「渡した金を返せ」と言われた女性へ|返済義務があるケース・ないケース

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

 パパ活の相手から、ある日突然「今まで渡した金を返せ」と言われる。「借用書を書け」「返さないなら訴える」と重ねられ、どう答えればよいのかわからないまま時間だけが過ぎていく——そうしたご相談は少なくありません。

 結論から申し上げると、受け取ったお金に返済義務があるかどうかは、相手が使っている「名目」ではなく、お金を渡したときにどのような合意があったかで決まります。そして、その合意があったことを証明する責任は、原則として「返せ」と言っている側にあります。

 この記事では、返済義務が生じにくいケースと生じうるケースを整理したうえで、多くの解説記事が触れていない「請求の形によって対応が変わる」という点までご説明します。なお、いわゆるママ活など、男性が受け取る側の場合も基本的な考え方は同じです。

1. 前提:義務の有無を決めるのは「名目」ではなく「渡したと

 相手が「あれは貸した金だ」「立て替えてやっただけだ」と言い換えても、それだけで返済義務が生まれるわけではありません。逆に、「あげたつもり」と思っていても、渡された時点で返す約束があったのなら義務は生じます。

 見るべきは次の3点です。

  • 渡された時点で「返す」というやり取りがあったか
  • そのやり取りを裏づける記録(借用書・LINE・録音)が残っているか
  • 受け取った後、自分が返済義務を認めるような言動をしていないか

 3つ目は見落とされがちですが、実務上いちばん争いになりやすい部分です。後述します。

2. 返済義務が生じにくいケース

① お手当・デート代として受け取った

 食事やデートに応じたことへのお手当として受け取ったお金は、その約束を果たしている限り、返還を求められる筋合いのものではありません。都度払いでも月ごとのまとめ払いでも変わりません。

 ただし、先にお金を受け取りながら約束をキャンセルした、大幅に条件を反故にしたという事情があれば、その分について返還を求められる余地は残ります。

② プレゼント・お小遣い・生活費の援助として受け取った

 好意で渡された金品は、法律上は贈与(民法549条)にあたります。契約書を交わさない贈与であっても、すでに渡し終えた部分は一方的に撤回できないとされています(民法550条ただし書)。相手が後から気変わりして「返せ」と言っても、それだけで返還義務は生じないのが原則です。

③ 性的な関係の対価として受け取った

 性的な関係を条件に金銭を授受する合意は、公序良俗に反して無効と考えられています(民法90条)。そして、こうした不法な原因にもとづいて渡されたお金については、渡した側から返還を請求できないとされています(民法708条・不法原因給付)。

 ここで正確にお伝えしておきたいのは、この理屈は自分にも同じように働くという点です。約束された金額が未払いのまま終わったとしても、その未払い分を自分の側から法的に請求することもまた難しくなります。「返さなくてよい」という結論だけを都合よく取り出せる話ではない、とご理解ください。

 なお、「売春は違法だから通報する」と言われることがありますが、売春防止法は売春を禁止しつつ、行為そのものを処罰する規定は置いていません。ただし、相手が18歳未満であった場合は児童買春等のまったく別の問題が関わりますので、この点は自己判断せず弁護士にご確認ください。

3. 返済義務が生じうるケース

① 「返す」約束をして受け取った

 「今月ピンチだから貸してほしい」「給料が入ったら返す」といったやり取りを経て受け取ったお金は、消費貸借契約(民法587条)が成立し、返済義務が生じます。借用書がなくても、口約束とお金の受け渡しがあれば契約は成立します。

 もっとも、その約束があったことを証明する責任は、返還を求める側にあります。借用書もなく、LINEやメールに「貸す」「返す」に類するやり取りも残っていないのであれば、義務が認められる可能性は高くありません。

② 事実と異なる説明をして受け取った

 「親の治療費が必要」「開業資金が足りない」など、実際には存在しない事情を告げてお金を受け取った場合は、詐欺として取り消され(民法96条1項)、返還義務が生じることがあります。悪質であれば詐欺罪(刑法246条1項・10年以下の拘禁刑)として刑事責任が問われる可能性もあります。

 一方で、受け取った時点では本当だったが後から状況が変わった、という場合は詐欺にはあたりません。「嘘があった=詐欺」ではなく、その説明がなければ相手はお金を渡さなかったといえる関係が必要です。相手が「詐欺で訴える」と口にしても、それだけで詐欺が成立するわけではありません。

