風俗で性病をうつされた|損害賠償請求はできるのか
この記事は、2026年10月2日時点の刑法、刑事訴訟法、個人情報の保護に関する法律、犯罪捜査規範などの規定に基づいて書いています。個別の事情によって見通しは変わりますので、具体的な対応はご相談のうえで判断してください。
「店のスタッフから『キャストが警察に相談した』と電話で言われたが、本当なのか分からない」「警察からは何の連絡もない。ただの脅しなのか、それとも捜査が進んでいるのか」。風俗店やメンズエステの利用後、このような状態で不安を抱えたままご相談に来られる方は少なくありません。
被害届を出された後の流れや、示談の進め方については、すでに多くの解説があります。一方で、「相談したと聞かされたが、それが本当かどうかを確かめたい」という疑問に正面から答えた情報は多くありません。この記事では、客の立場で「警察に相談した」と告げられた方を想定し、確かめる手段がどこまであるのか、そして確かめられないときにどう備えるかを整理します。
まず結論|確かめる手段は限られているが、備え方は同じ
最初に、この記事の結論をまとめておきます。
- 客の側から、警察への相談や被害届の有無を確実に確かめる手段は、ほとんどありません。
- 警察に問い合わせても、捜査の有無を答えてもらえることは期待しにくく、開示請求の対象からも外れています。
- キャスト本人に直接問いただすと、それ自体が新たな問題になるおそれがあります。
- 本当であっても事実でなくても、記録を残し、警察から連絡が来たときの受け答えを決めておくという備えは共通です。
- 確かめることに時間を使うより、早い段階で弁護士に相談し、窓口と方針を決めるほうが現実的です。
「警察に相談した」が指しうる段階
「警察に相談した」という言葉は、実際にはいくつかの異なる段階を指している可能性があります。どの段階かによって、その後の見通しも変わります。
| 段階 | 内容 | その後の見通し |
|---|---|---|
| 相談 | 警察の窓口で事情を話し、助言を受けた段階 | 記録は残るが、それだけで捜査が始まるとは限らない |
| 被害届 | 犯罪の被害を受けたことを申告した段階 | 警察が捜査を始めるきっかけになり、客に連絡が来ることがある |
| 告訴 | 犯人の処罰を求める意思を示した段階 | 警察は書類を検察官に送る手続をとる(刑事訴訟法242条) |
相談しただけで捜査が始まるとは限らない
キャストや店が警察に話をしても、事情を聴いた警察が助言をするだけで終わることもあります。逆に、相談の内容から犯罪の疑いがあると判断されれば、被害届の提出を勧められたり、捜査が始まったりすることもあります。「相談した」という言葉だけでは、どちらに進んでいるのかは分かりません。
届出がなくても捜査できる罪がある
不同意性交等罪(刑法177条)や不同意わいせつ罪(刑法176条)は、告訴がなくても起訴できる罪です。そのため、「被害届は出していない」と後から言われても、捜査の可能性がなくなるわけではありません。また、2023年の改正で公訴時効も延長され、不同意性交等罪では15年とされています(刑事訴訟法250条3項)。相談から時間が経ってから連絡が来ることもあり得ます。
【刑事事件】事件から時間が経ってから連絡が来た|捜査が動く時期の読み方
本当かどうかを確かめるのが難しい理由
警察に問い合わせても答えは期待しにくい
警察は、捜査の情報を外部に明かさないことを原則としています。訴訟に関する書類は公判の開廷前には公にしてはならないとされており(刑事訴訟法47条)、捜査中かどうかを電話で尋ねても、答えてもらえることは期待しにくいのが実情です。
加えて、自分から警察に問い合わせると、出来事の内容を自分で説明することになります。その説明が後の取調べでどのように扱われるかを考えずに話してしまうと、確かめるための電話が、自分に不利な供述の始まりになるおそれがあります。警察に連絡するかどうかは、弁護士と相談してから決めるほうが安全です。
開示請求の対象からも外れている
自分に関する情報を行政機関に開示請求する制度はありますが、刑事事件について司法警察職員が行う処分に関する個人情報は、開示請求の規定が適用されないとされています(個人情報の保護に関する法律124条1項)。捜査の過程で作られた書類に記録された情報も同様です(刑事訴訟法53条の2第2項)。このため、開示請求で「自分について相談や被害届があったか」を確かめることは難しいと考えられます。
店やキャストに証明を求めても裏付けにならない
店のスタッフに「どこの警察署に、いつ相談したのか」と尋ねることはできますが、相手に答える義務はありません。警察署の名前を告げられたとしても、それが事実かどうかを客の側で確かめる手段は限られます。答えの内容に一喜一憂するより、言われた内容をそのまま記録しておくことのほうが後で役に立ちます。
キャスト本人に直接問いただすことのリスク
本当かどうかを確かめようとして、キャスト本人に何度も連絡したり、会って話をしようと求めたりすることは避けてください。自分の刑事事件について捜査に必要な知識を持つと認められる人に対し、正当な理由なく面会を強く求めたり、強い言葉で迫ったりすると、証人等威迫罪(刑法105条の2)が問題になることがあります。この罪は、起訴される前の段階でも成立し得るとされ、文書を送る方法による場合も含まれるとした判例があります(最高裁平成19年11月13日決定)。確かめるための連絡が、もともとの出来事より重く評価されることもあり得ます。
確かめられなくても判断に使える手がかり
告げ方と金銭の要求が結びついているか
