【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡し
この記事は、2026年10月時点の刑法(2025年6月施行の拘禁刑への一本化を反映)、性的姿態撮影等処罰法、民事訴訟の裁判例をもとに、成人した子と同居・別居している親御さんの立場から整理しています。子が18歳未満の場合や、個別の事情によって扱いが変わることがあります。
「怒鳴った声を息子に録音されていて、『これをネットに上げる』『虐待されたと役所に言う』と言われ、そのたびにお金を渡してしまう」。親子の問題のご相談では、このような声を伺うことがあります。一方で、「親の暴言を記録しておかないと、誰にも信じてもらえなかった」という子の側の事情が背景にあることもあります。
家族の会話を録音すること自体は、それだけで違法とはいえない、という説明は世間でもよく見かけます。その説明自体は誤りではありません。ただ、録音・撮影の「取り方」と、それを「どう使ったか」は別々に評価される、という点はあまり触れられていません。親御さんが迷うのは、まさにこの後者の部分です。
この記事では、子が家の中で親を録音・撮影し、それを材料に金銭や行動を求めてくる場面について、録音・撮影そのものの評価、脅しとして扱われる場面、親の側が避けたい対応、記録と相談の順序を整理します。殴る・蹴るといった暴力が中心の場面は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、金銭の要求そのものへの向き合い方は【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで扱っています。
子による録音・撮影そのものはどう評価されるのか
会話の当事者による録音は、直ちに違法とはいえない
日本では、会話に加わっている人がその会話を相手に告げずに録音することを、一般的に処罰する法律はありません。同じ家に住む子が、親との言い争いをスマートフォンで録音していた場合も、それだけで犯罪になるわけではありません。
また、民事の裁判では、相手に無断で録音したものであっても、著しく反社会的な手段で人格権を侵害するような方法で集められたものでなければ、証拠として扱われ得るとした裁判例があります(東京高等裁判所昭和52年7月15日判決)。録音されたこと自体を理由に、その内容が「なかったこと」になるわけではない、という前提で考えておくのが現実的です。
違法になりやすい撮影・録音の範囲
一方で、次のような撮影・録音は、家族の間であっても法的な問題になり得ます。
- 入浴中や着替え中など、性的な部位や下着が映る姿を本人の同意なく撮影すること(性的姿態撮影等処罰法2条)。
- 親の寝室に機器を置き、子自身が加わっていない親同士の会話を継続的に録音すること。
- 撮影・録音した内容を、顔や氏名が分かる形でSNSなどに公開すること(名誉毀損やプライバシー侵害の問題)。
とくに性的な姿の撮影は、親族間の刑の免除の特例が及ぶ罪ではありません。家の中の出来事だからといって、扱いが軽くなるものではない点に注意が必要です。
録られた内容に、親自身の不適切な言動が含まれている場合
録音の中に、親御さん自身の大声や手が出た場面が含まれていることもあります。その場合でも、録音を消させる、取り上げるといった対応はかえって状況を難しくします。録音は前後の文脈が切り取られていることも多いため、後で述べるように、親の側でも経過を記録しておき、全体の流れを説明できるようにしておくことが大切です。
録音・撮影を「材料に脅す」と、どのような罪が問題になるか
求めるものによって、罪名が変わる
録音・撮影した内容を示して何かを迫る行為は、何を求めているかによって評価が分かれます。
- 「ネットに上げる」「親戚や職場に聞かせる」と告げて怖がらせる場合は、脅迫罪(刑法222条、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)が問題になります。
- 「上げられたくなければ金を出せ」と金銭を受け取る場合は、恐喝罪(同法249条、10年以下の拘禁刑)が問題になります。
- 「外出するな」「この人と縁を切れ」など、義務のないことを行わせる場合は、強要罪(同法223条、3年以下の拘禁刑)が問題になります。
罪名の違いについては、恐喝・強要・脅迫はどう違うのか|言い方で罪名が変わるで詳しく扱っています。
親子の間で刑が免除される範囲と、免除されない範囲
刑法には、配偶者、直系血族、同居の親族の間で起きた窃盗や詐欺、恐喝などについて、刑を免除する特例があります(刑法244条1項、同法251条)。親と子は直系血族にあたるため、同居か別居かにかかわらず、この特例の対象になります。
つまり、録音を材料に金銭を受け取る行為は、恐喝罪として捜査の対象にはなり得るものの、最終的に刑が免除される場面があります。警察に相談しても動きが鈍く感じられるのは、この仕組みが背景にあることが少なくありません。
一方で、脅迫罪や強要罪、暴行罪、傷害罪、性的姿態撮影等処罰法の罪には、この特例は及びません。金銭のやり取りがない段階の脅しや、金銭以外の行為を強いる場面、暴力を伴う場面は、他人の間と同じように扱われます。この点は【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲もあわせてご覧ください。
「虐待されたと通報する」は脅しにあたるのか
行政や警察に相談すること自体は、誰にでも認められた正当な行動です。子が実際に親の言動に苦しんでいて、相談窓口に訴えることを止めることはできませんし、止めるべきでもありません。
ただ、「通報されたくなければ金を出せ」というように、通報をちらつかせて金銭などを得ようとする場合は、権利の行使として許される範囲を超え、恐喝などの問題になり得ます。どこからが脅しになるかの考え方は、「訴えるぞ」「警察に行くぞ」は脅迫か|正当な権利行使との境界線で整理しています。
親の側が避けたい対応
スマートフォンを取り上げる・壊す・データを消させる
録音や動画を消したい一心で、子のスマートフォンを取り上げたり、壊したりすると、親の側が暴行罪や器物損壊罪(刑法261条)の問題を抱えることになります。器物損壊罪には親族間の特例はありません。録音を物理的に消す方向で動くと、親が責任を問われる立場に回るおそれがあることは、知っておいていただきたい点です。
