【親子問題】子が措置入院になった|退院後の受け入れをどうするか
成人した子が自室にこもり、親が部屋の前に立つと「ここは自分の部屋だ」「勝手に入るな」と強く拒む。食事の受け渡しも扉越しになり、部屋の中がどうなっているのか分からないまま時間だけが過ぎていく。ひきこもりの子と暮らす親御さんから、こうしたご相談をいただくことがあります。
家の名義が親にあるのなら、子の部屋も親のものではないのか。それとも、子が使っている以上は子の領域として扱われるのか。この記事では、子の「自分の部屋は自分のもの」という言い分が法的にどう位置づけられるのかを整理したうえで、部屋に入る必要が出てきたときの考え方と、親が避けたい対応を解説します。
この記事は2026年10月時点の法令をもとにしています。家の名義や同居の経緯、子の状態によって取れる手段は変わりますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。
「自分の部屋は自分のもの」は法的にどう見られるか
子の言い分を考えるときは、「建物としての部屋」と「部屋の中にある物」を分けて見ると整理しやすくなります。
家の所有者は親、子は使わせてもらっている立場
家賃を払わずに親の家に住んでいる成人の子は、多くの場合、使用貸借(民法593条)に近い関係で部屋を使っていると考えられます。使用貸借は、物を無償で借りて使い、終わったときに返す契約で、書面がなくても、家族の間の暗黙の了解で成り立つことがあります。子が長く使ってきたからといって、部屋の所有権が子に移るわけではありません。
そのため、「自分の部屋だから自分のもの」という言い分は、所有という意味では通りにくいといえます。一方で、子は親の承諾のもとで部屋を使っている立場にあり、その使い方がまったく保護されないわけでもありません。親が所有者だからといって、いつでもどのようにでも立ち入ってよい、ということにはならない点に注意が必要です。
部屋の中にある物は子の物として扱われる
子が自分のお金で買ったパソコンや衣類、本、日記などは子の所有物です。親であっても、勝手に処分したり持ち出したりすれば、別の問題が生じるおそれがあります。
子が自分で取り付けた鍵も、取り付け方によっては子の物として扱われる余地があり、親が壊して開ければ器物損壊(刑法261条)が問題になる場合があります。親族の間で窃盗などの刑を免除する特例(刑法244条)は器物損壊には及ばないため、「家族だから」という理由だけで済むとは限りません。
| 対象 | 誰のものか | 親が気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 建物・部屋 | 名義人である親 | 所有者でも、力ずくの立ち入りは避ける |
| 部屋の中の私物 | 子 | 処分・持ち出し・中身の確認はしない |
| 子が取り付けた鍵 | 取り付け方によって異なる | 壊して開けると器物損壊が問題になりうる |
| 扉や壁への加工 | 建物の一部として親 | 元に戻すことは話し合いや手続で求める |
親が入ると住居侵入になるのか
同居している家族が同じ家の一室に入ることが、住居侵入罪(刑法130条)として扱われる場面は、通常は想定しにくいと考えられます。もっとも、罪にならないことと、自由に入ってよいことは同じではありません。
子が強く拒んでいる部屋に押し入れば、もみ合いになってどちらかがけがをする、子が物を壊して抵抗する、親子の関係がさらにこじれる、といった事態が起こりえます。法的な評価よりも、こうした現実のリスクのほうが重くなることが多いといえます。
親が部屋に入る必要が出てくる場面
普段は子の部屋に立ち入らない方針をとっていても、次のような場面では、部屋の中を確認したり、人を入れたりする必要が出てきます。
- 数日にわたって物音や返事がなく、安否が分からないとき。
- 異臭や煙、水漏れなど、建物やほかの家族に影響が及びそうなとき。
- ゴミがたまり、害虫や火災のおそれが出てきたとき。
- 電気・ガス・水回りの点検や修理で、業者が部屋に入る必要があるとき。
- 刃物などの危険な物を持ち込んでいる疑いがあるとき。
命や安全に関わるとき
安否が分からない、部屋から煙が出ているなど、生命や身体に危険が迫っているおそれがあるときは、部屋に入ることを優先して考えてください。親だけで扉を開けるのが難しいときや、開けた後に子が興奮するおそれがあるときは、110番や119番に連絡することをためらう必要はありません。警察官職務執行法6条は、人の生命や身体に危害が切迫している場合に、警察官が必要な限度で建物の中に立ち入ることを認めています。
安否確認をどこまで行ってよいかについては、【親子問題】子が自室から出てこない|安否確認はどこまで許されるかで詳しく解説しています。
建物の管理として必要なとき
修理や点検、ゴミによる衛生上の問題への対応は、所有者である親が建物を管理するうえで必要なことです。この場合も、いきなり扉を開けるのではなく、日時と理由を前もって伝え、子が立ち会うか、その時間だけ部屋を空けるかを選べるようにしておくと、受け入れられやすくなります。
伝えるときは、書き置きやメッセージなど形に残る方法を使い、伝えた日時と内容を記録しておくと安心です。後で「聞いていない」と言われたときに、経緯を説明する材料になります。
親が避けたい対応
部屋に入れない状態が長く続くと、親として何とかしたいという気持ちが強くなるのは自然なことです。ただ、次のような対応は、かえって状況を悪くするおそれがあります。
鍵を壊す・扉を外して入る
先に触れたとおり、子が取り付けた鍵を壊すと器物損壊が問題になる余地があるうえ、子にとっては「力ずくで領域を奪われた」という体験として残ります。その後の話し合いが一層難しくなることも考えられます。家の鍵や締め出しをめぐる考え方は、【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界もあわせてご覧ください。
