【不貞慰謝料】不貞の示談書に入れるべき条項|過去の清算と将来の約束を分ける
この記事は2026年9月時点の法令に基づいています。共有物の分割については、令和3年の民法改正(令和5年4月1日施行)で分割方法の規定が整理されており、その内容を反映しています。個別の事情によって結論は変わりますので、実際の対応はご相談ください。
冷蔵庫、ソファ、テレビ、炊飯器、食器。二人で暮らした部屋には、二人で選んだ物が並んでいます。別れることが決まって家の中を見渡したとき、どれがどちらの物なのか分からない。そもそも、どちらが払ったのかも覚えていない。そして退去日だけは決まっている。この状況のご相談を受けることがあります。
金額としては大きくないのに、感情としては一番こじれやすいのが、この部分です。物そのものの価値より、「二人で選んだ」という経緯のほうが重く感じられるからだと思います。
この記事では、誰の物かをどう考えるのか、証拠が残っていない場合にどう組み立てるのか、共同で買った物を現実にどう分けるのか、相手が勝手に持ち出した場合にどうするのか、そして退去日が迫っているときの優先順位を、順に整理します。
誰の物かは「誰が払ったか」だけでは決まらない
出発点は、代金を出した人がその物の所有者になる、という考え方です。ただ、実際にはここで終わりません。
まず、相手に贈ったものは相手の物です。誕生日に買ったアクセサリーや、引っ越し祝いに用意した家電は、代金を出したのがご自身であっても、贈与として相手の所有になっていることがあります。この点は交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?で整理しています。
次に、二人で出し合って買った物は、共有になります。共有と認められる場合、各共有者の持分は相等しいものと推定されます(民法250条)。つまり特に取り決めがなければ、2分の1ずつという扱いが出発点になります。
夫婦のルールはそのままは使えない
ここで一つ、知っておいていただきたい違いがあります。
法律上の夫婦であれば、婚姻中に取得した財産でどちらに属するか明らかでないものは、夫婦の共有と推定するという規定があります。しかしこれは、婚姻届を出している夫婦についての規定です。同棲の場合、この規定が当然に働くわけではありません。
結果として、「二人で暮らしていたのだから半分ずつ」という前提が自動的には出てこないことになります。共有だと主張する側が、二人で出し合って買ったという事実を示す必要がある、という構造です。
整理の順序としては、次の3つに仕分けるところから始めます。
- どちらかがどちらかに贈ったもの。
- どちらかが単独で代金を出したもの。
- 二人で出し合って買ったもの。
領収書やカード明細が残っていないとき
同棲を始めた当時、後で分けることを想定して記録を残している方はまずいません。何も残っていない、というのが普通です。
手元にあることの意味
民法には、占有者が占有物について行使する権利は適法に有するものと推定する、という規定があります(民法188条)。ざっくり言えば、いま手元に置いている人が権利を持っていると一応みなされるということです。
この推定を覆すには、そうではないと示す側が材料を出す必要があります。動産の帰属をめぐる争いで、現に持っている側が事実上有利になりやすいのは、このためです。
ただし、だから力ずくで先に確保してよい、という話ではありません。この点は後の章で触れます。
領収書の代わりになる材料
レシートがなくても、使える記録は意外に残っています。
| 材料 | 分かること | 探す場所 |
|---|---|---|
| クレジットカードの明細 | 購入日と金額、決済した名義 | カード会社の会員ページ |
| 銀行口座の入出金記録 | 家電量販店への支払い | 通帳やアプリの履歴 |
| 通販サイトの注文履歴 | 品名、金額、配送先 | アカウントの購入履歴 |
| 保証書や製品登録 | 登録した名義と購入店 | 付属書類、メーカーのマイページ |
| 設置工事や配送の伝票 | 設置日と依頼者名 | 購入店の控え、メール |
| 当時のメッセージ | 購入時のやりとり、費用分担の話 | チャットの履歴、写真の撮影日時 |
見落とされやすいのが、下から3行目の保証書や製品登録の名義です。延長保証に加入していれば、加入者の名義が残っています。単独で買ったのか出し合ったのかを示す直接の証拠にはなりませんが、購入時の関与を示す材料にはなります。
もっとも、1点ずつ証拠を集めて争うことは、費用の面で見合わないことが大半です。実務では、証拠が揃わない物については、帰属を確定させずに分け方だけを決めるという進め方をよく取ります。
共同で買った物を、現実にどう分ける
共有物については、いつでも分割を請求できます。協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、裁判所に分割を請求することもできます(民法258条1項)。裁判所が命じる分割の方法は、現物を分ける方法、一方に他方の持分を取得させて代金を負担させる方法、そして競売の3つです(同条2項、3項)。
もっとも、冷蔵庫を半分に切ることはできません。家具や家電は現物分割になじまず、かつ1点あたりの価値が小さいため、裁判所の手続まで進めることは現実的でない場合がほとんどです。
