【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道
本記事は2026年9月時点の法令・制度に基づいて作成しています。
「家を出て一人で暮らしてほしいが、仕事をしていない子が部屋を借りられるのか分からない」「不動産会社から、親が保証人になれば審査が通ると言われた。引き受けてよいのか迷っている」。親子の問題のご相談では、子の住まいをどう確保するかという段階で、保証人と保証会社の問題に行き当たることが少なくありません。反対に、何年も前に子の保証人になり、連絡が途絶えた後になって滞納家賃の請求を受けたというご相談もあります。
無職の人が部屋を借りる方法については、不動産会社などが多くの解説を出しています。保証会社を利用する、収入のある親族に保証人を頼む、家賃を抑える、といった説明はそれ自体誤りではありません。ただ、その多くは「審査に通るには」という借りる側の視点で書かれており、保証を引き受けた親がどこまで責任を負うのか、子と離れて暮らした後に何が起こりうるのかまでは、あまり触れられていません。
この記事では、成人した子が部屋を借りる場面で親が関わる形を類型ごとに整理し、保証人になる場合の民法のルール、保証会社を利用する場合の注意点、保証人を立てられないときの公的な選択肢を解説します。子に家から出てもらうための法的な手続は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで、親が成人した子をどこまで養う義務を負うのかは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで扱っています。
無職の子が部屋を借りるとき、審査で見られること
賃貸住宅の入居審査では、家賃を払い続けられるかどうかと、何かあったときに連絡がつくかどうかが見られます。収入のない子の場合、本人の支払能力を補う手当てとして、保証人か保証会社(家賃債務保証業者)のどちらか、あるいは両方が求められるのが一般的です。
保証人を求める物件と、保証会社を求める物件
以前は親族を連帯保証人に立てるのが通常でしたが、近年は報道などで賃貸取引の約8割に家賃保証が使われているとされ、保証会社の利用が主流になっています。保証会社は、借主が家賃を滞納したときに貸主へ立て替えて支払い、後で借主に請求する事業者です。
連帯保証人を求める物件では、安定した収入があることや近い親族であることが条件とされる例が多く、親が年金収入だけで暮らしている場合には、支払能力の点で認められないこともあります。親が保証人になれば必ず審査が通るというわけではありません。
保証会社を利用しても親に声がかかる場面
保証会社を利用する物件でも、親に何も求められないとは限りません。よくあるのは、申込書に「緊急連絡先」として名前を書くよう求められる場面と、保証会社との契約で改めて連帯保証人を求められる場面です。両者は書類の見た目が似ていても、負う責任はまったく異なります。この違いは次の章で整理します。
申込内容を偽る方法には頼らない
審査を通すために、勤務先や収入を実際と違う内容で申告する方法が紹介されていることがあります。しかし、虚偽の申告が後で判明すれば、貸主との信頼関係を損なうものとして契約の解除が問題となりうるほか、事案によっては刑事上の責任を問われるおそれもあります。無職であること自体は隠さなければならない事情ではなく、支払の見通しを別の形で示す方が、結果として子の住まいを安定させます。
親が関わる4つの形|負う責任はそれぞれ違う
子が部屋を借りる際に親が関わる形は、大きく次の4つに分けられます。どの形を取るかによって、滞納が起きたときの支払義務だけでなく、子が部屋を出ないときに誰が対応する立場になるのかも変わります。
| 関わり方 | 家賃などの支払義務 | 子が退去しない場合の立場 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 緊急連絡先になる | 契約上は負わないのが通常 | 親は当事者にならない | 記入する欄が「連帯保証人」になっていないか確認する |
