【親子問題】子の様子を撮影して、支援者や医師に見せてもいい?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

「子が部屋で何時間も独り言を言っている」「夜中に壁を叩く音が続く」。こうした様子を医師や相談窓口に伝えようとしても、言葉だけではうまく伝わらないと感じる親御さんは少なくありません。スマートフォンで撮った短い動画を見てもらえば早いのではないか、と考えるのは自然なことです。
 一方で、成人した子を本人に知らせずに撮影し、家族以外の人に見せることにためらいを覚える方もいるでしょう。この記事では、子の様子を撮影して支援者や医師に見せることが法的にどう位置づけられるのか、避けておきたい撮り方・扱い方、見せる相手ごとの留意点を整理します。

本記事は、成人した子と同居している親御さんを主な想定とし、2026年10月時点の法令にもとづいて解説しています。撮影した場面や見せる相手によって評価は変わるため、個別の事情については専門家にご確認ください。


撮影して相談先に見せること自体は、直ちに違法とはならない

 自宅の中で同居する家族の様子を撮影することを、一般的に禁止する法律はありません。子の生活の様子や、暴れた後の部屋の状況などを撮影し、医師や相談窓口に見せることも、それだけで直ちに違法となるものではないと考えられます。
 相手に知らせずに残した記録については、裁判の証拠として使えるかという形で議論されることがあります。民事の裁判例では、相手に知らせずに録音・録画したものであっても、著しく反社会的な手段で得たものでない限り、証拠として扱われる傾向にあります。家族が自宅で日常の様子を記録したものは、通常、この「著しく反社会的な手段」にはあたりにくいと考えられます。
 また、限られた相手に相談目的で見せることは、名誉毀損やプライバシーの侵害が問題となる典型的な場面とは性質が異なります。名誉毀損は「公然と」事実を示した場合に問題となるもので、医師や相談員に個別に見せることは、通常この要件を満たしにくいとされています。プライバシーの侵害も、見せた目的・相手・範囲・方法などを総合して判断されるため、子の状態を相談し支援につなげる目的で、必要な相手に必要な範囲で見せる限りは、責任を問われる場面は限られるでしょう。
 なお、個人情報保護法は主に事業者を対象とする法律で、家族が家庭内で撮った映像を私的に扱うことには、原則として同法の義務はかかりません。映像を受け取った医療機関や相談機関の側は、守秘義務や同法にもとづいて情報を扱うことになります。

線を引いておきたい撮り方・扱い方


浴室・トイレ・着替えの場面は撮らない

 性的な部位や下着姿などを本人の同意なくひそかに撮影する行為は、2023年7月に施行された性的姿態撮影等処罰法の対象となり、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が定められています。この法律は、撮影する側とされる側が家族であっても適用されます。入浴中や着替えの最中の様子は、状態を伝える目的であっても撮影しないようにしてください。子が18歳未満の場合は、児童ポルノに関する規制にも注意が必要です。

成人した子の部屋に無断でカメラを置き続けない

 居間などの共用の場所で目の前の出来事を撮影することと、成人した子の居室に本人に知らせずカメラを設置して常時記録することとでは、評価が大きく異なります。後者はプライバシーの侵害を問われるおそれが高くなり、発覚した場合には親子の信頼関係がさらに損なわれ、支援の入り口が閉ざされることもあります。子の部屋に入ることや安否確認の範囲については、【親子問題】子が自室から出てこない|安否確認はどこまで許されるかで解説しています。

SNSや親族の間で共有しない

 相談のために撮った映像をSNSに投稿したり、事情を知らない親族に回したりすると、目的の範囲を超えた公開として、プライバシーの侵害や名誉毀損を問われるおそれがあります。映像は一度手元を離れると回収が難しくなるため、見せる相手は必要な人に絞り、データを送るよりも、その場で見てもらう方法を基本にすると安心です。

撮影を対立の道具にしない

 暴れている子の目の前でスマートフォンを構えると、それ自体が刺激となり、行動が激しくなることがあります。また、撮影していることを示して言動を抑えようとする使い方は、子の側が親を録音・撮影し返すといった応酬を招きかねません。子が撮影を材料にしてくる場面については、【親子問題】子が家の中で親を録音・撮影し、それを材料に脅してくる|録音の評価と親が避けたい対応をご覧ください。身の危険を感じる場面では、撮影よりも避難と110番を優先してください。

医師に見せるときに知っておきたいこと

 本人が受診を拒んでいる段階では、家族が精神科や心療内科の家族相談、保健所、精神保健福祉センターなどに相談することになります。このとき、日常の様子を撮った映像は、家族の言葉だけでは伝わりにくい表情・話し方・生活環境を補う材料になります。
 ただし、医師法20条は、医師が自ら診察しないで治療をしたり、診断書や処方箋を交付したりすることを禁じています。映像を見た医師が、本人を診察しないまま病名を確定させたり、薬を処方したりすることは原則としてありません。映像は、受診や支援につなげるための見立ての材料と考えておくのが現実的です。
 医療保護入院についても、精神保健指定医が本人を診察したうえで判断する仕組みであり、家族が映像を持参したことだけで入院が決まるわけではありません。家族の同意が持つ意味については【親子問題】医療保護入院の同意を求められた|家族が同意することの意味で、ひきこもりと精神疾患の見分け方については【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で、それぞれ整理しています。

