【風俗トラブル】キャストの診断書を見せられた|怪我や体調不良を理由にした請求

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

この記事は、2026年10月1日時点の民法、刑法、医師法、健康保険法、国民健康保険法の規定と、最高裁判所の判例に基づいて書いています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、実際の対応は弁護士にご相談ください。


「店から呼び出され、キャストが怪我をしたという診断書を見せられた。治療費と休業の補償として金額を示されたが、本当に自分のせいなのか分からない」「利用から数日後、キャストが体調を崩して働けなくなったと連絡があり、診断書の写真が送られてきた」。風俗トラブルのご相談では、このように診断書を示されたうえで金銭を求められる場面が少なくありません。一方で、実際に行為の中で相手に痛みや怪我を負わせてしまい、きちんと償いたいと考えている方からのご相談もあります。

 怪我をさせたのであれば治療費や慰謝料を負担する必要がある、ただし言われるままに支払うべきではない、という説明は多くの法律事務所の記事で目にします。それ自体は誤りではありませんが、目の前に置かれた診断書が何を証明していて、何を証明していないのかという点は、あまり詳しく語られていません。診断書は医師が作成した書面であるため、見せられた側は「これがある以上、争えない」と受け止めてしまいがちです。

 この記事では、キャストの診断書を見せられた場面に絞って、その場で確かめたいこと、診断書の読み方、怪我と体調不良とで異なる確認の仕方、示談で区切る際の注意点を整理します。怪我をさせたと主張された場合の全体像や、請求項目ごとの検討、刑事事件としての重さの評価は、それぞれ別の記事に委ね、本文中でご案内します。

診断書を見せられたその場で確かめたいこと

受け取るのは「写し」、その場では認めない

 診断書を示されたとき、最初に考えたいのは、その場で内容を認めたり、支払いを約束したりしないことです。診断書を見た直後は動揺しやすく、「申し訳ない」「払います」と口にしてしまうことがありますが、こうした言葉は後から「責任を認めていた」と受け取られる材料になり得ます。

 その場で求めたいのは、診断書の写しです。原本を渡してもらう必要はありませんが、写しやご自身のスマートフォンでの撮影を求め、手元に内容が残るようにします。診断書の内容を後から落ち着いて確かめられる状態をつくることが、その後の判断の出発点になります。写しを断られた場合は、日付や医療機関名、病名などを、その場でメモしておくだけでも違いが出ます。

日付・医療機関・病名・記載のされ方を見る

 診断書を見る際には、次のような項目を順に確かめます。

確かめる項目見るポイント
受診日と作成日利用した日から受診までにどれくらい間があるか。作成日が受診日よりかなり後になっていないか
医療機関名と医師名実在する医療機関か。診療科は主張されている症状と合っているか
病名・傷病名どの部位の、どのような症状か。主張されている出来事と部位が合っているか
受傷原因の書き方「〜により受傷したとのこと」など、本人の申告に基づく記載になっていないか
加療見込み期間「全治○日」「加療○週間」などの記載が、実際の通院とどう対応するか
宛先・用途警察提出用、勤務先提出用など、何のために作成されたものか


 これらは、診断書を疑うためではなく、主張されている出来事と診断書の内容がどこまで重なるのかを確かめるための項目です。

スマートフォンの画面や写真だけを示された場合

 最近は、診断書の実物ではなく、LINEなどで写真が送られてくるだけ、あるいは店のスタッフがスマートフォンの画面を見せるだけ、ということもあります。画像では一部が切り取られていたり、日付や医療機関名が読み取れなかったりすることがあります。

 この場合も、全体が写った画像の送付を求め、送られてきたメッセージは消さずに保存しておきます。画像だけでは判断がつかないときは、弁護士を通じて原本の確認や、医療機関の領収書・診療明細書の提示を求めるという進め方があります。

診断書が示すもの・示さないもの

医師が診察した時点の所見であること

 医師は、自ら診察しないで診断書を交付してはならないとされています(医師法20条)。そのため、診断書がある以上、その人がその日に医療機関を受診し、医師が何らかの所見を得たことは、通常は認められます。

 ただし、診断書が示すのは「診察した時点で、医師がその症状を確認した」という事実です。その症状がいつ、どこで、誰の行為によって生じたのかまでを、診断書だけで証明できるわけではありません。

受傷の原因は本人の申告に基づく記載が多い

 診断書の中に「○月○日、接客中に受傷した」といった原因が書かれていることがあります。しかし医師は、その場面を見ていたわけではありません。受傷の経緯は、多くの場合、受診した本人の説明をもとに記載されています。

 したがって、診断書に原因が書かれていても、それが客の行為によるものかどうかは、利用の時間帯や行為の内容、受診までの経過、その間の勤務の有無など、ほかの事情と合わせて検討することになります。怪我をさせたと主張された場面全体での診断書の読み方は、ケガをさせたと主張された場合|致傷の主張と診断書の読み方でも扱っています。

