処分保留で釈放された|終わったわけではない状態
置き忘れられた財布を拾い、そのまま持ち帰って中身を使ってしまった。数日たってから急に不安になり、この先どうなるのかを調べている。この記事は、そうした状況で読まれることを想定しています。
この場面で問題になる罪名は、窃盗罪と遺失物等横領罪の二つです。同じ「拾った財布」でも、どちらにあたるかで法定刑も公訴時効も変わります。ただ、実際の事件では、罪名の線引きだけを見ていても足りません。拾った場所によって判断が変わることがあり、拾ったあとに何をしたかで別の罪が重なることもあるからです。
そこでこの記事では、二つの罪の分かれ目がどこにあるのかを、拾った場所と使い方という二つの角度から整理します。あわせて、落とし物の届出について定めた遺失物法と刑事責任がどのような関係にあるのかも取り上げます。
この記事が扱う場面
次のような場面を想定しています。
・路上や公園で財布を拾い、そのまま持ち帰った
・店や駅の中で拾った財布を、届けずに持ち帰った
・中の現金だけを取り出し、財布は交番や店に届けた
・財布に入っていたカード類を使った
いずれも「拾った」という点は同じですが、あとで述べるとおり、法律上の評価は同じにはなりません。
窃盗罪と遺失物等横領罪では何が変わるのか
はじめに、二つの罪の位置づけを確認します。
| 項目 | 窃盗罪 | 遺失物等横領罪 |
|---|---|---|
| 条文 | 刑法235条 | 刑法254条 |
| 法定刑 | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 1年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金若しくは科料 |
| 公訴時効 | 7年 | 3年 |
| 未遂の処罰 | 規定あり(刑法243条) | 規定なし |
拘禁刑は、従来の懲役と禁錮を一本化した刑で、2025年6月1日に施行されました。古い記事では懲役と書かれていることがありますが、現在の条文の表記は拘禁刑です。
二つの罪の違いは、対象となる物が「他人の占有する財物」なのか、「占有を離れた他人の物」なのかという点にあります。言い換えると、拾い上げたその瞬間に、その財布へ誰かの支配が残っていたかどうかが分かれ目になります。
分かれ目は「拾った瞬間に占有が残っていたか」
刑法でいう占有は、その物を現実に手に持っている状態に限られません。持ち主の支配が及ぶ場所にその物がある、といえれば占有は認められます。そのため、置き忘れられてから間もない財布には、まだ持ち主の占有が残っていると判断されることがあります。
この点について、公園のベンチに置き忘れられたポシェットを持ち去った事案の最高裁決定があります(最決平成16年8月25日)。被害者がベンチから約27メートルしか離れていない場所まで歩いて行った時点で持ち去られたという事実関係のもとで、被害者がポシェットのことを一時的に失念したまま現場から立ち去りつつあったことを考慮しても占有はなお失われていないとされ、窃盗罪の成立が認められました。
一方で、スーパーマーケットの6階のベンチに置き忘れた財布について、被害者が地下1階まで移動していた事案では、被害者の占有を否定した裁判例があります(東京高判平成3年4月1日)。
時間と距離だけで決まるわけではない
この二つを見比べると、経過時間や距離が判断材料になっていることが分かります。ただし、何分・何メートルという数値の基準が定められているわけではありません。置き忘れられた物の性質、その場所の状況、持ち主がすぐに戻れる状態にあったかといった事情を合わせて判断されます。
そのため、拾った側からすると、拾った時点で自分の行為がどちらにあたるのかを見分けるのは難しいのが実情です。「持ち主はもう遠くにいたはずだ」という感覚と、法律上の判断が食い違うことは珍しくありません。
もう一つの占有|拾った場所を管理している人
ここまでは持ち主の占有の話でした。ところが、拾った財布の事件では、もう一つの占有が問題になります。その場所を管理している人の占有です。
持ち主が財布のことをすっかり忘れて遠くまで離れていたとしても、拾った場所が誰かの管理下にあれば、管理者の占有が認められて窃盗罪と評価されることがあります。
| 拾った場所 | 占有が問題になり得る相手 |
|---|---|
| 路上・公園 | 持ち主 |
| 店舗の店内・レジ周り | 持ち主と店舗の管理者 |
| ホテル・旅館の館内 | 持ち主と施設の管理者 |
