風俗店・ホテルでの盗聴は犯罪?成立し得る罪と客側の対処法
この記事は、2026年10月1日時点の民法、刑法、個人情報保護法の規定に基づいて書いています。令和7年6月1日の刑法改正の施行により、懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されており、法定刑はその表記で記載しています。
「店から、キャストが性病にかかったのはあなたが原因だと言われた。治療費と休業補償を払えと言われているが、自分には症状がない」「キャストの検査結果の写真を送られてきたが、これだけで自分のせいになるのか」。風俗店やメンズエステの利用をめぐるご相談の中には、利用後しばらくしてから、感染の原因を指摘されて金銭を求められたというものがあります。
性病(性感染症)をうつした場合に、傷害罪や損害賠償責任が問題になり得ることは、多くの解説で紹介されているとおりです。この説明自体は誤りではありません。ただ、実際に請求を受けた方が直面するのは、「相手の検査結果を示されたが、それが何を意味するのか」「自分も検査を受けるべきか、その結果を相手に見せるべきか」という、検査結果の扱いをめぐる具体的な判断です。
この記事では、風俗店の利用客がキャストや店から「性病をうつした」と言われた場面に絞り、検査結果が法的に何を示し何を示さないのか、自分の検査をどう扱うか、そして請求にどう向き合うかを整理します。反対に、利用客の側がうつされた場合の請求は風俗で性病をうつされた|損害賠償請求はできるのかで、避妊の有無そのものが争点になる場面は避妊の有無が争点になる場面|感染・妊娠の主張と請求で扱っています。
「うつした」と言われたとき、法的に問われていること
民事の請求では、要件を示すのは請求する側
性病をうつしたことを理由とする金銭の請求は、法的には不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)として整理されます。請求が認められるには、故意または過失があったこと、その行為によって感染したこと(因果関係)、損害が生じたことが必要です。
これらの要件を示す責任は、基本的に請求する側にあります。「あなたが原因だ」と言われたからといって、うつしていないことを利用客の側で証明しなければならないわけではありません。ただし、交渉の場では「証明できないなら払わない」という一点張りでは話が進まないことも多く、後で述べるように、自分の側の材料を整えておくことが結果的に解決を早めます。
刑事の面|傷害罪と過失傷害罪の違い
性病を感染させる行為については、暴行によらずに病気を感染させた場合にも傷害罪が成立するとした判例があります(最高裁昭和27年6月6日判決)。傷害罪の法定刑は15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(刑法204条)。もっとも、傷害罪が成立するには、自分が感染していることを認識しながら行為に及んだといった故意が必要です。
故意がなく過失にとどまる場合は過失傷害罪(同法209条1項)が問題になり、法定刑は30万円以下の罰金または科料です。過失傷害罪は告訴がなければ起訴できない親告罪とされています(同条2項)。自覚症状もなく、感染を知らなかった利用客について、直ちに重い刑事責任が問われるという見方は、実態とずれていることが多いといえます。
相手の検査結果は何を示し、何を示さないのか
陽性の結果が示すのは「感染している」ことまで
キャストの検査で陽性の結果が出ていることは、キャストがその時点で感染していることを示す資料にはなります。しかし、その結果だけでは、誰から、いつ感染したのかまでは分かりません。性感染症は性行為以外の経路で感染することもあり、日常的に複数の客と接する仕事であれば、感染の機会は一つに限られません。
検査結果は「感染の事実」を示す資料であって、「あなたが原因であること」を示す資料ではないという区別が、請求に向き合う際の出発点になります。店から「あなたの後に陽性が出た」と言われても、それは時間の前後を述べているにすぎず、因果関係そのものを示すものではありません。
検査日・診断日と利用日の前後関係
検査結果を読むときに重要なのは、日付の関係です。性感染症には、感染してから検査で陽性として検出できるようになるまでの期間(いわゆるウインドウ期間)や潜伏期間があり、その長さは病気の種類によって異なります。利用日から検査日までの間隔が短すぎる、あるいは長すぎる場合には、利用日に感染したという説明と整合しないことがあります。
また、キャストが直前にいつ検査を受け、そのときの結果がどうだったかも意味を持ちます。店が定期検査を行っている場合、前回の検査日と結果、利用日、今回の検査日を並べてみると、感染の時期として考えられる幅が見えてきます。医学的な評価が必要な場面では、医師の意見を確認することも検討します。
確認を求めてよい資料
請求を受けた側として、根拠となる資料の提示を求めることは正当な対応です。確認したい主な資料は次のとおりです。
| 資料 | 確認したい点 |
|---|---|
| キャストの診断書・検査結果 | 病名、検査日、診断日、医療機関名 |
| 前回の定期検査の記録 | 検査日と結果(陰性が確認されていた時期) |
| 利用日の記録 | 予約・受付の記録、サービスの内容 |
