【親子問題】独立した子が家に戻りたいと言ってきた|再同居を断るとき

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の民法・刑法・生活保護法・生活困窮者自立支援法(令和7年4月1日施行の住居確保給付金の見直しを反映)にもとづいて書いています。個別の事情によって取れる手段は変わりますので、実際の判断はご相談のうえで行ってください。


「仕事を辞めたので、しばらく家に戻らせてほしい」「部屋の更新ができなかった。また実家で暮らしたい」。一度家を出て独立した子から、このような連絡を受けて迷っている親御さんは少なくありません。とくに、同居していた頃に暴力やお金の無心があったご家庭では、「受け入れればまた同じ生活に戻るのではないか」という不安と、「断ったら子が行き場を失うのではないか」という心配の間で揺れることになります。

 この記事では、独立した子から再び同居を求められた場面に絞って、断ることの法的な位置づけ、断る前に整えておくこと、断り方の組み立て、断った後に起こりうることへの備えを整理します。子が家を出るまでの手順は【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順で、すでに戻ってきて住み続けている場合の法的な整理は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで扱っています。

「戻りたい」という申し出の背景にあるもの

 独立した子が実家に戻りたいと言ってくるきっかけには、仕事を失った、家賃が払えなくなった、体調を崩した、職場や近隣で人間関係に行き詰まった、といったものがよく見られます。借金の返済に追われている、生活保護の手続がうまく進まないといった事情が隠れていることもあります。

 「なぜ戻りたいのか」を聞くことと、「戻ってよい」と答えることは別の事柄です。理由を聞いたうえで同居は断り、困りごとには別の形で手を差し伸べる、という対応は十分に成り立ちます。親が離れて暮らす意味をあらためて確かめたい方は【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点も参考になります。

再同居を断ることは法的に問題になるのか


扶養の義務と、家に住まわせる義務は別のもの

 民法は、親子などの直系血族は互いに扶養をする義務があると定めています(民法877条1項)。ただ、成人した子に対する親の扶養は、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で援助する性質のものと考えられています。また、扶養の程度や方法は当事者の協議で決め、まとまらなければ家庭裁判所が定めるとされており(同法879条)、方法としては金銭による援助が基本とされています。同じ家に引き取って面倒をみることを、親の意思に反して命じられることは通常考えにくいため、同居を断ること自体が扶養義務に反するとはいえません。扶養義務の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。

一度家を出た子に「戻る権利」があるわけではない

 親名義の家に子が無償で住んでいた関係は、法律上は使用貸借(民法593条)と整理されることが多く、子が家を出て部屋を引き払った時点で、その関係は終わったと考えられます。家の所有者であり、そこで暮らしている親が、改めて子を住まわせるかどうかを決めることになります。

 これに対し、いったん戻ることを認めて子が再び住み始めると、新しい使用貸借が始まったと評価され、後から出てもらうには解除や明渡しの手続が問題になります(同法597条・598条)。「とりあえず数日だけ」と受け入れる前に、その後の見通しを立てておくことが大切です。

断る前に整えておくこと


鍵・荷物・住民票を「家を出た状態」にそろえる

 子がまだ実家の鍵を持っていたり、荷物を置いたままにしていたりすると、「自分の家でもある」という主張につながりやすく、後で無断で入られたときの扱いもあいまいになります。次の点を確認しておきます。

項目そろえておく状態理由
鍵返してもらう、または錠を交換する出入りを親が管理していることを明確にするため
荷物引き取りの期限を決めて伝える残った荷物が戻る口実になりやすいため
住民票子の現住所に移っているか確認する実家に住所が残ると郵便や手続が実家に集まるため
郵便物転送の手続を本人に促す受け取りを理由にした訪問を減らすため


 住民票は本人が届け出るものですが、実家に住んでいる実態がない場合には、市区町村が調査のうえで職権により記載を消除することもあります。錠の交換は、子が実家を出た後であれば通常は問題になりにくい一方、子がまだ住んでいる段階での締め出しは別の問題を生じます。考え方は【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界をご覧ください。

夫婦・きょうだいで答えをそろえる

 父親は断りたい、母親は受け入れたい、という形で答えが割れていると、子は受け入れてくれそうな側に話を持ち込みます。結論と、そこに至った理由、援助するならその範囲を、家族の中で先にそろえておきます。

受け入れる余地があるなら、条件を先に書き出す

 短期間であれば受け入れてもよいと考える場合は、期間、生活費の負担、家の中のルール、期限が来たときの対応を、受け入れる前に書面にしておきます。期間を定めた使用貸借は、その期間の満了で終わるとされています(民法597条1項)。もっとも、書面があっても話し合いが長引くことはあるため、以前の同居で暴力や金銭の要求があったご家庭では、条件付きの受け入れもあらためて慎重に考える必要があります。

断り方の組み立て


住まいは断り、困りごとの相談先は示す

 「家には戻れない」とだけ伝えると、子は見捨てられたと受け止めやすくなります。住まいを断ることと、困りごとの相談先を示すことを一緒に伝えると、話が先に進みやすくなります。相談先としては、次のようなものが考えられます。