「全治」は治るまでの見込みの期間

 「全治2週間」「加療約10日間」といった記載は、医師が診察時点で見込んだ治療期間です。実際にその期間通院したことを意味するものではなく、実際の通院がずっと短いこともあります。休業の補償を求められたときには、この見込み期間と、実際に休んだ期間とを分けて考える必要があります。全治の記載が刑事事件としての評価にどう関わるかは、「全治○週間」と言われた|診断書と傷害の重さの評価をご覧ください。

怪我と体調不良で異なる確認の仕方

打撲・擦り傷など外傷の場合

 あざや擦り傷、打撲といった外傷が主張されている場合は、傷の部位と、利用中の行為の内容が対応しているかがまず問題になります。外傷は時間の経過とともに見た目が変わるため、利用から受診までに日数が空いていると、その間に別の原因で生じた可能性も検討の対象になります。

 ご自身の行為で相手に怪我をさせた自覚がある場合は、事実を争うよりも、相当な範囲での賠償を考える方向が適していることもあります。プレイや器具による怪我の責任と初動対応については、風俗のプレイ・器具で相手にケガをさせてしまったら|客側が負う責任と初動対応で整理しています。

腰や関節の痛み・体調の悪化の場合

 腰痛や関節の痛み、発熱や倦怠感など、目に見える傷がない体調不良が主張されることもあります。こうした症状は、もともとの持病や疲労の蓄積、仕事そのものの身体的な負担など、さまざまな原因で生じ得ます。

 そのため、特定の利用者との接客がきっかけになったといえるかどうかは、外傷の場合以上に、ほかの事情と合わせた慎重な検討が必要になります。主張されている症状が、利用の前から続いていたものではないか、同じ時期にほかの接客がなかったかといった点も、確認の対象になり得ます。なお、性感染症や妊娠を理由とする請求は性質が異なるため、「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方で扱っています。

不眠や気分の落ち込みなど心の不調の場合

 最近は、「怖い思いをして眠れなくなった」「適応障害と診断された」など、心の不調を記載した診断書が示されることもあります。刑事事件の場面では、一時的な精神的苦痛やストレスにとどまらず、医学的な診断基準に照らして精神疾患と認められる状態を生じさせた場合には、傷害にあたるとした最高裁判所の判断があります(最高裁判所平成24年7月24日決定)。

 一方で、民事の損害賠償では、ある出来事のあとに診断名がついたとしても、その出来事と症状との間に相当な因果関係があるかは別に検討されます。精神神経科の医師の言動と、その後にPTSDと診断された症状との間に相当因果関係があるとはいえないとされた例もあります(最高裁判所平成23年4月26日判決)。心の不調は、出来事の内容、発症の時期、それまでの通院歴などを踏まえて評価されるもので、診断書の病名だけで結論が決まるものではありません。

請求の中身と相手を分けて考える

治療費・休業損害・慰謝料はそれぞれ根拠が要る

 診断書とあわせて示される金額は、治療費、通院の交通費、仕事を休んだ分の補償、慰謝料などが一つにまとめられていることが多くあります。それぞれ、裏付けとなる資料が異なります。治療費であれば領収書や診療明細書、休業の補償であれば実際に休んだ日と、それまでの収入の状況が問題になります。

 総額だけを見て判断するのではなく、どの項目にいくらが割り当てられているのかを分けて示してもらうことが大切です。項目ごとの考え方は、治療費・検査費・休業損害は認められるのか|請求項目別の検討で詳しく扱っています。

健康保険を使って受診していた場合

 キャストが健康保険や国民健康保険を使って受診していた場合、窓口で支払った自己負担分のほかに、残りの医療費は保険から医療機関に支払われています。他人の行為による怪我や病気について保険から給付が行われたときは、保険者は、その給付の価額の限度で、本人が相手方に対して持つ損害賠償請求権を取得するとされています(健康保険法57条1項、国民健康保険法64条1項)。

 そのため、キャスト本人と示談をしても、すでに保険から支払われた分について、後から保険者から請求を受ける可能性は残ります。示談の際には、治療費の請求額が自己負担分なのか医療費全体なのか、保険を使って受診したのかどうかを確かめておくと、後の行き違いを避けやすくなります。

店からの請求とキャスト本人の請求

 診断書を示してくるのが店のスタッフである場合、その請求が店の損害についてのものなのか、キャスト本人の損害についてのものなのかを確かめる必要があります。怪我や体調不良による治療費や慰謝料は、本来、怪我をした本人が求めるものです。店に支払っても、それでキャスト本人の請求が清算されるとは限りません。この点は誰に払うのか|店の損害とキャスト個人の損害は別で整理しています。

