店のルール違反と犯罪は別物|約款違反・債務不履行・刑事責任の3層で考える
本記事は、2026年10月時点の刑法(2023年改正後の不同意性交等罪の規定を含む)、刑事訴訟法、民法の規定と、刑事・民事の手続の一般的な考え方に基づいて解説しています。個別の事案での見通しは、事実関係や残っている記録の状況によって変わります。
風俗店を利用した後、店から「女の子が本番をされたと言っている。DNA鑑定をすれば分かる」「鑑定に協力しないなら、やましいことがあると見なす」と告げられたというご相談があります。本番はしていないと考えている方からは「潔白を示すために応じたほうがよいのか」、行為の一部に心当たりがある方からは「鑑定されたらもう言い逃れできないのか」という声が寄せられます。
DNA鑑定という言葉には、それだけで結論が出るような響きがあります。科学的な検査であることは確かですが、店が口にする「鑑定」が誰によって、何を対象に、どのような手順で行われるものなのかは、言われた側には見えません。そして、鑑定で分かることと分からないことの区別も、その場では意識されにくいところです。
この記事では、店から「DNA鑑定をする」と言われた場面に絞って、応じる義務があるのか、鑑定の結果は何を意味するのか、返事をする前に何を確かめるべきかを整理します。警察から検体の提出を求められた場合の扱いや、本番の有無を否定する材料全般については、別の記事で詳しく扱っています。
店から求められたDNA鑑定に、応じる義務はあるのか
結論からいえば、店やキャストから求められたDNA鑑定に、応じなければならない法律上の義務はありません。ただし、求めてくる相手が誰かによって扱いは変わるため、場面を分けて考えておく必要があります。
店やキャストには、検体を採らせる権限がない
店は私人であり、客の口の中の粘膜や毛髪、血液などを採取する権限を持っていません。客に検体の提出を義務づける法律もありません。店から「鑑定に協力しろ」と求められても、それは任意のお願いにとどまり、断ったこと自体を理由に法的な責任が生じることはありません。
店の利用規約に「トラブルの際は調査に協力する」といった条項があったとしても、身体から検体を採ることにまで当然に同意したと評価されるとは考えにくいところです。規約の効力をどう確かめるかは、【風俗トラブル】店から『うちの規約では』と言われた|規約の効力を確かめる順序で解説しています。
「断るなら認めたことになる」という言い分の位置づけ
店側から「拒否するなら本番をしたと認めたのと同じだ」と言われることがあります。しかし、私人間のやり取りで、鑑定を断ったことがそのまま事実を認めたことになる仕組みはありません。
もっとも、後に民事の裁判になった場合、鑑定への協力を拒んだという事情が、ほかの証拠とあわせて判断の中で考慮される可能性はあります。断ることに不利益がまったくないとまでは言い切れませんが、それは裁判所が全体の事情を見て判断する場面の話であり、店がその場で「認めた」と扱えるものではありません。
警察から求められた場合は、手続の性質が異なる
被害の申告を受けた警察から、口の中の粘膜の任意提出を求められる場面は、店からの求めとは性質が異なります。任意の段階であれば応じる義務を定めた規定はありませんが、捜査の必要があると判断されれば、裁判官の令状に基づいて採取が行われることがあり、その場合は拒んだときの規定も置かれています(刑事訴訟法137条〜139条、同法222条1項)。
警察からの求めにどう向き合うかは、身体からの資料採取を求められた場合|任意採取と令状で整理しています。
| 求めてくる相手 | 応じる義務 | 断った場合に考えられること |
|---|---|---|
| 店・キャスト | ない | その場で強く求められることはあっても、断ったこと自体に法的な効果はない |
| 警察(任意の求め) | 定めた規定はない | 説得が続くほか、必要性があれば令状の請求に進むことがある |
| 警察(令状に基づく場合) | 拒むことに対する規定がある | 過料や罰金のほか、そのまま検査が行われることがある |
| 民事の裁判 | 直接強制する運用はとられていない | 拒んだ事情が、ほかの証拠とあわせて考慮されることがある |
