国選と私選はどう違う|途中で切り替えられるのか

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

勾留のあとに国選弁護人がついた、あるいはこれから弁護士を頼むにあたって「国選で足りるのか、私選にすべきか」で迷っている。刑事事件では、こうした場面で必ずといってよいほど「途中で変えられるのか」という疑問が出てきます。

 結論から述べると、国選から私選への切り替えは制度として想定されており、手続そのものは複雑ではありません。他方で、私選から国選へ移る方向は条件が限られます。また、切り替え以前に「国選弁護人がつかない時期」や「ついていた国選弁護人がいなくなる場面」もあります。

 この記事では、国選と私選の違いを整理したうえで、切り替えの可否・手続・タイミング・費用の考え方を、条文に沿って説明します。

国選と私選は「誰が選ぶか」だけの違いではない


できる活動の種類そのものに差はない


 国選弁護人も私選弁護人も、刑事事件で被疑者・被告人の側に立つ弁護人です。取調べへの助言、被害者との示談交渉、勾留に対する不服申立て、法廷での弁護といった活動は、どちらでも行えます。「国選だからこれはできない」という法律上の線引きがあるわけではありません。

 違いが出るのは、誰が選ぶか、いつからつくか、費用を誰が負担するか、そしてどうやって終わるかという点です。

項目国選弁護人私選弁護人
選任する主体裁判所または裁判官本人、または配偶者・直系の親族・兄弟姉妹など
弁護士を選べるか原則として選べない選べる
つき始める時期勾留された後、または起訴された後時期の制限がない(逮捕前や在宅の段階でも依頼できる)
要件資力などの要件がある要件はない
費用の負担国が負担(判決で訴訟費用の負担を命じられることがある)依頼者が負担
終わり方・交代裁判所または裁判官が解任する委任契約に基づいて終了する


当番弁護士は国選でも私選でもない


 混同されやすいのが当番弁護士です。これは各地の弁護士会が運営する制度で、逮捕された人のもとへ弁護士が一度、無料で接見に行くというものです。国が選任する国選弁護人とは別の仕組みで、その後も引き続き弁護活動を依頼するには、改めて私選の契約を結ぶか、勾留された後に国選を請求することになります。

国選弁護人がつく条件


起訴前は「勾留されていること」が前提


 起訴される前の段階、いわゆる被疑者国選は、被疑者に勾留状が発せられている場合に、請求により裁判官が弁護人を付するとされています(刑事訴訟法37条の2第1項)。対象となる事件の範囲は段階的に広がり、2018年6月からは勾留された全事件が対象になりました。

 裏を返せば、逮捕された直後の時間帯や、身柄を拘束されない在宅の捜査では、国選弁護人はつきません。この時期に弁護士の関与を求めるのであれば、当番弁護士を呼ぶか、私選で依頼するかのいずれかになります。「国選か私選か」を迷う以前に、国選という選択肢がまだ存在しない時期があるということです。

起訴後は在宅でも請求できる


 起訴された後の被告人国選は、被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときに、請求により裁判所が弁護人を付するとされています(36条)。身柄拘束の有無は要件ではないため、在宅のまま起訴された場合も請求できます。裁判所は起訴後、被告人に対してこの請求ができることを知らせる扱いになっています(272条)。

 また、死刑または無期もしくは長期3年を超える拘禁刑にあたる事件は、弁護人がいなければ開廷できません(289条1項)。この種の事件で私選がついていなければ、裁判所が国選を選任することになります。

資力の基準額と、先に私選を探す手続


 国選には資力の要件があります。現金と預貯金の合計が基準額である50万円以上ある場合には、あらかじめ弁護士会に私選弁護人選任の申出をしていることが、請求の前提とされています(36条の3第1項、37条の3第2項)。弁護士会から紹介を受けても受任してもらえなかったときに、国選の請求ができるという順序です。

 請求の際には資力申告書を提出します。裁判所や裁判官の判断を誤らせる目的で虚偽の記載をした場合には、過料の定めが置かれています(38条の4)。

国選から私選への切り替えはできる


弁護人の選任自体は、いつでもできる


 被疑者・被告人は、何時でも弁護人を選任することができます(30条1項)。配偶者、直系の親族、兄弟姉妹などは、本人とは独立して選任することができます(同条2項)。国選弁護人がついている状態でも、この権利がなくなるわけではありません。

解任するのは本人ではなく裁判所


 一方で、国選弁護人をやめさせる権限は本人にはありません。解任できるのは裁判所(起訴前は裁判官)で、その事由は次の五つに限られています(38条の3第1項)。

  1. 30条の規定により弁護人が選任されたことなど、弁護人を付する必要がなくなったとき
  2. 被告人と弁護人の利益が相反する状況にあり、職務を継続させることが相当でないとき
  3. 心身の故障その他の事由により、職務を行うことができず、または困難となったとき
  4. 弁護人がその任務に著しく反したことにより、職務を継続させることが相当でないとき
  5. 弁護人に対する暴行・脅迫その他被告人の責めに帰すべき事由により、職務を継続させることが相当でないとき