| 保証会社を利用し、親が保証会社に対する連帯保証人になる | 保証会社が立て替えた額を請求されうる | 親は当事者にならないが、損害が増えれば請求額も増えうる | 誰に対して何を保証するのか、上限額はいくらかを確認する |
| 親が貸主に対する連帯保証人になる | 子と同じ内容の責任を負う(極度額まで) | 親は当事者にならないが、明渡しまでの損害も保証の対象になりうる | 極度額、更新時の扱い、相続の扱いを確認する |
| 親が契約者(借主)になり、子を住まわせる | 親自身の債務として負う | 親が借主として明渡しを求められる立場になる | 子を入居者とすることについて貸主の承諾を得る |
「緊急連絡先」と「連帯保証人」は別のもの
緊急連絡先は、借主と連絡がつかないときなどに貸主や保証会社が連絡する先で、それだけで家賃を支払う義務を負うものではありません。ただ、申込書や契約書の書式によっては欄の名称が紛らわしいこともあるため、署名する前に、自分がどの欄に何として記載されるのかを確認しておくことが大切です。保証契約は書面(またはその内容を記録した電磁的記録)でしなければ効力を生じないとされており(民法446条2項・3項)、署名した書面の内容がそのまま責任の範囲になります。
親が契約者になる方法の見落としやすい点
子の名義では審査が通らないため、親が借主として契約し、子を住まわせるという方法がとられることがあります。この場合、家賃は親自身の債務になり、子が家賃を払わなくなったり、部屋を傷めたりしたときも、貸主に対して責任を負うのは親です。貸主の承諾なく借主以外の人を住まわせると、無断転貸として契約解除の理由になりうるため(民法612条)、子が入居者であることは契約時に明らかにしておく必要があります。
また、子を独立させるための住まいであっても、親が借主である限り、親子の間に法的な結びつきが一つ残り続けます。子が部屋を出ない、近隣とトラブルを起こすといった場面で、貸主や管理会社からの連絡を受けるのは親になるという点も意識しておきたいところです。
親が連帯保証人になる場合に知っておきたい民法のルール
連帯保証人は、借主と同じ内容の責任を負う立場です。貸主はまず借主に請求しなければならないわけではなく、連帯保証人に直接請求することができます。そのうえで、2020年4月1日に施行された改正民法により、個人の保証人を守るためのルールがいくつか設けられています。
極度額の定めがなければ保証は効力を生じない
賃貸借の保証は、家賃、原状回復費用、損害賠償など、契約から生じる不特定の債務をまとめて保証するものです。個人がこのような保証(個人根保証契約)をする場合、責任の上限である極度額を定めなければ効力を生じず、極度額も書面で定める必要があります(民法465条の2第1項~第3項)。極度額の定めがあれば、保証人が負う責任はその金額までにとどまります。
親が保証人になるときは、極度額が自分の生活を維持しながら負担できる金額かどうかを、署名の前に確かめてください。老後の資金に充てる予定の預貯金から支払うことになれば、親自身の生活の立て直しにも影響が及びます。
2020年3月以前の保証と、契約の更新
2020年3月31日以前に結ばれた保証契約には改正前の民法が適用されるため、極度額の定めがなくても有効です。また判例は、期間の定めのある建物賃貸借の保証人は、特段の事情がない限り、更新後の賃貸借から生じる債務についても責任を負うとしています(最高裁平成9年11月13日判決)。改正前に結んだ保証が改正後に更新された場合も、特段の事情がない限り更新時に極度額を定める必要はないという見解が一般的とされています。10年以上前に署名した保証が、今も続いている可能性があるということです。
一方で、貸主が契約の解除などの手段を取らないまま長期間滞納を累積させ、後になって高額の請求をした事案で、保証人の支払義務を滞納額の一部にとどめた裁判例もあります。請求を受けたときは、滞納が始まった時期や、その間の貸主側の対応の経過を確認することに意味があります。
親や子が亡くなった場合と、滞納状況の確認
個人根保証は、主たる債務者(子)または保証人(親)が死亡したときに、保証する元本が確定します(民法465条の4第1項3号)。親が亡くなった後に生じた家賃について、相続人が保証の責任を引き継ぐことはありませんが、死亡の時点ですでに生じていた滞納分は、保証債務として相続の対象になります。