店の言う「鑑定」で、実際に何が調べられるのか
店が「DNA鑑定」と言うとき、その中身がはっきり説明されることは多くありません。返事をする前に、どのような鑑定が想定されているのかを分けて考えることが役に立ちます。
照合するには、あなた自身の検体が必要になる
DNA鑑定は、ある資料から得られたDNA型と、特定の人のDNA型とを照らし合わせて、同じ人に由来するかどうかを調べるものです。キャストの体や衣類、使用済みの避妊具などから男性のDNAが検出されたとしても、それが誰のものかを確かめるには、比べる相手の検体が必要になります。
店が客に検体の提出を求めるのはそのためです。言い換えれば、店の求めに応じるということは、照合のための材料を自分から差し出すことを意味します。本番をしていないと考えている方にとっては潔白を示す手段にもなり得ますが、その意味を理解したうえで判断する必要があります。
誰が、どこで、どのように鑑定するのかは確かめられない
警察が行う鑑定は、採取から保管、鑑定までの手順が記録される仕組みのもとで行われます。これに対して、店が行うと言う鑑定は、検体がいつ、誰によって採られ、どう保管されてきたのかを、客の側から確かめる手段がほとんどありません。
検体の取り違えや汚染がないこと、提出した検体がほかの目的に使われないこと、鑑定後に廃棄されることなどを、店とのやり取りの中で担保するのは難しいのが実情です。民間の鑑定機関の中には、検体を提供する本人の同意を確認する運用をとっているところもありますが、店が実際にどの機関を使うのかは、聞いてみなければ分かりません。
鑑定費用の負担を求められたとき
「鑑定費用は客が持て」「一致したら費用も上乗せする」と言われることもあります。費用を負担するという合意をしていない限り、店が独自に依頼した鑑定の費用を客が支払う義務はありません。その場で費用の負担を約束する書面に署名しないことが大切です。
鑑定の結果で分かること・分からないこと
仮に鑑定が行われたとしても、その結果がどこまでのことを示すのかは、冷静に分けて考える必要があります。
一致しても、示されるのは接触があったことまで
DNA型が一致したとしても、それによって裏づけられるのは、その資料にあなたの体液や細胞が付いていたという事実です。風俗店のサービスでは、もともと身体の接触が予定されており、本番以外のサービスの過程で体液が付着することは十分にあり得ます。
そのため、どこから検出されたのか、どのような資料なのかによって、結果の持つ意味は大きく変わります。体の表面や衣類から検出された場合と、体内から採取された資料から検出された場合とでは、評価が異なります。風俗の本番トラブルを扱う弁護士の取材記事でも、精液が付着していたかどうかだけでなく、付着していた場所の検査をしているかが、事案を見るうえでの確認事項として挙げられています。
同意があったかどうかは、鑑定からは分からない
本番行為があったこと自体は争いがなく、同意があったかどうかが争点になる事案では、DNA鑑定は結論にほとんど影響しません。不同意性交等罪(刑法177条)で問われるのは、相手が同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが難しい状態で性交等が行われたかどうかであり、これは当日のやり取りや前後の言動から判断されます。
追加料金を支払っていた場合や、女性側から持ちかけられた場合の考え方は、【風俗トラブル】追加料金を払って本番をした場合でも、不同意性交を疑われることはある?で解説しています。同意の有無をどう示していくかは、「同意があった」を証明できるか|風俗トラブルの証拠と限界もあわせてご覧ください。
検出されなくても、それだけで結論が出るわけではない
反対に、男性のDNAが検出されなかった場合でも、避妊具の使用や射精の有無などによって説明がつくと評価されることがあります。本番をしていないと考えている方にとって、検出されないことは有利な事情の一つにはなりますが、それだけで疑いが晴れるとは限りません。
