【親子問題】医療保護入院の同意を求められた|家族が同意することの意味

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」)と、令和4年の法改正(令和5年4月・令和6年4月施行分)を踏まえた厚生労働省の通知に基づいて記載しています。医療保護入院を行うかどうかは精神保健指定医が判断するもので、この記事は個別の医療上の判断を示すものではありません。


「主治医から、医療保護入院の同意書に署名してほしいと言われた。署名したら、子から一生恨まれるのではないか」。親子の問題でご相談を受けていると、こうした迷いを打ち明けられることがあります。反対に、「同意したら、退院後の生活まですべて親が引き受けることになるのか」と、同意した後の負担を心配される方もいます。

 医療保護入院については、医療機関や支援団体、法律事務所のサイトで要件や手続の流れが紹介されており、その説明自体に誤りがあるわけではありません。ただ、家族の立場から見たとき、「同意とは法律上何をすることなのか」「同意した後に何が残るのか」「同意しないという選択はあるのか」は、手続の説明の中では見えにくい部分です。

 この記事では、医療保護入院の同意を求められた家族の側に立って、同意の法的な意味、令和6年4月から加わった「同意も不同意もしない」という意思表示、入院後に届く更新の連絡までを整理します。暴力が起きているその場での対応は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで扱っています。

医療保護入院とはどのような入院か

指定医の判定と「家族等のうちいずれか一人」の同意

 医療保護入院は、本人の同意がなくても精神科病院に入院させることができる入院形態の一つです(精神保健福祉法33条)。要件は、精神保健指定医が診察したうえで、精神障害があって医療と保護のために入院が必要であり、その精神障害のために本人の同意による入院(任意入院)が行える状態にないと判定することと、家族等のうちいずれかの者が同意することです。

 同意が必要なのは「家族等のうちいずれか一人」で、家族全員の同意は求められていません。国の通知は、より多くの家族の理解のもとで行われることが望ましいとしていますが、法律上は、家族の間で意見が分かれていても、同意した人がいれば入院は成立し得る仕組みになっています。

任意入院・措置入院との違い

 精神科病院への主な入院形態は、次の3つです。

入院形態本人の同意入院を決める要件
任意入院あり本人の同意(同法20条)
医療保護入院なし指定医1名の判定と、家族等のいずれかの同意(同法33条)
措置入院なし指定医2名の診察で自傷他害のおそれが認められ、都道府県知事が行う(同法29条)


 措置入院は都道府県知事の権限で行われるため、家族の同意は要件になっていません。家族が同意を求められるのは、医療保護入院の場面です。

同意できる「家族等」の範囲

 同意できる「家族等」は、配偶者、親権を行う者、扶養義務者、後見人または保佐人です(同法5条2項)。扶養義務者には、直系血族(父母・祖父母・子・孫など)と兄弟姉妹が含まれ(民法877条1項)、おじ・おばなど三親等内の親族は、家庭裁判所が扶養義務者として定めた場合に限られます(同条2項)。成人した子にとって、父母は扶養義務者として「家族等」にあたります。

 一方で、次のような人は家族等から除かれます(主なもの)。

  • 行方の知れない人。
  • 本人を相手に訴訟をしている人、または訴訟をした人と、その配偶者・直系血族。
  • 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人。
  • 本人に対して虐待や配偶者暴力などを行った人。
  • 未成年者。


 親子の問題で見落とされやすいのが、訴訟の項目です。親が子を相手に、例えば家からの明渡しを求める訴訟を起こしていると、その親は同意できる家族等から外れます。明渡しの問題は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説していますが、医療の問題と並行している場合は、手続の順序に注意が必要です。なお、子が18歳未満の場合、親権者の同意は原則として父母双方から得るものとされています。

家族が同意することの法的な意味

入院を判定するのは医師であり、家族ではない

 同意書に署名する家族の多くが、「自分が子を入院させる」という重さを感じています。しかし制度上、入院が必要かどうかを判定するのは精神保健指定医で、入院させるのは病院の管理者です。家族の同意は、医師の判定に加えて求められる要件の一つであり、家族が入院を命じるものではありません。

 国の通知は、家族の同意を要件とした趣旨について、適切な入院医療につなげつつ、家族等への十分な説明とその合意を確保し、本人の権利を守ることにあると説明しています。同意は、入院の判断そのものを家族が引き受けることではなく、医師の説明を受けたうえで入院医療に異議がないことを示す手続と位置づけられます。

 そのため、診察の場では、家庭で起きていることを事実に沿って医師に伝えることが大切です。心配のあまり出来事を大きく伝えたり、逆に小さく伝えたりすると、医師の判断の前提がずれてしまいます。記録が残っていれば、それを示しながら説明すると伝わりやすくなります。

同意した家族に、入院後の法的な義務は残らない

 平成26年4月の法改正前は、家族の中から「保護者」が定められ、治療を受けさせる義務や、退院する本人の引取りなどの義務が法律上課されていました。この保護者制度は、家族の高齢化などで負担が大きいことを理由に廃止されています。