また、子から頼まれて保証人になった場合(委託を受けた保証人)は、貸主に対し、家賃の不払いの有無や残額などの情報を提供するよう求めることができます(民法458条の2)。子と連絡を取りにくくなった後でも、滞納が膨らむ前に状況を把握する手段として押さえておきたい規定です。
保証会社を利用する場合に知っておきたいこと
保証会社を利用する形は、親が直接の保証人にならずに済む点で、親の負担を軽くする選択肢になりえます。ただし、保証会社が何をし、何をしてはならないのかは知っておく必要があります。
保証会社が立て替えた家賃は、子に請求される
子が家賃を滞納すると、保証会社は貸主に立て替えて支払い、その額を子に請求します。親が保証会社に対する連帯保証人になっていなければ、親が立て替え分を支払う義務はありません。子宛ての督促が実家に届くこともありますが、名義人でない家族に当然に支払義務が生じるわけではありません。家族宛てに届いた請求への考え方は、【不当要求対応】同居していない家族の名義で請求が来た|誰の債務なのかも参考になります。
滞納時の対応には法的な限界がある
最高裁は2022年12月12日、家賃保証会社の契約書にあった、滞納額が一定に達したときに保証会社が催告なしに賃貸借契約を解除できる条項と、一定の条件の下で建物の明渡しがあったものとみなす条項について、消費者契約法10条に当たり無効であるとして、使用の差止めを命じました(最高裁令和4年12月12日判決)。これを受けて国土交通省も、登録している保証業者に対し、同様の条項を使わないよう周知しています。
保証会社を利用したからといって、滞納した子がすぐに部屋を失うわけではありません。他方で、保証会社が立て替えている間にも子の債務は積み上がっていくため、滞納の兆しがあれば早めに支援する側と情報を共有することが大切です。
国の登録制度を判断材料にする
国土交通省には家賃債務保証業者の登録制度があり、一定の要件を満たす業者を登録してその情報を公表することで、利用者が業者を選ぶ際の判断材料にできるようにしています。子が契約する保証会社を選べる場面では、登録業者かどうかを確認しておくと安心です。
保証人を立てられない・審査が通らないときの選択肢
親が保証を引き受けられない、あるいは引き受けないと判断した場合でも、子の住まいを確保する道がなくなるわけではありません。
認定家賃債務保証業者と居住サポート住宅
改正された住宅セーフティネット法が2025年10月1日に施行され、居住支援の付いた「居住サポート住宅」の制度と、住宅確保要配慮者が利用しやすい保証業者を国土交通大臣が認定する制度が始まりました。認定の要件として、居住サポート住宅に入居する要配慮者の保証を正当な理由なく断らないこと、保証人の設定を条件としないこと、緊急連絡先を個人に限定しないことなどが挙げられています。住宅確保要配慮者には、高齢者や障害者のほか、低額所得者も含まれます。認定業者の一覧は国土交通省のサイトで公表されています。
居住支援法人と自治体の窓口
各地には、住宅確保要配慮者の入居相談や入居後の見守りなどを担う居住支援法人があり、市区町村では、住まいの相談窓口となる居住支援協議会の設置が進められています。物件探しの段階から相談できる先として、子の住む予定の地域の窓口を確認しておくとよいでしょう。
生活保護を受けながら部屋を借りる場合
子が生活保護を受給して独立する場合、家賃は住宅扶助として支給され、その額には地域ごとに上限が定められています。家主の不安を和らげる仕組みとして、福祉事務所が住宅扶助を家主に直接支払う代理納付もあります(生活保護法37条の2)。転居に伴う費用の扱いを含め、実施機関の判断による部分が大きいため、物件を決める前に福祉事務所に確認しておくことが欠かせません。
保証を引き受けるかどうかを決める前に
子の独立を急ぐあまり、書類の内容を十分に確かめないまま署名してしまうことは避けたいところです。
引き受ける場合は、範囲を親の側で確かめておく
署名する前に、少なくとも次の点は確認しておきたいところです。
- 記入する欄が「連帯保証人」か「緊急連絡先」か。
- 極度額はいくらで、自分の生活を維持しながら負担できる金額か。