身に覚えがない場合に何を判断材料として否定していくかは、【風俗トラブル】本番はしていないのに「した」と言われたら、何をもって否定すればいい?で詳しく整理しています。サービス中の接触について「入った」と言われた場面は、【風俗トラブル】素股の最中に「入った」と言われたら、どう受け止めればいい?をご参照ください。
「DNA鑑定をする」という言葉が使われる場面
店が実際に鑑定を予定している場合もあれば、そうでない場合もあります。言葉の背景にある状況を見極めることで、取るべき対応が変わります。
キャストが医療機関や警察に相談している場合
キャストが医療機関で検査を受けている、あるいは警察に相談しているという話が出ている場合、鑑定は店ではなく捜査機関の手で行われる可能性があります。この場合は、店とのやり取りよりも、捜査への備えを優先して考える必要があります。
店から「警察に行く」と告げられた後の時間の使い方は、【風俗トラブル】店から「警察に行く」と言われた翌日にすること|被害届が出る前の時間で解説しています。
支払いや自白を促す材料として使われている場合
一方で、「鑑定すればすぐ分かる。今払えば鑑定はしない」というように、鑑定の話が金銭の支払いと引き換えに持ち出されることもあります。この場合、鑑定は事実を確かめる手段というより、話を早くまとめるための材料として使われている可能性があります。
正当な請求であっても、告げ方によっては恐喝(刑法249条)や脅迫(同法222条)が問題になることがあります。どこからが行き過ぎた求め方になるのかは、店の請求が恐喝に変わる線引き|正当な権利行使との境界で整理しています。
返事をする前に確かめておきたいこと
店から鑑定の話をされたとき、その場で応じるか断るかを決める必要はありません。答える前に、次の点を確かめておくと、後の判断がしやすくなります。
店に聞いておきたい5つの点
確認しておきたいのは、次のような点です。
- 何を検体として鑑定するのか。キャストの体から採ったものか、衣類や避妊具などか。
- その検体を、いつ、誰が、どこで採取し、現在どこで保管しているのか。
- どこの鑑定機関に依頼する予定なのか。
- 鑑定の結果を誰が受け取り、どのように使うつもりなのか。
- 提出した検体や鑑定の記録は、その後どう扱われるのか。
これらに具体的な答えが返ってこない場合、鑑定の話がどこまで現実のものなのかを慎重に見る必要があります。聞いた内容と相手の答えは、日時と担当者の名前とあわせて書き留めておきます。
その場で避けたい対応
鑑定の話をされた場面では、次のような対応は避けたほうが無難です。
- 店の事務所やホテルの部屋などで、その場で口の中の粘膜や毛髪を差し出すこと。
- 「鑑定で一致したら○○万円支払う」といった条件付きの書面に署名すること。
- 鑑定費用の負担を約束すること。
- 「鑑定されれば分かることだから」と、事実と異なる内容を認めること。
- キャストに直接連絡を取り、鑑定をやめるよう頼むこと。
- 店とのやり取りやメッセージを削除すること。
条件付きの書面は、一見すると「一致しなければ払わなくてよい」という有利な約束に見えます。しかし、鑑定の中身を確かめられないまま結果に支払いを結びつけることになり、後から争うのが難しくなるおそれがあります。店が用意した書面への署名については、店が用意した示談書にサインする危険性|宥恕条項・清算条項の落とし穴で詳しく解説しています。
また、キャストへの直接の連絡は、本人にその意図がなくても、被害を訴える人への働きかけと受け止められるおそれがあります。やり取りの削除も、内容によっては証拠を隠そうとしたと見られかねません。
応じるかどうかを考えるときの視点
本番をしていないと考えている方の中には、潔白を示すためにあえて鑑定に応じたいと考える方もいます。その選択自体が誤りというわけではありません。ただ、店が主導する鑑定に応じる前に、検体の扱いや結果の使われ方について、書面で取り決めをしておくことが望ましいといえます。
そうした取り決めを店と直接交わすのは難しいため、応じる方向で考える場合でも、弁護士を通じて条件を整えるほうが無難です。結果が出た後の交渉の進め方も含めて、あらかじめ見通しを立てておくことができます。
弁護士が窓口になると何が変わるのか
DNA鑑定の話が出ている段階は、店とのやり取りが感情的になりやすく、その場の判断が後の結果に影響しやすい時期でもあります。
