勾留延長を止めるために家族ができること
取調べに弁護人が立ち会えるのかという疑問は、警察や検察から呼出しを受けた方や、家族が逮捕されたと聞いた方から、たびたび寄せられます。取調べは閉じた部屋で行われ、その場に誰がいるのかが、後になって供述の意味を左右することがあるためです。
結論から述べると、日本の刑事訴訟法には、弁護人の取調べへの立会いを権利として定めた規定がありません。他方で、立会いを禁じる規定も置かれていません。そのため、立会いを認めるかどうかは事案ごとの判断に委ねられており、実際に認められる例は限られています。
もっとも、「立会いはできない」という一言で終わらせてしまうと、この場面で使える手立てを見落とすことになります。以下では、法律上の位置づけ、申し入れる場合の考え方、立会いが認められないときに働く仕組み、明文で立会いに触れている場面、そして現在進んでいる制度見直しの議論を、順に整理します。
この記事で扱う範囲
取調べへの立会いといっても、誰がどの立場で聴かれるのかによって、前提となる規定が変わります。ここでは次の範囲を扱います。
- 被疑者として取調べを受ける場合の弁護人の立会い。
- 被害者や参考人として事情を聴かれる場合の付添い。
- 少年に対する質問や取調べにおける扱い。
- 立会いが認められないときに代わりに働く仕組み。
- 立会いの法制化をめぐる現在の議論。
出発点は「禁じる規定がない」ことにある
刑事訴訟法には、弁護人が取調べに立ち会う権利を認める条文がありません。同時に、立会いを禁止する条文も置かれていません。日本弁護士連合会も、これを禁じる規定がないにもかかわらず、捜査機関が立会いを認めることはほとんどない、という形で現状を説明しています。
つまり、立会いが実現しにくいのは、法律が正面から禁じているからではなく、認めるかどうかの判断が取調べを行う側に委ねられているからです。ここを押さえておくと、「法律で禁止されているのだから申し入れても仕方がない」という受け止め方が、正確ではないことが分かります。
もっとも、裁判例の中には、選任した弁護人を取調べに立ち会わせる権利が当然に認められるわけではなく、立会権を明文で定めた規定も最高裁の明確な判断も存在しないため、立会権があるという解釈は確立していない、と述べたものがあります。権利として主張して押し通せる状況にはない、という前提は共有しておく必要があります。
認めるかどうかを判断しているのは誰か
法務省が公表した資料や、法務省が開催した協議会で示された捜査機関側の説明によれば、立会いは禁じられておらず、認めるかどうかは、立会いの必要性と、取調べの機能を損なうおそれ、関係者の名誉やプライバシー、捜査の秘密が害されるおそれなどを考慮して、個々の事案に応じて判断されている、とされています。
ここから読み取れることは二つあります。一つは、判断の主体が取調べを行う側であり、被疑者の側に決定権はないということです。もう一つは、判断の材料として挙げられているのが、事件ごとの具体的な事情だということです。裏を返せば、事情を説明しないまま申し入れても、判断の材料が乏しいままになります。
なお、法務省は、弁護人を立ち会わせて取調べを実施した具体的な事例を把握していない、という趣旨の説明もしています。申入れが通る場面は、現状では広くないと考えておくのが現実的です。
場面によって前提が違う
| 場面 | 立会いに関する定め | 実務上の扱い |
|---|---|---|
| 逮捕・勾留中の被疑者の取調べ | 明文の規定なし | 事案ごとの判断。認められない例が多い |
| 在宅の被疑者の取調べ | 明文の規定なし | 事案ごとの判断。ただし退去はできる |
| 被害者・参考人としての聴取 | 明文の規定なし | 事案ごとの判断 |
| 触法少年に対する質問 | 立会いへの配慮を求める定めあり | 保護者等のほか付添人も対象となり得る |
同じ「立会い」という言葉でも、被疑者の取調べ、参考人としての聴取、少年に対する質問では、根拠となる定めも実務の扱いも異なります。以下、順に見ていきます。
被疑者の取調べで立会いを申し入れる場合
立会いを求めること自体は妨げられていません。実務では、弁護人が担当の捜査官や検察官に対し、書面で立会いを申し入れる方法が取られます。その際には、次のような点を具体的に示すことになります。
- なぜこの事件でこの人に立会いが必要と考えるのか。