 「説明が少ない」「相性が合わない」といった不満は、それ自体では二号から五号に当てはまりにくいのが実情です。そのため、実際に弁護人が交代する経路として使われるのは一号、つまり私選弁護人を選任するという道になります。

本人や家族がする手続


 流れはおおむね次のとおりです。

  1. 私選で依頼する弁護士を探し、接見や面談を経て委任契約を結ぶ
  2. その弁護士が弁護人選任届を用意し、身柄拘束中であれば留置施設で本人の署名・押印(指印)を受ける
  3. 弁護士が選任届を捜査機関または裁判所に提出する
  4. 私選弁護人が就いたことを踏まえ、裁判所または裁判官が国選弁護人を解任する


 本人や家族が国選弁護人に対して解任を申し入れたり、その理由を説明したりする必要は、手続上はありません。事務的な連絡は、新たに依頼した弁護士が行うのが通常です。

「自動的に解任される」と言い切れるか


 条文は「解任することができる」という書き方をしており、解任するかどうかの判断は裁判所に委ねられています。実務上は、私選が就けば国選が解任される扱いが一般的ですが、審理の状況によっては、例外的に両者が併存する運用も報告されています。

 また、解任にあたっては、あらかじめ弁護人の意見を聴かなければならないとされ(38条の3第2項)、被告人の権利を不当に制限しないようにしなければならないとされています(同条3項)。手続の分だけ、切り替えには数日程度の幅が生じ得ると考えておくほうが実際に近いでしょう。

私選から国選へ戻すことはできるのか


私選がいる間は、国選はつかない


 国選の規定には、いずれもただし書があります。被告人以外の者が選任した弁護人がある場合(36条ただし書)、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合(37条の2第1項ただし書)には、国選は付されません。家族が依頼した私選弁護人がついている状態のまま、本人が国選を請求するという形は想定されていない、ということです。

契約を終了させたうえで請求する順序になる


 したがって、私選から国選へ移る場合は、まず委任契約を終了させ、そのうえで資力などの要件を満たすものとして国選を請求する、という順序をたどります。要件を満たすかどうかは裁判所や裁判官の判断であり、当然に認められるものではありません。

 公判が始まっている段階では、次の期日までに新しい弁護人が記録を把握できるかという問題も生じます。国選に戻す選択は、金銭的な負担が続けられなくなった場合など、必要に迫られて検討されることが多いのが実情です。

支払った費用は原則として戻らない


 私選の費用は委任契約に基づくものです。着手金は、事件処理に着手した時点で発生する性質のものとして扱われることが多く、途中で契約を終了しても返還されないのが一般的です。取り決めは事務所ごとに異なるため、契約の際に、終了した場合の精算方法まで確認しておくことになります。

段階ごとに見た「切り替えのしやすさ」


段階国選の可否切り替えを考えるうえでの実際
逮捕直後〜勾留前つかない国選という選択肢がないため、当番弁護士か私選かの判断になる
勾留中(起訴前)請求できる私選への切り替えは可能。捜査が進行中で、判断に使える時間は短い
起訴の前後被疑者国選はそのまま第一審へ引き継がれる方針を検討し直しやすい区切り
公判が始まった後ついている切り替えは可能だが、記録の引継ぎと期日の調整が必要になる
控訴審改めて選任される審級ごとに選任するため、選び直しの機会がある


釈放されると、被疑者国選は終わる


 見落とされやすいのが、勾留が解けたときの扱いです。被疑者に付された弁護人の選任は、被疑者が釈放されたときにその効力を失います(38条の2)。

 釈放されても捜査が終わったとは限らず、起訴するかどうかの判断が残っている場合があります。その期間も弁護活動を続けてもらいたいのであれば、私選で依頼し直すことになります。「切り替えるかどうか」ではなく「弁護人がいない状態になるかどうか」の問題として、あらかじめ確認しておきたい点です。

起訴されても弁護人が入れ替わるわけではない


 起訴の前にした弁護人の選任は、第一審においてもその効力を有します(32条1項)。被疑者の段階からついていた国選弁護人は、起訴された後もそのまま第一審の弁護人として活動するのが通常で、別の弁護士に交代するわけではありません。

