家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやること
スマートフォンに、見覚えのない番号からの不在着信が残っている。調べてみると、どうやら警察署の番号らしい——。そんなとき、多くの方が最初に迷うのが「折り返すべきか」、そして「折り返すとして、何をどこまで話せばいいのか」という点です。
警察からの電話は、事件の当事者としての呼び出しとは限りません。落とし物が届いたという連絡、家族に関する知らせ、目撃者としての協力依頼など、内容はさまざまです。他方で、近年は警察官を名乗る詐欺の電話が大きく増えており、「警察署の番号からの着信だから本物だ」と言い切れない状況にもなっています。
この記事では、折り返しの電話をかける前に確認しておきたい3つのことを、刑事事件を扱う弁護士の視点から整理します。慌てて折り返す前に、数分だけ目を通してみてください。
なぜ「折り返す前」が分かれ目になりやすいのか
折り返しの電話は、単なる連絡の返信ではありません。相手が本物の警察官であれば、そこで交わした会話は捜査の一部として扱われ得ますし、相手が警察官を装った人物であれば、折り返した時点で相手の想定した流れに乗ることになります。あとから「あのとき言わなければよかった」となりやすいのが、この最初の一本です。
逆にいえば、折り返す前に整理しておくべきことは、それほど多くありません。次の3点です。
- その番号に、そのままかけ直してよいか
- 自分はどの立場で呼ばれているのか
- その電話で「決めること」と「決めないこと」を分けられているか
順に見ていきます。
確認1:その番号に、そのままかけ直してよいか
着信画面の番号は、相手が警察であることの裏づけにはならない
多くの警察署の代表番号は下4桁が「0110」で終わりますが、この番号を装って表示させる手口が確認されています。警察庁も、実在する警察署の電話番号が表示されていても本物と信じ込まず、警察署や警察相談専用電話に相談するよう呼びかけています。
また、令和7年に特殊詐欺の犯行に使われた電話番号は、国際電話番号が全体の約75%を占めていました。頭に「+」が付いた番号、非通知、自動音声のガイダンス、LINEなどのアプリからの通話は、それだけで警戒する材料になります。
かけ直す先は「自分で調べた番号」にする
実務上、いちばん確実なのは、着信履歴の番号や相手が指定してきた番号ではなく、自分で調べた警察署の代表番号にかけ直すことです。都道府県警察の公式サイトで署名を検索すれば、代表番号は確認できます。
その際は、代表番号にかけたうえで「○○課の△△さんという方から連絡をいただいたのですが」と伝え、取り次いでもらいます。本当に担当者がいるかどうかが、この一手間で分かります。
なお、電話を受けている最中であっても、「一度切って、こちらからかけ直します」と伝えて構いません。警察庁も、所属と担当者名を聞いたうえでいったん電話を切ってよいと案内しています。
この種の言葉が出たときは、いったん止まる
警察官を名乗る詐欺では、次のような要素が組み合わされる傾向があります。ひとつでも当てはまる場合は、折り返す前に立ち止まった方がよいでしょう。
- 口座番号、暗証番号、資産の状況を尋ねられた
- 「捜査に必要」「潔白を証明するため」などの名目で、現金や貴金属の提出を求められた
- LINEやSNS、ビデオ通話への切り替えを求められた
- 画面越しに警察手帳や逮捕状らしきものを示された
- 郵便で「逮捕状」と称する書面が届いた
- 「家族にも話してはいけない」と口止めをされた
- 電話やビデオ通話でそのまま取調べを行うと言われた
警察庁は、電話やビデオ通話で取調べを行うことはないとして注意を呼びかけています。また近年は、嫌疑を晴らす名目でわいせつな行為を求める事案や、金地金をだまし取る事案も報告されています。
「自分は高齢ではないから関係ない」と考えるのも早計です。令和7年の統計では、警察官等をかたる手口の認知件数は30代がもっとも多く、次いで20代でした。被害額は60代・70代に集中していますが、件数の面では若い世代が多く狙われています。
判断がつかないときの相談先
本物かどうか迷ったときは、緊急でない相談を受け付ける警察相談専用電話「#9110」に電話するか、最寄りの警察署の窓口に直接出向いて確認する方法があります。対面での確認は手間がかかりますが、番号の偽装や名乗りの偽装に影響されない点で確実です。
