マナーうんちく話535≪五風十雨≫
今年は例年より一日早く、2月3日に立春を迎え、春が産声を上げましたが、体感として春を感じるのは今の時期ではないでしょうか。
3月1日から5日頃までは七十二候の「草木萌動(そうもくもえいずる)」で、この季節は、木の幹や土の中から幼い芽が芽吹いているのが目につくようになります。
ちなみに「春」の語源は、春になると草木の芽が張りだすので、この「張る」が「春」になったという説が有力ですが、草木が芽を出し始めることを「草萌え」といいます。
何かとあわただしい中では、花屋さんで美しく咲いている花しか目に映らないでしょうが、桜や桃にせよ、チューリップにせよ、ある日突然花が咲くわけではありません。
風や雨や雪、さらには気温の変化など紆余曲折を経て花が咲き、実がみのるわけです。
人の心に芽生えた、ささやかな夢や希望も同じことではないでしょうか。
水がぬるみ、うららかという言葉がよく似合うこの時期、日本の春をしっかり体感し、年齢に関係なく、自分が抱いた夢や希望に向かって始動していただきたいものです。
春から夏にかけて美しく咲き誇る花は、冬の厳しい寒さを経て芽吹くといわれます。
人も同じで、寒い冬に一生懸命努力してきた成果をぜひ、この時期に芽吹かせてくださいね。
ところで昔から「春は苦いものを食べなさい」とよく言われます。
苦いものにもいろいろありますが、ここでは主に山菜を指します。
具体的には芹、クレソン、蕗の薹、タラの芽、わらび、つくし、ぜんまい、みつば、竹の子、菜の花などがありますが、山間部だと比較的手に入りやすいものが多いです。
私は毎年秋に「菜の花」の種をまきます。
気温にもよりますが正月頃には収穫でき、松、竹、梅、南天などとともに正月花に利用したり、私が主催する講座の会場花に使用します。
勿論食用にもなりますので、この時期には食卓でも重宝しています。
今のように「栄養学」といった学問がなかった時代には、「食べるもので身体を養う」という考えがあったわけです。
そのポイントはずばり旬のものです。
日本の食文化は物が豊かになった江戸時代に大きく発展しますが、江戸時代の食文化の特徴は「素材第一主義」です。
初物や旬にこだわり、素材が本来持っている味を生かすことにあります。
「春に苦みのあるものを食べる」ということは、それらに含まれているミネラルやポリフェノールの力を借りて、身体にたまった老廃物を取り除くという合理的な考えです。
そういえば、熊も冬眠から覚めたら「蕗の薹」を食べるといいますが、それも持って生まれた本能でしょうか。
春は苦いものですが、では他の季節はどうでしょうか。
先人は長い経験から多彩な知恵を働かせています。
夏は暑さで疲れた体を回復させるために「酸味」を、秋は厳しい冬に備えて体力を蓄えるために「甘味」を、そして冬は冷たくなった体を温めるために「厚味(濃厚でこってりした味)」を食すようにしていたようです。
ところで日本で最も長く、最も広く読み継がれてきた江戸時代に書かれた「養生訓」は、令和の今でもよくひきあいにだされますね。
医療や薬草について大変深い知識を有していた儒学者貝原益見の書ですが、健康読本といえば、何をどのくらい食べ、身体を動かし、睡眠の大切さなどに触れていると思いがちなのですが、養生訓は意外にも「心」に関する記述も多いようです。
この本には「心平気和(しんぺいきわ)」という言葉があります。
心が落ち着いて、和らいでいる状態を指す言葉ですが、令和の今、なかなか現実的ではないかもしれませんが、あえて心をできる限り平穏な状態に保つことを心がけたいものですね。
自然や山を敬い、自然の趣を知り、自然の周期を把握し、旬を大事に心がけてきた先人の様にはいかないけれど、できる限り旬の物を食し、自然の気を上手に取り込んで、笑顔で、前向きに歩んでいただければと思います。
加えて、春は何かと別れと、出会いが多い季節でもあります。
周りの人、特に目の前の人との「人間関係」を良好に保ってくださいね。