留守中に入って私物を調べる・処分する
子が外出したすきに部屋に入り、スマホやパソコンの中身を見たり、物を捨てたりすることは、子の所有物やプライバシーに関わる行為です。発覚すれば、子の不信感が強まり、部屋への出入りをさらに固く拒むようになることもあります。
業者に頼んで無理に連れ出す
部屋から出てこない子を、民間の業者に依頼して連れ出してもらうことを考える方もいます。しかし、本人の同意なく力ずくで連れ出す行為は違法と判断されることがあり、ひきこもり支援をうたう業者が本人を施設へ連行し閉じ込めた事案で、裁判所が業者に賠償を命じた例も報じられています。親が依頼したことは、本人の同意の代わりにはなりません。詳しくは【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないで取り上げています。
部屋をめぐる線引きを話し合いで決める
子にとって自室は、外の世界から身を守るための最後の場所になっていることがあります。部屋に入らせないことそのものを無理にやめさせるより、「どんなときなら入るか」を先に決めておくほうが、親子双方にとって現実的です。
- 普段は子の部屋に入らないことを、親の側から伝える。
- 入る必要がある場面(安否が分からないとき、火災や水漏れ、修理や点検)を具体的に挙げる。
- その場面でどう知らせるか(ノック、声かけ、書き置き、時間の予告)を決める。
- 子が応じないときにどうするか(第三者の立ち会い、警察への連絡)も伝えておく。
- 決めた内容をメモに残し、ほかの家族とも共有する。
直接の話し合いが難しい場合は、第三者に間に入ってもらう方法もあります。決めた内容を書面にしておくこともできますが、親子間の取り決めには限界もあります。書面化の意味については【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界をご参照ください。
部屋の問題の背景にあるものを見る
部屋に入れないことが、暴力やお金の要求、心身の不調などとあわせて起きている場合は、部屋の問題だけを切り離して解決しようとしても、うまくいかないことがあります。暴力がある場合は親自身の安全を先に確保すること、不調が疑われる場合は医療につなぐことを検討する必要があります。【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録や【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断もあわせてご覧ください。
家から出てもらうことを考える段階
部屋への立ち入りを拒むだけでなく、暴力や金銭の要求が続き、同じ家で暮らすこと自体が難しくなっている場合には、子に家を出てもらうことを考える段階に入ります。
使用貸借は、期間や使用の目的を定めていなければ、貸主がいつでも解除できるとされています(民法598条2項)。ただ、親子の同居では「生活の本拠として住む」ことが目的とみられることもあり、解除がすぐに認められるとは限りません。また、解除したとしても、親が鍵を替えて締め出したり、荷物を外に出したりすることは自力救済として問題になるおそれがあり、話し合いや法的な手続を通じて進めることになります。考え方の詳細は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。
弁護士とカウンセラーが関わる場合
当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力に悩む親御さんの代理人として、親子の問題に介入しています。弁護士が親の側に立って子からの要求や攻撃を受け止める一方で、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、子の住まい探しや仕事探し、日々の金銭管理などの生活面を支えます。
事案によっては、ご自宅を訪問して子と直接話をすることもあります。部屋から出てこない状態が続いていても、時間をかけて話をするなかで、家を出て自分の生活を始めることを受け入れる子は少なくありません。暴力の傾向がある場合などは、警察と連携しながら、安全に配慮して進めます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応、実際の進み方は【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際でご紹介しています。
まとめ
- 親名義の家であれば、子の部屋も建物としては親の所有であり、子は使わせてもらっている立場にあると考えられます。
- 部屋の中の私物や、子が取り付けた鍵は子の物として扱われることがあり、壊したり処分したりすると別の問題が生じるおそれがあります。
- 安否が分からないときや火災・水漏れのおそれがあるときは、安全を優先し、必要に応じて警察や消防に連絡してください。
- 修理や点検などで入る必要があるときは、日時と理由を前もって伝え、記録を残しておくことが大切です。
- 力ずくで部屋に入る、無理に連れ出すといった対応は避け、どんなときに入るかを話し合いで決めておくことが現実的です。
子が部屋に人を入れない状態は、家族だけで向き合っていると、どこまで踏み込んでよいのか判断がつきにくいものです。部屋の問題の背景に暴力や金銭の要求がある場合や、同居を続けること自体が難しくなっている場合は、早めに第三者の手を借りることを考えてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


