【親子問題】薬物とひきこもり・金銭要求が同時に起きている家庭|安全・医療・金銭の順に整理する

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令と、厚生労働省・国立精神・神経医療研究センターの公表資料に基づいて作成しています。大麻の使用を処罰する改正(2024年12月施行)と、懲役・禁錮を拘禁刑に一本化する改正(2025年6月施行)を反映しています。


「部屋から出てこない息子が、夜になるとお金を求めてくる。最近、薬物を使っているのではないかと思うようになった」「断ると物に当たる。警察に相談すれば薬物のことが明るみに出るし、病院に連れて行こうにも本人が応じない」。親子の問題のご相談では、ひきこもり、金銭の要求、薬物という三つの問題が一つの家庭で同時に起きている例に出会うことがあります。

 問題が一つであれば、相談先もある程度は決まります。ところが三つが重なると、どこから手をつけるべきか分からないまま、目の前の要求に応じ続けてしまうご家庭も少なくありません。

 この記事では、親が何から順に整理していけばよいかを「安全・医療・金銭」という優先順位で解説します。薬物の罪の重さや日々の関わり方の詳細は個別の記事に譲り、ここでは問題どうしの関係と手をつける順序に絞ってお伝えします。

三つの問題が重なると何が起きるのか


互いに原因にも結果にもなる

 国立精神・神経医療研究センターが公開している家族向けの冊子は、薬物への依存が進むと、本人は手持ちのお金を使い果たした後に家族や友人に無心するようになり、ときにはお金ほしさの犯罪にまで及ぶことがあると説明しています。ひきこもりの状態にあって自分の収入がない場合、薬物を手に入れるためのお金の出どころは、ほとんど家族に限られることになります。

 反対に、薬物の使用が気分の落ち込みや昼夜の逆転、対人関係を避ける傾向を強め、ひきこもりの状態を長引かせる場合もあります。お金を渡せば薬物の購入に回る余地が残り、断れば反発や暴言が強まる。三つの問題は別々に存在しているのではなく、互いに原因にも結果にもなっていることが多いといえます。

窓口ごとに見ているのは一つの問題だけ

 三つの問題が重なる家庭が相談先で行き詰まりやすいのは、多くの窓口がそれぞれ一つの問題を扱う仕組みになっているためです。次の表は、主な窓口と、その窓口では扱いにくい部分を整理したものです。

窓口主に扱う問題その窓口では扱いにくい部分
警察暴力・脅迫など事件として扱える事実、薬物事件の捜査医療や生活の立て直し、家庭内のお金の問題
精神科医療機関・精神保健福祉センター依存症や精神疾患の診断・治療、家族相談要求を断る際の法的な整理、住まいの分離
ひきこもり支援の窓口本人の社会参加や居場所、家族の相談暴力への対応、薬物の刑事上の問題
弁護士金銭の要求への回答、住まいや財産の法的な整理、刑事手続診断や治療そのもの


 どの窓口も、その役割の範囲では適切に対応しています。問題は、三つを同時に抱えている家庭にとって、全体の順番を示してくれる場所が見つけにくいことにあります。

優先順位は「安全・医療・金銭」


なぜこの順番なのか

 三つの問題が重なっているとき、当事務所では、まず家族と本人の安全、次に医療へのつながり、その後にお金の流れの整理、という順で考えることをおすすめしています。

 お金の問題から先に手をつけると、渡し方を変えた直後に反発が強まり、家族が危険にさらされることがあります。また、医療の見通しが立たないままお金を止めても、要求の背景にある依存は残ります。後で説明するとおり、住まいをめぐる手続を先に進めたことで、医療につなぐ選択肢が狭まる場面もあります。

複合ケースの整理表

 段階ごとに確認することと主な手段をまとめると、次のようになります。

段階まず確認すること主な手段
安全暴力や脅し、錯乱や急な体調の変化があるか110番・119番、避難先の確保、記録
医療依存症や精神疾患の可能性、本人が受診に応じるか精神保健福祉センター、依存症の専門医療機関、家族相談
金銭何にいくら渡しているか、親の生活に余力があるか渡し方の見直し、記録、窓口を代えること
住まいと収入同居を続けるか、本人の生活の基盤をどうつくるか親子の分離、生活保護の申請支援、就労支援