- 供述する意思があるのかどうか。
- 取調べのどの範囲について立会いを求めるのか。
- 立会いが認められない場合に代わりに求めることは何か。
断られた場合には、申し入れた日時、相手、断られた理由を、そのまま記録に残しておきます。後に取調べの経過が問題になったとき、何をいつ申し入れ、それがどう扱われたのかという記録が、事実関係を確認する手掛かりになるためです。
立会いが認められなかったことをもって、弁護人が関与する意味がなくなるわけではありません。次に述べるとおり、取調べ室の外側で働く仕組みがいくつも用意されています。
立会いが認められないときに働く仕組み
立会人なしで面会できる接見
身体を拘束されている被疑者は、弁護人または弁護人となろうとする者と、立会人なしで面会し、書類や物のやり取りをすることができます。刑事訴訟法39条1項が定めるもので、選任届を出す前の段階でも使えます。取調べで何を聞かれたのかを確認し、次の取調べに向けて方針を整える場は、ここに置かれています。
取調べの最中に弁護士と話したいとき
取調べを受けている途中で弁護士と話したいと考えたときは、その場で捜査官にその旨を申し出ることになります。捜査機関は、捜査のために必要があるときに接見の日時を指定できますが、最高裁は、接見の申出があれば原則としていつでも機会を与えるべきであり、取調べ中などで捜査の中断による支障が大きい場合には、弁護人と協議して比較的近い時点を指定するなどの措置を取るべきだとしています。
立会いの代わりになるものではありませんが、取調べを一度区切って助言を受けるという選択肢が制度上あることは、知っておく意味があります。
在宅の場合は退去できる
逮捕も勾留もされていない場合、被疑者は出頭を拒むことができ、出頭した後もいつでも退去することができます。刑事訴訟法198条1項ただし書に定められています。取調べの途中で判断に迷ったときに、その場を離れて弁護士に連絡するという対応が取れるのは、この規定によります。
出頭に同行してもらう
取調べ室に入れない場合でも、弁護士が警察署や検察庁まで同行し、建物内で待機することはできます。事前に方針を確認し、終わった直後にその日のやり取りを整理できるため、記憶が新しいうちに経過を残せるという利点があります。
記録が残る形にできないかを考える
立会いが認められない場合、取調べの状況をどう記録に残すかが次の論点になります。取調べの録音・録画は、対象となる事件が法律で定められているほか、対象外の事件でも実施できる運用の枠があり、弁護人から実施を申し入れることもできます。応じるかどうかは捜査機関の判断ですが、申し入れた事実そのものは残ります。
このほか、被疑者本人が日々のやり取りを書き留めておく方法もあります。日付、取調べの時間、聞かれた内容、答えた内容を、その日のうちに書き残しておくと、後から経過を確認しやすくなります。
被害者や参考人として聴かれる場合
立会いの問題は、疑いをかけられた側だけのものではありません。被害を届け出た方や、事情を知る立場で呼ばれた方も、聴取の場では一人になります。
参考人についても、弁護士の立会いを認める規定はありません。一方で、参考人は出頭を拒むことができ、出頭した後もいつでも退去できます。刑事訴訟法223条2項が、被疑者に関する規定の一部を準用しているためです。
実務では、被害者の側から代理人が事前に警察や検察と連絡を取り、聴取の日程や場所、進め方について申し入れることが行われています。付添いが認められる例もありますが、あらかじめ確約されているものではありません。
少年の場合には立会いに触れた定めがある
立会いという言葉が明文で登場する場面もあります。14歳未満で刑罰法令に触れる行為をしたとされる少年について、警察が行う調査の質問では、少年警察活動規則により、適切と認められる者の立会いについて配慮するものとされています。
この「適切と認められる者」には、同居の親族、在学する学校の教員、一時保護をしている児童相談所の職員のほか、弁護士である付添人も含まれ得ると説明されています。ただし、立ち会わせるかどうかは個別の事案に即して判断されるとされており、当然に認められるものではありません。
14歳以上の少年に対する取調べには、これと同じ定めはありません。少年の特性に配慮して取り調べるべきことは犯罪捜査規範に定められていますが、立会いそのものを扱った規定ではない点に注意が必要です。
法制化をめぐる議論はどこまで来ているか