示談で区切る場合に気をつけること

治療が続いている段階での示談

 診断書が出た直後は、まだ通院が続いていて、最終的な治療費や休業の期間が確定していないことがあります。この段階で示談をする場合、どの時点までの損害を対象にするのかを明確にしておかないと、後から追加の治療費を求められることがあります。早く区切りたいという気持ちと、損害の全体が見えてから区切るという考え方のどちらをとるかは、事案ごとの判断になります。示談を申し入れる時期の考え方は、相手がまだ通院している|傷害事件で示談を申し入れる時期の決め方をご覧ください。

後遺症の扱いと清算条項

 示談書には、通常、示談書に定めたもの以外に互いに請求をしないという清算条項を入れます。ただし、示談の当時に予想できなかった後遺症がその後に生じた場合について、その損害の賠償請求権まで放棄したと解するのは当事者の合理的な意思に合致しないとした最高裁判所の判断があります(最高裁判所昭和43年3月15日判決)。

 清算条項を入れても、事情によっては後から請求が生じる余地が残るという前提で、示談の対象とする範囲を具体的に書き分けておくことが大切です。示談書に入れる条項の全体は、風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないで整理しています。

診断書に不自然な点があると感じたとき

 日付や医療機関名がはっきりしない、主張と部位が合わないなど、診断書に不自然な点があると感じることもあるかもしれません。その場合でも、相手に対して「偽物だ」と直接告げることは避けたほうが無難です。実際には正規に作成された診断書であることも多く、指摘の仕方によっては、相手の感情を害して交渉がこじれる原因になります。

 疑問がある場合は、弁護士を通じて、原本の確認、医療機関の領収書や診療明細書の提示を求めるといった形で、事実を一つずつ確かめていくのが穏当です。請求が過大ではないかを見分ける視点は、風俗トラブルで不当請求・詐欺を見抜くチェックリストでも紹介しています。

よくあるご質問

診断書の原本を見せてもらえないまま支払ってもよいですか。

 支払うかどうかはご本人の判断ですが、原本や写しを確認できないまま支払うと、後から「何に対する支払いだったのか」が曖昧になりやすくなります。支払う場合でも、何の名目でいくらを支払い、それで何が清算されるのかを書面で確認できる形にしておくことをおすすめします。

医療機関に直接問い合わせて、診断書の内容を確認できますか。

 医師には業務上知り得た秘密を漏らしてはならない義務があり(刑法134条1項)、本人の同意なく第三者からの問い合わせに答えることは通常ありません。そのため、内容の確認は、キャスト本人や店に対して、領収書や診療明細書などの資料の提示を求める形で進めるのが一般的です。ご自身で医療機関に連絡すると、相手方との関係が悪化することもあるため、弁護士に窓口を任せることも検討してください。

「この診断書を警察に出す」と言われました。どうなりますか。

 診断書が警察に提出されると、暴行の主張が傷害の主張として扱われるなど、刑事事件としての評価が変わることがあります。ただし、提出されたことでただちに逮捕や起訴が決まるわけではありません。診断書が後から出てきた場合の刑事面の見通しは、あとから診断書が出てきた|暴行が傷害に切り替わる場面と対応で扱っています。

まとめ


  1. 診断書を見せられても、その場で内容を認めたり支払いを約束したりせず、写しや撮影で内容を手元に残す。
  2. 受診日・作成日・医療機関・病名・受傷原因の書き方・加療見込み期間・用途を順に確かめる。
  3. 医師は自ら診察せずに診断書を交付できないため(医師法20条)、受診と所見は通常認められるが、原因や加害者までを診断書だけで証明できるわけではない。
  4. 外傷・体調不良・心の不調では確認すべき事情が異なり、心の不調は傷害にあたり得る一方で(最高裁判所平成24年7月24日決定)、民事では出来事との相当因果関係が別に検討される(最高裁判所平成23年4月26日判決)。
  5. 保険を使って受診していた場合、保険者は給付の限度で損害賠償請求権を取得するため、本人との示談後も請求を受ける余地が残る(健康保険法57条1項、国民健康保険法64条1項)。
  6. 店に支払っても、キャスト本人の治療費や慰謝料の請求が清算されるとは限らないため、請求の主体と名目を分けて確認する。
  7. 清算条項を入れても予想できなかった後遺症の損害は別に扱われ得るため(最高裁判所昭和43年3月15日判決)、示談の対象とする範囲を具体的に書き分ける。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。店やキャストから診断書を示されて金銭を求められている方、怪我や体調不良の原因が自分にあるのか分からず判断に迷っている方は、支払いや書面への署名をする前にご相談ください。

相手に怪我をさせてしまった自覚があり、きちんと償いたいとお考えの方のご相談もお受けしています。弁護士が窓口となって診断書や請求の中身を確かめ、事実関係を争うのか、相当な範囲での示談を目指すのかを、請求の面と刑事の面の両方から整理してご提案します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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