 各段階を終えてから次に進むという意味ではなく、実際には重ねて進めることになります。判断に迷ったときに、上の段階ほど優先するという目安です。

第一段階 安全を確保する


110番と119番を使い分ける

 暴力を振るわれている、刃物を持ち出した、「殺す」などと脅されたといった場面では、ためらわずに110番通報することが大切です。一方、薬物の影響が疑われる激しい興奮や意識の混濁、けいれんなど、命に関わる体調の変化がみられるときは、119番で救急を求める場面になります。どちらに連絡すべきか迷うほど危険が迫っているときは、まず身の安全を確保し、つながる方に連絡してください。

 暴力を受けたときの初動は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録で、通報の目安は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで解説しています。お金の渡し方を変える前には、反発が強まったときの身の寄せ先も決めておくと安心です(【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択)。

警察官による通報という仕組み

 精神保健福祉法は、精神障害者の定義に「精神作用物質による急性中毒又はその依存症」を含めています(同法5条1項)。そのうえで、警察官は、職務の中で、精神障害のために自身を傷つけまたは他人に害を及ぼすおそれがあると認められる人を見つけたときは、保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならないと定めています(同法23条)。この通報をきっかけに、指定医の診察を経て、措置入院に至ることがあります(同法29条)。

 つまり、自傷や他害のおそれがある場面で110番をすることは、刑事手続の入口であると同時に、医療につながる入口にもなり得ます。もっとも、警察が駆けつけた際に自宅で薬物が見つかれば、捜査が並行して進む可能性もあります。通報するかどうか迷う段階の考え方は【親子問題】子の薬物使用に気づいた|通報すべきか迷ったときで、相談後の流れは【親子問題】家族が警察に相談した場合の流れ|相談から捜査・逮捕・処分までの見通しで解説しています。

第二段階 医療につなぐ


三つの問題をまとめて相談できる窓口

 厚生労働省によれば、各都道府県と政令指定都市に置かれている精神保健福祉センターでは、薬物などの依存症の家族の相談と、ひきこもりなどの思春期・青年期の問題の相談の両方を受け付けています。自治体によっては、子から親への家庭内暴力の相談を案内しているセンターもあります。三つの問題が重なる家庭にとって、一か所でまとめて話ができる数少ない公的な窓口といえます。

 本人が受診を拒んでいても、家族だけで相談に行くことはできます。依存症の支援機関の役割分担は【親子問題】刑事処分だけでは止まらない|依存症支援の窓口で、本人が相談を拒む場合に家族ができることは【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲で解説しています。

依存・精神疾患・ひきこもりの見極めは医療に委ねる

 部屋から出てこない状態が薬物の影響なのか、別の精神疾患によるものなのかは、家族には見分けがつかないことがほとんどです。見極めは専門の医療機関や相談機関に委ねることが、遠回りに見えて確実な進め方です。判断の目安は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で整理しています。

手続の順序で選択肢が狭まる場面

 本人の同意がなくても家族等の同意で入院できる医療保護入院(精神保健福祉法33条)では、同意できる「家族等」から、本人に対して訴訟をしている人やした人などが除かれています(同法5条2項)。そのため、たとえば先に子を相手に家の明渡しを求める訴訟を起こしていると、後から親が入院に同意する立場を失う可能性があります。

 お金や住まいをめぐる法的な手続は、医療の見通しを立てたうえで進めるほうが、使える選択肢を多く残せます。安全・医療・金銭という順番を勧める理由の一つはここにあります。

第三段階 お金の流れを整理する


求められた額を払う義務はない

 成人した子に対する親の扶養義務は、一般に、親が自分の生活を維持したうえで余力のある範囲で援助する義務と理解されています(民法877条1項)。求められた額をそのまま渡す義務があるわけではありません。扶養の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで、断ることの法的な整理は【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。

