【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味
この記事は、刑法(103条・105条の2・230条・230条の2・231条・232条)、刑事訴訟法(47条・197条・223条)、民法(709条・710条・723条)、弁護士法(23条)をもとに、2026年10月時点の内容で解説しています。拘禁刑の導入(2025年6月施行)後の条文の表記に合わせています。成人の事件を前提としており、少年事件の手続には触れていません。近所付き合いの程度や地域の事情によって、適切な受け答えは変わります。
ご家族が逮捕された方からは、「翌朝、隣の方に『昨日、警察の車が来ていたけど大丈夫?』と聞かれ、とっさに『何でもないです』と答えてしまった。この先、話の辻褄が合わなくなりそうで落ち着かない」というご相談をいただきます。一方で、釈放されたご本人から、「家族が心配のあまり近所の方に事情を詳しく話していて、家に戻りづらかった」という話を聞くこともあります。
家族が逮捕されたときの心構えとしては、「むやみに他人に話さない」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、すでに近所の方に知られてしまい、面と向かって尋ねられたときに、何をどこまで答えればよいのかは、その説明だけでは見えにくいところです。
この記事では、家族の逮捕が近所に知られた後の場面に絞って、知られる経路、聞かれたときの答え方の基本、相手との関係ごとの考え方、噂が広がったときにできることを整理します。逮捕直後に家族が優先して行うことは家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやること、勤務先への連絡は【刑事事件】逮捕された家族の勤務先へ何と伝えるか|段階ごとの連絡内容と避けたい説明で扱っています。
家族の逮捕は、どのような経路で近所に伝わるのか
逮捕や家宅捜索の様子を見られる
自宅で逮捕が行われた場合や、自宅の捜索が行われた場合には、警察の車両が家の前に止まり、捜査員が出入りする様子が近所の方の目に入ります。早朝に行われることも多く、本人が連れて行かれる場面や、箱に詰めた物が運び出される場面を見られることもあります。捜索の場面で同居の家族が置かれる状況については、捜索で家族に知られる場面|同居家族がいる場合の現実をご覧ください。
聞き込みや報道から伝わる
捜査の過程で、警察が近所の方に事情を尋ねることがあります。参考人への事情聴取は任意の手続ですが(刑事訴訟法197条1項、223条1項)、警察が訪ねてきたこと自体から、何かあったと気づかれることは避けにくいところです。
事件の内容によっては報道されることもあり、実名で報じられれば、近所の方が知る大きなきっかけになります。報道の判断と弁護人ができることについては実名報道は避けられるのか|報道の判断と弁護人ができること、身柄を拘束されずに捜査が進む場合については在宅事件・書類送検でも報道されるのかで解説しています。
家族には、近所に事情を説明する義務はない
事件に関する書類は、裁判が開かれる前には原則として公にしないこととされており(刑事訴訟法47条)、警察や検察が事件の詳しい内容を近所に説明することは通常ありません。近所の方が知っているのは、多くの場合、見かけた様子や伝え聞いた話の断片です。
家族には、近所の方に事件の内容や経緯を説明しなければならない立場はありません。尋ねられても、話す範囲は家族が決めてよいものです。このことを前提にしておくと、受け答えの方針を立てやすくなります。
聞かれたときの答え方の基本
答えるのは「家族が今どうしているか」の範囲にとどめる
近所の方からの声かけの多くは、心配や驚きから出たものです。こうした声には、事件の中身ではなく、家族が今どうしているかを短く伝える形で応じるのが一つの方法です。次のような言い方であれば、事件に触れずに相手の気遣いに応えることができます。
- 「ご心配をおかけしてすみません。今、家族で対応しているところです」。
- 「詳しいことはまだ私たちにも分からず、今はお話しできないんです」。
- 「落ち着いたら、改めてご挨拶させてください」。
相手が重ねて尋ねてきた場合も、同じ言葉を繰り返して構いません。言い回しを変えて説明を重ねるほど、話の一部が切り取られて伝わるおそれが高くなります。
事実と異なる説明はつくらない
とっさに「入院した」「出張に行っている」などの説明をしたくなることもあるかもしれません。しかし、報道や本人の帰宅などで後から事情が分かると、つくった説明との食い違いがかえって注目を集め、近所の方との関係がぎくしゃくする原因にもなります。
答えられないことは「お話しできない」と伝え、事実と異なる理由はつくらないことが、後々の負担を小さくします。すでに「何でもない」と答えてしまった場合も、改めて訂正して回る必要は通常なく、次に聞かれたときから「今はお話しできない」に揃えれば足ります。
事件の中身・相手の方・今後の見通しには触れない
容疑の内容、被害を訴えている方のこと、本人が認めているかどうか、処分の見通しといった話題は、近所の方に伝えることは控えたいところです。理由は主に次の三つです。