医師や相談員に伝わりやすい記録のまとめ方

 医師や相談員が知りたいのは、激しい場面そのものより、その状態がいつから、どのくらいの頻度で、どう変化しているかであることが多いものです。次の点を意識すると、限られた相談時間でも状況が伝わりやすくなります。

  • 1本あたり数十秒から数分程度に絞ること。
  • 撮影した日時・場所・前後の出来事を、別にメモで残しておくこと。
  • 荒れている場面だけでなく、落ち着いているときの様子も残しておくこと。
  • 映像を切り取ったり加工したりせず、元のデータを保存しておくこと。
  • 映像がなくても、日々の様子を書き留めた記録を添えること。


見せる相手ごとの留意点


見せる相手映像が役立つ場面留意しておきたいこと
精神科・心療内科(家族相談)受診前の見立て、受診の勧め方についての助言映像だけで診断や処方がされることはない
保健所・精神保健福祉センター医療につなぐ必要性の判断、訪問の検討地域によって対応できる範囲が異なる
ひきこもり地域支援センター・市町村の窓口生活状況の共有、使える支援の検討本人の同意を前提に進む支援が多い
警察暴力や物を壊された状況の説明相談記録は残るが、家庭内の問題として扱われることもある
弁護士介入の方針、警察・行政との連携の検討守秘義務があり、相談内容が子に伝わることはない


 公的な窓口の役割と限界については、【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことや【親子問題】重層的支援体制整備事業とは|市町村窓口の使い方でも解説しています。警察に相談した記録の意味については、【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。

民間の支援事業者に映像を渡すときの注意

 民間の自立支援をうたう事業者の中には、家族から預かった映像や情報をもとに、本人の同意がないまま自宅から連れ出す方針を組み立てるところもあるとされています。本人の同意のない連れ出しについては、裁判で違法と判断された例もあります。契約前の段階で映像を渡しすぎず、どのような方針で誰が担うのか、本人の意思をどう扱うのかを確かめてから共有するようにしてください。詳しくは【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないと【親子問題】支援機関の情報をどう見分けるかで解説しています。

撮影より先に整えたいこと

 映像は便利な記録ですが、親子の問題を前に進めるうえで欠かせないものではありません。相談の場では、これまでの経緯を時系列で整理したメモや、暴力・金銭要求があった日付の記録のほうが役立つことも多くあります。撮ることに気をとられて危険な場面に長くとどまったり、撮れなかったことを理由に相談を先延ばしにしたりするのは避けたいところです。
 暴力を受けている場合は、まず身の安全を確保し、けががあれば受診して記録を残すことが優先されます。【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証もあわせてご覧ください。相談の前にそろえておくと話が進みやすい情報は、【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報にまとめています。
 撮影に子が気づいた場合は、言い訳を重ねたり、映像を盾に言い返したりせず、心配で相談するために残したと短く伝えるにとどめるのが無難です。それ以上のやり取りが難しい状況であれば、第三者に間に入ってもらうことを検討する時期かもしれません。

弁護士とカウンセラーが間に入るという選択

 当事務所では、家庭内暴力やひきこもり、金銭の無心に悩む親御さんの代理人として弁護士が子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが住まい探しや仕事探し、日々の金銭管理などの生活面を支える形で取り組んでいます。ご相談の際に映像やメモをお持ちいただければ、状況を把握する材料として拝見しますが、無理に撮影していただく必要はありません。
 暴力の傾向がある場合などは、事案に応じて警察とも連携しながら、安全に配慮して進めます。取り組みの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で、役割分担の考え方は【親子問題】弁護士とカウンセラーが組むという形|役割を分ける理由でご紹介しています。

よくあるご質問


子に知らせずに撮った動画を、相談の場で見せてもかまいませんか

 浴室やトイレなどの場面ではなく、共用の場所での日常の様子を撮ったものであれば、相談目的で医師や相談員、弁護士に見せることが問題になる場面は限られると考えられます。見せる相手を必要な人に絞り、コピーを広く渡さないよう心がけてください。

動画を見てもらえば、入院や治療を決めてもらえますか

 映像だけで診断や入院が決まることは、通常ありません。医療につながるには本人の受診が必要になるため、映像は受診の必要性や勧め方を相談するための材料として使うことになります。

相談したことは子に知られてしまいますか

 医師や公的機関の相談員、弁護士には守秘義務があり、相談内容が相談者の了解なく子に伝えられることは通常ありません。連絡の取り方などに不安がある場合は、【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方をご覧ください。

撮る場面と見せる相手を絞って使う

 子の様子を撮影して見せることは、言葉だけでは伝えにくい状況を共有する手段の一つです。撮る場面と見せる相手を絞り、安全を損なわない範囲で使えば、受診や支援につなげる助けになります。一方で、映像を集めること自体が目的になると、家族の負担や親子の緊張が増すこともあります。記録の取り方に迷っている段階からでも、ご相談をお受けしています。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【親子問題】子の様子を撮影して、支援者や医師に見せてもいい?

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