| 会社・学校の建物内 | 持ち主と施設の管理者 |
| ゴルフ場などの施設内 | 持ち主と施設の管理者 |
| 電車内・駅構内の公共スペース | 持ち主が中心となる傾向 |
実際の裁判例でも、スーパーマーケットのセルフレジに客が置き忘れた財布について、店長によって管理・占有されていたと認めた原判決の判断に誤りはないとされたものがあります(東京高判令和4年7月12日)。古いものでは、銀行の事務室内で落とされ遺留された札束に銀行の占有を認めた判例(大判大正8年4月4日)、ゴルフ場のロストボールにゴルフ場の占有を認めた決定(最決昭和62年4月10日)があります。
反対に、公共的な場所では管理者の占有が認められにくい傾向があります。電車の網棚に置き忘れられた物について、鉄道会社の占有を否定した判例があります(大判大正15年11月2日)。
つまり、同じ「財布を拾った」という行為でも、路上で拾ったのか、店の中で拾ったのかによって、成立し得る罪名が変わることがあります。持ち主が遠くにいたことだけを理由に遺失物等横領罪にとどまると考えるのは、場面によっては当てはまりません。
拾った時点と、自分の物にした時点は別
財布を拾い上げる行為そのものは、それだけでは罪になりません。届けるつもりで拾ったのであれば、その時点では犯罪は成立していないからです。
問題になるのは、自分の物にしようという意思、法律上は不法領得の意思と呼ばれるものが、いつ生じたかです。届けるつもりで拾ったものの、途中で気が変わって中身を使ったという場合には、その時点で罪の成立が問題になります。
この点は、取調べで詳しく確認される部分でもあります。拾ってすぐ中を確認したのか、しばらく持ち歩いてから使ったのか、届けようとした形跡があるのかといった事情が、意思がいつ生じたかの判断材料になります。記憶が薄れないうちに、時系列を書き出しておくとよいでしょう。
「使った」中身によって別の罪が重なることがある
拾った財布の事件で見落とされやすいのが、財布の中身をどう使ったかという点です。拾ったこと自体の罪とは別に、使った行為が独立した罪として評価されることがあります。
現金を使った場合
現金をそのまま使った場合、通常は、拾った時点で成立した罪の中で評価されます。使ったこと自体が新たな罪として上乗せされるわけではありません。ただし、使ってしまえば現物の返還はできなくなるため、被害の回復という面では不利にはたらきます。
クレジットカードを店で使った場合
カードを店頭で提示して商品やサービスの提供を受けた場合には、加盟店に対する詐欺罪(刑法246条1項)が問題になります。名義人になりすまし、正当な利用権限があるように装ったと評価されるためです。
最高裁は、名義人からカードの使用を許されていたという事情があったとしても詐欺罪の成立は左右されないとしています(最決平成16年2月9日)。名義人の承諾がある場合ですらそう判断されているのですから、拾ったカードを使った場合はより直接に問題になります。詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、拾ったこと自体の罪より重く定められています。
ネット通販などで使った場合
カード情報を決済画面に入力して買い物をした場合は、人を欺いたわけではないため、電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)の問題として扱われます。法定刑は詐欺罪と同じく10年以下の拘禁刑です。電子マネーへのチャージも同じ枠組みで検討されます。
キャッシュカードで現金を引き出した場合
暗証番号が分かるなどしてATMから現金を引き出した場合は、相手が機械であるため詐欺罪ではなく、窃盗罪の問題になります。この場合、現金を管理している金融機関が被害者という位置づけになります。財布の持ち主とは別に、弁償や示談の相手が増える可能性があるという意味でも、影響の大きい行為です。
このように、「拾った」という一つの出来事から出発しても、その後の行動によって関係する罪名と相手方が増えていきます。取調べで拾った場面の説明ばかりに時間を使い、使った先の話が整理されないまま進んでしまうこともあります。
現金だけ抜いて財布は届けた場合
実際に相談が多いのが、中の現金だけを取り出し、財布は交番や店に届けたという型です。届けているのだから問題はないだろうと考えてしまいがちですが、法律上の評価は、財布と現金を分けて行われます。財布を届けたことは、現金について生じた責任を消すものではありません。