- 逮捕された段階では、本人の言い分や事件の評価はまだ固まっておらず、家族の推測が事実のように広まるおそれがあること。
- 被害を訴えている方がいる事件では、その方が特定されたり、示談の話し合いに影響したりするおそれがあること。
- 近所の方が警察から事情を聞かれた際に、家族から聞いた話として伝わる可能性があること。
聞かれ方ごとの答え方の目安を整理すると、次のとおりです。
| 聞かれ方 | 答え方の目安 |
|---|---|
| 「昨日、警察が来ていたけど大丈夫?」 | 「ご心配をおかけしています。今、家族で対応しているところです」と短く応じる |
| 「何をしたの?」「何の事件?」 | 「詳しいことは今はお話しできないんです」と伝え、内容には触れない |
| 「ご主人(息子さん)はいつ戻るの?」 | 「まだ分からないんです」と答え、見通しは話さない |
| 「ニュースで見たけど本当?」 | 報道の内容を肯定も否定もせず、「今はお答えできないんです」とだけ伝える |
| 「何か手伝えることはある?」 | 「ありがとうございます。今は大丈夫です」と気持ちを受け取る |
相手との関係ごとに考える
挨拶を交わす程度の近所の方
日頃から挨拶を交わす程度の関係であれば、先ほどの短い言葉で応じれば十分なことがほとんどです。こちらから事情を説明して回る必要はありません。家の前で立ち話が長くなりそうなときは、「すみません、今ちょっと立て込んでいて」と切り上げても、失礼にはあたらないでしょう。
付き合いの深い方・自治会や管理組合の役員
長年の付き合いがあり、生活の場面で頼ることもある方には、もう少し話したいと感じることもあるでしょう。その場合も、伝えるのは「警察の手続が進んでいる」「当面は家族で対応する」といった大枠にとどめ、事件の内容は控えるのが無難です。話したことは、相手に悪気がなくても別の方に伝わることがある、という前提で範囲を決めます。
自治会の当番や役員の仕事を当面引き受けにくい場合は、「家の事情で、しばらく役を外していただけないでしょうか」と、事件に触れずに調整をお願いする形が考えられます。分譲マンションの管理組合や、賃貸住宅の管理会社から問い合わせがあった場合も、事情の詳細までは説明せず、必要な連絡先を伝えるにとどめます。
近所の方が事件の関係者である場合
事件の被害を訴えている方や、事件を目撃した方が近所に住んでいる場合は、特に注意が必要です。お詫びや事情の確認のつもりで家族が直接訪ねると、働きかけや口止めと受け取られるおそれがあります。
事件の捜査や裁判に必要な知識を持つ人やその親族に対し、正当な理由なく面会を強く求めたり、威圧的な態度で迫ったりする行為は、それ自体が犯罪とされています(刑法105条の2)。家族にそのつもりがなくても、関係者への接触は本人の勾留や処分の判断にも影響しかねないため、関係者とのやり取りは弁護人に任せるのが基本です。相手の方やそのご家族から連絡が来た場合の受け答えは、【刑事事件】被害者の家族から加害者の家族へ直接連絡が来た|最初の受け答えと弁護人へのつなぎ方をご参照ください。
噂が広がったときにできること
まずは、いつ・誰が・何を言っていたかを記録する
近所で噂が広がると、「事件と関係のない家族のことまで言われている」「事実と違う話が出回っている」と感じる場面が出てくることがあります。そのようなときは、すぐに相手に抗議するよりも、まず次のような点を記録しておくことが役に立ちます。
- いつ、どこで、誰から聞いたのか。
- どのような内容が、どの範囲の人に伝わっているのか。
- 張り紙やポストへの投函物など、形に残るものがあれば、その現物や写真。
事実と異なる話や家族への中傷には、法的な対応も考えられる
公然と事実を示して人の名誉を傷つける行為は、示した事実が本当かどうかにかかわらず、名誉毀損罪にあたり得ます(刑法230条1項)。まだ起訴されていない人の犯罪行為に関する事実は「公共の利害に関する事実」とみなされますが(同法230条の2第2項)、それだけで責任を問われなくなるわけではなく、公益を図る目的があったか、真実であることの証明があるかなどが別に問題になります(同条1項)。
また、事件と関係のない家族について、事実に基づかない悪口を言いふらされた場合には、家族自身に対する名誉毀損や侮辱(同法231条)が問題になり得ます。これらの罪は、告訴がなければ起訴できない罪とされています(同法232条1項)。民事上は、損害賠償や、名誉を回復するための措置を求めることも考えられます(民法709条・710条・723条)。
もっとも、近所の方との関係はその後も続くため、すぐに法的手段をとるのがよいとは限りません。噂の内容や広がり方、家族の生活への影響を踏まえ、まずは話をやめてもらうよう申し入れるなど、弁護士に相談しながら段階を踏んで考えるのが現実的です。告訴と示談の関係は名誉毀損は親告罪|告訴期間と示談による解決で解説しています。
インターネット上に書き込まれた場合
地域の掲示板やSNSに、家族の氏名や住所、自宅の写真などが書き込まれることもあります。この場合は、書き込みの画面を日時やURLが分かる形で保存したうえで、サイトの運営者に削除を求めることが考えられます。報道された記事が検索結果に残り続ける場合の対応は検索結果からの削除はどこまで認められるか、家族が報道機関に配慮を申し入れる方法は【親子問題】子の逮捕が報道されそう|家族の生活を守るためにで扱っています。