③ 受け取った後の言動で、自分から義務を作ってしまった

 もともと返す約束がなかったのに、請求された後の対応で義務が生じたと評価されることがあります。典型は次の3つです。

  • 怖くなって借用書や念書にサインした
  • LINEで「返します」「少しずつ払います」と送った
  • とりあえず一部だけ振り込んだ(債務の承認と評価されうる)

 これらは後から覆すことができないわけではありません。「家族にバラす」「職場に連絡する」などと言われて応じたのであれば、強迫による意思表示として取り消せる可能性があります(民法96条1項)。とはいえ、取り消せるかどうかを争うより、最初から作らないほうが圧倒的に楽です。 即答・即サイン・即入金は避けてください。

4. 見落とされがちな分かれ目——証明する責任はどちらにあるか

 「返せ」と言われると、返さなくてよい理由をこちらが説明しなければならないように感じます。しかし民事の原則は逆で、貸したと主張する側が、貸したことを証拠で示さなければなりません。

 そのため、相手とのやり取りの記録は、たとえ自分に不利に見えるものであっても、こちらから削除しないほうが安全です。全体の流れが残っていることで、贈与であった経緯が説明できる場合もあります。

5. 請求の「形」によって、とるべき対応は変わります

 ここが最も誤解の多いところです。同じ「返せ」でも、届き方によって放置してよいものと、放置してはいけないものがあります。

LINE・電話・口頭での請求

 これ自体に法的な強制力はありません。感情的なやり取りに応じても事態は進みませんので、その場での回答は避け、記録を残しておくのが基本です。ただし、突然のブロックが相手の行動をエスカレートさせることもあるため、遮断の仕方は状況を見て判断する必要があります。

内容証明郵便

 内容証明は、その文書をいつ誰に差し出したかを郵便局が証明する制度で、書かれている内容が正しいことを証明するものではありません。 弁護士名で届いても、それだけで支払義務が確定するわけではありません。もっとも、代理人が就いたという合図ではあるため、回答期限が切られている場合は期限前に弁護士へご相談ください。

裁判所から届く書面(支払督促・訴状)——これは放置できません

 相手が実際に法的手続をとることは多くはありませんが、ゼロではありません。裁判所からの書面は特別送達という方法で手渡されます。この段階だけは、対応が遅れると取り返しがつきません。

  • 支払督促:受け取ってから2週間以内に督促異議を申し立てないと、仮執行宣言が付され、財産の差押えに進むおそれがあります。さらに異議がないまま確定すると、確定判決と同じ効力を持ちます(民事訴訟法396条)。
  • 訴状・少額訴訟(60万円以下の請求で利用される手続):答弁書を出さず期日にも出席しないと、相手の主張を認めたものとして扱われ、そのまま敗訴となるおそれがあります。

 つまり、返済義務がない事案でも、対応しなければ支払を命じられてしまうことがあるということです。「言われているだけ」と「裁判所から届いた」は、まったく別の局面として扱ってください。

6. 度を越えた請求は、恐喝や脅迫にあたることがあります

 「返さないなら勤務先に言う」「写真をネットに流す」といった言動を伴う請求は、脅迫罪(刑法222条・2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)や恐喝罪(刑法249条・10年以下の拘禁刑)にあたる可能性があります。

 このような場合、一度支払っても要求が止まらないことが少なくありません。やり取りは削除せず保存し、ご自身で交渉せず、弁護士や警察(#9110)など窓口を一本化することをご検討ください。

7. 迷ったときの初動

避けたいこと

  • その場で「返します」と答える/一部だけ支払う
  • 内容を確認しないまま借用書・念書にサインする
  • やり取りの記録を自分から削除する
  • 裁判所名の入った封筒を開けずに放置する

しておきたいこと

  • 誰が・何を根拠に・いくらを・いつまでに求めているのかを整理する
  • 渡された時期と金額、その時のやり取りを時系列でメモにする
  • 記録(LINE・振込履歴・録音)をそのまま保存する
  • 期限が切られていても即答せず、期限が来る前に弁護士に相談する

8. おわりに

 パパ活で受け取ったお金は、その多くが返還義務の生じにくい性質のものです。しかし、請求された後の言動によって義務が生じてしまうことがあり、また、裁判所を通じた手続を放置すれば、義務のない請求でも支払を命じられることがあります。

 「周囲に知られたくない」という思いから一人で抱え込み、言われるままに支払ってしまう方は少なくありません。相手と直接やり取りをせずに済む方法もありますので、判断に迷う段階でご相談いただければと思います。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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