【親子問題】ひきこもりの子が「自分の部屋は自分のもの」と言って家族を入れないときは?
何年も自宅で過ごすことが多かった子が、ある時期から急に外出するようになった。そうした変化にほっとする一方で、「どこへ行っているのか」「誰と会っているのか」と落ち着かない気持ちを抱く親御さんは少なくありません。行き先を聞いても答えない、帰りが深夜になる、お金の出どころが分からないといった事情が重なると、不安はさらに大きくなります。
この記事では、外出を始めたことをまずは前向きな変化として受け止めたうえで、法的なトラブルにつながるおそれのあるサインと、親が問い詰めずにできる備えを整理します。
本記事は、成人した子がひきこもりの状態にある家庭を想定し、2026年10月時点の法令や公的な支援の枠組みにもとづいて解説しています。ご家庭の事情によって取れる手段は変わりますので、具体的な対応はご相談のうえでご判断ください。
外出を始めたこと自体は、前向きな変化であることが多い
厚生労働省の定義では、ひきこもりは、社会的な参加を避けて原則として6か月以上おおむね家庭にとどまり続けている状態を指し、他者と交わらない形で外出している場合も含むとされています。コンビニや趣味の用事には出かけるという方も多く、外出の有無だけで状態を判断することはできません。
そのうえで、外出の頻度が増えることは、本人のエネルギーが少しずつ戻ってきている表れであることが多いものです。公的な支援の場でも、いきなり就職を目指すより、外出や人との接点を少しずつ増やしていくことが大切だと考えられています。外出を始めた直後に親が強く警戒したり、行き先を細かく問いただしたりすると、本人が再び家にこもってしまうことがあります。
まずは「出かけられるようになった」ことを否定せず、そのうえで、次に述べるような変化が重なっていないかを落ち着いて見ていくことが出発点になります。
様子を見てよい変化と、気にかけておきたい変化
外出に伴う変化のなかには、そのまま見守ってよいものと、トラブルの入り口になっていないか気にかけておきたいものがあります。目安を表にまとめます。
| 項目 | 様子を見てよい変化 | 気にかけておきたい変化 |
|---|---|---|
| 時間帯 | 日中や夕方の外出、短時間の買い物 | 深夜の外出が続く、連絡のない外泊が増える |
| お金 | 手持ちの範囲で使っている | 収入の説明がないのに持ち物が急に増える、親への金銭の要求が増える |
| スマホ | 使い方に大きな変化はない | 知らない番号からの着信が続く、聞いたことのないアプリでやり取りしている、端末を急に増やす |
| 郵便物・荷物 | 特に変化はない | 心当たりのない荷物や、本人以外の名義の郵便物が届く |
| 心身の様子 | 疲れて帰宅し、よく眠る | ほとんど眠らずに動き回る、話がまとまらない、気分の上下が激しい |
表の右側にあるサインが一つあったからといって、すぐにトラブルに巻き込まれていると決めつける必要はありません。ただ、いくつかが同時に、あるいは急に現れた場合には、外出先で何かが起きている可能性を念頭に置いておくとよいでしょう。
外出の先で起こりうる法的なトラブル
長く社会との接点が少なかった方は、外の情報や人間関係に慣れていないぶん、勧誘や誘いを断りにくいことがあります。親として知っておきたい典型的な場面を挙げます。
闇バイトなど、犯罪の実行役への勧誘
SNSや掲示板では、「高額」「即日即金」などの言葉で仕事の中身を明かさずに人を集める投稿が見られます。こうした募集に応じると、受け子や運び役など、犯罪の一部を担わされるおそれがあります。応募の段階で身分証の画像や家族の情報を求められ、後から「家族のところへ行く」などと言われて抜けにくくなる例について、警察も注意を呼びかけています。
外出が急に増え、説明のつかない現金を持っている、特定の連絡を気にしておびえているといった様子がある場合には、【親子問題】子が闇バイトに関わっていると分かった|親の立場でできること・してはいけないことと【親子問題】スカウト・匿名流動型グループに取り込まれている疑い|接触を断つ順序と安全確保の考え方もあわせてご覧ください。
SNSで知り合った相手との金銭のやり取り
外出のきっかけが、SNSやアプリで知り合った相手と会うことである場合もあります。人との交流が生まれること自体は悪いことではありません。ただ、交際や投資の話を持ちかけられて送金を続けている、会うたびにお金を渡しているといった事情があると、後から取り戻すのが難しくなることがあります。こうした構造については、【親子問題】SNSで知り合った相手に子が金を送り続けている|ロマンス詐欺・投資勧誘の構造と、止められない理由で解説しています。
ギャンブルやホストクラブ、推し活への支出
外出先がギャンブルの場やホストクラブなどで、支出が手持ちを超えはじめると、親への金銭の要求や借入れにつながることがあります。また、オンラインカジノのように、日本国内から利用すること自体が賭博罪に問われうるものもあります。関連する記事として、【親子問題】子がオンラインカジノにのめり込んでいる|親が確かめること・避けたい対応と【親子問題】ホスト・推し活・ギャンブルへの支出が原因の場合があります。
スマホや口座、身分証を他人に渡すこと
「スマホを用意してくれれば報酬を払う」「口座を貸してほしい」と持ちかけられ、軽い気持ちで応じてしまうことがあります。しかし、自分が契約したスマホやSIMを他人に譲り渡す行為は携帯電話不正利用防止法で、預貯金口座のキャッシュカードなどを他人に渡す行為は犯罪収益移転防止法で、それぞれ処罰の対象になる場合があります。子のスマホが親名義の契約であれば、親自身が事情を聞かれることもあります。名義に伴うリスクは、【親子問題】子の携帯・車の名義を親が持っている場合のリスクで整理しています。