  • 市区町村の自立相談支援機関(生活困窮者自立支援制度の総合的な相談窓口)。
  • 住居確保給付金(離職などで住まいを失うおそれがある方への家賃補助と、令和7年4月から加わった転居費用の補助)。
  • 生活保護(収入や資産が基準に満たない場合の最後の受け皿)。
  • ハローワークや地域若者サポートステーションなどの就労支援。


 生活保護の申請や扶養照会の実際は【親子問題】生活保護の申請に同行するということ|扶養照会の実際で、就労支援は【親子問題】就労支援の選択肢|サポステ・就労準備支援事業の実際で整理しています。

電話や玄関先で即答しない

 突然の電話や訪問で「戻らせてほしい」と言われると、その場の雰囲気に押されて受け入れてしまうことがあります。「家族で考えてから返事をする」と伝えていったん持ち帰り、答えは落ち着いて伝えられる形で返すほうが、後から言った・言わないの食い違いも生じにくくなります。返事は、責める言葉を避け、結論と相談先を簡潔に伝えます。

お金の援助をするなら、上限と期限を決める

 同居は断っても、当面の家賃や生活費を援助すると決めるご家庭もあります。その場合は、金額の上限と期間をあらかじめ決めて伝えます。上限のない援助は、同居の代わりにお金の要求が続く形になりかねません。要求を断ることの位置づけは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。

断った後に起こりうることへの備え


連絡や訪問が続く場合

 断った後も、電話やメッセージ、訪問が続くことがあります。日時と内容を記録し、応じるかどうかをその場で決めないようにします。直接のやり取りを続けることが親御さんの負担になっている場合は、弁護士が窓口となって子と話す方法があります。最初の連絡の入れ方は【親子問題】弁護士から子に最初の連絡が入るとき|通知で伝えることをご覧ください。

無断で入ってきた・帰るよう求めても出ていかない場合

 すでに家を出た子が、親の意思に反して家に入ってきたり、帰るよう求めても居座ったりする場合には、住居侵入罪や不退去罪(刑法130条)に当たる可能性があります。同居の親族間で財産を取った場合などに刑が免除される特例(同法244条)は、こうした行為には及びません。身の危険を感じるときは、ためらわず110番に連絡してください。判断の目安は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで整理しています。

暴力や脅しの経緯がある場合

 配偶者暴力防止法の保護命令は、配偶者や生活の本拠を共にする交際相手を対象とする制度で、親子の間では使えません。親子間で接近や連絡をやめてもらうには、裁判所に仮処分(民事保全法23条2項)を申し立てる方法などを検討することになります。暴力の経緯があるご家庭では、断る前に安全の確保を先に考えます。【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録もあわせてご覧ください。

生活保護を受けている子が戻りたいと言う場合

 生活保護は世帯を単位として要否が判断されます(生活保護法10条)。一人暮らしで保護を受けている子が実家に戻ると、親と同じ世帯として判断し直され、保護の内容が変わったり、保護が止まったりする場合があります。戻りたい理由がお金にあるのか、住まいにあるのかを分けて考え、担当のケースワーカーにも相談するよう子に促します。世帯の扱いは【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱いで解説しています。

弁護士とカウンセラーがチームで関わる意味

 当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々のお金の管理を担う形で対応しています。親が「戻ってこないで」と伝える役と、子の生活を支える役を分けることで、断ることと見捨てないことを両立しやすくなります。独立後も一定の期間、カウンセラーが子の生活を見守り、親御さんに様子を報告します。結果をお約束できるものではありませんが、距離を保ったまま関係を続ける形を一緒に考えます。役割を分ける理由は【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由をご覧ください。

よくあるご質問


断ったら、家庭裁判所に扶養を求められることはありますか

 子が扶養を求めて家庭裁判所に調停を申し立てることは制度上ありえます。ただ、そこで扱われるのは主に金銭による援助の要否や額で、親の資力や子の状況を踏まえて判断されます。同居を前提とした手続ではありません。

体調を崩して戻りたいと言われた場合も断ってよいのでしょうか

 心身の不調が背景にある場合は、同居の可否と並んで、医療につなぐことを考える必要があります。親が抱え込むより、保健所や精神保健福祉センターに家族として相談するほうが、本人のためになる場合もあります。考え方は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で整理しています。

まとめ


  1. 成人した子への扶養は余力の範囲での援助が基本で(民法877条1項・879条)、同居して面倒をみることまで親の意思に反して求められることは通常考えにくいです。
  2. 子が家を出た時点で、それまでの無償の同居の関係は終わったと考えられ、戻るかどうかは家の所有者である親が決めることになります。
  3. いったん受け入れると新たな同居の関係が始まり、後から出てもらうには解除や明渡しが問題になります。
  4. 断る前に、鍵・荷物・住民票・郵便物を家を出た状態にそろえ、家族の答えを一致させておきます。
  5. 住まいは断り、自立相談支援機関や住居確保給付金、生活保護、就労支援といった相談先を示すと話が進みやすくなります。
  6. 無断で入る・居座る行為は住居侵入罪や不退去罪(刑法130条)に当たる可能性があり、暴力の経緯がある場合は安全の確保を先に考えます。
  7. 生活保護を受けている子が戻ると、世帯の判断が変わる場合があります(生活保護法10条)。


 再同居を断ることは、子を突き放すことではなく、親子それぞれが自分の生活を保つための選択です。断り方や、その後の関わり方に迷われたときは、早めにご相談ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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