むしろ、届け出た記録が残っているため、誰が拾ったのかはすぐに分かります。持ち主が中身の不足に気づいて届け出れば、拾得者として記録されている人に確認が向かうという流れになります。
この段階で説明を変えたり、拾っていないと述べたりすると、その後の主張の信用性に影響します。事実をどう説明するかは、早い段階で弁護士と相談しておいたほうがよい部分です。
遺失物法の期限と、刑事責任は別の仕組み
落とし物については、刑法とは別に、遺失物法が拾得者の義務を定めています。この二つは連動していないため、分けて理解しておく必要があります。
遺失物法は、拾得者に対し、速やかに遺失者に返還するか、警察署長に提出することを求めています(遺失物法4条1項)。店や駅など施設の中で拾った場合は、速やかにその施設の占有者に交付することとされています(同条2項)。
そして、拾った日から1週間以内に提出しなかった場合や、施設内で拾って24時間以内に交付しなかった場合には、拾得者としての権利を失います(同法34条2号・3号)。ここでいう権利とは、費用を請求する権利、報労金を請求する権利、持ち主が現れなかったときに所有権を取得する権利です。報労金は、物件の価格の5パーセントから20パーセントの範囲とされています(同法28条)。
注意したいのは、この期限を過ぎたこと自体には、遺失物法上の刑罰が定められていないという点です。届出が遅れたから犯罪になる、という関係ではありません。刑事責任が問題になるかどうかは、自分の物にする意思をもってその支配下に置いたかどうかで判断されます。
他方で、拾った物件を横領したことにより処罰された者は、拾得者としての権利を失うことが条文に定められています(同法34条1号)。刑事の結果が、拾得者としての権利にも及ぶという形でつながっているわけです。
なお、カード類、身分証、携帯電話などは、持ち主が現れないまま3か月が経過しても、拾得者が所有権を取得することはできません(同法35条)。個人の情報が記録された物として扱われるためです。持ち主が見つからなければいずれ自分の物になったはずだ、という理解は、財布の中身については当てはまらない部分があります。
被害者が誰か分からないという事案特有の問題
拾った財布の事件では、こちらから持ち主に連絡を取ることができません。捜査機関が被害者の連絡先を伝えるのは、依頼を受けた弁護人に限られるためです。謝罪や弁償をしたいと考えても、自分で動ける範囲は限られます。
また、店舗や施設の管理者の占有が問題になる事案では、持ち主と施設の双方が関係者になることもあります。誰に対して何を回復すべきなのかを整理しないまま動くと、かえって話がまとまりにくくなります。
いま整理しておくとよいこと
次の点をメモにまとめておくと、相談の際に話が早く進みます。
・拾った日時と拾った場所(屋外か、店や駅など施設の中か)
・拾ったときの周囲の状況(持ち主らしき人が近くにいたか、どのくらいそこに置かれていたように見えたか)
・拾ったあとの行動(届けようとしたか、いつ中を確認したか)
・使った物の内訳(現金の額、カードの使用先と回数、引き出しの有無)
・手元に残っている物(財布本体、カード、レシート、購入した品物)
・警察や店から連絡があったか、あった場合の日時と内容
使ってしまった現金についても、金額を思い出せる範囲で書き出しておくと、弁償の準備を進めやすくなります。
まとめ
・拾った財布については、窃盗罪と遺失物等横領罪のどちらにあたるかが問題になり、法定刑と公訴時効が異なる
・分かれ目は、拾い上げた瞬間にその財布へ誰かの占有が残っていたかどうか
・持ち主の占有は、置き忘れから間もない段階では残っていると判断されることがある
・拾った場所が店舗や施設の中であれば、管理者の占有が認められて窃盗罪となる場合がある
・拾い上げる行為そのものは罪ではなく、自分の物にする意思がいつ生じたかが判断の対象になる
・カード類を使った場合は、詐欺罪、電子計算機使用詐欺罪、窃盗罪といった別の罪が重なることがある
・現金だけ抜いて財布を届けた場合も、現金についての責任は残る
・遺失物法の届出期限と刑事責任は別の仕組みで、期限を過ぎたこと自体に刑罰の定めはない
拾った財布の事件は、軽い出来心だったという説明だけで片づく場面ばかりではありません。拾った場所と使った先によって、成立し得る罪名も、向き合うべき相手も変わってきます。警察から連絡があった段階、あるいは連絡が来る前の段階で、事実関係を整理し、どう説明するかを検討しておくことが、その後の見通しを左右します。判断に迷う点があれば、早めに弁護士にご相談ください。


