【親子問題】子が親名義で借りた部屋を解約したい|契約者としてできることと退去までの順序

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の民法(2020年4月1日施行の改正後のもの)と、居住用の賃貸住宅で一般的な契約実務をもとに作成しています。個々の契約書の定めによって結論が変わる場面があるため、実際の対応はお手元の契約書を確認したうえで判断してください。


「大学進学のときに親の名前で借りた部屋に、卒業から何年も経った今も子が住み続けている」「家賃は子が払うと言っていたのに、最近は親の口座から引き落とされている」。親子問題のご相談では、こうした親名義の部屋をめぐるお話を伺うことが少なくありません。一方で、子の側からは「自分が暮らしている部屋を、親の都合で突然解約されるのは困る」という声も聞かれます。

 賃貸借契約の解約手続そのものは、管理会社や不動産会社のサイトで丁寧に説明されています。その説明自体は誤りではありませんが、「契約者が解約通知を出せば手続は終わる」という前提で書かれていることが多く、実際に住んでいるのが契約者本人ではなく子である場合に、親の側に何が残るのかは見えにくくなっています。

 この記事では、子が住む親名義の部屋を親が解約したいときに、名義の中身の確かめ方から、解約に伴って親に残る責任、子が退去に応じない場合の対応までを順に整理します。実家に住む子を独立させる場面については【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順で、親の持ち家からの明渡しの考え方については【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで扱っています。

最初に確かめたいのは「親名義」の中身

 一口に「親名義の部屋」といっても、親が契約の中でどの立場にいるかによって、取れる手段は大きく異なります。まずは契約書の署名欄や当事者の表示を見て、親の名前がどこに書かれているかを確かめてください。

親の立場解約の手続主に確認したいこと
賃借人(契約者)親が自分で解約を申し入れられる解約予告期間・途中解約の特約・明渡しが遅れた場合の定め
連帯保証人親からは解約できない(解約するのは契約者である子)保証の上限額(極度額)・保証会社の有無
親の承諾なく名義を使われたそもそも親が契約に拘束されるかが問題になる署名・押印の経緯・貸主側の本人確認の方法


親が賃借人(契約者)になっている場合

 学生時代の部屋や、子に収入や信用がなく親が代わりに契約した部屋は、多くの場合このかたちです。入居者の欄に子の名前があっても、貸主との契約の当事者は親です。この記事が主に扱うのはこの場面で、契約の当事者である親は、子の同意がなくても解約を申し入れることができます。

親は連帯保証人にすぎない場合

 契約者が子で、親は連帯保証人として署名しているだけであれば、親の側から賃貸借契約を解約することはできません。この場合に親が考えるのは、保証の範囲をどう抑えるかという問題です。2020年4月1日以降に結ばれた個人による賃貸借の保証では、保証の上限額(極度額)を定めなければ保証契約の効力が生じません(民法465条の2)。保証人の立場で取れる対応は【親子問題】保証人になってしまった後にできることで説明しています。

親の知らないうちに名義を使われた場合

 子が親の身分証や印鑑を持ち出し、親の名前で契約していたというご相談もあります。親が契約を認めていなければ、原則として親は契約上の責任を負いません(民法113条1項参照)。ただし、家賃を親の口座から払い続けるなど、契約を認めたと受け取られかねない行動を重ねると、後から争いにくくなることがあります。この場面の考え方は【親子問題】子が親名義で契約した|追認しないという選択で整理しています。なお、部屋のほかに携帯電話や車の名義を親が持っている場合は、【親子問題】子の携帯・車の名義を親が持っている場合のリスクもあわせてご覧ください。

親が契約者なら解約はできる。ただし部屋が空くまでは親の責任が続く

 親が契約者であれば、解約そのものに子の同意や特別な理由は要りません。注意したいのは、解約を申し入れることと、部屋を空けて貸主に返すこととが、別の問題だという点です。

解約の申入れと解約日

 期間の定めのない建物の賃貸借では、借主から解約を申し入れた日から3か月で契約が終わるのが民法の原則です(民法617条1項2号)。もっとも、居住用の契約書では「1か月前までに書面で通知する」といった特約が置かれていることが多く、通常はその定めに従います。2年契約のように期間の定めがある契約では、途中で解約できる旨の特約があることが前提になります(民法618条)。

 借主の側から解約する場合、貸主から解約するときのような「正当事由」(借地借家法28条)は求められません。

解約日を過ぎても子が住んでいれば、負担は親に残る

 契約が終わると、親は貸主に対して部屋を明け渡す義務を負います。子が部屋に残っている限り、貸主から見ると、契約者である親が明渡しを終えていない状態が続きます。その間は家賃に相当する額の損害金を請求されるのが通常で、契約書によっては、明渡しが遅れた期間について賃料の倍額に相当する額を支払う定めが置かれていることもあります。