実務で使われる3つの決め方
話し合いで使える形は、おおむね次の3つです。
- 部屋に残る側が引き取り、相手にその時点の価値の半額を支払う。
- 売却して、得られた代金を分ける。
- 一覧表を作り、交互に選んでいく。
1番目は、裁判所の分割方法のうち、一方に取得させて代金を負担させる形を、話し合いで先取りするものです。生活を続ける側が家財を確保できるので、実際にはこれが最も収まりやすいと感じています。
どの形を取るにしても、先に一覧表を作ってください。品目、購入した時期、購入額、いまの想定額、どちらが引き取りたいか、そう考える理由。この6つを並べるだけで、話す内容が「気持ち」から「項目」に変わります。口頭のやりとりでは、話題があちこちに飛んで結論が出ないまま感情だけが残りがちです。
値段は「買ったとき」ではなく「いま」で見る
もめる原因の多くは、金額の基準がずれていることにあります。10万円で買った家電を10万円の物として計算しようとすると、話が合いません。
考えるべきは、いま手放したらいくらになるかです。フリマアプリや中古買取の相場を実際に調べて、その数字を基準に置くと、話が具体的になります。数年使った家具や家電は、想像よりはるかに安い値がつくことが多く、その現実を二人で共有できると、争う気持ちが落ち着くことがあります。
支払いが残っている物に注意する
見落とされやすいのが、分割払いやリースの残っている家電です。相手が引き取っていったのに、毎月の支払いだけが契約者であるご自身に残る、という形になりかねません。
支払いが残っている物については、誰が引き取るかと、残りを誰が負担するかを、必ずセットで決めてください。契約先を変更できるかどうかも、事前に販売店や信販会社に確認しておくと判断がしやすくなります。
持っていくと損になる物もある
逆の視点も必要です。エアコン、テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機は、家電リサイクル法の対象品目とされており、処分する際にはリサイクル料金がかかります。料金はメーカーや大きさによって異なります。
つまり、引き取った側が将来の処分費用を負う物もあるということです。「相手に押しつけられた」と感じる物が、実際には負担のほうが大きいこともあります。
なお、一緒に飼っていた動物の扱いは、家財とは別に考える必要があります。この点は同棲中に飼っていたペットはどちらが引き取る?をご覧ください。
相手が勝手に持ち出した・処分した場合
話し合いの前に、家財が消えていたというご相談もあります。
ご自身の単独所有の物であれば所有権の侵害、共有の物であれば持分の侵害という整理になり、損害賠償を求めることが考えられます。処分されてしまった場合は、その物の価値に相当する額が問題になります。
刑事の側面から見ると、他人の物を無断で持ち去る行為や壊す行為は、窃盗や器物損壊として扱われる余地があります。親族の間では刑が免除される特例がありますが、婚姻届を出していない同棲相手は、この特例の対象になりません。最高裁も、内縁の配偶者について特例の適用も準用も認めていません(最高裁平成18年8月30日決定)。
もっとも、共有の物をめぐる争いは、警察が民事の問題として扱うことも多く、届け出れば必ず動くというものではありません。まずは何がなくなったのかを固定することが先になります。
先にやっておくこと
持ち出しが起きる前に、次の記録があると後の話が変わります。
- 各部屋の全体が写るように、室内を撮影しておく。
- 主要な家電は、型番が読める距離でも撮っておく。
- 撮影の日付が分かる形で保存する。
- 一覧表を作り、相手にも同じものを共有しておく。
そして、こちらも同じことをしないでください。取り返すつもりで相手の物を持ち出せば、今度はご自身が同じ立場に立たされます。
退去日が迫っているときの優先順位
最後に、時間が限られている場合の考え方です。
結論から申し上げると、最優先は、期日までに部屋を空けることです。家財の帰属で争って退去が遅れると、賃料や違約金が発生します。その金額は、争っている家具や家電の価値をあっさり超えることが少なくありません。
- 退去日から逆算して、搬出と清掃に必要な日数を確保する。
- 室内を撮影し、家財の一覧表を作る。
- 帰属に争いのない物を先に確定させ、それぞれが引き取る。
- 争いのある物は「保留」とし、どちらが一時保管するかだけを決める。
- 保留分の扱いは、退去が終わってから協議する。
4番目が要点です。保管する側が所有者になるわけではない、ということを、短い文章でよいので書面かメッセージで残しておいてください。「所有権の帰属は決まっていないが、退去のため一時的に自分が預かる」という一文があるだけで、後から蒸し返される余地が減ります。
なお、敷金や原状回復の負担をどう分けるかは、家財とは別の争点として残ります。この点は同棲解消の敷金・原状回復・退去費用は誰が払う?で整理しています。
家具や家電の分け方は、金額だけを見れば争うほどのものではないことが多い一方で、退去の期限という動かせない締切がついて回ります。感情と時間の両方に追われる場面ですので、順番だけでも先に決めておくと負担が変わります。判断に迷う段階でも、一度整理してみることをおすすめします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


