【親子問題】薬物の問題を抱える子と家族の関わり方|距離の取り方という視点
本記事は、2026年9月時点の生活保護法および厚生労働省の通知・事務連絡(令和3年2月26日付・同年3月30日付)に基づいて作成しています。扶養照会の具体的な運用は、福祉事務所ごとに異なることがあります。
ひきこもりが長く続いている子や、家庭内で暴力や金銭の要求が続いている子について、生活保護の利用を考え始める親御さんは少なくありません。よく寄せられるのが、「親が一緒に窓口へ行ってもよいのか」「申請すると親に扶養照会が届き、結局は親が面倒を見るよう求められるのではないか」という疑問です。
生活保護を利用するかどうかは、困窮している本人が決めることです。親が申請に同行することはできますが、同行した親の言葉は、そのまま扶養の可能性を判断する材料にもなります。本記事では、申請に付き添う親の立場から、扶養照会がどのような手順で行われるのか、成人した子の親はどのように扱われるのかを、法律と厚生労働省の通知に沿って整理します。
申請するのは誰か|同行する親の立場
生活保護法7条は、保護は「要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請」に基づいて開始すると定めています。条文上は親も申請者になれますが、申請後には本人の資産や収入、健康状態について報告を求められたり、住まいでの調査が行われたりするため(同法28条1項)、本人に利用する意思がなければ手続は前に進みにくいのが実情です。
そのため、実務上は子本人が申請者となり、親は付き添いとして同行する形が一般的です。生活保護法に同行者を制限する規定はなく、支援者や弁護士が付き添う例もあります。厚生労働省も、申請の意思がある人の申請権を妨げないよう自治体に繰り返し求めています。
扶養は「要件」ではなく「優先」されるもの
扶養照会を理解するうえで出発点になるのが、生活保護法4条2項です。同項は、民法上の扶養義務者による扶養は保護に「優先して行われる」と定めていますが、これは保護を受けるための要件とは区別されています。
厚生労働省の令和3年2月26日付事務連絡は、この点について、実際に扶養義務者から仕送りなどがあればそれを本人の収入として扱うという意味であり、扶養義務者による扶養の可否が保護の要否の判定に影響を及ぼすものではない、と説明しています。つまり、親が「援助できない」と答えたことを理由に、子の申請が退けられる仕組みにはなっていません。
成人した子に対して親がどこまで扶養義務を負うのかについては、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。
扶養照会はどのような手順で行われるか
同じ事務連絡は、扶養に関する調査の手順を次のように整理しています。
- 扶養義務者がいるかどうかを、本人の申告を基本とし、必要に応じて戸籍謄本などで確認します。
- 本人などからの聞き取りにより、扶養の可能性を調べます。この段階では金銭的な援助だけでなく、電話や訪問といった精神的な支援ができるかも確認されます。
- 調査の結果「扶養義務の履行が期待できない」と判断された扶養義務者には、個別の検討を経たうえで、直接の照会を行わない扱いとすることができます。
- 「扶養義務の履行が期待できる」と判断された扶養義務者に対して、扶養照会が行われます。
ここで押さえておきたいのは、同行した親が窓口で話す内容が、2番目の聞き取りの材料として使われうるという点です。「生活費を少しなら出せる」「実家に戻れば面倒を見る」といった発言は、善意からであっても、扶養の可能性を示す事情として記録されることがあります。反対に、援助が難しい事情があるのであれば、同行の場で具体的に伝えておくことで、書面での照会を待たずに判断材料を示すことにもなります。
成人した子の親はどう扱われるか
生活保持義務関係には当たらない
保護の実施要領では、「生活保持義務関係」は夫婦と、親の未成熟の子(中学3年以下の子)に対する関係とされています。成人した子の親はこれに当たりませんが、「生活保持義務関係以外の親子関係にある者のうち扶養の可能性が期待される者」として、重点的に扶養能力を調べる対象に位置づけられることがあります。この場合、親が同じ福祉事務所の管内に住んでいれば、書面ではなく訪問などで調査が行われることもあります。
照会が行われない3つの類型
一方で、事務連絡は「扶養義務履行が期待できない者」として3つの類型を例示しています。親子問題の場面に当てはめると、次のように整理できます。
| 類型 | 事務連絡の例示 | 親子問題で当てはまりうる事情 |
|---|---|---|
| 扶養義務者側の状況 | 被保護者、施設入所者、長期入院患者、未成年者、概ね70歳以上の高齢者など | 親が70歳前後を超えて年金で暮らしている、いわゆる8050の家庭 |
| 著しい関係不良 | 要保護者が扶養義務者に借金を重ねている、縁が切られている、10年程度の音信不通など | 子が親に繰り返しお金を求め、返されないまま続いてきた |
| 自立の阻害 | 夫の暴力から逃れてきた母子、虐待等の経緯がある者など | 過去に親から子への虐待があった場合(子から親への暴力は例示に含まれていません) |
これらはあくまで例示であり、直接当てはまらない場合でも、例示と同等と判断できれば該当するものとして扱ってよいとされています。子から親への暴力や脅しが続いてきたという事情は例示に明記されていませんが、関係の実態として福祉事務所に説明する意味はあります。最終的な判断は福祉事務所が行うため、当てはまるかどうかを親の側で決めつけず、事情を具体的に伝えることが大切です。
また、厚生労働省の令和3年3月30日付事務連絡は、本人が扶養照会を拒んでいる場合には、その理由を特に丁寧に聞き取り、照会先が「扶養義務履行が期待できない者」に当たるかという観点から検討すべきとしています。子が「親には連絡しないでほしい」と考えている場合は、その理由を申請時に伝えておくことが考えられます。
