【親子問題】家賃の援助を条件に、子に独立を促すのはあり?
この記事は、主に成人した子(18歳以上)との同居を前提に書いています。未成年の子の場合は親権者としての監護の責任があるため、考え方が大きく異なります。その点は本文の該当箇所で触れています。
子の暴力や金銭の要求、長く続くひきこもりに疲れ、親のほうが住まいを移すことを考え始めるご家庭は少なくありません。ところが、引っ越しの話を切り出した途端、子から「じゃあ自分もついていく」と言われ、話が振り出しに戻ってしまうことがあります。
親としては、同じ家に住み続けることがつらいからこそ転居を考えたはずです。それでも子に「ついていく」と言われると、断ってよいのか、断ったら親として責任を果たしていないことになるのか、迷いが生じます。この記事では、成人した子が親の新居についてくることを法律上どう考えるか、引っ越しを告げる前に整えておきたいこと、転居後に子が訪ねてきた場合の対応を順に整理します。
「ついていく」と言われて迷う場面
- 家を出たいのは親のほうなのに、子が当然のように一緒に来るつもりでいる。
- 新居の間取りを決める前に、子の部屋を用意しろと言われた。
- 「ついてくるな」と言えば暴れそうで、引っ越しの話そのものを進められない。
- 子を置いていくのは見捨てることになるのではないかと感じている。
- 新しい住所を教えないままでよいのか分からない。
こうした迷いの多くは、「親は子と一緒に住まなければならない」という思い込みと、「断ったときに何が起きるか分からない」という不安が重なって生まれています。まず前者について、法律上の位置づけを確認します。
成人した子に、親の新居へ住む権利はあるか
扶養の義務と「一緒に住む義務」は別のもの
親と子は互いに扶養の義務を負います(民法877条1項)。ただ、成人した子に対する親の扶養は、一般に、親が自分の生活を維持したうえで余力の範囲で援助する性質のものと考えられています。また、扶養の方法は当事者の協議で決め、決まらなければ家庭裁判所が定めるとされており(民法879条)、扶養のために必ず同居しなければならないという決まりはありません。
つまり、成人した子が「親だから一緒に住ませるべきだ」と主張しても、それだけで親の新居に住む権利が生じるわけではありません。扶養の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく扱っています。
新居が賃貸か持ち家かで、確かめることが変わる
新しい住まいに誰を住ませるかは、基本的にその住まいについて権利を持つ人が決めることです。賃貸であれば契約者である親、持ち家であれば所有者である親が判断する立場にあります。
| 新居の形態 | 子が住む根拠になり得るもの | 親が確かめておきたいこと |
|---|---|---|
| 賃貸住宅 | 契約者である親の承諾 | 契約書の入居者欄や同居人の届出の扱い。子を入居者として届け出ないこと |
| 持ち家(購入) | 所有者である親の承諾 | 名義が親だけになっているか。子に鍵を渡さないこと |
| 親族宅・施設など | 受け入れ先の承諾 | 受け入れ先に、子を同居させない方針を伝えておくこと |
注意したいのは、引っ越しの当初に「しばらくなら」と子を住まわせると、その後に出ていってもらうことが難しくなる場合がある点です。親子間の無償の同居は使用貸借と整理されることが多く、いったん住み始めた子に退去を求めるには、話し合いや、場合によっては法的な手続が必要になります。この点は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。新居については、最初から子を住まわせない形で始めることが、後の負担を小さくします。
未成年の子の場合は前提が違う
子が18歳未満の場合、親権者には子を監護し教育する権利と義務があります(民法820条)。成人した子と同じように「別々に暮らす」と決めることはできず、子だけを残して転居すれば、生活の状況によっては保護責任者遺棄が問題になるおそれもあります。未成年の子との生活が限界に近い場合は、児童相談所や市区町村の子ども家庭相談の窓口に、親子が離れて暮らす方法を含めて相談することが考えられます。
引っ越しを告げる前に整えておきたいこと
子の住まいと収入の見通しを先に立てる
子が「ついていく」と言う背景には、親と離れたら暮らしていけないという不安があることが少なくありません。子の行き先が何も決まっていない状態で「一緒には住まない」とだけ伝えると、子の不安が反発に変わりやすくなります。
そのため、親の転居の話と並行して、子の住まいと収入の見通しを立てておくことが大切です。たとえば、子が単身で部屋を借りる場合の保証会社の利用、就労が難しい場合の生活保護の申請、親と別の世帯として扱われるための手続などが検討の対象になります。具体的な段取りは【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順、世帯の扱いは【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱い、部屋を借りる際の注意は【親子問題】家を借りる際の保証人・保証会社の問題|無職の子のために親が引き受ける前にをご覧ください。
伝える内容と順序を決めておく
引っ越しの話は、その場の勢いで切り出すと、子の反応に押されて約束を変えてしまいがちです。事前に、伝える内容と順序を家族の中で決めておくと、話がぶれにくくなります。
- 親が転居することと、その時期。
- 新居には子は住まないという方針。
- 子の住まいについて、親として手伝えることと手伝えないこと。
- 転居後に連絡を取る方法と、その頻度。
- 親からの経済的な援助をするなら、その範囲と期間。
夫婦で方針が割れていると、子は甘い側の親に働きかけて「ついていく」話を押し通そうとすることがあります。伝える前に、両親の考えをそろえておくことが欠かせません。
新しい住所をどう扱うか
子に新しい住所を伝えるかどうかは、これまでの経緯によって判断が分かれます。暴力や執拗な金銭の要求がなく、適度な距離を保てる見込みがあるなら、住所を伝えたうえで「訪ねる前に連絡する」といった取り決めをする方法もあります。