| 治療費などの領収書 | 金額、通院日、治療の内容 |
| 休業を求める根拠 | 医師の指示か、店の判断か |
なお、キャストの検査結果は病歴に関する情報であり、慎重な扱いが求められる情報です。提示を求める際も、必要な範囲に限り、弁護士を通じて確認するなどの配慮をすることで、相手の反発を招かずに話を進めやすくなります。
自分の検査をどう受け、結果をどう扱うか
早めの受診と、検査の時期の意味
「うつした」と言われたら、まずはご自身の健康のためにも、泌尿器科や性感染症内科などを受診して検査を受けることをおすすめします。性感染症には自覚症状が乏しいものもあるため、症状がないことだけで感染していないとは言い切れません。
法的な観点からは、いつ受けた検査なのかが結果の意味を左右します。利用日からの経過期間が短い時点での陰性は、ウインドウ期間の関係で評価が限られることがあります。どの時期にどの項目を検査すべきかは、受診先で利用日などの事情を伝えたうえで医師に確認してください。受診日、検査項目、結果が分かる書類は、後の交渉に備えて保管しておきます。
陰性・陽性それぞれの結果の読み方
自分の検査結果が交渉にどう影響するかは、結果の内容と時期によって異なります。
| 自分の結果 | 交渉での意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 適切な時期の検査で陰性 | うつしたとする主張と整合しない有力な材料になる | 検査時期と項目が合っているかが問われる |
| 陽性(相手と同じ病気) | 感染の時期が近いことはうかがえる | どちらからどちらへ感染したかは結果だけでは分からない |
| 陽性(相手と別の病気) | 相手の病気の原因とする主張とは結びつきにくい | 自分の治療は別途進める必要がある |
自分も陽性だった場合、「やはりあなたが原因だ」と言われることがありますが、同じ病気に感染していることは、相手から自分がうつされた可能性とも両立します。どちらの方向の感染なのかは、それぞれの検査時期や過去の結果を突き合わせて考えることになります。
結果を相手に渡すかどうか|渡す場合の範囲と条件
交渉の段階で、自分の検査結果を相手に提出する法的な義務はありません。一方で、陰性の結果を示すことで、請求が取り下げられたり、話合いが早くまとまったりすることもあります。渡すかどうかは、結果の内容と、相手が受け取った情報をどう扱うかの見通しを踏まえて判断します。
渡す場合は、検査日・項目・結果が分かる部分に限り、住所など不要な情報は伏せることを検討します。検査結果は病歴として個人情報保護法上の要配慮個人情報にあたり(個人情報保護法2条3項)、事業者が取得するには原則として本人の同意が必要とされています(同法20条2項)。店に渡す場合には、使用目的をこの件の確認に限ることや、終了後に返還・削除することを書面で取り決めておくと、情報が独り歩きするおそれを抑えられます。自分の側の記録の整え方は、【風俗トラブル】自分側の記録をどう作るか|相談の前に整理しておく材料でも扱っています。
請求の中身を項目ごとに分けて考える
治療費・検査費・慰謝料
仮に因果関係が認められる場合でも、請求できる損害の範囲には限りがあります。一般に問題になるのは、治療費、検査費、通院の交通費、そして精神的苦痛に対する慰謝料です。治療費は領収書などで実際にかかった金額が確認できる範囲が基本となり、慰謝料の額は病気の種類や治療期間などによって大きく変わります。
裁判例の中には、避妊具を使用しなかったことを過失と認め、30万円の賠償を命じたものがあります(東京地裁平成28年6月29日判決)。治療で治る病気について、数百万円といった額が当然に認められるわけではないことは、請求額を見るうえで押さえておきたい点です。項目ごとの考え方は、治療費・検査費・休業損害は認められるのか|請求項目別の検討で詳しく整理しています。
店が求める「休業補償」「営業損害」
店から、キャストが出勤できなくなった期間の売上の補償を求められることがあります。しかし、キャスト本人の損害と店の損害は別のものです。キャストが休んだことによる店の営業上の損失は、利用客の行為から直接生じた損害とはいえないことが多く、当然に請求が認められるものではありません。
また、休業の期間が医師の指示によるものか、店の判断によるものかによっても評価は変わります。請求の名目が誰の、どの損害なのかを切り分けることが大切です。この点は誰に払うのか|店の損害とキャスト個人の損害は別もあわせてご覧ください。
過失の有無と、避妊具の使用
故意がない場合に責任が問われるかどうかは、過失の有無によります。自分の感染を疑うべき事情があったのか、避妊具を使用していたのかといった事情が考慮されます。一方で、性感染症のリスクは接客を行う側も一定程度予見できる事情であり、店が感染予防の対策をどこまで講じていたかが、損害の分担を考える際に考慮されることもあります。
なお、サービスの内容によっては、感染の主張をきっかけに、店の禁止する行為があったかどうかが問題にされる場合があります。その場合は感染の問題とは別に検討が必要になるため、事実関係を整理したうえで対応を考えます。
請求への向き合い方|その場で決めないための順序
その場で認めない・払わない・署名しない