心身の状態の急な変化
外出が増えるのと同時に、ほとんど眠らずに動き回る、急に大きな買い物を繰り返す、話がまとまらないといった様子が見られる場合には、法的なトラブルよりも心身の不調が背景にあることも考えられます。その場合は、判断を急がずに医療や精神保健の窓口へ相談することが先になります。考え方は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で紹介しています。
親が控えておきたい対応
不安が大きいと、外出そのものを止めたり、行動を細かく把握したりしたくなります。ただ、成人した子の行動を親が法的に制限することはできず、次のような対応はかえって状況をこじらせるおそれがあります。
- 外出させないよう鍵をかけて閉じ込めることは、本人の意思に反して行動を制限するもので、法的な問題になることがあります。
- 本人の同意なくスマホのロックを解いて中身を見たり、位置情報を把握するアプリを入れたりすると、プライバシーの問題が生じるうえ、知られたときに信頼関係が大きく損なわれます。
- 外出のたびに行き先や相手を問い詰めると、本人が外出をやめるか、事情を隠すようになることがあります。
- 求められるままにお金を渡し続けると、外出先でのトラブルの資金源になってしまうことがあります。
親が関われる範囲の考え方は、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で解説しています。
問い詰めずに、親ができること
外出を否定せず、短い声かけを続ける
「今日は寒かったね」「夕飯は食べる?」といった短い声かけを続けておくと、本人が困ったときに話を切り出しやすくなります。行き先を聞く場合も、責める調子ではなく「遅くなるときは一言連絡をもらえると安心する」と、親の気持ちとして伝える方が受け入れられやすい傾向があります。
気になったことを日付とともに記録しておく
帰宅時間、お金を求められた日と金額、届いた郵便物、心当たりのない着信など、気になったことはその都度メモに残しておきます。後で相談するとき、何がいつから変わったのかを具体的に伝えられ、相談先の判断も早くなります。記録の意味については、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかもご覧ください。
家の中の「入り口」を整えておく
親名義のクレジットカードや通帳、実印、身分証などは保管場所を見直し、子の携帯電話や各種の契約が親名義になっていないかを確認しておきます。本人を疑うためではなく、外部の第三者に悪用される入り口を減らすための備えとして行うものです。
身の危険があるときは、迷わず警察へ
子が誰かに脅されている様子がある、家族への危害をほのめかす連絡が届いた、自宅の周りに見知らぬ人物が来るようになったといった場合には、ためらわずに警察へ相談してください。緊急性が高いときは110番、そこまでではないときは警察相談専用電話の「#9110」が窓口になります。本人が闇バイトなどから抜けたいと打ち明けてきたときも、安全の確保を優先して警察へ相談することが大切です。
よくあるご質問
外出先を本人に聞いてもよいですか
聞くこと自体は問題ありません。ただ、答えを強く求めたり、答えた内容を細かく確かめたりすると、本人が話さなくなることがあります。「話したくなったら教えてね」と余地を残した聞き方の方が、長い目で見て状況を把握しやすくなります。
成人した子の外出を、親の判断で止めることはできますか
成人した子には行動の自由があり、親が外出を禁止する法的な権限はありません。犯罪への関与などが心配される場合でも、外出を物理的に止めるのではなく、記録や相談を通じて状況を確かめ、必要に応じて警察や弁護士につなぐ形で対応することになります。
闇バイトに関わっているかもしれないとき、警察と弁護士のどちらに先に相談すべきですか
本人や家族が脅されているなど身の安全に関わる事情がある場合は、まず警察への相談を優先してください。すでに何らかの行為に関わってしまった可能性がある場合や、今後の手続の見通しを知りたい場合には、弁護士に相談することで、本人にとってどのような対応が考えられるかを整理できます。
親だけで抱え込まずに相談する
外出の変化をどう受け止めるかは、ご家庭ごとの事情によって大きく変わります。本人の心身の状態が気になる場合は、ひきこもり地域支援センターや精神保健福祉センターなどの公的な窓口が相談先になります。窓口の使い方は、【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことで紹介しています。
一方、外出先で知り合った相手から金銭を求められている、子が犯罪に関わった疑いがある、親自身にも請求や連絡が来ているといった場合には、法的な判断が必要になります。弁護士は、親の代理人として相手方との窓口になったり、刑事手続の見通しを説明したりすることができます。当事務所では、自立支援カウンセラーとチームを組み、親御さんの保護と子の生活の立て直しを並行して進める取り組みも行っています。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
子が外に出られるようになったことは、多くの場合、回復に向かう大切な一歩です。その変化を守りながら、トラブルの入り口になりうるサインに気づいたときに早めに相談しておくことで、親子ともに選べる手立てが広がります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


