる範囲に及ぶと理解されています。

そうすると、罰金の略式命令が確定した同じ暴行行為について、改めて傷害罪で起訴することは難しいと考えられます。ただし、どこまでが同一の範囲かは事案ごとの判断であり、日時や場所が異なる別の行為であれば、そもそも別の事件として扱われます。

警察限りで終わっていた場合


軽微な事件について、検察官にあらかじめ指定された範囲で送致せずに処理する取扱いがあります。この形で終わっていた事件でも、その後に新たな資料が出れば、改めて送致に向けた手続が取られることがあります。また、告訴がされた事件については送致・送付の義務があり(刑事訴訟法242条)、この取扱いの対象からは外れます。

公訴時効の残り方も変わる


公訴時効の期間は罪名によって異なり、暴行罪は3年、傷害罪は10年とされています(刑事訴訟法250条2項)。

そのため、暴行としては時効の期間が過ぎていても、傷害としてはまだ期間が残っているという時間帯が生じます。「もう何年も前のことだから」という感覚だけで見通しを立てないほうがよい理由の一つです。

身柄の判断に影響することがある


逮捕や勾留の途中で扱いが傷害に移ると、事案の重さの見立てが変わり、身柄拘束の判断材料も変わることがあります。

もっとも、罪名が変わったこと自体が身柄拘束を決めるわけではありません。勾留は、住居が定まらないこと、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることのいずれかにあたる場合に判断されます(刑事訴訟法60条1項)。

勤務先や家族の状況、住居の安定、連絡が取れる体制といった事情を早い段階で整理しておくことが、この場面では意味を持ちます。

すでに示談していた場合、清算条項はどこまで及ぶか


暴行を前提に、比較的少額で示談を済ませていた後に、傷害の結果が明らかになるという相談もあります。この場合、示談書に「本件に関し、他に一切の請求をしない」といった清算条項が入っていることが多く、その条項が新たに判明した損害まで及ぶのかが問題になります。

この点について最高裁は、全損害を正確に把握し難い状況のもとで、早急に少額の賠償金で満足する示談がされた場合、放棄されたのは示談当時に予想していた損害についての請求権であり、当時予想できなかった後遺症などの損害まで放棄した趣旨と解するのは当事者の合理的意思に合わないという趣旨の判断を示しています(最高裁昭和43年3月15日判決)。

裏を返せば、示談の時点でどのような状況だったのか、金額や記載がどうなっていたのかによって結論は変わります。示談書とやり取りの記録は控えを保管し、そのまま示すことができるようにしておくことが望ましいといえます。

なお、刑事の処分との関係は民事とはまた別です。示談が成立していることは処分の判断で考慮され得る事情ですが、後から結果が明らかになった場合には、その点を含めて改めて対応を検討することになります。

診断書の中身を確認するときの視点


あとから出てきた診断書について確認されることが多いのは、けがをした事実の有無そのものよりも、その行為とその結果が結び付くかという点です。具体的には、出来事から受診までの間隔、けがの部位が説明されている行為と対応しているか、医師が確認した所見の記載があるか、もともとの症状や持病との関係、初診時と再診時の記載の食い違いといった点が見られます。

これは「けがはなかった」と主張するための材料集めではありません。事実として何がどこまで言えるのかを整理するための視点です。結び付きに疑問がある場合には、その点を資料に沿って説明していくことになります。

なお、診断書は捜査機関の手元にあり、こちら側がその内容を確認できる時期は限られます。起訴された後であれば、検察官が取調べを請求する証拠については閲覧の機会が与えられます(刑事訴訟法299条1項)。

この段階で避けたい対応


扱いが変わったと知った直後は、動きたくなる場面です。ただ、次のような行動はご自身の立場を悪くする方向に働きやすいものです。

・相手方に直接連絡し、診断書の撤回や被害届の取下げを求めること
・受診先の医療機関に自分で問い合わせて内容を確かめようとすること
・内容を確認しないまま、示談書や念書に署名や押印をすること
・記憶が曖昧な部分まで含めて、聞かれるままに認めてしまうこと
・当日のやり取りが残っている連絡履歴や画像を消してしまうこと

取調べや聴取で気をつけたいこと


扱いが傷害に移ると、聞かれる内容は行為の有無だけでなく、けがとの結び付きにも広がります。

・実際に覚えていることと、後から人づてに聞いて知ったことを分けて話す
・「押した」「当たった」の一語でまとめず、順序と方向、力の程度を具体的に述べる
・けがの原因についての推測を、確かめた事実のように述べない
・調書は読み聞かせや閲読の機会があり、内容に誤りがあれば訂正を申し立てられる(刑事訴訟法198条4項)
・分からないことは分からないと述べ、後から確認する余地を残す

民事の請求は刑事とは別に動く


刑事の扱いが暴行にとどまった場合でも、民事の損害賠償請求は別に成り立ち得ます。逆に、傷害として処分されたからといって、請求された金額がそのまま認められるわけでもありません。

人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、損害と加害者を知った時から5年で時効にかかるとされています(民法724条の2)。刑事の手続が終わった後に民事の請求が届くことも、この期間の中では起こり得ます。

請求の中身としては、治療費、通院にかかった交通費、休業による損害、慰謝料などが挙げられます。金額は請求書に書かれた数字ではなく、実際にかかった費用や通院の実績に沿って検討されることになります。

よくあるご質問


事件から数か月経って診断書が出てきました。今からでも傷害になるのでしょうか


診断書の提出そのものに期限は定められていません。ただし、時間が経つほど、その行為とそのけがが結び付くかという点の説明は難しくなる傾向があります。受診までの経過や、その間の生活状況をどう説明できるかが検討の中心になります。

けがをさせるつもりはありませんでした。それでも傷害罪になりますか


けがをさせようという認識まではなくても、暴行を加える認識があれば傷害罪として扱われ得るとされています。そのため、意図がなかったという説明だけで扱いが戻ることは考えにくく、行為と結果の結び付きや、当時の状況をどう整理するかが実際の争点になります。

暴行罪で罰金を納めて終わっています。もう関係ないと考えてよいですか


略式命令が確定していれば、同じ行為について改めて刑事責任を問うことは難しいと考えられます。ただし、これは刑事手続についての話であり、民事の損害賠償請求は別に残ります。書類が届いた場合は、まず内容と日付を確認したうえでご相談ください。

まとめ


あとから診断書が出てきた場面では、次の点が整理の出発点になります。

・捜査段階の罪名は手続の途中で動き得るもので、送致時と処分時で一致するとは限らない
・けがをさせる意図がなかったという説明だけでは、扱いの変化は止まりにくい
・起訴後は訴因変更という手続を通じて扱いが移ることがあり、準備の時間を求める余地がある
・不起訴、略式命令の確定、警察限りの処理では、その後の扱いがそれぞれ異なる
・公訴時効の期間は暴行罪と傷害罪で異なり、時間の経過だけで見通しは立たない
・すでに示談していた場合、清算条項がどこまで及ぶかは示談時の状況によって変わる
・相手方や医療機関への直接の働きかけは、立場を悪くする方向に働きやすい

扱いが変わったという連絡は、多くの場合、突然届きます。その時点で手続がどこまで進んでいるかによって取り得る対応が変わりますので、届いた書面や連絡の内容と日付をそろえたうえで、早めにご相談いただければと思います。

当事務所では、刑事事件に関する無料相談を承っています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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