【親子問題】ひきこもりが20年以上続いている、今から何を始められる?
「そろそろ仕事を探してみたら」と声をかけると、子から「働けない」とだけ返ってくる。体の具合が悪いのか、自信を失っているのか、それとも働く気持ちになれないだけなのか、親の側からは見分けがつかない。ひきこもりの状態にある成人した子を持つ親御さんから、このようなご相談をいただくことがあります。
「本人の言葉を否定せず、まずは受け止めましょう」という助言は、それ自体は誤りではありません。ただ、受け止めるだけの状態が何年も続くと、親がいつまで生活を支えるのか、どの支援につなげるのかを決める材料が集まらないまま、親子ともに年齢を重ねてしまうことがあります。
この記事では、子の言う「働けない」が何を指しているのかを親の立場から整理したうえで、家庭の中で確かめられること、医療や支援の場で確かめてもらうこと、そして確かめた結果を親の支え方にどうつなげるかを解説します。生活保護の要件や扶養義務の詳しい内容は、それぞれの解説記事に譲ります。
「働けない」には、いくつかの中身がある
「本当に働けないのか」と考えるとき、親御さんは「働けるのに働かないのか、そうでないのか」という二択で受け止めがちです。しかし、ひとくちに「働けない」と言っても、その中身は一つではありません。
| 「働けない」の中身 | よくある言い方の例 | 主に確かめる場 |
|---|---|---|
| 健康の面 | 「体がだるい」「眠れない」「人の中に出ると具合が悪くなる」 | 医療機関、保健所・精神保健福祉センターの相談 |
| 能力・経験の面 | 「何をすればいいか分からない」「職歴が空いているから無理」 | 就労準備の支援機関、ハローワーク |
| 環境の面 | 「通える場所に仕事がない」「前の職場のようになるのが怖い」 | 就労支援機関、本人との具体的な話し合い |
| 気持ちの面 | 「今はその気になれない」「いつかは働く」 | 本人との話し合い、家族相談の窓口 |
実際には、これらが重なっていることが少なくありません。以前の職場でつらい経験をして働くことへの恐怖が残り、長く家にいるうちに体調も生活リズムも崩れた、という経過をたどる方もいます。「本当に働けないのか」は一度で白黒がつく問いではなく、どの面で、どの程度働けないのかを少しずつ明らかにしていく問いだと考えると、親として取れる手立てが見えやすくなります。
「怠けているだけ」と決めつける危うさ
親から見て元気そうに見えても、診察を受けて初めて体や心の不調が分かることがあります。本人が不調を言葉にできていないだけ、という場合もあります。「怠けている」と決めつけて強く迫ると、本人がますます口を閉ざし、確かめる手がかりそのものが失われるおそれがあります。
「病気だから仕方ない」と決めつける危うさ
反対に、親の側が「この子は働けない」と早くから結論を出してしまうと、短時間の作業や段階的な就労など、本人に合う形で社会とつながる機会を逃すことがあります。不調があることと、まったく働けないことは同じではありません。
家庭の中で確かめられること
医療や支援の場につなぐ前に、家族だからこそ把握できる情報があります。ここで集めた情報は、後で相談窓口や医師に状況を伝える際の材料にもなります。
生活の様子を記録しておく
まずは、子の日々の様子を、評価を交えずに書き留めておくことをおすすめします。数週間から数か月分の記録があると、波があるのか、少しずつ悪くなっているのかといった傾向が見えてきます。
- 起床と就寝のおおよその時刻。
- 食事をとる回数と、食べている量の変化。
- 外出の有無と、行き先や時間帯。
- 入浴や着替えなど、身の回りのことができているか。
- 体調の訴えの内容と、その頻度。
- 金銭の使い方や、親への要求の有無。
たとえば、夜中にはネットで人とやり取りをしているのに日中は起きられない場合と、一日中ほとんど動けない場合とでは、つなぐべき先が変わってきます。
理由を問い詰めず、具体的に聞く
「なぜ働けないのか」と理由を問いただす形は、本人にとって責められているように感じられやすく、話し合いが続かなくなりがちです。それよりも、「週に何日なら外に出られそうか」「人と話さない作業ならどうか」「何が一番つらいか」など、場面を具体的にして聞くほうが、本人が答えやすくなります。一度で答えが返ってこなくても、聞き方を変えて時間をおいて尋ねることで、少しずつ輪郭が見えてくることがあります。
家の中の小さな役割を任せてみる
ごみ出しや買い物、食器の片付けといった家の中の役割を任せてみると、決まった時間に動けるか、続けられるか、頼まれたことをどの程度こなせるかが見えてきます。これは働く力そのものを測るものではありませんが、生活の基盤がどこまで整っているかを知る手がかりになります。支援のゴールをどこに置くかについては、【親子問題】「自立」と「自律」|支援のゴールをどこに置くかで詳しく解説しています。
家庭の外で確かめてもらうこと
家族が集められる情報には限りがあります。体や心の状態、働く力がどの程度あるのかは、専門の立場から見てもらうことで初めて分かる部分があります。
医療につなぐ
体調の訴えが続いている、気分の落ち込みが長く続いている、といった様子があれば、医療機関の受診が一つの選択肢になります。病気や障害があるかどうかの判断は、本人を診察したうえで医師が行うものです。本人が受診を拒む場合でも、保健所や精神保健福祉センターでは家族からの相談を受け付けていることが多く、受診の勧め方について助言を得られることがあります。
ただし、本人の意思に反して無理に連れて行くことは、本人との関係を大きく損なうだけでなく、法的な問題を生じることもあります。この点は、【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないをご覧ください。医療につなぐ判断の目安は、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で解説しています。
就労準備の場で「やってみて」分かること
働く力は、実際に何かに取り組んでみることで見えてくる面があります。地域若者サポートステーションや、生活困窮者自立支援制度の就労準備支援事業では、生活リズムを整えることから始めて、軽作業や職場体験などを段階的に経験できる場合があります。
