【不貞慰謝料・請求する側】分割払いを求められたときに考えること
不貞の問題が表に出たあと、相手方から「謝罪文を書いてほしい」と求められることがあります。慰謝料の話と一緒に求められることもあれば、金銭のことには触れられないまま謝罪文だけを求められることもあります。書いたほうがよいという説明も、慎重に考えたほうがよいという説明も見かけるため、どちらに従えばよいのか迷われる方は少なくありません。
この記事では、謝罪文を「書くか書かないか」の二択で考える前に確かめておきたいことを整理します。具体的には、相手が謝罪文に何を求めているのか、いつ渡すのか、渡した後にその書面がどこへ行くのか、という3つの点です。書面ができあがった後の証拠としての扱いや、不貞を認めること自体の意味については別の記事で扱っていますので、ここでは「求められた場面でどう動くか」に絞ってご説明します。
「謝罪文を書いてほしい」という求めは一つではない
同じ言葉でも中身が違う
「謝罪文がほしい」という言葉は同じでも、その言葉で何を得ようとしているのかは場面によって異なります。気持ちの区切りをつけたい方もいれば、これまで否定されてきた事実をはっきりさせたい方もいます。すでに弁護士が関与していて、示談の条件の一つとして挙げられていることもあります。
求めの中身が違えば、応じたときに何が起きるかも変わります。まずは、どの型に近いのかを見立てるところから始めるのが現実的です。
| 求めの型 | 相手が満たそうとしていること | 応じるときに気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 気持ちを受け取りたい | 区切りをつけたい、誠意を確かめたい | 文面の長さより、事実に正確であること |
| 事実をはっきりさせたい | 曖昧なままの説明を確定させたい | どこまで書くかが後の話し合いの前提になる |
| 書面として残したい | 後日の言い分の変化に備えたい | 書面が残る前提で文面を考える必要がある |
| 示談の条件として求めている | 合意の内容の一部にしたい | 金額や他の条件とまとめて検討する |
| 第三者に示したい | 家族や周囲に説明したい | 手を離れた後の広がりを想定しておく |
説明が食い違って見える理由
インターネット上には「謝罪文は出したほうがよい」という説明と「安易に出さないほうがよい」という説明の両方があります。どちらかが誤っているというより、想定している場面が違うことが多いといえます。事実関係に争いがなく、相手が気持ちの区切りを求めている場面と、事実関係にまだ争いがあり、相手が書面を残そうとしている場面とでは、同じ行動でも意味が変わるためです。
法律は「謝罪」を義務として組み立てていない
賠償は金銭でするのが原則
不法行為による損害の賠償は、別段の意思表示がない限り金銭によって行うとされています(民法722条1項、417条)。不貞を理由とする慰謝料も、この枠組みの中で扱われます。つまり、法律が用意している責任の取り方は金銭であって、謝罪という行為は原則としてその中に含まれていません。
例外は名誉毀損の場面に置かれている
金銭以外の方法を定めた規定はあります。民法723条は、他人の名誉を毀損した者に対して、裁判所が被害者の請求により、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができると定めています。謝罪広告はこの規定に基づくものです。
ただし、この規定が置かれているのは名誉毀損の場面です。不貞を理由とする慰謝料の請求で、裁判所が相手方に謝罪文の作成を命じるという仕組みは、通常は想定されていません。
命じられた謝罪も「本人に書かせる」形では実現されない
謝罪広告を命じる判決について、最高裁判所は昭和31年7月4日の大法廷判決で、その内容が単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明する程度のものであれば、代替執行の手続によることができると判断しました。代替執行とは、作為を目的とする債務について、債務者の費用で第三者にその行為をさせる方法です(民事執行法171条1項1号)。
つまり、裁判所が謝罪を命じられる数少ない場面ですら、実現の方法は「本人に書かせること」ではなく、費用を負担させて別の形で掲載させることに置かれています。謝罪の言葉そのものを強制する仕組みは、法律の中にほとんど用意されていないと考えてよいでしょう。