照会が届いた親はどう答えればよいか
扶養照会の書面では、一般に、金銭的な援助ができるか、訪問や電話などの精神的な支援ができるか、あわせて照会を受けた人の家族構成や収入などが尋ねられます。様式は自治体によって異なります。
援助が難しいのであれば、その旨を回答して差し支えありません。前述のとおり、援助できないという回答によって子の保護が否定されるわけではありません。ただし、収入や資産について事実と異なる記載をすることは避けるべきです。
精神的な支援の欄も、親子の距離を取っている最中であれば、「直接の連絡は控え、支援者を通じて状況を把握している」といった現状をそのまま書くことが考えられます。無理に「できる」と書くと、それが今後の関わり方の前提になることがあるためです。
照会とは別の手続が問題になる場面
扶養照会とは別に、扶養義務を履行していないと認められる扶養義務者へ保護開始前に書面で通知する制度があります(生活保護法24条8項)。ただし同法施行規則2条により、費用を徴収する蓋然性が高く、通知が申請者の自立に重大な支障を及ぼすおそれがないなどの条件をいずれも満たす場合に限られます。
また、扶養義務の範囲内で保護費を扶養義務者から徴収できる規定もあり(同法77条1項)、負担額の協議が調わないときは家庭裁判所が定めます(同条2項)。いずれも十分な資力がありながら扶養をしていない場面を想定した手続で、照会を受けた親の誰もが対象になるものではありません。親族からお金を求められた場合の扶養義務の考え方は、【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかでも取り上げています。
同居のまま申請するか、離れてから申請するか
生活保護は、世帯を単位として要否を判断するのが原則です(同法10条)。子が親と同じ家で暮らしたまま申請すると、親の収入や資産も含めた世帯全体で判断されることになり、見通しが大きく変わります。親子問題のご相談では、子が住まいを別にしたうえで、単身の世帯として申請する流れをとることが少なくありません。
ただし、住まいを分けることは、子の意思や生活の準備と切り離せません。本人が望まないまま家から出すことの法的な問題については、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。
同行する前に整理しておきたいこと
親が申請に付き添う場合は、事前に次の点を整理しておくと、窓口でのやり取りが本人の申請を後押しするものになりやすくなります。
- 子本人に申請の意思があり、親の同行を本人が望んでいること。
- 親として今後どの程度の援助ができるか、できないかという見通し。
- 子から親への金銭の要求や借入れが続いてきた経緯と、その期間。
- 暴力や脅しがあった場合の時期と内容、相談した機関の記録。
- 住まいを分けるのか、同居のまま申請するのかという方針。
- 窓口で親が話す範囲と、本人に話してもらう範囲の分担。
窓口で親が説明を引き取りすぎると、本人の困りごとや意思が伝わりにくくなります。付き添いの役割は本人が話しにくい部分を補うことにとどめ、申請者は本人であるという形を保つことが望ましいでしょう。
親の代理人と自立支援カウンセラーによる分担
当事務所の親子問題への取り組みでは、弁護士が親の代理人として子との窓口を担い、民間の自立支援カウンセラーが子の側の生活を支える形でチームを組んでいます。住まい探しや仕事探し、生活保護の受給申請のサポート、日々の金銭管理などはカウンセラーが担当し、弁護士は親の側に立って、子からの金銭の要求や直接の接触に対応します。
このように役割を分けることで、親が申請の場に同行しなくても手続が進むことがあり、扶養照会への回答についても、親の代理人として事情を整理したうえで対応することができます。取り組みの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。行政や警察との役割の違いについては、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
子が生活保護を受けると、親は仕送りを求められるのですか
扶養照会で援助の可否を尋ねられることはありますが、援助できないと回答したことを理由に子の保護が否定される仕組みではありません。十分な資力がありながら扶養をしていないと判断される場合には費用の徴収(生活保護法77条)が問題になることがありますが、限られた場面です。
子が「親には知られたくない」と言っている場合、親に照会は来ないのですか
本人が照会を拒む場合、福祉事務所はその理由を丁寧に聞き取り、照会先が扶養を期待できない者に当たるかを検討することとされています。ただし、照会するかどうかの判断は福祉事務所が行うため、本人が拒めば照会が止まるという仕組みではありません。
まとめ
- 生活保護を利用するかどうかは本人が決めることであり、親は付き添いとして同行することができます。
- 扶養は保護の要件ではなく、親が援助できないと答えても、それだけで子の保護が否定されるわけではありません。
- 扶養照会は、扶養義務の履行が期待できると判断された扶養義務者に対して行われます。
- 成人した子の親は重点的な調査の対象になりえますが、概ね70歳以上であることや、借金を重ねられてきた経緯などは、照会しない扱いの判断材料になります。
- 同行した親の発言は扶養の可能性の判断材料になるため、話す内容を事前に整理しておくことが大切です。
扶養照会は、親子の関係を試すものではなく、援助が実際に期待できるかを確かめるための手続です。子の生活を立て直しながら親子の距離を取っていくためには、申請の場で何を伝え、照会にどう答えるかを、親自身の生活を守る視点も含めて考えておくことが欠かせません。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


