【親子問題】被害者側への対応を親が担う場面の注意点
ひきこもりの状態が長く続く成人した子に対して、「そろそろ家を出てほしい」と考えるようになる親御さんは少なくありません。一方で、「いつ、どう切り出せばよいのか分からない」「言ったら関係が壊れてしまうのではないか」と迷い、何年も言葉にできないまま時間が過ぎていくこともあります。この記事では、成人した子に家を出てほしいと伝えることの法的な位置づけを確認したうえで、伝える時期の考え方、伝える前の準備、子が受け入れなかったときの対応を整理します。
この記事は、主に成人した子(18歳以上)と親が同居している場面を前提にしています。18歳未満の子については親権者としての監護の責任があるため、考え方が大きく異なります。
家を出てほしいと伝えること自体は問題になるのか
まず前提として、成人した子に「家を出てほしい」と伝えること自体が、法的に問題になる場面はほとんどありません。親が所有または賃借している家に成人した子が家賃を払わずに住んでいる場合、その関係は多くの場合、無償で物を貸す「使用貸借」(民法593条)と整理されます。
使用貸借では、期間や使用の目的を特に決めていなければ、貸主である親はいつでも契約を解除できるとされています(民法598条2項)。また、親には成人した子を扶養する義務がありますが(民法877条1項)、これは自分の生活に余裕がある範囲で援助する義務と考えられており、同じ家に住まわせ続けることまで当然に求められるものではありません。
ただし、「伝えてよい」ことと「力ずくで出していける」ことは別の問題です。子が出ていかないからといって、鍵を替えて締め出したり、荷物を外に出したりすることは、自力救済として問題になるおそれがあります。法的な位置づけについては、次の記事でも詳しく取り上げています。
伝える時期を考えるときの基本的な考え方
「何歳になったら」「何年ひきこもったら」といった、どの家庭にも当てはまる正解の時期があるわけではありません。大切なのは、カレンダー上の時期よりも、子の状態と、家族の側の準備が整っているかどうかです。
自治体が行ったひきこもり当事者への調査でも、本人の気持ちが落ち着いていない時期に支援機関へつなげようとすると、かえって逆効果になりやすく、働きかけの時期の見極めが重要であると指摘されています。「家を出てほしい」という話も同じで、内容が正しくても、伝える時期によって受け止め方は大きく変わります。
比較的伝えやすい時期・場面
- 子の気持ちが比較的落ち着いていて、短くても日常の会話が成り立っている時期。
- アルバイトや外出、通院など、子の側に少しでも動きが出てきた時期。
- 親の退職、住まいの建て替えや売却、賃貸住宅の更新など、家族の生活が変わる節目。
- 住まいやお金の見通しを、具体的な形で一緒に示せる準備が整った段階。
とくに家族の生活が変わる節目は、「あなたを責めているのではなく、家族の事情として話している」という形で切り出しやすく、子の側も受け止めやすい傾向があります。
避けたほうがよい時期・場面
| 場面 | 考え方 |
|---|---|
| 口論や暴力があった直後 | 感情が高ぶっており、話の内容より「追い出される」という受け止めが先に立ちやすい |
| 深夜や、親が疲れ切っているとき | 親の側も言葉が強くなりやすく、話がこじれるきっかけになりやすい |
| 子の体調や精神状態が悪化しているとき | まず受診や休養を優先し、話は状態が落ち着いてからにする |
| ほかの家族が子を囲む形になるとき | 責められていると感じやすく、反発につながりやすい |
子に精神的な不調がうかがえる場合は、家を出る話の前に、医療や保健所、ひきこもり地域支援センターなどへの相談を検討することも一つの選択肢です。
先延ばしにしすぎることにも注意が必要
時期を慎重に選ぶことは大切ですが、「もう少し落ち着いてから」と待ち続けるうちに、親が高齢になり、体力や収入の面で支えられる範囲が狭まっていくこともあります。親が元気で、援助や手続の手伝いができるうちのほうが、家を出たあとの生活を一緒に組み立てやすいという面もあります。完璧な時期を待つよりも、準備ができた段階で少しずつ話を始めるという考え方もあります。
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伝える前に整えておきたい準備
「家を出てほしい」と伝えたとき、子が最初に抱くのは「どこで、どうやって暮らせばいいのか」という不安であることが多いと考えられます。親の側で見通しを持たないまま伝えると、話が前に進まず、互いに傷つくだけで終わってしまうこともあります。伝える前に、次の点を整理しておくとよいでしょう。
- 夫婦やきょうだいなど、家族の中で方針をそろえておくこと。
- 住まいの候補と、契約の際の保証人・保証会社をどうするか。
- 親が援助する範囲と期間(家賃や生活費をいつまで、どこまで出すか)。
- 生活保護や就労支援など、子が使える公的な制度の確認。
- 子の健康状態と、必要な受診先の目星。
- 暴力のおそれがある場合の、家族の避難先や連絡先。