言い返した言葉も録音されている
感情的になって「出ていけ」「お前なんか」と強い言葉で返すと、その部分だけが切り取られ、新たな材料にされることがあります。録音されている可能性がある場面では、短く、落ち着いた言葉で応じ、長い言い争いを避けることが身を守ることにつながります。
一度応じると、要求が繰り返されやすい
「今回だけ」と金銭を渡すと、同じ録音を使った要求が繰り返される傾向があります。録音や動画は複製が容易なため、金銭と引き換えに「消した」と言われても、それを確かめる方法はほとんどありません。応じてきた経過そのものにも意味があることは、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかで触れています。
親が残しておく記録と、相談の順序
親の側でも、経過を記録しておく
子が録音しているのであれば、親の側も、要求を受けた場面の会話を録音しておくことは差し支えありません。あわせて、次のような事項を日付ごとにメモしておくと、後で全体の流れを説明しやすくなります。
- いつ、どの録音や動画を示されたか、何を言われたか。
- 求められた金額や行為と、実際に渡した金額。
- 「ネットに上げる」「通報する」など、告げられた内容の言い回し。
- その場にいた家族や、相談した窓口の名前と日付。
データの残し方や渡し方は、LINE・メール・録音データの保存と渡し方|消してはいけない理由が参考になります。
投稿を予告されたとき、投稿されたとき
「ネットに上げる」と予告された段階では、投稿された場合に備えて、予告のやり取りを保存しておくことが出発点になります。実際に投稿された場合は、画面の記録を残したうえで、サイトの運営者への削除申出などを検討します。順序については【不当要求対応】SNSでの『晒し』を予告された|投稿される前にできることと【不当要求対応】拡散された後の順序|削除と発信者特定のどちらを先に動かすかで扱っています。
警察・行政・弁護士の使い分け
身の危険を感じる場面や、暴力を伴う場面では、まず警察への相談が優先されます。刑の免除の特例があるため、金銭の要求だけでは警察が動きにくいこともありますが、相談した記録は後の手続で意味を持ちます(【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続)。一方で、要求を止め、親子の関係をこの先どうしていくかという部分は、警察や行政の手続だけでは届きにくい領域です。
弁護士が親の代理人として関わる場合
要求の窓口を親から弁護士に移す
弁護士が親御さんの代理人になると、子からの金銭の要求や、録音・撮影を材料にした連絡の窓口を弁護士に移すことができます。親御さんが直接言い返す場面がなくなるため、新たな録音の材料が生まれにくくなります。窓口を代える意味については【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択をご覧ください。
子の側の生活を支える担い手と組む
録音や撮影で親を責める行動の背景には、仕事や収入がない不安、親との距離の近さが重なっていることも少なくありません。当事務所では、弁護士が親御さんの側を守り、自立支援のカウンセラーが子の住まい探しや仕事探し、金銭管理などを支える形で取り組んでいます。要求を止めることと、子が自分の生活を立てていくことを、役割を分けて同時に進めるという考え方です。実際の関わり方は【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際で紹介しています。
よくあるご質問
子が持っている録音を、弁護士から消させることはできますか。
録音そのものを強制的に消させる手段は限られています。弁護士が関わる場面では、録音を公開しない、第三者に渡さないといった約束を書面で取り付ける方向で交渉することが一般的です。そのうえで、要求の窓口を弁護士に一本化し、録音を材料にした連絡そのものが続かない状態を目指します。
親子なので、警察に相談しても意味がないのでしょうか。
金銭を受け取る恐喝については刑が免除される場合がありますが、脅迫や強要、暴力を伴う行為には特例が及びません。また、相談した記録は、後に状況が変わったときの判断材料になります。「家族のことだから」と相談を控える必要はありません。
相談したことは、子に知られてしまいますか。
弁護士には守秘義務があり、ご相談の段階で子に連絡することはありません。子への連絡をいつ、どのように始めるかは、ご事情を伺ったうえで一緒に決めていきます。詳しくは【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方をご覧ください。
まとめ
- 会話の当事者による録音は直ちに違法とはいえず、民事の裁判でも証拠として扱われ得ます(東京高等裁判所昭和52年7月15日判決)。
- 入浴中や着替え中の撮影は、家族の間でも性的姿態撮影等処罰法の問題になり得ます(同法2条)。
- 録音・撮影を材料に怖がらせれば脅迫罪(刑法222条)、金銭を受け取れば恐喝罪(同法249条)、義務のないことを行わせれば強要罪(同法223条)が問題になります。
- 親子間の恐喝は刑が免除される場合がありますが(同法244条1項、同法251条)、脅迫・強要・暴行・傷害には特例が及びません。
- 子のスマートフォンを取り上げる・壊すと、親の側が器物損壊罪(同法261条)などの問題を抱えるおそれがあります。
- 親の側でも会話の録音と経過のメモを残し、全体の流れを説明できるようにしておくことが大切です。
- 弁護士が代理人になると要求の窓口を移すことができ、子の生活の立て直しと並行して進める道があります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の暴力・お金の無心・ひきこもりなど、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。北海道から沖縄まで、遠方のご家庭からのご依頼にも対応してきました。
録音や動画を示されて金銭や行動を求められ、どう応じればよいか分からずにいる親御さん、ご家族が同じ状況にあって心配されている方は、状況が大きく動く前に一度ご相談ください。ご相談から自立までの流れと費用は、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご案内しています。