鑑定の求めへの回答を弁護士が引き受ける
弁護士が代理人になれば、店からの鑑定の求めに対して、検体の内容や鑑定の方法を確認したうえで、応じるかどうかの回答を弁護士が行います。ご本人が店の担当者と直接やり取りをする必要はなくなり、その場の圧力の中で判断を迫られることを避けられます。
キャストが警察に相談している可能性がある場合には、店との交渉と並行して、捜査機関から連絡があったときの備えを進めることもできます。取調べで気をつけたい点は、「認める調書」を作られないために|風俗トラブルの取調べ対応の注意点で整理しています。
否定の姿勢を保ちながら解決を目指すこともできる
本番をしていないと考えている場合でも、早期の解決を優先して合意を選ぶ方は少なくありません。その場合でも、合意書に「事実関係を認めるものではない」旨を明記したうえで解決金を支払う形をとることができます。考え方は無実でも示談すべき?否認と示談のジレンマで解説しています。
当事務所が扱った例として、【解決事例】デリヘル(自宅利用)での本番トラブル|不同意性交等罪を否認し300万円請求を40万円に減額、不起訴も獲得した事例もご参照ください。
よくあるご質問
店に髪の毛やコップを持ち帰られた気がします。勝手に鑑定されることはありますか?
店が客の毛髪や使った物を持ち帰ること自体を、客の側から防ぐのは難しいのが実情です。ただし、そうして集めた資料による鑑定は、採取の経緯や保管の状況が確かめられず、その結果がそのまま決定的な証拠として扱われるとは考えにくいところです。気になる事情があれば、いつ、何が起きたのかを書き留めておき、弁護士にお伝えください。
鑑定に応じなかったら、店は警察に行くのでしょうか?
店やキャストが警察に相談するかどうかは、鑑定に応じたかどうかだけで決まるものではありません。キャスト本人の意向や、店の対応方針によって変わります。鑑定を断ったことを理由に被害届が出されるというより、もともと相談を考えていたかどうかが大きいといえます。被害届が出る場合と出ない場合の違いは、被害届が出る場合と出ない場合|キャスト・店の判断で何が変わるかで解説しています。
鑑定の結果を見せると言われたら、どう受け止めればよいですか?
結果の書面を示された場合は、鑑定を行った機関の名称、検体の種類と採取日、鑑定を依頼した者、照合した相手方の検体が何かを確認します。あなたの検体を提出していないのに「一致した」とされている場合は、何と何を照合したのかが特に重要です。書面の写しを受け取れるかを尋ね、その場で支払いや書面への署名には応じずに、弁護士に内容を見てもらうことをお勧めします。
まとめ
- 店やキャストには客の身体から検体を採る権限がなく、店から求められたDNA鑑定に応じる法律上の義務はない。
- 警察からの求めは性質が異なり、任意の段階を過ぎて令状に基づく場合には、拒んだときの規定が置かれている(刑事訴訟法137条〜139条、同法222条1項)。
- DNA鑑定で照合するには客自身の検体が必要であり、店の求めに応じることは照合の材料を差し出すことを意味する。
- DNA型が一致しても裏づけられるのは接触があったことまでで、検出された場所や資料の種類によって意味が変わる。
- 同意があったかどうかは鑑定からは分からず、当日のやり取りや前後の言動から判断される(刑法177条)。
- 鑑定の話が支払いと引き換えに持ち出される場合、告げ方によっては恐喝や脅迫が問題になり得る(刑法249条、同法222条)。
- 条件付きの支払いの書面や鑑定費用の負担には、その場で応じないことが大切である。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。店から「DNA鑑定をする」と言われた段階でも、検体の扱いや鑑定の中身を確かめたうえで、応じるかどうかを含めて対応を一緒に考えることができます。
本番をしていないのに疑いをかけられている方も、行為の一部に心当たりがあり今後の見通しが気になる方も、返事をする前にご相談ください。早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。