店から呼び出されたり、電話で強く求められたりすると、早く終わらせたい気持ちから、原因を認める発言をしたり、念書に署名したりしてしまうことがあります。しかし、因果関係が分からない段階で「自分のせいです」と認めたり、金額の入った書面に署名したりすると、後から争うことが難しくなるおそれがあります。
まず検査結果と請求の根拠を確認し、自分も検査を受けてから判断するという順序を守ることが大切です。その場では「確認してから回答します」と伝えるにとどめ、身分証の提示や撮影を求められても慎重に対応します。支払いを約束する前の確認事項は支払を約束する前に確認する5点|口頭の約束はどこまで拘束するかでまとめています。
「警察に行く」「家族に知らせる」と言われたとき
請求の中で「払わなければ警察に行く」「家族や会社に知らせる」と告げられることがあります。損害の賠償を求めること自体は正当な権利行使ですが、その方法が社会通念上許される範囲を超え、相手を畏怖させて金銭を払わせる場合には、恐喝罪が成立し得ると考えられています(最高裁昭和30年10月14日判決)。
ただし、こうした言葉があったからといって、請求のすべてが不当になるわけではありません。感染の事実が確認できる場合には、相手の立場にも配慮しながら、根拠のある部分とそうでない部分を分けて話を進めることになります。境界の考え方は店の請求が恐喝に変わる線引き|正当な権利行使との境界で扱っています。
合意する場合に入れておきたい条項
検討の結果、一定の金額を支払って解決する場合には、口頭ではなく書面で合意しておくことが大切です。性病をめぐるトラブルでは、通常の示談の条項に加えて、検査結果などの健康情報の扱いを定めておくことに意味があります。
- 合意した金額のほかに、互いに請求しないこと(清算条項)。
- この件について被害届や告訴をしないこと。
- キャスト本人と店の双方が当事者となるか、双方の損害を含む形にすること。
- 交換した検査結果などの情報を、この件以外に使わず、返還または削除すること。
- この件を第三者に話さないこと(口外禁止)。
店とだけ合意しても、キャスト本人から別に請求される余地が残る場合があります。誰と、何について合意するのかを確認することが、蒸し返しを防ぐうえで重要です。条項の全体像は風俗トラブルの示談書に必ず入れる6条項|抜けると後で効かないをご覧ください。
よくあるご質問
自分には症状がないのですが、それだけで「うつしていない」と言えますか。
症状がないことだけでは、感染していないとまでは言えません。性感染症には自覚症状が乏しいものもあるためです。ご自身の健康のためにも、利用日などの事情を医師に伝えたうえで、適切な時期に検査を受けることをおすすめします。その結果が、交渉での重要な材料になります。
店から自分の検査結果を提出するよう求められました。応じる必要がありますか。
交渉の段階で提出する法的な義務はありません。陰性の結果を示すことで話が早くまとまる場合もありますが、渡すのであれば必要な部分に限り、使用目的や返還・削除について取り決めてからにすることをおすすめします。弁護士を通じて提示すれば、情報の扱いを管理しやすくなります。
キャストの診断書を見せられました。もう支払うしかないのでしょうか。
診断書は、キャストが感染していることを示す資料にはなりますが、利用客が原因であることまでは示していません。検査日や前回の検査結果との関係、請求項目ごとの根拠を確認する余地があります。同種のトラブルについては、【解決事例】デリヘル利用後の性感染症トラブルを解決金50万円・約1週間のスピード示談で解決もご参照ください。
まとめ
- 性病をうつしたことを理由とする請求は不法行為(民法709条)として扱われ、故意・過失、因果関係、損害を示す責任は基本的に請求する側にある。
- 性病を感染させる行為には傷害罪が成立し得るが(最高裁昭和27年6月6日判決・刑法204条)、故意が必要であり、過失にとどまる場合の過失傷害罪は罰金・科料のみで親告罪である(同法209条)。
- 相手の陽性結果が示すのは感染の事実までで、誰から、いつ感染したかは、検査日・前回の検査結果・利用日を並べて考える必要がある。
- 自分の検査は時期によって意味が変わるため、事情を医師に伝えて適切な時期に受け、受診日・項目・結果の分かる書類を保管する。
- 自分の検査結果を渡す法的な義務はなく、渡す場合は必要な範囲に限り、使用目的と返還・削除を取り決める(個人情報保護法2条3項・20条2項)。
- 請求は治療費・検査費・慰謝料・店の営業損害などの項目ごとに分け、キャスト本人の損害と店の損害を区別して検討する。
- 合意する場合は、清算条項や口外禁止に加え、健康情報の扱いを定め、キャスト本人と店の双方を含めて蒸し返しを防ぐ。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗店やメンズエステの利用をめぐるトラブルのご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。性病をめぐる請求についても、検査結果の確認から交渉、合意書の作成までご相談いただけます。
キャストや店から「性病をうつした」と言われ、どう対応すればよいか迷っている方、すでに金額を示されて回答を求められている方は、支払いや署名をする前の段階でご連絡ください。