確認2:自分はどの立場で呼ばれているのか
同じ「話を聞きたい」でも、法律上の位置づけは違う
相手が本物の警察であることが確認できたら、次に整理したいのが「自分がどの立場で呼ばれているのか」です。ここが曖昧なまま話し始めると、想定していなかった方向に会話が進むことがあります。
| 電話での言われ方 | 考えられる立場 | 折り返しの段階で意識したいこと |
|---|---|---|
| 「○○の件でお話を伺いたい」 | 被疑者としての出頭要請の可能性 | 理由・日時・場所・持ち物。心当たりがあるなら、その場で詳細を語らない |
| 「参考までに」「目撃されていませんか」 | 参考人(目撃者など) | 協力できる範囲。途中で立場が変わることもある |
| 「被害届の件で」 | 被害者やその家族 | 今後の連絡方法と担当者の確認 |
| 「落とし物が届いています」 | 事務的な連絡 | 受け取りの方法と本人確認書類 |
被疑者として呼ばれている場合
警察は、捜査に必要があるときは被疑者に出頭を求めて取調べをすることができます(刑事訴訟法198条1項本文)。もっとも同じ条文のただし書は、逮捕・勾留されている場合を除き、出頭を拒み、また出頭後にいつでも退去できると定めています。
「被疑者としての呼び出しは断れない」と説明されることもありますが、条文上はそうではありません。ただし、拒めることと、拒み続けてよいことは別です。この点は後ほど触れます。
また、被疑者の取調べにあたっては、あらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなければならないとされています(同条2項)。
参考人として呼ばれている場合
目撃者などの参考人についても、警察は取調べを行うことができます(刑事訴訟法223条1項)。同条2項は198条1項ただし書などを準用しているため、参考人も出頭を拒むことができます。
注意したいのは、198条2項(供述を拒むことができる旨の告知)は準用されていない点です。つまり参考人の場合、その告知が法律上義務づけられているわけではありません。もっとも、自己に不利益な供述を強要されないという憲法38条1項の保障は、参考人にも及びます。
そして実務上、参考人として話を聞かれていた方が、途中から被疑者として扱われることもあります。心当たりのある事柄について尋ねられていると感じたときは、その場で説明を尽くそうとせず、いったん持ち帰る判断も選択肢に入ります。
用件を尋ねること自体は、何ら不自然ではない
折り返した際に、警察署名、部署名、担当者の氏名、用件の概要、出頭を求められているのかどうかを確認することは、まったく問題のない対応です。捜査上の理由から詳細を明かされないこともありますが、少なくとも「どういう趣旨の連絡か」を尋ねることに遠慮は要りません。
確認3:その電話で「決めること」と「決めないこと」を分けられているか
電話口で決めて差し支えないこと
- 担当者の氏名と連絡先
- 出頭を求められている日時の候補と場所
- 持参を求められている物
- 所要時間の目安
日程については、仕事や家庭の事情を伝えて調整を相談することができます。「指定された日時でなければならない」と思い込む必要はありません。
その場で急いで答えなくてよいこと
- 事件の内容についての詳しい説明
- やった・やっていないという認否
- 記憶があいまいな事実の断定
- スマートフォンやパソコンの任意提出に応じるかどうか
- 自宅への訪問を受け入れるかどうか
電話口でのやり取りも、担当者のメモとして残ります。緊張した状態で記憶を頼りに話した内容が、後の説明と食い違えば、その食い違い自体が問題にされることがあります。
「今は正確に思い出せない」と言ってよい
何か月も前の出来事について突然尋ねられて、細部まで正確に答えられる方はまずいません。無理に筋道を立てて話すよりも、「記憶を確認したうえで、改めてお話しします」と伝えるほうが、結果として正確です。あいまいなことをあいまいなまま伝えるのは、不誠実な態度ではありません。
折り返さないという選択にも、別のリスクがある