 また、退去時の原状回復も、貸主との関係では契約者である親が負います(民法621条)。子の使い方による汚れや傷の修繕費が親に請求されたり、敷金から差し引かれたりすることもあるため、立会いの前に部屋の状態を把握しておくと落ち着いて対応できます。

家賃の支払いを止めて退去を促すことの危うさ

 「家賃を払わずにいれば、そのうち契約が解除されて子も出ていくだろう」と考える方もいます。しかし、滞納した家賃の支払義務を負うのは契約者である親で、保証会社が立て替えた場合には、親に立替分の請求が来ます。滞納を理由に契約が解除されても、明渡しまでの損害金の問題は同じように残ります。家賃の不払いを子に退去を促す手段として使うことは、親の負担をかえって増やす結果になりやすいといえます。

親と子の間ではどのような関係になっているのか

 貸主と親との契約とは別に、部屋を使わせている親と、住んでいる子との間にも法律上の関係があります。ここを整理しておくと、子に退去を求める根拠がはっきりします。

親が家賃を負担している場合は使用貸借と考えられることが多い

 親が家賃を払い、子は対価を払わずに住んでいる場合、親子の間は、無償で物を使わせる使用貸借の関係と考えられることが多くなります。使用貸借では、期間も使用の目的も定めていなければ貸主はいつでも契約を解除でき、「大学を卒業するまで」のように目的を定めていた場合も、その目的に従って使うのに足りる期間が過ぎれば解除できます(民法598条1項・2項)。使用貸借には借地借家法の保護が及ばないため、親から子に部屋の返還を求めること自体は、法律上それほど難しくありません。

 なお、契約書上は親自身が住む前提になっているのに、実際には子だけが住んでいる場合は、貸主との関係で無断転貸(民法612条)が問題になる余地もあります。管理会社に事情を説明するときは、入居の経緯を正確に伝えることが大切です。

子が家賃を自分で払ってきた場合

 「名義だけ貸してほしい」と頼まれ、家賃は子が払ってきたという場合もあります。この場合でも貸主との契約者は親であり、親が解約を申し入れることはできます。ただ、親子の間では「子が家賃を払う限り住み続けてよい」という取決めがあったと受け取られる余地があり、子が親に家賃相当額を渡していた場合には、親子の間が賃貸借(転貸借)と評価されることも考えられます。子が自分の負担で生活を組み立ててきた経緯があるなら、退去の時期や引越しの費用について話し合う時間を取るほうが、結果として早い解決につながりやすいといえます。

解約ではなく、名義を子に移すという選択

 子に安定した収入があり、今の部屋に住み続けたいという意向がはっきりしている場合は、解約ではなく、契約者を子に切り替える方法もあります。契約上の地位を移すには貸主の承諾が必要で(民法539条の2)、実務では子の名義で入居審査を受け、契約を結び直す扱いが一般的です。審査の結果によっては、保証会社の利用を求められることもあります。その際に親が連帯保証人として残るかどうかは慎重に判断したいところで、【親子問題】家を借りる際の保証人・保証会社の問題|無職の子のために親が引き受ける前にもあわせてご覧ください。

解約までの進め方

 親名義の部屋を解約するときは、解約通知を出す前に準備を整えておくことで、親に残る負担を小さくできます。

契約書と管理会社への確認

 手元で確認しておきたいのは、次の点です。

  • 契約者・入居者・連帯保証人の欄に、それぞれ誰の名前が書かれているか。
  • 解約の予告期間と、通知の方法(書面・所定の書式など)。
  • 明渡しが遅れた場合の損害金についての定め。
  • 保証会社の利用の有無と、保証委託契約の当事者が誰か。
  • 鍵の本数と、退去時の立会いの方法。


 契約書が見当たらない場合は、管理会社に写しを求めることができます。管理会社に連絡するときは、入居しているのが子であることや、退去の時期を子と調整していることを伝えておくと、その後のやり取りが進めやすくなります。

子に伝える順序と退去日の決め方

 解約を先に申し入れてから子に伝えると、子の転居先が決まらないまま解約日を迎え、損害金の問題が生じやすくなります。子に退去の意向を伝え、転居先と退去日の見通しを立ててから解約日を設定するという順序のほうが、親の負担は抑えられます。話し合いで決めた退去日、引越し費用をどちらが負担するか、部屋に残す荷物の扱いなどは、書面にしておくと後の行き違いを防げます。

 子に暴力をふるう傾向がある場合は、伝える場面そのものに危険が伴います。一人で伝えることは避け、第三者を介することも検討してください。

転居先と荷物、住民票

 子に収入がなく、自分では次の部屋を借りられないことが退去の妨げになっている場合もあります。生活保護を受けて転居するときの住宅扶助など、公的な制度の利用を検討する場面もあります。また、部屋に荷物が残っていると明渡しが終わったとは扱われないことが多いため、引越しの段取りまで見届けることが大切です。住民票の異動は、子が親と別の世帯であれば子自身の届出が基本になります。世帯の扱いについては【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱いで説明しています。

子が退去に応じないとき

 話し合っても退去日が決まらない、あるいは決めた日を過ぎても子が出ていかないということもあります。この段階で親が自分の力で解決しようとすると、かえって立場を悪くすることがあります。

鍵の交換や荷物の運び出しは控える

 契約者が親であっても、子が実際に住んでいる部屋の鍵を無断で替えたり、子の荷物を運び出して処分したりすることは、自力救済として違法と評価されるおそれがあります。子から損害賠償を求められたり、荷物の処分が刑事上の問題に発展したりする可能性もあります。詳しくは【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界をご覧ください。

書面での通知と、第三者を介した交渉

 まずは、親子の間で部屋を使わせる関係を終わらせる意思と退去の期限を、書面で子に伝えます。内容証明郵便を使えば、いつ、どのような内容を伝えたかを後から示すことができます。親が直接伝えると感情的な対立になりやすい場合は、弁護士が親の代理人として子との連絡窓口になることで、話し合いを事務的に進められることがあります。交際相手との間で同じような問題が起きた場合の対応は【男女トラブル】同棲していた部屋から相手が出ていかない|名義を貸した側にできることで扱っており、考え方の多くは共通します。

最終的には明渡しの手続

 話し合いがまとまらなければ、裁判所を通じた明渡しの手続を検討することになります。契約が終わった後も子が住み続けている場合、所有者である貸主から子に明渡しを求めることもでき、親も使用貸借の貸主として子に部屋の返還を求めることができます。判決を得ても子が退去しない場合は、強制執行の手続によって明渡しを実現することになります。裁判には時間と費用がかかり、その間の損害金の扱いについて貸主と協議が必要になる場面もあるため、早い段階で貸主側とも方針をすり合わせておくことが大切です。

よくあるご質問

子に知らせずに解約の手続を進めてもよいのでしょうか

 契約者である親は、法律上は子の同意がなくても解約を申し入れることができます。ただ、子が知らないまま解約日を迎えると、子には転居先を探す時間がなく、結果として部屋に残り続けることになりかねません。その間の損害金は親に請求されるため、退去日の見通しを立ててから手続を進めることをおすすめします。

子が遠方に住んでいても、解約や交渉を任せられますか

 解約の申入れは書面や管理会社所定の方法で行えるため、親が現地に行かなくても進められることが多いです。子との交渉や退去の立会いを含めて、弁護士が代理人として対応することもできます。当事務所では、北海道から沖縄まで全国の親子問題のご相談をお受けしてきました。詳しくは【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際をご覧ください。

解約すると、子が住む場所を失ってしまわないか心配です

 親としてそう感じるのは自然なことです。解約は、子を追い出すことだけを目的とするものではなく、親と子それぞれの生活を分けて立て直すための一つの区切りでもあります。当事務所では、弁護士が親の代理人として子と向き合う一方、提携する自立支援カウンセラーが子の家探しや仕事探し、生活保護の申請などを支えるかたちで対応しています。結果をお約束することはできませんが、住まいの手当てを並行して進めることで、退去に向けた話し合いが進むことは少なくありません。

まとめ


  1. 「親名義」には、親が契約者の場合、連帯保証人の場合、無断で名義を使われた場合があり、取れる手段がそれぞれ異なる。
  2. 親が契約者であれば、子の同意や正当事由がなくても解約を申し入れられる(民法617条1項2号。期間の定めがある契約は途中解約の特約が前提となる、同法618条)。
  3. 解約後も子が住み続ける限り、明渡しの遅れによる損害金や原状回復の負担は契約者である親に残る(同法621条)。
  4. 親が家賃を負担している場合、親子の間は使用貸借と考えられることが多く、親から返還を求めやすい(同法598条)。
  5. 子が住み続けたい場合は、貸主の承諾を得て契約者を子に切り替える方法もある(同法539条の2)。
  6. 子の転居先と退去日の見通しを立ててから解約日を設定すると、親の負担を抑えやすい。
  7. 鍵の交換や荷物の処分は自力救済となるおそれがあり、話し合いが難しければ代理人を介した交渉や明渡しの手続を検討する。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、子の家庭内暴力やひきこもり、金銭の問題など、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方にお住まいの方からのご相談にも対応しています。

親名義の部屋の解約や退去の話し合いを一人で進めることに不安がある方は、契約書をお手元にご用意のうえ、お早めにご相談ください。弁護士が親御さんの代理人として子との窓口を担い、自立支援カウンセラーとともに、子の住まいと生活の立て直しまでを見据えて対応します。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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