だからこそ交渉の材料になる
義務ではないということは、書かなくても直ちに不利益が生じるわけではない、ということでもあります。同時に、義務ではないからこそ、相手にとっては金銭以外で得られる数少ないものになります。応じるかどうかを決めるときは、この二面を分けて考えておくと判断がぶれにくくなります。
応じる・断る・条件をつけるの3つがある
求めへの答えは「書く」か「書かない」かの二択に見えがちですが、実際には条件をつけて応じるという選び方もあります。
| 選び方 | その後に起きやすいこと | 検討しやすい場面 |
|---|---|---|
| そのまま応じる | 話が進みやすい一方、内容の書き直しを求められることがある | 事実関係に争いがなく、終わり方の見通しがある場合 |
| 応じないと伝える | 求めが繰り返される、態度の問題として持ち出されることがある | 事実関係に争いがある場合、内容に納得できない場合 |
| 条件をつけて応じる | 条件の調整に時間がかかる | 解決の全体像とあわせて決めたい場合 |
断る場合も、伝え方は選べます。「書きません」とだけ返すのと、事実関係の整理がついた段階で改めて検討したいと伝えるのとでは、その後の話し合いの空気が変わることがあります。
いつ渡すのかで意味が変わる
話がまとまる前に渡す場合
金額や条件が決まっていない段階で先に謝罪文を渡すと、こちらから出せるものが一つ減った状態で話し合いを続けることになります。相手にとっては、すでに受け取ったものについて改めて譲る理由が乏しくなります。
まとまってから渡す場合
合意の内容が固まってから渡す形であれば、何をもって終わりとするのかが決まった上で渡すことになります。書面の内容についても、合意の一部としてあらかじめ確認しておくことができます。一方で、解決までの間、誠意が示されていないと受け取られることがあります。
書き直しを重ねて求められる場面
謝罪文をめぐって長期化しやすいのは、終わりの決め方が定まっていないまま渡した場合です。どこまで書けば足りるのかの基準が双方の間にないため、内容が足りないという指摘が続くことがあります。渡す時期を全体の解決と切り離さないことは、この状況を避けるための現実的な手立てになります。
文面を用意された場合
写して署名する形を求められたとき
相手方が下書きや文例を用意し、それを書き写すよう求めてくることがあります。文面の中に、こちらが把握していない期間や回数、金銭に関する記載が入っていないかは、書き写す前に一つずつ確認しておく必要があります。
自分の記憶と違う部分があるまま署名すると、後にその点を説明し直す場面で、なぜそのときは違うことを書いたのかを問われることになります。
自分の言葉で書く場合
自分の言葉で書く場合は、書く範囲を自分で決められる反面、書きすぎてしまうことがあります。謝罪の気持ちを伝えることと、事実関係を細かく説明することは別のことです。相手が求めているのが前者であれば、後者まで書き込まずに済む場合もあります。
なお、できあがった書面が後にどのように評価されるのかについては、念書や謝罪文の証拠としての扱いを整理した記事で詳しく述べています。不貞を認めること自体がどのような意味を持つかについても、別の記事で扱っています。
渡した後、その書面はどこへ行くのか
返してもらう根拠は通常ない
謝罪文は、相手に渡した時点でこちらの手を離れます。いったん渡した書面について、返還を求める法律上の根拠が当然に生じるわけではありません。気が変わったので返してほしいと伝えても、応じるかどうかは相手次第ということになります。
写しは残る
仮に原本が戻ってきたとしても、写真や複写が残っていれば、その事実は変わりません。書面を渡すという行為は、内容が相手の手元に残ることを受け入れる行為だと考えておくのが安全です。
第三者に示される場合
相手方が謝罪文を家族や親族に見せることもあります。勤務先など、こちらの生活に直接関わる先に示される可能性を心配される方もいます。示され方によっては相手方の側に別の責任が生じる場面もありますが、それは新たに争いを立てるということであり、いったん広がったものを元に戻す手段にはなりません。
なお、勤務先や親族に連絡が行くこと自体への対応は、それぞれ別の記事で扱っています。
止められるのは、あらかじめ決めておいたときだけ
