【親子問題】執行猶予中の再使用|何が起きるか

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

「執行猶予中なのに、子がまた薬物を使っているかもしれない」「このまま使い続けたら、前の判決はどうなるのか」。親子の問題のご相談の中で、こうした不安を打ち明けられるご家族は少なくありません。一方で、ご本人の側からも「一度使ってしまったら、もう終わりなのか」という声を聞くことがあります。

 執行猶予中に再び罪を犯すと刑務所に行くことになる、という説明は広く知られており、多くの場合それ自体は誤りではありません。ただ、猶予が取り消されるのはどの時点なのか、例外となる再度の執行猶予や刑の一部執行猶予がどう位置づけられているのか、2025年6月の刑法改正で何が変わったのかは、あまり整理されて伝わっていません。また、保護観察の付かない執行猶予では、日々の変化に最初に気づくのが家族であることが多いという点も見落とされがちです。

 この記事では、薬物事件で執行猶予中の子が再使用した場合に法律上何が起きるのかを、親の立場から整理します。再度の執行猶予の要件の詳細は薬物事件で再度の執行猶予は可能か|要件と実務の壁、保護観察の遵守事項については保護観察付き執行猶予の遵守事項と、取り消される場面で扱っています。

本記事は2026年9月時点の法令に基づいて作成しています。2025年6月1日施行の改正刑法により懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されたため、本文でも拘禁刑と表記しています。改正前の行為や判決には、経過措置により従前の規定が適用される場合があります。


執行猶予中の再使用で起きることの全体像

使った時点で猶予が取り消されるわけではない

 執行猶予は、再使用が分かった瞬間に自動的に取り消されるものではありません。再使用は新たな事件として捜査され、起訴されれば新しい裁判が開かれます。刑法26条1号は、猶予の期間内に更に罪を犯して拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないときは、猶予の言渡しを取り消さなければならないと定めています。

 つまり、前の猶予が取り消されるかどうかは、新しい事件の判決が実刑になるかどうかで決まるという構造です。取消しは、検察官の請求を受けて、裁判所が本人の意見を聴いたうえで決定により行います(刑事訴訟法349条1項、同法349条の2第1項)。

取り消されると、前の刑と新しい刑の両方を受ける

 猶予が取り消されると、前の判決で言い渡されていた刑の執行が必要になります。新しい事件の刑と合わせて服役することになり、それまで猶予期間を問題なく過ごしていた期間が差し引かれるわけではありません。具体的な数字を置くと、次のようなイメージです。

場面内容
前の判決拘禁刑1年6月・執行猶予3年(例)
猶予期間中の再使用新たに起訴され、実刑判決を受ける(例:拘禁刑2年)
前の猶予取り消され、拘禁刑1年6月の執行が必要になる(刑法26条1号)
結果両方の刑を合わせて服役する(この例では合計3年6月)


 実際に施設で過ごす期間は、判決前の勾留日数の算入や仮釈放の有無によって変わります。表はあくまで仕組みを示すための例です。

取消しの類型を整理すると

 執行猶予の取消しには、取り消さなければならない場合と、取り消すことができる場合があります。

類型主な場面根拠
取り消さなければならない猶予期間中の罪で拘禁刑の実刑判決を受けたとき刑法26条1号
取り消すことができる猶予期間中の罪で罰金に処せられたとき刑法26条の2第1号
取り消すことができる保護観察の遵守事項を守らず、その情状が重いとき刑法26条の2第2号
期間経過後も取り消され得る猶予期間中の罪について公訴提起がされていたとき刑法27条2項・4項


 覚醒剤の使用(覚醒剤取締法41条の3)や大麻の使用(麻薬及び向精神薬取締法66条の2)の法定刑は拘禁刑のみで、罰金の定めはありません。起訴されれば拘禁刑の判決となるため、薬物の再使用では1段目の「取り消さなければならない」場面に直結しやすいといえます。なお、大麻の使用は2024年12月の法改正で処罰対象となりました。改正の内容は大麻の「使用」も処罰対象になった|2024年12月施行の改正の要点で説明しています。

「再度の執行猶予」は例外として位置づけられている

2025年6月の改正で広がった要件

 執行猶予中に犯した罪についても、もう一度執行猶予が付く制度があります。これを再度の執行猶予といいます(刑法25条2項)。改正前は、言い渡される刑が1年以下の場合に限られ、保護観察付きの執行猶予の期間中に犯した罪は対象外とされていました。

 2025年6月1日施行の改正で、対象は2年以下の拘禁刑に広がりました。また、最初の執行猶予に保護観察が付いていた場合でも、再度の執行猶予の対象になり得るようになりました(再度の執行猶予で保護観察に付された期間中の再犯は除かれます)。いずれの場合も「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という要件は残っています。