家族自身の暮らしを保つために
事情をすべて話せる相手を決めておく
近所の方への話を控えるほど、家族は誰にも事情を話せず、一人で抱え込みがちになります。近所への受け答えを絞る一方で、事情をすべて話せる相手を決めておくことが、家族自身を支えることにつながります。
弁護士には法律上の守秘義務があり(弁護士法23条)、相談の内容が外部に伝わる心配をせずに話すことができます。守秘義務の範囲については弁護士に相談した内容は家族や警察に伝わる?守秘義務の範囲をご覧ください。このほか、加害者家族の支援に取り組む民間団体が、電話相談や家族同士の集まりを設けていることもあります。
子どもがいる家庭では、先に家族の中で伝え方を決める
子どもが近所の方や友だちから事件のことを聞かされる前に、家族の中で、子どもにどう伝えるかを決めておくことも大切です。近所の方への答え方と子どもへの説明がばらばらだと、子どもが混乱する原因になります。詳しくは【刑事事件】家族が逮捕されたことを子どもにどう伝えるか|伝える前に決めておくことと年齢別の目安で扱っています。
本人が戻った後の受け答えは、本人の意向も確かめて決める
釈放や保釈で本人が自宅に戻った後、近所の方とどう接するかは、本人の意向も確かめながら決めることになります。釈放されても捜査が続いている場合があることは、処分保留で釈放された|終わったわけではない状態で解説しています。
事件の結論が出るまでは、家族と本人の受け答えを「今はお話しできない」で揃えておくと、話が食い違う心配が少なくなります。ただし、これは近所の方への受け答えの話であり、事件の事実関係を家族と本人ですり合わせることとは別です。事件の中身について家族が本人と話し合うことは、口裏合わせと受け取られるおそれがあるため、弁護人に相談しながら進めてください。
よくあるご質問
警察から、近所の様子や家族のことを聞かれた場合はどうすればよいですか。
家族が参考人として事情を聞かれることがあります(刑事訴訟法223条1項)。これは任意の手続ですが、近所の方への受け答えとは異なり、捜査機関に事実と異なる説明をすると、本人をかばう目的と見られて犯人隠避罪(刑法103条)などが問題になるおそれがあります。事情を聞かれたときは、事前に弁護人に相談しておくと落ち着いて対応できます。家族が本人をかばった場合の扱いは、家族をかくまった|犯人蔵匿罪と親族の特例をご覧ください。
近所に居づらく、引っ越しを考えています。
引っ越すかどうかは、近所との関係や子どもの学校、本人が戻る場所の確保など、さまざまな事情を踏まえて判断することになり、一律には決められません。本人の釈放や保釈を求める場面では、戻る住まいが定まっていることが重要な事情として扱われることもあるため、転居を考えるときは、事件の手続との関係も含めて弁護人に相談してから決めるのがよいでしょう。住まいと身柄の判断の関係は勾留を避けるための材料|身元引受と生活環境の整え方で扱っています。
賃貸住宅の場合も、家族が逮捕されたことだけを理由に契約が直ちに終わるわけではありません。契約の解除が認められるかどうかは、事件の内容や契約の条項を踏まえ、当事者間の信頼関係が損なわれたといえるかどうかで判断されるのが一般的です。
近所の方に、家族からお詫びに回ったほうがよいですか。
事件の被害が近所に及んでいない場合、家族が近所にお詫びをして回ることが必要とは限りません。お詫びに回ると、家族の側から事件のことを広める形にもなります。捜索などで騒がしくした点について、親しい方に「ご迷惑をおかけしました」と一言伝える程度で足りることが多いでしょう。近所の方が被害を受けた事件であれば、先に述べたとおり、謝罪の伝え方も弁護人に相談してから決めることをおすすめします。
まとめ
- 家族の逮捕は、逮捕や捜索の様子、警察の聞き込み、報道などから近所に伝わることがある(刑事訴訟法197条1項・223条1項)。
- 事件の書類は裁判の前には原則として公にされず(刑事訴訟法47条)、家族にも近所へ事情を説明する義務はない。
- 聞かれたときは「今、家族で対応している」「今はお話しできない」と短く応じ、同じ言葉を繰り返す。
- 事実と異なる理由はつくらず、事件の中身・相手の方・見通しには触れない。
- 近所に事件の関係者がいる場合は、家族が直接接触せず、やり取りを弁護人に任せる(刑法105条の2)。
- 事実と異なる噂や家族への中傷には、記録を残したうえで、名誉毀損・侮辱や損害賠償といった手段を段階的に検討する(刑法230条・230条の2・231条・232条、民法709条・710条・723条)。
- 警察から事情を聞かれたときは、近所への受け答えとは区別し、事前に弁護人に相談する(刑法103条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。ご家族が逮捕されて近所の方への対応に迷っている場合や、事実と異なる噂が広がって生活に支障が出ている場合には、事件の見通しとあわせて、受け答えの方針や取れる手段を一緒に整理します。
逮捕のことを周囲に知られて不安を抱えている方も、これから知られるかもしれないと心配している方も、まずは現在の状況をお聞かせください。