「相談した」という言葉が、「払えば取り下げる」「今日中に払えば警察には行かない」といった金銭の要求と結びついて告げられている場合、交渉の材料として使われている可能性も考えられます。被害を受けたと考える人が警察に相談すること自体は正当ですが、通報を持ち出して根拠の乏しい高額な金銭を求める場合には、内容によって恐喝罪(刑法249条)が問題になることもあります。ただし、こちらにも指摘されている事実がある場合、その線引きは簡単ではありません。
「金を払わなければ通報する」と脅されたら|風俗トラブルにおける恐喝罪への対処法
自分が何をしたかという認識
相手の言葉が本当かどうか以上に、見通しを左右するのはご自身の行為の内容です。同意があったと考えているのか、指摘された事実に心当たりがあるのか、それとも身に覚えがないのかによって、とるべき方針は変わります。確かめる対象を、相手の言葉から自分の認識へと移すことが、落ち着いて判断する出発点になります。
「同意があった」を証明できるか|風俗トラブルの証拠と限界
本当でも事実でなくても、同じように備える
「相談した」が本当かどうかが分からなくても、備えておくことはほぼ共通です。
| 備えること | 理由 |
|---|---|
| 経過と言われた言葉をメモに残す | 記憶は時間とともに曖昧になり、相手の説明に引きずられやすくなるため |
| 予約や店とのやり取りを消さずに残す | 削除しても相手の記録は残り、削除したこと自体が不自然に受け取られることがあるため |
| その場で金銭を払わず、書面に署名しない | 払っても捜査の可能性がなくなるとは限らず、事実を認めた資料として扱われるおそれがあるため |
| 警察から連絡が来たときの受け答えを決めておく | 突然の電話で、整理されていない説明をしてしまうことを避けるため |
警察から連絡が来たとき
警察から電話があった場合は、所属と氏名、連絡の用件を確認し、出頭の日程は弁護士と相談してから決めたいと伝えることができます。参考人として話を聞きたいと言われた場合でも、話の内容によって立場が変わることがあります。
【風俗トラブル】参考人として呼ばれた|客が被疑者に切り替わる分岐点
在宅事件になった場合|見えない時間の進み方
自分から警察に行くという選択
指摘された事実に心当たりがある場合、自分から警察に出向くことを考える方もいます。自首は、捜査機関に発覚する前に申し出た場合に刑を減軽できるとされるものです(刑法42条1項)。すでに相談や被害届があれば、自首の扱いにならないこともあります。出向くかどうか、出向く場合に何を話すかは見通しに大きく関わるため、ご自身だけで決めないでください。
弁護士が入ると何が変わるのか
弁護士がご依頼を受けると、店やキャストとの連絡の窓口を弁護士に一本化できます。ご本人が「本当に相談したのか」を確かめようと相手に連絡する必要はなくなり、店からの電話に一人で応じる負担も減ります。
示談の交渉に進む場合は、被害届や告訴の状況、今後の意向を確認したうえで、提出しないことや宥恕(許す意思)を示談書に盛り込むことを目指します。相談や届出が実際にあった場合でも、示談が成立していることは、警察や検察官が処分を判断するうえで考慮される事情の一つになります。店が用意した書面の条項がこうした点を十分に定めていないことも多いため、内容を確認してから合意することが大切です。
店が用意した示談書にサインする危険性|宥恕条項・清算条項の落とし穴
当事務所で、デリヘルでの出来事をめぐり警察から連絡があった段階でご依頼を受け、示談で解決した事例は次の記事でご紹介しています。
【解決事例】デリヘルの本番行為で警察から連絡があり150万円を請求された男性が75万円の示談で解決した事例
よくあるご質問
警察から連絡がなければ、相談の話は嘘だったと考えてよいですか
そうとは言い切れません。相談だけで終わっている場合もあれば、捜査に時間がかかっている場合もあります。連絡がないことは一つの手がかりにはなりますが、それだけで安心してしまうのではなく、記録を残しておくことをおすすめします。
お金を払えば、警察への相談を取り下げてもらえますか
取り下げてもらえるとは限りません。不同意性交等罪などは告訴がなくても捜査や起訴ができる罪であり、取下げの約束があっても捜査の可能性は残ります。払う場合でも、誰に、何の名目で、いくら払い、それで何が解決するのかを書面で確認できる形にしておく必要があります。
身に覚えがないのに「警察に相談した」と言われました
身に覚えがない場合も、相手に強く言い返したり、何度も連絡したりすることは避けてください。言われた内容と経過を記録し、金銭の支払いや書面への署名には応じずに、弁護士を通じて事実関係を確認する方法をとることができます。
まとめ
- 「警察に相談した」は、相談・被害届・告訴のいずれを指すかで見通しが異なります。
- 警察への問い合わせや開示請求で、相談や被害届の有無を確かめることは難しいと考えられます(刑事訴訟法47条、個人情報の保護に関する法律124条1項)。
- キャスト本人に面会を求めたり強く迫ったりすると、証人等威迫罪(刑法105条の2)が問題になることがあります。
- 不同意性交等罪などは告訴がなくても起訴でき、時間が経ってから連絡が来ることもあります。
- 本当かどうかに関わらず、記録を残し、その場で払わず署名せず、警察への受け答えを決めておくことが備えになります。
- 弁護士が入ると窓口が一本化され、届出の状況を確かめたうえで示談の条項を組み立てやすくなります。
「警察に相談した」と聞かされたまま連絡を待つ時間は、長く感じられるものです。確かめられないことを確かめようと動くより、いまの状況で取れる手立てを整理しておくことが、結果としてご自身を守ることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