薬物の再使用では届きにくいとされる理由

 複数の法律事務所の解説では、覚醒剤事件の初犯は拘禁刑1年6月・執行猶予3年前後が一つの目安とされ、猶予期間中の再犯では初犯を上回る刑が見込まれることが多いと説明されています。同じ種類の罪を猶予期間中に繰り返したという事情は、「特に酌量すべき情状」の判断でも不利に働きやすいところです。

 要件が広がったことは、薬物の再使用で再度の執行猶予が通りやすくなったことを直ちに意味するものではありません。見通しは、使用の回数や期間、治療への取組み、生活環境などによって個別に変わります。

刑の一部執行猶予という選択肢

 薬物の再使用の事件では、刑の一部執行猶予が検討されることがあります。刑期の一部を施設で過ごした後、残りの期間の執行を猶予し、社会の中で保護観察を受けながら生活する制度です。薬物使用等の罪については、前に拘禁刑の実刑を受けたことがあっても適用が可能とされ(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律3条)、猶予の期間中は保護観察が必ず付きます(同法4条1項)。

 社会に戻る時期が早まる一方で、猶予期間中の遵守事項違反による取消しは、全部の執行猶予よりも広く認められる仕組みになっています(刑法27条の5第2号)。社会内での期間をどこで、誰の支えを受けて過ごすのかという準備が、判決の前から問われる制度です。

猶予期間の満了が近い時期の再使用

改正前は「判決前に満了すれば取り消せない」とされていた

 改正前の刑法27条は、猶予の言渡しを取り消されることなく猶予期間を経過したときは、刑の言渡しは効力を失うと定めていました。そのため、猶予期間の終わり近くに再び罪を犯しても、新しい事件の判決が出る前に期間が満了すれば、前の猶予は取り消せないという扱いでした。

改正後は、起訴されていれば効力が続く

 改正後の刑法27条2項は、猶予期間内に更に犯した罪(罰金以上の刑に当たるもの)について公訴提起がされているときは、期間が経過した後も、猶予の取消しがあり得なくなるまでの間、前の刑の言渡しが効力を持ち続けると定めました。その罪で拘禁刑の実刑判決を受けたときは、原則として猶予を取り消さなければなりません(同条4項)。

 「満了間近だから、時間が過ぎれば前の刑は消える」という見通しは、改正後は成り立ちにくくなっています。ただし、前の判決や再使用の時期によっては改正前の規定が適用されることもあるため、どちらが適用されるかは個別に確認が必要です。

保護観察の有無で変わる、再使用の見つかり方

保護観察付きの場合|検査と遵守事項

 薬物事件で保護観察に付された人に対しては、保護観察所が薬物再乱用防止プログラムを実施しており、尿や唾液による簡易薬物検出検査が組み込まれています。プログラムの受講や検査の受検が特別遵守事項とされている場合、正当な理由なく拒むことは遵守事項違反として猶予の取消し(刑法26条の2第2号)につながるおそれがあります。陽性の結果が出た場合には、警察への出頭を促される運用があると解説されています。

保護観察のない執行猶予の場合|日常を見ているのは家族

 初めての薬物事件では、保護観察の付かない執行猶予となることも少なくありません。その場合、公的な機関が定期的に本人の様子を確認する仕組みはなく、日常の変化に最初に気づくのは同居の家族であることが多くなります。平成21年版犯罪白書の特別調査では、覚醒剤事件で執行猶予となった人のうち約3割が4年以内に再犯に及び、その8割以上が同じ罪名だったとされています(平成28年版犯罪白書での紹介による)。

 家族は気づき手になりやすい一方で、監視役を家族だけで担い続けることには限界があります。見張り続けることで親子の関係がかえって張り詰め、家族の側が疲弊していく例も少なくありません。

家族が再使用に気づいたときに避けたいこと

見つけた薬物を家族が処分・保管しない

 部屋で薬物らしきものを見つけたとき、捨ててしまいたい、あるいは預かっておきたいと考えるのは自然なことです。しかし、家族が持ち出して保管すれば、家族自身の所持が問題になるおそれがあります。処分すれば、証拠隠滅(刑法104条)が問題になり得ます。親族が本人のために行った場合の特例(刑法105条)はありますが、刑を「免除することができる」という規定にとどまり、免除が保証されるものではありません。見つけたものには手を触れず、どう動くかを先に相談するという順序が安全です。

通報するかどうかは、家族が判断してよい

 刑事訴訟法239条1項は、誰でも犯罪があると考えるときは告発をすることができると定めていますが、家族に通報を義務づける規定ではありません。通報する、医療や依存症の相談機関につなぐ、弁護士に相談して方針を決めるなど、選択肢は一つではありません。依存症の家族相談は、各都道府県の精神保健福祉センターでも受け付けています。警察に相談する場合の記録の残し方は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続、窓口ごとの役割は【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。

お金を渡し続けることの意味を見直す

 成人した子から繰り返しお金を求められ、断り切れずに渡している家庭もあります。渡したお金が薬物の購入に回っている可能性がある場合、家族の支えが結果として再使用を続けやすくしてしまうことがあります。成人した子に対して親がどこまで生活を支える義務を負うのかは、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで説明しています。お金の渡し方を変えることは、子を見放すことと同じではありません。