ここまで慎重な確認を勧めてきましたが、「怖いので放置する」という対応をお勧めしているわけではありません。相手が本物の警察であった場合、連絡を取らないまま時間が経つと、次のような展開が考えられます。
- 自宅宛てに呼出状が郵送される
- 警察官が自宅を訪問する
- 連絡が取れないため、勤務先や家族に連絡がいく
さらに、逮捕状は、逃亡や罪証隠滅のおそれなどを踏まえ、明らかに逮捕の必要がないと認められるときには発付されない仕組みになっています(刑事訴訟法199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)。裏を返せば、出頭要請に応じない状態が続くことは、その判断の材料になり得ます。
もっとも、「一度応じなかったから逮捕される」という単純なものでもありません。事案の内容、経緯、本人の生活状況などを総合して判断されます。過度に恐れる必要はありませんが、連絡を絶つことは、選べる手段を自分から減らす行為だと考えておくとよいでしょう。
折り返す前の5分でできる準備
- 静かで、周囲に会話が聞こえない場所に移動する
- メモとペン、または記録用のアプリを開いておく
- 思い当たる出来事があれば、日付と場所だけでも書き出しておく
- 通話を録音できる状態にしておく(自分が当事者である通話の録音は、記録として残す目的であれば通常は問題になりません)
- 当日と翌週の予定を確認し、動ける日を把握しておく
担当者名や指定された日時は、後で思い出そうとしても記憶が頼りにならないことが多く、記録が残っているだけで次の相談が進めやすくなります。
迷いやすい3つのケース
家族が代わりに電話を受けた
本人不在時に家族が応対することもあります。その場合、家族が事件の内容について答える必要はありません。署名・部署名・担当者名・連絡先を控えて「本人から折り返します」と伝えれば足ります。家族が推測で事情を説明してしまい、話がこじれるケースは少なくありません。
留守番電話に何も残っていない
警察が、相手のプライバシーに配慮してあえて伝言を残さないこともあれば、単に伝言を残さない運用のこともあります。伝言がないことを理由に「たいした用件ではない」と判断するのは早計です。番号を控え、自分で調べた代表番号にかけ直して確認するのが無難です。
勤務先にかかってきた
携帯電話につながらない状態が続くと、勤務先に連絡がいくことがあります。この段階になると、周囲に事情を知られる可能性が高まります。会社に説明するかどうか、するとして何をどこまで伝えるかは、事案の内容によって答えが変わるため、動く前に相談しておきたいところです。
折り返す前に弁護士に相談するという選択
「まだ何も分かっていない段階で相談してよいのか」と迷われる方は多いのですが、むしろこの段階の相談には意味があります。用件の内容から想定される立場を整理し、出頭に応じる際の注意点を確認しておくだけでも、その後の対応は落ち着いたものになります。
弁護士が関与した場合、警察との連絡窓口を弁護士が担い、出頭の日程調整を代わりに行うこともできます。取調室の中に弁護士が同席することは原則としてできませんが、当日に警察署まで同行し、出頭の前後に打ち合わせる時間を確保する運用は広く行われています。
当事務所では、初回のご相談を無料で承っており、24時間の受付体制をとっています。出頭や自首に同行する場合は全国への対応が可能です(移動にかかる費用は別途必要となります)。夜間・早朝についても、状況によって対応できる場合があります。
まとめ
警察からの着信に気づいたとき、確認しておきたいのは次の3点です。
- その番号に、そのままかけ直してよいか——着信番号ではなく、自分で調べた代表番号にかけ直す
- 自分はどの立場で呼ばれているのか——被疑者、参考人、被害者、事務連絡では、意味も権利も異なる
- その電話で「決めること」と「決めないこと」を分けられているか——日程は決めてよく、事実の説明は急がなくてよい
折り返さずに放置すれば、状況が良くなることはまずありません。他方で、確認をしないまま慌てて折り返すことにも、別のリスクがあります。数分の準備で、そのどちらも避けることができます。
心当たりのある事柄で連絡を受けた場合や、相手が本物かどうか判断がつかない場合は、折り返す前の段階でご相談ください。早い段階であるほど、選べる対応は多く残されています。