一方、暴力があった場合や、転居先に押しかけてくるおそれが高い場合は、住所を伏せることも選択肢になります。住民票の写しなどの交付を制限する支援措置は、配偶者からの暴力やストーカー行為、児童虐待の被害者のほか、これらに準ずる被害を受けている人も対象になり得ます。成人した子からの暴力がこれにあたるかどうかは、警察などへの相談の経緯を踏まえて市区町村が判断するため、まずは転居前に警察署で相談しておくことが考えられます。あわせて、親族や知人にも新しい住所を子に伝えないよう頼んでおくと、思わぬところから住所が伝わることを防ぎやすくなります。
「ついていく」と言われたときの受け答え
実際に「ついていく」と言われたときは、その場で結論を変えないことが何より大切です。子が強い口調で迫ってきても、「一緒に住むかどうかは、もう決めたこと」と短く繰り返し、議論を長引かせないようにします。理由を細かく説明しようとすると、子が一つずつ反論し、話がかえってこじれることがあります。
また、断ったことを謝る必要はありません。謝ってしまうと、子は親が後ろめたさを感じていると受け取り、押せば変わると考えやすくなります。子の不安には「あなたの住まいについては手伝う」と応えつつ、「新居に一緒に住む」ことについては譲らない、という線を分けて伝えることが考えられます。
子が暴れそうな様子を見せたときは、話し合いを続けるより、その場を離れることを優先してください。身の危険を感じる場合は110番をためらう必要はありません。通報の判断については【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで整理しています。また、引っ越しの話が出た後に暴力が強まるおそれがある場合は、転居の日を待たずに親が一時的に家を離れることも検討に値します(【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択)。
引っ越した後に子が新居へ来てしまったら
帰るよう求めても居座る場合
子であっても、住人の承諾なく他人の住居に入れば住居侵入罪、帰るよう求められても立ち去らなければ不退去罪が問題になります(刑法130条)。窃盗などの財産に関する罪には親族間の特例がありますが、住居侵入や不退去には同様の特例は設けられていません。
もっとも、親子間のことですぐに刑事事件として扱われるとは限らず、警察がまず注意や説得にとどめることもあります。だからこそ、訪問の日時や様子、帰るよう求めたときのやり取りを記録し、繰り返される場合は警察に相談した記録を残しておくことに意味があります(【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続)。
しばらく離れた後に「戻りたい」と言われた場合
転居の直後は落ち着いていても、子の生活が行き詰まると「やはり一緒に住みたい」と言ってくることがあります。いったん再同居を受け入れると、元の状況に戻ってしまうおそれがあります。断り方の考え方は【親子問題】独立した子が家に戻りたいと言ってきた|再同居を断るときで詳しく扱っています。
元の家に子が残る場合
親だけが転居し、元の家に子が住み続ける形になることもあります。元の家が親名義の賃貸であれば家賃の負担が続き、持ち家であれば固定資産税や管理の問題が残ります。親名義の賃貸の解約については【親子問題】子が親名義で借りた部屋を解約したい|契約者としてできることと退去までの順序が参考になります。なお、子が住んでいる家の鍵を親が勝手に替えるなどの方法は、自力救済として問題になるおそれがあるため、慎重に考える必要があります(【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界)。
弁護士とカウンセラーが関わる場合の進め方
子が「ついていく」と言い張り、親だけでは話が進まない場合、当事務所では、弁護士が親の代理人として子との窓口になり、民間の自立支援カウンセラーと役割を分けて対応しています。弁護士は親への要求や押しかけを止める側に立ち、カウンセラーは子の家探しや仕事探し、生活保護の申請の支援、日々の金銭管理など、子が一人で暮らすための土台づくりを担います。
ご家庭によっては、弁護士とカウンセラーが自宅を訪ね、子と時間をかけて話をすることもあります。子にとっても、親と離れて暮らすことが自分の生活を立て直すきっかけになる場合があり、話し合いを重ねるうちに家を出ることを受け入れる子も少なくありません。家を出た後も一定期間は支援を続け、親からの援助は必要な範囲にとどめながら、子が自分で収入を得て支出を管理できるよう支えていきます。サービスの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応、距離を置くことの意味については【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点をご覧ください。
よくあるご質問
引っ越し先を子に教えないことは、法律上問題になりますか
成人した子に親の住所を知らせる法律上の義務は、一般にはありません。ただし、子との連絡がまったく取れなくなると、子の安否確認や、扶養に関する話し合いが必要になったときに困ることがあります。住所は伏せたまま、弁護士やカウンセラーを連絡の窓口にする方法も考えられます。
子の荷物は新居に運ばず、元の家に置いていってもよいですか
子の持ち物は子のものなので、新居に運ぶ義務はありませんが、親の判断で処分することは避けるべきです。元の家を引き払う場合は、子に引き取りの期限を伝え、引き取り先が決まるまでの保管の方法を話し合っておくことが望まれます。
子が勝手に新居へ住民票を移してきたら、どうなりますか
住民票は実際に住んでいる場所に置くことが前提です。子が新居に住んでいないのに転入の届出をした場合、届出の内容が事実と異なることになります。このような動きがあった場合は、早めに市区町村の窓口に事情を伝え、あわせて弁護士に相談されることをおすすめします。
ご相談にあたって
親が引っ越しを決めることは、子を見捨てることではなく、親子がそれぞれの生活を立て直すための一つの区切りになり得ます。「ついていく」と言われたときこそ、新居の扱い、子の行き先、伝え方を一つずつ整理しておくことが、その後の負担を小さくします。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