逮捕された後に家族が担えること、担わなくてよいこと

弁護人は親からも選任できる

 子が成人していても、直系の親族である親は、本人とは独立して弁護人を選任することができます(刑事訴訟法30条2項)。薬物事件は勾留が長引きやすく、起訴後の保釈も容易ではないとされています。身柄の見通しは覚醒剤事件はなぜ勾留・保釈が厳しいのか|起訴前からの保釈準備、所持と使用で逮捕が重ねられる流れは薬物事件の再逮捕|余罪が増える流れと身柄の長期化で扱っています。

情状として示せる材料を整える

 再使用の事件では、治療や回復支援への参加、今後の生活環境といった事情が、刑の重さや一部執行猶予の判断材料になります。依存症の治療や回復施設への参加の評価についてはダルク・依存症治療への参加|情状としてどう評価されるか、家族が関われる範囲は家族としてできること|身元引受・治療・監督体制の組み立てで説明しています。

 ここで意識しておきたいのは、実家に戻して家族が監督することだけが、示せる環境ではないという点です。本人が家族と離れた場所で住まいを確保し、支援者の関与を受けながら生活を立て直す形も、社会内で更生する環境として示し得ます。

実刑となった場合の備え

 前の猶予が取り消され、新しい刑と合わせて服役することになった場合、収監までの手続や、施設を出た後の帰住先をどうするかといった準備が必要になります。収監までの流れは実刑が確定したら|収監までの流れと準備をご覧ください。出所後にどこで暮らすのかは、家族と本人の双方にとって、判決の前から考えておきたい点です。

よくあるご質問

猶予期間中に一度使っただけでも、刑務所に行くことになりますか

 使用の回数が一度であっても、起訴されて拘禁刑の実刑判決を受ければ、前の猶予は取り消さなければならないとされています(刑法26条1号)。再度の執行猶予や刑の一部執行猶予の可能性はありますが、見通しは事情によって異なります。早い段階で弁護士に相談し、示せる材料を整えることが大切です。

猶予期間があと数か月で終わる時期に使ってしまいました。期間が過ぎれば前の刑は消えますか

 2025年6月1日施行の改正により、猶予期間中の罪について公訴提起がされていれば、期間の経過後も前の刑の言渡しは効力を持ち続けます(刑法27条2項)。その罪で実刑判決を受けたときは、原則として猶予が取り消されます(同条4項)。前の判決や行為の時期によって改正前の規定が適用される場合もあるため、個別の確認が必要です。

子はすでに40代です。親から弁護士に依頼できますか

 子の年齢にかかわらず、親は弁護人を選任することができます(刑事訴訟法30条2項)。弁護士費用を親が負担する場合でも、弁護人が弁護するのは本人です。家族としての悩みや今後の生活の問題は、刑事弁護とは別に整理して相談できるようにしておくと、それぞれの話が進めやすくなります。

まとめ


  1. 執行猶予は再使用の発覚で自動的に取り消されるのではなく、新しい事件で拘禁刑の実刑判決を受けたときに取り消さなければならないとされる(刑法26条1号)。
  2. 取り消されると、前の刑と新しい刑を合わせて服役することになり、猶予期間を過ごした分は差し引かれない。
  3. 覚醒剤や大麻の使用罪には罰金の定めがなく、起訴されれば拘禁刑の判決となる(覚醒剤取締法41条の3、麻薬及び向精神薬取締法66条の2)。
  4. 再度の執行猶予は2025年6月の改正で2年以下の拘禁刑に広がったが、「特に酌量すべき情状」が必要で、薬物の再使用では例外的な位置づけにとどまる(刑法25条2項)。
  5. 刑の一部執行猶予は前科があっても適用可能で、猶予期間中は保護観察が必ず付く(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律3条・4条1項)。
  6. 改正後は、猶予期間中の罪で起訴されていれば、期間経過後も猶予が取り消され得る(刑法27条2項・4項)。
  7. 家族は見つけた薬物を処分・保管せず、通報の判断や逮捕後の弁護人選任(刑事訴訟法30条2項)を含めて、早めに相談先を確保する。


子の薬物の再使用に悩むご家族へ

弁護士法人若井綜合法律事務所では、家庭内暴力やひきこもり、子の薬物や金銭の問題など、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親の代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、住まい探しや仕事探し、日々の金銭管理など、子の生活の立て直しを支える体制で対応しています。これまで北海道から沖縄まで、全国のご家庭のご相談に対応してきました。

 執行猶予中の子の再使用が疑われて迷っているご家族も、すでに子が逮捕され今後の見通しを知りたいご家族も、一人で抱え込まずにご相談ください。子本人の刑事弁護のご依頼についても、状況をうかがったうえでご案内します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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