広がり方をあらかじめ抑えておきたい場合には、示談書や合意書の中で、書面の使い道や口外しないことを定めておく方法があります。逆にいえば、何も定めずに渡した書面については、その後の扱いを縛る取り決めが存在しないことになります。条項の作り方については、示談書の条項を扱った記事をご覧ください。
求める側から見た限界
強く迫ると別の問題になりうる
謝罪文の作成は相手の義務ではありません。義務のないことを行わせるために脅迫や暴行を用いた場合には、強要罪(刑法223条)が問題になりえます。金銭の要求と結びついた場合の線引きについては、別の記事で扱っています。
経緯が争われると書面の力は弱まる
仮に書面を得られたとしても、書かせるまでの経緯に無理があったと受け取られる状況であれば、その書面が後の場面でどこまで働くかは不確かになります。次のような事情は、後から指摘されやすい部分です。
- 長時間にわたって話し合いの場から離れられない状況にしたこと。
- 複数人で訪問し、その場に居合わせたこと。
- あらかじめ文面を用意し、その場での署名を求めたこと。
- 返答の期限を極端に短く区切ったこと。
何のために求めるのかを先に決める
求める側にとっても、謝罪文で何を得たいのかをはっきりさせておくことが近道になります。気持ちの区切りが目的なのか、事実の確認が目的なのか、今後の約束を残すことが目的なのかによって、求めるべき書面の形は変わります。今後の接触をやめてもらいたいという目的であれば、謝罪文より合意書の条項として定めるほうが目的に沿うこともあります。
よくあるご質問
手書きでなければいけませんか
形式について法律上の決まりはありません。手書きが求められるのは、本人が書いたものであることが伝わりやすいという理由によるものです。相手が手書きを求めている場合、そこには気持ちを確かめたいという意図が含まれていることが多いといえます。
事実と違う内容を書くよう求められています
記憶と異なる期間や回数を書くよう求められた場合、その部分をそのまま受け入れるかどうかは慎重に考える必要があります。後にその点を争おうとすると、自分が書いた書面と食い違う説明をすることになるためです。書ける範囲と書けない範囲を分けて伝えることは、拒否とは異なります。
一度出した謝罪文を撤回できますか
撤回すると伝えること自体はできますが、渡した書面がなかったことになるわけではありません。撤回の申し入れは、なぜ内容が変わったのかという説明を求められる場面につながることもあります。出す前に内容を確かめておくことが、結局は負担の少ない進め方になります。
弁護士に依頼したら謝罪文はどうなりますか
代理人が入った場合、謝罪文を出さない方針で進めることも、内容と時期を調整したうえで出す方針で進めることもあります。方針を決めるのはご本人ですので、謝罪の意思を伝えたいという希望があれば、その旨をお伝えいただければ、どの形が目的に合うかを一緒に検討します。
まとめ
- 「謝罪文を書いてほしい」という求めには複数の型があり、どの型かによって応じ方が変わります。
- 不法行為の賠償は金銭が原則であり、謝罪文の作成は法律上の義務ではありません。
- 裁判所が謝罪を命じられる場面は名誉毀損に限られ、その実現方法も本人に書かせる形ではありません。
- 答えは「書く」「書かない」の二択ではなく、条件をつけて応じるという選び方もあります。
- 渡す時期を解決の全体像と切り離すと、書き直しを重ねて求められる状況が生じやすくなります。
- 相手が用意した文面を写す場合は、記憶と違う記載が含まれていないかを先に確認します。
- 渡した書面は手元に戻らず、写しも残ります。広がり方を抑えるには、あらかじめ取り決めておく必要があります。
- 求める側も、謝罪文で何を得たいのかを先に決めておくほうが目的に近づきます。
ご相談について
謝罪文を求められている場面では、書くかどうかだけでなく、いつ、どのような内容で、どこまでの範囲で渡すのかが、その後の話し合いの進み方に影響します。すでに書面を渡してしまった後であっても、そこから先の進め方を組み立て直せる場合があります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、不貞をめぐるご相談を、請求する側・請求を受けた側の双方からお受けしています。相手方から書面の提出を求められている段階でも、内容や時期の検討を含めてご相談いただけます。お一人で判断せず、早い段階でご相談ください。