弁護士の側からは、以前から立会権を明文化するよう求める意見が出されてきました。日本弁護士連合会は、2018年に立会権の明定を求める意見書を法務大臣に提出し、2019年の人権擁護大会で立会いに関する宣言を採択したうえ、2021年に取調べ立会い実現委員会を設けています。2024年の定期総会でも、立会権の確立を求める決議が採択されました。
国の側でも議論は行われています。法務省が2022年から開催してきた協議会は、2025年7月に取りまとめ報告書を公表し、その中で取調べへの弁護人の立会いを一つの項目として取り上げました。報告書には、双方の意見が併記されています。
法制化を求める側の意見
供述を拒む権利が保障されている以上、立会いを条件として供述することもできるはずであり、被疑者または弁護人が申し出たときは立ち会わせなければならない旨を法制化すべきだ、という意見が示されました。取調べの機能を損なうおそれを理由に、弁護人の援助を受ける権利を制約することは許されない、という指摘もあります。
また、諸外国では一般に認められており、国連の委員会から繰り返し勧告を受けていること、録音・録画の下でも不適切な取調べが起きた例があることを挙げ、まずは限られた範囲で試行して検証すべきだ、という意見も出されました。
慎重な立場からの意見
これに対しては、立会いを権利として認めると、質問を遮る、個々の質問について黙秘を助言するといったことが想定され、取調べの機能が大きく減退するという意見が示されました。弁護人が立ち会えないときに取調べを行えなくなれば、身体拘束中の限られた時間の中で捜査を進めることが難しくなる、という指摘もあります。
さらに、各国の刑事手続はそれぞれの構造の中で成り立っており、一部だけを取り出して比較するのは適切でないこと、事案を選んで試行しても弊害を事前に把握することは難しいことなども挙げられました。
取りまとめの結び
報告書は、立会いを含む新たな制度についても幅広く議論したとしたうえで、政府に対し、新たな検討の場を設けて具体的な検討を行うことなどを期待する、と結んでいます。運用が変わったわけではありませんが、今後の検討の対象として明示された段階にあるといえます。
誤解されやすい点
この分野は、断片的な情報が広まりやすいところです。次の点は、混同されやすいので分けて考えてください。
- 立会いが認められないことと、弁護人に相談できないことは別である。
- 立会いを断られたこと自体が、その後の手続で不利に働くわけではない。
- 海外で認められていることが、日本の現在の運用をただちに変えるわけではない。
- 黙秘するかどうかは、立会いの可否とは別に判断する事柄である。
- 立会いが実現した事例が公表されていないことは、申し入れる余地がないことを意味しない。
相談する時期をどう考えるか
立会いを申し入れるかどうかを検討できるのは、取調べが始まる前か、始まって間もない時期に限られます。呼出しの連絡を受けた段階、あるいは家族が身体を拘束されたと分かった段階で相談しておくと、申入れの要否、供述の方針、記録の残し方をまとめて検討できます。
すでに何度か取調べを受けている場合でも、これまでのやり取りを整理し、次の取調べに向けて方針を立て直すことはできます。時期が遅れたからといって、できることがなくなるわけではありません。
まとめ
- 刑事訴訟法には、弁護人の取調べへの立会いを認める規定も、禁じる規定もない。
- 認めるかどうかは、必要性と捜査上の支障などを考慮して、取調べを行う側が事案ごとに判断している。
- 申し入れること自体は可能で、断られた場合はその経過を記録に残しておく。
- 立会いが認められなくても、接見、取調べ中の接見の申出、在宅での退去、出頭への同行といった仕組みが働く。
- 被害者や参考人として聴かれる場合も、立会いの規定はない一方で、出頭や滞留を拒むことはできる。
- 触法少年に対する質問については、適切と認められる者の立会いへの配慮を求める定めがある。
- 法制化については賛否の意見が示され、2025年7月の取りまとめで今後の検討課題として挙げられた。
取調べに弁護人が立ち会えるかどうかは、現状では見通しの立てにくい問いです。ただ、立会いの可否とは別に、取調べにどう向き合うかを事前に整えておくことはできます。呼出しや逮捕の連絡を受けた段階でご相談いただければ、その事件で取り得る手立てを一緒に確認できます。