 現在の法律では、医療保護入院に同意したことによって、退院後に子を引き取る義務や、子を監督する義務が家族に生じるわけではありません。もっとも、成人した子に対する扶養義務は同意とは別に存在します。その範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで扱っています。

同意書と、身元保証・費用の保証は別の書面

 入院の際、病院から同意書とあわせて「入院誓約書」「身元保証書」などへの署名を求められることがあります。同意書は精神保健福祉法上の手続のための書面ですが、身元保証書や連帯保証の欄は、入院費の支払などを保証する民法上の契約です。同じ机の上で続けて署名を求められても、意味は別のものとして読む必要があります。

 継続して発生する入院費の連帯保証を個人が引き受ける場合、保証の上限額(極度額)を書面で定めなければ、その保証契約は効力を生じません(民法465条の2)。また、厚生労働省は、身元保証人がいないことだけを理由に医療機関が入院を拒むことは適切でないとする通知を出しています。保証を引き受けるかどうかは同意とは切り離して判断し、内容が分からない場合は、署名の前に病院の相談員に確認するとよいでしょう。親が子の保証を引き受ける場面の考え方は、【親子問題】家を借りる際の保証人・保証会社の問題|無職の子のために親が引き受ける前にも参考になります。

同意しない・意思表示をしないという選択

同意を断ることはできる

 家族等に同意する義務はなく、説明を聞いたうえで同意しないこともできます。ただし同意が要るのは「いずれか一人」なので、ある家族が同意しなくても、別の家族等が同意すれば入院は成立し得ます。夫婦で考えが異なる場合や、親は迷っているがきょうだいが同意する場合などです。

 国の通知は、家族等の間で判断が一致していないことを把握した場合には、可能な限り意見の調整が図られることが望ましいとしています。入院に反対の家族がいる場合、病院から入院医療の必要性などを説明し、それでも反対であれば退院請求ができることを伝える運用も示されています。きょうだいが親に代わって動く場面については、【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで整理しています。

令和6年4月からの「同意も不同意もしない」という意思表示

 以前は、家族等がいる限り、その誰かが同意しなければ医療保護入院はできず、市町村長の同意は家族等がいない場合などに限られていました。令和6年4月からは、家族等の全員が同意も不同意もしないことを明らかにした場合にも、病院は市町村長に同意を依頼できるようになりました(同法33条2項)。

 国の通知は、この仕組みを設けた趣旨として、本人と疎遠で判断が難しい場合のほか、意思表示をすることで本人との関係が悪化することを懸念して関わりを避けたい場合などを挙げています。親子の問題では、「署名した親に怒りが向き、退院後の関係がさらに難しくなるのではないか」という不安を抱える方が少なくありません。そうした事情があるときに検討できる選択肢です。

 注意したいのは、黙っていればこの扱いになるわけではない点です。家族等がその旨を明示していることが必要とされ、家族等のうち一人でも同意すれば、通常どおりその同意で入院が行われます。また、入院時に意思表示をしなかった家族も、入院期間を更新する際には改めて意思の確認を受けます。市町村長の同意で入院した人に対しては、本人の希望に応じて、研修を受けた訪問支援員が病院を訪れて話を聞く事業も設けられています。

入院した後に家族へ届く連絡

入院期間には上限があり、更新ごとに同意が求められる

 令和6年4月以降の医療保護入院には期間の定めがあり、入院から6か月を経過するまでは3か月以内、6か月を経過した後は6か月以内の期間ごとに区切られます。期間を更新するには、指定医の診察で引き続き入院が必要と判定されること、退院支援委員会での審議、家族等の同意が必要です。更新の同意は、原則として入院時に同意した家族等(2回目以降は直前の更新に同意した家族等)に、病院からの通知で求められます。

 つまり、同意は入院時の一度きりではなく、入院が続く限り、数か月ごとに判断を求められる可能性があります。入院時に同意するかどうかを考える際も、その後の更新まで視野に入れておくと、判断の負担を見通しやすくなります。

返事をしないと「みなし同意」とされる場合がある

 更新の通知を受けた家族が期限までに不同意の意思を示さなかった場合に、同意があったものとして扱う「みなし同意」の仕組みがあります。これが使えるのは、入院期間中に病院と通知先の家族が2回以上連絡を取れていること、回答の期限を通知から2週間以上確保していることなどの要件を満たす場合です。

 更新に反対であれば、期限内に不同意の意思を伝えることが大切です。郵便物が届く住所や連絡のつく電話番号は、病院に正確に伝えておきましょう。なお、不同意の意思表示があっても、病院の判断でほかの家族等に同意を求め、その同意があれば更新される場合があります。

入院に疑問があるときの退院請求

 入院している本人だけでなく、家族等も、都道府県知事に対して退院や処遇の改善を請求することができます(同法38条の4)。請求があると、医療・保健福祉・法律の有識者で構成される精神医療審査会が、入院の必要性などを審査します(同法38条の5)。同意した後に病状が落ち着いたと感じる場合や、入院の経緯に疑問がある場合は、まず主治医や退院後生活環境相談員に相談し、それでも納得できないときにこの手続を検討する流れになります。

