【親子問題】30代のひきこもりの子に、親が最初に声をかけるなら何から?
「この家はいずれ俺のものになるんだから、口を出すな」「頭金は自分が出したのだから、半分は自分の家だ」。成人した子と同居している親御さんから、このような言葉を繰り返し向けられて困っているというご相談をいただくことがあります。言われ続けるうちに、本当にそうなのかもしれないと不安になり、家のことを何も決められなくなってしまう方も少なくありません。本記事では、子が親の持ち家を「自分のものだ」と主張するときに、法律上どのように考えられるのかを、子の言い分ごとに整理します。
本記事は、2026年10月時点の民法・不動産登記法の規定と、これに関する主な最高裁判例をもとに解説しています。家の取得の経緯やお金の出し方によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。
まず確かめたいのは「名義」と「家を手に入れた経緯」
子が何と言っているかにかかわらず、最初に確かめたいのは、その家が法律上誰のものになっているかという点です。言葉のやり取りだけで判断せず、資料で確認するところから始めることをおすすめします。
登記事項証明書で名義を確認する
土地と建物の名義は、法務局で登記事項証明書を取得すれば確認できます。土地と建物は別々に登記されているため、両方を確認しておくと安心です。親の単独名義になっていれば、登記名義人である親が所有者であると事実上推定されると考えられており、子が「自分のものだ」と言うだけで所有権が子に移ることはありません。
名義だけでは決まらない場面もある
一方で、登記はあくまで権利関係を示す手がかりであり、名義だけですべてが決まるわけではありません。たとえば、購入時に子がまとまった資金を出していた場合や、親が子に家を贈与すると約束していた場合には、その事情が問題になることがあります。そこで次に、子の言い分ごとに考え方を見ていきます。
子の言い分ごとに見る法律上の考え方
| 子の言い分 | 法律上の考え方の目安 | 親が確かめたいもの |
|---|---|---|
| いずれ自分が相続する家だ | 相続は親が亡くなったときに始まるため、親が存命の間に子が家の権利を持つことはない | 登記事項証明書、遺言の有無 |
| 親がくれると約束した | 書面によらない贈与は、履行が終わっていない部分を解除できる | 贈与の書面、登記の移転の有無 |
| 頭金やローンを自分が払った | 共有持分になるのか、お金の精算の問題になるのかは、資金の性質で分かれる | 購入時の契約書、振込記録、ローンの名義 |
| 長年住んでいるから自分のものだ | 親の了解のもとで住んでいる場合、時効で所有権を取得することは通常認められにくい | 固定資産税の納付者、居住の経緯 |
| リフォーム代を自分が出した | 工事した部分は原則として家の所有者のものになり、費用の精算が問題になる | 工事の契約者、支払いの記録 |
「いずれ自分が相続する家だ」と言われたとき
相続は、人が亡くなったときに始まります(民法882条)。親が存命である以上、子は将来相続人になる可能性がある立場にとどまり、今の時点で家について権利を持っているわけではありません。
また、子が将来その家を相続するかどうかも決まっていません。親は、遺言によって誰に何を残すかを決めることができますし、ほかのきょうだいがいれば遺産分割の話し合いも必要になります。親が存命の間に家をどうするかは、所有者である親が決められます。
「くれると約束したはずだ」と言われたとき
口約束であっても、贈与の契約自体は成り立ちます。ただし、書面によらない贈与は、履行が終わっていない部分については、各当事者が解除できると定められています(民法550条)。不動産の場合、引渡しや所有権移転登記が済んでいるかどうかが、履行が終わったかの判断で重視されると考えられています。
これに対して、贈与の書面を作っていた場合や、すでに子へ名義を移していた場合は扱いが変わります。家族の間で書面を作った覚えがあるときは、内容を確認しておきます。子から生前贈与を求められている場合の対応は、次の記事でも解説しています。
【親子問題】生前贈与を迫られている|断り方と記録の残し方