 他方、起訴後の選任は審級ごとに行う必要があります(32条2項)。控訴するかどうかを検討する場面は、弁護人を選び直す自然な区切りになります。

切り替える前に整理しておきたいこと


不満の中身を分けてみる


 「国選弁護人に不満がある」と感じるとき、その中身は次のように分かれることが多いといえます。

  • 方針そのものへの疑問(認めるのか争うのか、示談を先行させるのか)
  • 連絡や説明の頻度に対する不満
  • 話し方や態度など、相性の問題
  • 制度上できることの限界を、熱意の問題として受け取っている場合


 このうち、説明を求めることで解消する部分は少なくありません。国選弁護人であっても、見通しや方針について説明を求めることはできます。説明を受けたうえで、方針の違いが本質だと分かったのであれば、それは切り替えを検討する理由になります。

決める前に、別の弁護士の見方を聞くこともできる


 身体の拘束を受けている人は、弁護人だけでなく、「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」とも、立会人なしに接見することができます(39条1項)。正式に依頼する前の段階でも、家族が頼んだ弁護士が接見して本人から話を聞ける、ということです。

 切り替えるかどうかを決める前に、事件の見通しについて別の弁護士の説明を聞いてみる、という進め方ができます。

期日が迫っているときの現実


 公判期日の直前に弁護人が代わる場合、新しい弁護人は記録を取り寄せ、内容を把握したうえで方針を組み立てる時間が必要になります。期日の変更が当然に認められるわけではないため、切り替えを考えるのであれば、早い段階のほうが取り得る選択肢は多くなります。

費用の考え方


国選も「まったく費用がかからない」とは限らない


 国選弁護人の報酬は国が負担します。ただし、刑の言渡しをしたときは、被告人に訴訟費用の全部または一部を負担させなければならないとされており(181条1項本文)、国選弁護人の費用も訴訟費用に含まれます。

 もっとも、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することができないことが明らかであるときは、この限りでないとされており(同項ただし書)、実務上は負担させない判断がされることも多くあります。負担を命じられた場合でも、貧困のため完納することができないときは、裁判が確定した後20日以内に、訴訟費用の執行免除を申し立てることができます(500条)。

私選の費用は契約で決まる


 私選の費用は、着手金や報酬金などの形で、事務所ごとに定められています。身柄事件か在宅事件か、認める事件か争う事件か、示談交渉の有無、公判の回数などによって幅があります。

 切り替えを検討する段階では、総額の見込み、その金額に含まれる活動の範囲、途中で終了した場合の精算方法の三つを、契約の前に確認しておくことをおすすめします。

よくある疑問


国選弁護人を自分で選ぶことはできますか


 できません。裁判所や裁判官の依頼を受けて日本司法支援センター(法テラス)が候補者を指名・通知し、そのうえで選任される仕組みになっており、特定の弁護士を指定する制度にはなっていません。

家族だけで切り替えを決められますか


 配偶者、直系の親族、兄弟姉妹などは、本人とは独立して弁護人を選任できます(30条2項)。ただし、弁護人選任届には本人の署名等が必要であり、本人の意思と食い違ったまま進めることは現実的ではありません。多くの場合、まず接見して本人の意向を確かめるところから始まります。

切り替えたことで不利に扱われませんか


 弁護人を選任することは法律上認められた権利であり、切り替えたこと自体が処分や量刑の判断材料になる性質のものではありません。ただし、手続の進行に影響が出る場合はあるため、時期の選び方には配慮が必要です。

国選弁護人に不満を伝えても大丈夫ですか


 方針や見通しについて質問し、意見を伝えること自体は差し支えありません。弁護人は本人の意向を踏まえて活動します。伝えたうえでなお納得できない場合に、切り替えという選択肢が出てくる、という順序で考えるとよいでしょう。

まとめ


  • 国選と私選は、選ぶ主体・つく時期・費用の負担・終わり方が異なり、できる活動の種類そのものに差はない
  • 国選は勾留された後か起訴された後にしか付されず、逮捕直後や在宅の段階では選択肢にならない
  • 国選から私選への切り替えは可能で、私選弁護人が選任されたことが解任事由とされている(38条の3第1項1号)
  • 解任するのは裁判所や裁判官であり、手続の分だけ時間の幅が生じ得る
  • 私選から国選へ戻す方向は、私選の契約を終了させたうえで要件を満たす必要があり、当然に認められるものではない
  • 釈放によって被疑者国選は効力を失い、控訴審では審級ごとに選任される。いずれも弁護人の体制を考え直す区切りになる


 弁護人を替えるかどうかは、不満の中身と、事件がいまどの段階にあるかによって、判断の内容が変わります。刑事手続は日単位で進みますので、迷いが生じたときは、早めに事情を整理し、必要であれば別の弁護士の説明も聞いたうえで判断されることをおすすめします。

 当事務所では、国選弁護人がついている段階でのご相談を含め、刑事事件について初回無料相談を承っています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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