- 保証の対象に、家賃以外の費用(原状回復費用、損害賠償など)が含まれるか。
- 保証会社を併用する場合、親が誰に対して何を保証するのか。
- 契約が更新されたときに、保証がどう扱われるのか。
引き受けないという判断もありうる
成人した子が部屋を借りるにあたって、親が保証人にならなければならない法的な義務はありません。扶養の問題と、他人との契約を保証するかどうかの問題は別に考えることができます。成人した子の問題に親がどこまで関わるのかについては、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。
親子の物理的な距離を取るだけでも双方に変化が訪れることがある一方で、金銭の結びつきが強く残ると、せっかく取った距離が保ちにくくなる場面もあります。保証を引き受けるかどうかは、子の独立の後も親子の関係をどのような形で続けるのかという問題でもあります。
よくあるご質問
緊急連絡先になっただけで、家賃を請求されることはありますか
緊急連絡先は連絡を受ける先であり、それだけで家賃の支払義務を負うものではありません。請求を受けた場合は、署名した書面の欄が連帯保証人になっていないかを確認し、書面上も緊急連絡先にとどまるのであれば、支払義務がない旨を伝えて対応することになります。
保証人をやめることはできますか
賃貸借の保証は、保証人からの一方的な申し出だけで終わらせることは難しいのが一般的です。貸主や管理会社と話し合い、保証会社の利用に切り替えてもらう、別の保証人を立てるといった方法で、合意により保証から外れる形が現実的です。なお、親は賃貸借契約の当事者ではないため、子に代わって部屋の契約を解約することはできません。
子が家賃を滞納していると知ったら、何をすればよいですか
親が連帯保証人であれば、貸主に対して滞納の有無や金額の情報提供を求めることができます(民法458条の2)。滞納が長引くほど保証の負担は増えうるため、まず現状を把握し、子本人の支払の見通しや生活の立て直しを含めて対応を考えることになります。親が直接子に働きかけることで対立が深まるおそれがある場合は、第三者に間に入ってもらうことも選択肢の一つです。
まとめ
- 子が部屋を借りる際の親の関わり方は、緊急連絡先、保証会社への連帯保証、貸主への連帯保証、親名義での契約に分かれ、責任の重さがそれぞれ異なる。
- 保証契約は書面でしなければ効力を生じず、署名した書面の内容がそのまま責任の範囲になる(民法446条2項・3項)。
- 2020年4月1日以降に個人が結ぶ賃貸借の保証は、極度額を定めなければ効力を生じない(民法465条の2)。
- 期間の定めのある建物賃貸借の保証は、特段の事情がない限り更新後の債務にも及ぶ(最高裁平成9年11月13日判決)。
- 子または親が死亡すると保証する元本は確定し、それまでの滞納分は相続の対象になる(民法465条の4第1項3号)。
- 委託を受けた保証人は、貸主に家賃の不払いの有無や残額の情報提供を求めることができる(民法458条の2)。
- 保証人を立てられない場合も、認定家賃債務保証業者、居住支援法人、生活保護の代理納付(生活保護法37条の2)などの公的な仕組みを検討できる。
子の住まいの確保でお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。当事務所では、弁護士が親の代理人として対応し、民間の自立支援カウンセラーがチームとして子の家探しや仕事探し、生活保護の受給申請のサポート、日々の金銭管理などを担う形で、親と子それぞれの自立に取り組んでいます。人が関わる問題であるため結果をお約束することはできませんが、取り組みの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
子のために保証人になるべきか迷っている方、すでに保証人となっていて滞納の連絡や請求を受けている方、子に家を出てもらいたいが住まいの確保で行き詰まっている方は、お一人で抱え込まずにご相談ください。遠方にお住まいの方からのご相談については、【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際で説明しています。