「頭金やローンを自分が払った」と言われたとき
子が購入資金の一部を出していた場合、その家に子の共有持分があるのかが問題になります。共有持分の登記がされていれば子も共有者となり、親が単独で家の使い方を決めたり、子に退去を求めたりすることは難しくなります。
共有の登記がない場合でも、子が出したお金がどのような性質のものだったかによって、考え方が分かれます。親への贈与だったのか、親に貸したお金だったのか、同居の生活費や家賃に代わるものだったのかといった点です。共有持分の登記がない場合は、家そのものの権利ではなく、出したお金をどう精算するかの問題として整理されることも多いといえます。ローンの名義が誰か、どの口座から返済されてきたかといった記録が、判断の材料になります。
「長年住んでいるから自分のものだ」と言われたとき
他人の物を一定期間占有し続けると所有権を取得する「取得時効」という制度があります(民法162条)。ただし、そのためには「所有の意思」をもって占有していることが必要です。
親の家に親の了解のもとで住んでいる子は、多くの場合、親から家を無償で借りている「使用貸借」の関係にあると考えられます。借りて住んでいるという関係は、所有の意思のない占有(他主占有)と評価されるのが一般的で、長く住んでいるというだけで子が家を時効取得することは、通常は認められにくいでしょう。
もっとも、所有者の子の相続人が、贈与を受けたと信じて登記済証を持ち、固定資産税を納め、管理を一手に担っていた事案で、時効取得を認めた最高裁判例もあります(最高裁平成8年11月12日判決)。事情次第では判断が分かれる余地があるため、固定資産税は親の名義で納め続け、家の管理についても親が所有者として関わっておくことが、無用な争いを防ぐことにつながります。
「リフォーム代を自分が出した」と言われたとき
子が自分の費用で家を改装した場合でも、建物に取り付けられて一体となった部分は、原則として建物の所有者のものになります(民法242条)。リフォームをしたことで、子が家の所有権を得るわけではありません。
ただし、家の価値を高める工事であれば、子が親に対して費用の償還を求めることができる場面もあります(民法595条2項、583条2項、196条2項)。家の権利の問題と、出した費用の問題を分けて考えることが、整理の出発点になります。
「自分のものだ」という主張が続くと起きやすいこと
所有権について法律上の根拠がなくても、子が「自分の家だ」と思い込んだまま同居が続くと、次のような形で親の生活に影響が出てくることがあります。
- 家に誰を入れるか、どの部屋を使うかを子が決めるようになる。
- 親が家の修繕や売却、住み替えを考えても、子の反対で何も進められなくなる。
- 権利証(登記識別情報)や実印を子が持ち出し、無断で売却や担保設定を進めようとする。
- 親が亡くなった後、ほかのきょうだいとの間で家をめぐる争いが大きくなる。
とくに、子が「家を売って現金を分けろ」と迫ってくる場合や、権利証や実印に手を伸ばしている場合は、早めの備えが必要です。
【親子問題】「家を売れ」と子に迫られている|所有者である親が確かめることと、無断売却への備え
親が確かめておきたいことと、日頃の備え
- 法務局で土地と建物の登記事項証明書を取り、名義と共有関係を確かめる。
- 購入時の売買契約書、ローンの契約書、振込記録など、家を手に入れた経緯が分かる資料をまとめておく。
- 権利証(登記識別情報通知)と実印、印鑑登録カードを、子の手の届かない場所で保管する。
- 固定資産税を親の名義で納め続け、納税通知書を保管する。
- 子が出したお金があれば、いつ、いくら、どのような趣旨で受け取ったかを書き出しておく。
- 子とのやり取りで「家をあげる」とは言っていない場合、そのことが分かる記録を残しておく。
無断で名義を移されるおそれがあるとき
権利証や実印を持ち出されたおそれがあるときは、法務局に「不正登記防止申出」をする方法があります。申出から一定の期間内に、その不動産について登記の申請があった場合に、法務局から申出をした人に通知される仕組みです。あわせて、印鑑登録の廃止や登録し直し、登記識別情報の失効の申出なども検討します。具体的な手続の順序は、次の記事で解説しています。