こうした場で、通所が続くか、どのような作業なら取り組めるかといった様子が分かれば、「働けない」のどの部分が壁になっているのかが具体的になります。各制度の内容は【親子問題】就労支援の選択肢|サポステ・就労準備支援事業の実際、職歴の空白については【親子問題】仕事探しの現実|職歴の空白をどう埋めるかもあわせてご覧ください。
公的な制度の中で判断される場面
「働けるかどうか」は、公的な制度の中で判断されることもあります。たとえば生活保護では、利用できる資産や能力を活用することが要件とされており(生活保護法4条1項)、働く能力があるか、その能力を活用する意思があるか、実際に働ける場があるかといった点が、本人の状況に即して検討されます。障害者手帳や障害年金の手続でも、医師の診断書をもとに日常生活や就労への影響が審査されます。
これらはいずれも本人が申請する制度ですが、親としては「家族の見立て」ではなく「制度の中での判断」があり得ることを知っておくと、確かめる手段の幅が広がります。生活保護と世帯の関係については、【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方で解説しています。
確かめた結果を、親の支え方にどうつなげるか
「働けない」の中身を確かめる目的は、子を問い詰めることではなく、親がこれからどのように支えるかを決めることにあります。
成人した子への扶養は「余力の範囲」が基本
親子は互いに扶養する義務を負います(民法877条1項)。ただし、成人した子に対する扶養は、一般に、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で援助すれば足りるものと考えられています。子が働けない状態にあると分かった場合でも、親が自分の生活を削ってまで無制限に負担しなければならないわけではありません。詳しくは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかをご覧ください。
反対に、働ける見込みがあると分かった場合も、生活費の援助を一度に止めてしまうと、強い反発や衝突を招くおそれがあります。援助を減らす時期や順序は、本人の状態と家庭の事情に合わせて組み立てることが大切です。
支える期間と条件を言葉にしておく
確かめた結果をもとに、「いつまで、どのような形で支えるのか」を親の側で整理しておくと、場当たり的な対応を避けやすくなります。親の収入や資産、年齢から、今の状態があと何年続けられるのかを見積もっておくことも有効です。この見積もりの方法は、【親子問題】「あと何年この状態が続くのか」を数字で見積もるで紹介しています。
親だけで抱え込まないために
「働けない」の中身を確かめようとすると、子が強く反発したり、話し合いの場で暴言や物に当たる行動が出たりすることがあります。また、確かめる話を切り出すたびに金銭を求められる、本人がどの相談窓口にも行こうとしない、といった状況では、家族だけで進めることが難しくなります。本人が相談を拒んでいる場合に家族が動ける範囲は、【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲で解説しています。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との窓口を担い、親への暴力や金銭の要求を止める役割を担っています。そのうえで、民間の自立支援カウンセラーと組み、仕事探しや住まい探し、日々の金銭管理といった生活の基盤づくりを支える形をとっています。親と子の間に第三者が入ることで、家庭の中では確かめにくかった本人の状態や考えが見えてくることもあります。具体的な進め方は、【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際でご紹介しています。
よくあるご質問
本人に知らせずに、親だけで医師や窓口に相談してもよいですか
家族からの相談は、保健所や精神保健福祉センター、ひきこもり地域支援センターなどで受け付けていることが多く、親だけで相談すること自体に問題はありません。ただし、病気や障害があるかどうかは、本人を診察しなければ判断できません。家族の相談では、本人への声のかけ方や受診の勧め方について助言を受けることが中心になります。
診断がつかなければ「働けない」とは言えないのですか
診断がつかないことは、すぐに働けることを意味するわけではありません。生活リズムの乱れや長い空白期間、対人関係への不安などから、段階的な準備が必要な方もいます。就労準備の支援機関で実際に取り組んでみることで、どこに壁があるのかが分かることもあります。
働ける状態だと分かったら、生活費の援助をすぐに止めてもよいですか
成人した子への扶養は、親の余力の範囲で行えば足りるものと考えられています。ただ、援助を急に打ち切ると、反発や衝突、場合によっては暴力につながるおそれもあります。止める時期や伝え方を事前に整理し、必要に応じて第三者を交えて進めることをおすすめします。
まとめ
- 「働けない」には健康・能力・環境・気持ちといった複数の面があり、一度で白黒がつくものではありません。
- 家庭の中では、生活の記録、具体的な聞き方、小さな役割の任せ方を通じて、確かめる手がかりを集められます。
- 病気や障害の有無は医師が本人を診察して判断するもので、本人の意思に反して無理に受診させることは避ける必要があります。
- 就労準備の支援機関で実際に取り組んでみることで、働く力のどこに壁があるのかが見えてくることがあります。
- 成人した子への扶養は、親が自分の生活を維持したうえでの余力の範囲が基本とされています(民法877条1項)。
- 確かめる過程で反発や金銭の要求が強まる場合は、親だけで抱え込まず、第三者の力を借りることが大切です。
子の「働けない」という言葉を、そのまま受け入れるのでも、頭から否定するのでもなく、中身を一つずつ確かめていくことが、親子それぞれの次の一歩につながります。確かめる過程で親だけでは進めにくくなったときは、早めにご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