援助の範囲と期間をあらかじめ決めておくことは、親自身の生活を守るうえでも意味があります。「いつまでも援助が続く」形になると、家を出たあとも実質的に同居と変わらない状態が続いてしまうことがあるためです。準備の具体的な内容については、次の記事も参考にしてください。
どのように伝えるか
伝え方で意識したいのは、子の生き方を否定する言葉ではなく、「家族としてこう考えている」という親の事情と、「こういう形で支える」という今後の見通しをセットで伝えることです。県の家族向け資料でも、家族が本人を責めずに伝えられるようになると本人の反発が少なくなり、対話が生まれやすくなると説明されています。
話す場所と同席する人
話をする場所は、子が落ち着いていられる自宅のリビングなど、普段の生活の場が向いていることが多いでしょう。子の部屋に押しかける形や、外出先で急に切り出す形は、身構えさせてしまうおそれがあります。同席する家族は、話の中心となる人を一人決め、ほかの家族は補う役に回ると、子が一方的に責められていると感じにくくなります。
伝えるときに意識したいこと
- 「出ていけ」ではなく、「一人で暮らす準備を始めてほしい」という形で切り出します。
- 家を出ることを、罰ではなく次の段階への移行として説明します。
- 住まいやお金について、親が手伝える内容を具体的に示します。
- 期限を示す場合も、すぐにではなく、準備に必要な期間を見込んで幅を持たせます。
- 一度で結論を出そうとせず、何回かに分けて話す前提で臨みます。
話がまとまった場合は、時期や援助の内容を簡単な書面にしておくと、後で「言った・言わない」になるのを防ぎやすくなります。ただし、親子の間の書面にはできることとできないことがあるため、作り方には注意が必要です。
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子が受け入れない・反発したときは
一度伝えただけで子が受け入れることは、むしろ少ないかもしれません。拒否されたり、怒り出したりしても、それだけで話が失敗したと考える必要はありません。時間をおいて話を重ねるうちに、子の受け止め方が変わっていくこともあります。
一方で、話し合いを重ねても進まない場合には、次のような手段が考えられます。
- 家庭裁判所の親族関係調整調停を申し立て、調停委員を交えて話し合います。
- 弁護士が親の代理人となり、親に代わって子と話をします。
- 使用貸借の終了を前提に、最終的には明渡しを求める法的手続を検討します。
もっとも、明渡しを求める訴訟や強制執行は、親子関係に大きな影響を与えるうえ、時間も費用もかかります。実際には、その手前の話し合いの段階で、第三者が入ることによって話が動き出すことも少なくありません。
また、伝えたことをきっかけに暴言や暴力が出た場合は、話し合いよりも安全の確保を優先してください。必要に応じて警察に相談し、親が一時的に家を離れることも選択肢になります。
本人の同意のない連れ出しは避ける
家を出てほしいという思いが強くなるあまり、本人の同意を得ないまま施設へ連れ出すような民間業者に依頼することは避けてください。連れ出しや閉じ込めが違法と判断され、業者に賠償が命じられた裁判例もあります。
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弁護士とカウンセラーが入ると何が変わるか
当事務所では、親御さんの代理人として弁護士が子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーと役割を分けて対応しています。弁護士は親への金銭の要求や攻撃を止める窓口となり、カウンセラーは住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理など、子の生活の土台づくりを手伝います。
「家を出てほしい」という話を親が直接切り出すと、どうしても感情がぶつかりやすくなります。第三者が間に入り、家を出たあとの生活の見通しを具体的に示しながら時間をかけて話をすると、子の側も現実的に考えやすくなることがあります。家を出た後もしばらくの間は生活を支える期間を設け、親と子がそれぞれ自分の生活を立て直せるよう取り組んでいます。
まとめ
- 成人した子に家を出てほしいと伝えること自体は、法的に問題になる場面はほとんどありません。
- 伝える時期は、年齢や年数よりも、子の状態と家族の準備が整っているかで考えます。
- 口論の直後や子の状態が不安定なときは避け、生活の節目を生かすと切り出しやすくなります。
- 住まい・お金・期間の見通しを用意してから、責めずに伝えることが大切です。
- 子が拒んでも、鍵の交換や締め出しなどの実力行使は避け、調停や第三者の介入を検討します。
家を出てほしいと伝えることは、子を見捨てることではなく、親子がそれぞれの生活を取り戻すための一歩になり得ます。どの時期に、どのような形で切り出すのがよいかは家庭ごとに異なりますので、迷っている段階でも一度ご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