【親子問題】子が親の実印や権利証を持ち出した|悪用を止める手続の順序と、使われていた場合の対応
言い争いで決着をつけようとしない
子の主張に法律上の根拠がないと分かると、正面から言い返したくなるのは自然なことです。ただ、親子の間で「誰の家か」を言い合うと感情的な衝突に発展しやすく、暴言や暴力のきっかけになってしまうこともあります。
資料をそろえたうえで、弁護士など第三者を通じて、所有関係を落ち着いて伝える方法もあります。
子に家を出てもらうことまで考えるとき
子が親の家に無償で住んでいる関係が使用貸借であれば、その終わらせ方は民法に定められています。期間や目的を定めていない場合には、貸主である親はいつでも契約を解除できます(民法598条2項)。一方で、生活の本拠として住むという目的が認められる場合には、目的に照らして住むのに足りる期間が過ぎたかどうかなどが問題になります。
また、親子間の使用貸借について、当事者の信頼関係が失われたことなどを理由に契約の終了を認めた最高裁判例もあります(最高裁昭和42年11月24日判決)。家の権利をめぐる主張が続き、暴言や暴力にまで及んでいるという事情は、信頼関係が失われていることを示す事情として主張できると考えられます。
ただし、契約を終わらせても、親が鍵を替えて締め出したり、荷物を勝手に運び出したりすることは、自力救済として違法と評価されるおそれがあります。話し合いがまとまらない場合は、建物の明渡しを求める裁判などの手続によることになります。
【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡し
【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界
親が亡くなった後に同じ主張が繰り返されないように
子が「この家は自分のものになる」と言い続けている場合、親が亡くなった後に、ほかの相続人との間で争いが大きくなることがあります。家を誰に残すか、あるいは売却して分けるのかといった方針があるのであれば、遺言で明らかにしておくことが考えられます。形式の不備で無効になるおそれを減らすため、公正証書遺言を選ぶ方も多くいます。
なお、遺言で家をほかの人に残すとしても、子には遺留分(最低限の取り分)を金銭で求める権利が残るのが原則です。子から虐待や重大な侮辱を受けている場合には、家庭裁判所に相続人から外すよう求める「相続廃除」という制度もありますが、認められる場面は限られています。
【親子問題】暴力を続ける子に財産を渡したくない|相続廃除の要件
弁護士が間に入るとできること
当事務所では、親御さんの代理人として、登記や購入時の資料をもとに家の権利関係を整理し、子に対して書面や面談でその内容を伝えます。子が出したお金の精算が必要な場合には、その金額や支払い方法についての話し合いも代理人として進めます。合意ができれば、その内容を書面に残します。
話し合いで解決できない場合には、明渡しを求める手続などを検討します。また、子の自立に向けた支援が必要なご家庭では、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら、子が家を出た後の生活の基盤づくりまで見据えて対応しています。
【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応
まとめ
- 子が「自分の家だ」と言うだけで、親の家の所有権が子に移ることはありません。
- 最初に、登記事項証明書と購入時の資料で、名義と家を手に入れた経緯を確かめます。
- 子がお金を出していた場合は、家の権利の問題と、お金の精算の問題を分けて考えます。
- 権利証や実印の保管、固定資産税の納付など、所有者としての備えを続けることが大切です。
- 主張が続いて同居が難しくなっている場合は、使用貸借の終了や明渡しの手続を検討します。
子が親の持ち家を「自分のものだ」と言い張る背景には、将来への不安や、親への依存が隠れていることもあります。権利関係を資料で確かめて落ち着いて伝えることと、親子が適切な距離を取れる形を考えることの両方が、解決への近道になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