 薬物が絡む家庭では、生活費のつもりで渡した現金が薬物の購入に回っても、家族からは見えません。家賃や光熱費を支払先へ直接納めるなど、渡し方そのものを見直す考え方は【親子問題】薬物の問題を抱える子と家族の関わり方|距離の取り方という視点で紹介しています。

刑事手続で扱われやすい部分と扱われにくい部分

 同居の親族の間での窃盗や恐喝には、刑を免除する定めがあります(刑法244条1項・251条)。親の財布からお金を持ち出された、脅されてお金を渡したという場面で、警察が事件として動きにくい理由の一つがここにあります。一方、暴行や傷害、脅迫そのものにはこの特例はありません。お金の問題として相談すると動きにくくても、暴力や脅しの事実があれば、その部分は事件として扱われる余地があります。詳しくは【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかをご覧ください。

渡したお金を記録に残す

 いつ、いくら、どのような理由で渡したのかを書き留めておくと、後の返還請求や相続の場面で意味を持つことがあります。記録の残し方は【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかで解説しています。

三つの段階の先にある「住まいと収入」

 安全を確保し、医療との接点ができ、お金の流れが見えてきた段階で、ようやくひきこもりの状態そのもの、つまり本人の住まいと収入をどうつくるかという課題に向き合えるようになります。同居を続けたままでは、要求や生活の乱れが家族の日常に直接入り込み、家族が本人との距離を保つことは簡単ではありません。

 当事務所では、弁護士が親の代理人として本人との窓口を担い、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで親子の問題に取り組んでいます。カウンセラーは、本人の住まい探しや仕事探し、生活保護の受給申請のサポート、日々の金銭管理などを担い、薬物の問題が背景にある場合は医療機関とのつながりも保ちながら進めます。親は弁護士が守り、本人はカウンセラーが支えるという役割分担で、親と子のそれぞれの自立を目指しています。

 人が関わることですので結果をお約束することはできませんが、親子の間に物理的な距離が生まれるだけでも、双方に変化が見られることがあります。窓口を代えることの意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で、サービスの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

よくあるご質問


薬物のことを伏せたまま、お金や暴力の問題だけを相談してもよいですか

 相談の段階で何をどこまで話すかは、ご家族が決めてかまいません。ただ、要求されたお金の使い道や、本人の状態の背景に薬物がある場合、それを伏せたままでは、相談先が適切な見通しを示しにくくなります。弁護士には守秘義務がありますので、まずは事情をそのままお話しいただき、どの窓口に何を伝えるかを一緒に整理することができます。

子が50歳を超えていても相談できますか

 お子さんの年齢は問いません。当事務所では、未成年から50歳を超える方まで、北海道から沖縄まで全国のご家庭からのご相談をお受けしてきました。お子さんが未成年の場合の少年事件の付添人活動や、逮捕された場合の弁護活動にも対応しています。

まとめ


  • 薬物、ひきこもり、金銭の要求は、互いに原因にも結果にもなっていることが多く、一つずつ別の窓口に相談すると全体の見通しが立ちにくくなります。
  • 三つが重なっているときは、安全、医療、金銭の順に優先して考えることが目安になります。
  • 自傷や他害のおそれがある場面での110番は、精神保健福祉法23条の通報を通じて医療につながる入口にもなり得ます。
  • 精神保健福祉センターでは、依存症の家族相談とひきこもりの相談を一か所で受け付けています。
  • 家の明渡しを求める訴訟などを先に起こすと、医療保護入院に同意できる家族等から外れる可能性があるため、手続の順序に注意が必要です。
  • 暴行や脅迫には、同居の親族間の窃盗や恐喝のような刑の免除の特例はありません。


薬物・ひきこもり・金銭の要求が重なって悩むご家族の方へ

 三つの問題が重なっていると、どの窓口に何から話せばよいかを考えるだけで、ご家族の力が削られていきます。当事務所では、安全と医療の見通しを踏まえながら、お金の要求への対応や親子の距離の取り方を、ご家族と一緒に順を追って整理していきます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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