受診につなげる段階で家族が気をつけたいこと

家族や民間業者による無理な連れ出しの問題

 医療保護入院は、指定医の診察を受けて初めて検討されるものです。本人が受診を拒む場合に、家族が力ずくで連れて行ったり、民間の移送業者に依頼したりすると、法的な問題が生じることがあります。親の依頼があっても本人の同意の代わりにはならないことは、【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないで詳しく解説しています。

公的な移送と、まず相談する窓口

 精神保健福祉法には、指定医の診察の結果、直ちに入院させなければ医療と保護に著しい支障があると判定された人を、都道府県知事が病院へ移送する仕組みがあります(同法34条)。運用は地域によって異なるため、まずは保健所や精神保健福祉センターに相談するのが一般的です。夜間・休日には、都道府県が設ける精神科救急の相談窓口があります。

 そもそも子の状態が病気によるものかどうか判断がつかない段階では、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断が参考になります。相談先全体の役割分担は、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。

退院の後を見据えて家族が考えておくこと

退院後の住まいを「元の家」に限らない

 医療保護入院の期間に上限が設けられたことで、退院は以前より具体的な日程として見えてくるようになりました。病院には、退院後生活環境相談員を選任し、退院後に利用できる障害福祉サービスなどの事業者を紹介することが求められています。

 親子の問題に取り組んできた経験からいえば、退院後の行き先を当然のように元の家と決めてしまうと、入院前と同じ緊張関係が再び生まれることがあります。グループホームや一人暮らしなど、親子が距離を取って暮らす形も選択肢に入れ、病院の相談員と早めに話し合っておくことが大切です。具体的な進め方は【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順で扱っています。

金銭の問題と、親自身の生活を守る準備

 入院中や退院後に、子から金銭を求められたり、強い不満を向けられたりすることもあります。浪費や金銭管理に不安がある場合は、保佐・補助といった制度も検討の対象になります(【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面)。後見人や保佐人は家族等に含まれるため、こうした立場の人が選任されていれば、その人が同意の判断を担うことも考えられます。

 当事務所では、弁護士が親の代理人として子との窓口を担い、自立支援カウンセラーが子の住まい探しや生活の立て直しを支えるチームで対応しています(【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応)。医療が必要かどうかの判断は医師に委ねたうえで、その前後の親子関係や金銭の問題を整理することが、弁護士の関われる部分です。

よくあるご質問

同意したことは、子本人に伝わりますか

 入院の際、病院は本人に入院の理由などを書面で知らせます。同意した人の名前が本人にどう示されるかは書面の内容や病院の運用によりますが、家族等の同意が要件である以上、家族の誰かが同意したことは本人にも分かると考えておくのが現実的です。本人への伝え方に不安があれば、主治医や相談員にあらかじめ相談しておくとよいでしょう。関わり方そのものに迷いがある場合は、前述の「同意も不同意もしない」という意思表示も選択肢になります。

遠方に住んでいて病院に行けません。電話で同意できますか

 国の運用では、家族等が遠方にいる場合などに、電話で同意の意思を確認し、後日同意書を提出してもらう取扱いも認められています。入院期間の更新についても、電話やメールで意思を確認したうえで後日書面を送る運用が示されています。病院から連絡があった際に、受け取れる住所や連絡方法を確認しておきましょう。

一度同意した後で、取り消すことはできますか

 入院時の同意を後から撤回すれば入院が終わる、という仕組みにはなっていません。入院の継続に疑問が生じた場合は、主治医に考えを伝えるほか、家族等として都道府県知事に退院請求をすること、入院期間の更新の際に不同意の意思を示すことが考えられます。

まとめ


  1. 医療保護入院は、指定医の判定と、家族等のうちいずれか一人の同意によって行われる(精神保健福祉法33条)。
  2. 同意できる家族等は、配偶者・親権者・扶養義務者・後見人・保佐人で、本人と訴訟をした人や虐待を行った人などは除かれる(同法5条2項、民法877条)。
  3. 入院を判定するのは医師であり、同意したことで退院後の引取りや監督の義務が家族に生じるわけではない。
  4. 同意書と、入院費の連帯保証などの書面は別のもので、個人の根保証は極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2)。
  5. 令和6年4月からは、家族等の全員が同意も不同意もしないことを明示した場合にも、市町村長の同意による入院が可能になった(同法33条2項)。
  6. 入院期間には上限があり、更新のたびに家族等の同意が求められ、要件を満たせば「みなし同意」とされることがある。
  7. 入院に疑問があるときは、家族等も都道府県知事に退院請求ができる(同法38条の4)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の家庭内暴力やひきこもり、金銭の要求など、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方にお住まいの方からのご相談にも対応しています。

医療保護入院の同意を求められて迷っている方、入院の前後で子との関係や金銭の問題をどう整理すればよいかお悩みの方は、一度ご相談ください。ご事情を伺ったうえで、弁護士と自立支援カウンセラーがそれぞれ担えることをご説明します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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