【親子問題】兄の暴力が続く家から、兄に出ていってもらうことはできる?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

同居している兄が家族に手をあげる、物を壊す、大声で怒鳴る。そうした状態が続くと、「兄に家を出ていってもらうことはできないのか」と考えるのは自然なことです。結論から言えば、兄に家を出てもらう道はあります。ただし、その道筋は「家が誰の名義か」と「誰が退去を求めるのか」によって大きく変わります。本記事では、弟や妹、あるいは親の立場から、暴力をふるう兄に家を出てもらうための法的な考え方と、実際の進め方を整理します。

本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて作成しています。家の名義や同居の経緯などによって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。


まず確認したいのは「家の名義」と「求める人」

 兄に家を出てもらうことを法律の言葉で言い換えると、「建物から退去してほしい」と求めることになります。この求めができるのは、原則として建物を使わせる権限を持っている人、つまり所有者です。そのため、最初に確かめたいのは、兄が住んでいる家の名義が誰になっているかという点です。

 名義は、法務局で登記事項証明書を取得すれば確認できます。実家だから親の名義だろうと思っていても、祖父母の名義のままになっていたり、親が亡くなった後の相続の手続きが終わっていなかったりすることもあります。

家の名義退去を求められる人主な道筋
親の単独名義親兄が住む根拠を終わらせ、話し合いや明渡しの手続きを進める
弟・妹(相談者)の単独名義相談者本人兄が住む根拠を終わらせ、話し合いや明渡しの手続きを進める
兄も共有者になっている単独で退去を求めることは難しい共有物分割の手続きで持分の関係を整理する
親が亡くなり、遺産分割が終わっていない単独で退去を求めることは難しい遺産分割の中で家を取得する人を決める


 兄が家の所有者や共有者でない場合は退去を求める余地がありますが、兄自身が家に権利を持っている場合は、すぐに出ていってもらうことは難しくなります。以下、それぞれの場面を順に見ていきます。

家賃を払わずに住む兄の立場は「使用貸借」と考えられることが多い

 家族が実家に住み続けている場合、多くは家賃を払っていません。このように無償で建物を借りている関係は、民法上の「使用貸借」(民法593条)にあたると考えられるのが一般的です。兄は、所有者である親などから、無償で家を借りているという位置づけになります。

使用貸借はどのような場合に終わるのか

 使用貸借は、期間や目的を定めていたかどうかで終わり方が変わります。期間も目的も定めていない場合、貸主はいつでも契約を解除できます(民法598条2項)。一方、使用の目的が定められている場合は、その目的に従って使うのに足りる期間が過ぎたときに解除できるとされています(同条1項)。

 家族が実家に住む場面では、「生活の場として住むため」という目的があると判断されることが多く、所有者が「出ていってほしい」と言えば直ちに関係が終わる、とまでは言い切れません。

暴力が続いていることは、解除の理由として主張できる

 家族間の使用貸借については、当事者の間の信頼関係が失われたことなどを理由に、契約の解除を認めた最高裁の判例があります(最高裁昭和42年11月24日判決)。家族であっても、暴力をふるえば刑事上は暴行罪や傷害罪にあたり得る行為であり、民事上も不法行為となります。暴力や物の破壊が繰り返されているという事情は、信頼関係が失われていることを示すものとして主張できると考えられます。

 ただし、裁判所が解除を認めるかどうかは、暴力の程度や回数、続いている期間、同居に至った経緯などを総合して判断されます。きょうだいげんかの延長と受け止められるおそれもあるため、後で説明する記録の積み重ねが重要になります。

 成人した子を家から出すことの法的な整理は、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しでも解説しています。

弟や妹の立場で動くときに押さえておきたいこと

 兄の暴力に悩んで相談される方の中には、弟や妹の立場の方もいらっしゃいます。この場合に気をつけたい点が2つあります。

家が親名義なら、退去を求めるのは親になる

 家が親の名義で、相談者である弟や妹が所有者でない場合、弟や妹が自分の名前で兄に退去を求めることはできません。使用貸借を解除して退去を求められるのは、貸主である親です。

 親が兄をかばっている、高齢で判断が難しい、兄を怖がって動けないといった事情があると、きょうだいだけでは手続きを進めにくくなります。こうした場面での考え方は、【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで整理しています。

兄が相続人になっている家は扱いが変わる

 親がすでに亡くなり、名義が親のままで遺産分割が終わっていない場合、兄も相続人として家に持分を持っていることになります。相続が始まる前から親と同居していた相続人については、遺産分割が終わるまでの間、無償で住み続けることを認めた判例もあります(最高裁平成8年12月17日判決)。

 この場合は、退去を求めるよりも先に、遺産分割協議や家庭裁判所の調停で家を誰が取得するのかを決めることが、現実的な道筋になります。兄がすでに共有者として登記されている場合も同じように、共有物分割の手続きで持分の関係を整理することになります。

きょうだい間の暴力には、DV防止法の保護命令が使えない

 配偶者や同居する交際相手からの暴力であれば、DV防止法にもとづいて、裁判所に接近禁止命令や退去等命令などの保護命令を求める制度があります。しかし、保護命令の対象は配偶者(事実婚や元配偶者を含む)と、生活の本拠を共にする交際相手に限られており、兄弟姉妹は含まれていません。

 そのため、きょうだいからの暴力については、次のような手段を組み合わせて考えることになります。

  • 暴行罪・傷害罪としての警察への相談や被害届の提出。
  • 裁判所への接近禁止や面談強要禁止などの仮処分の申立て。
  • 親が高齢の場合の、高齢者虐待防止法にもとづく市区町村の窓口への相談。


 なお、親族間の窃盗などには刑を免除する特例(刑法244条)がありますが、暴行や傷害、器物損壊はその対象外です。家族間の暴力であっても、刑事事件として扱われる可能性があります。詳しくは【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲をご覧ください。

 ただし、逮捕されたとしても、身柄の拘束は一定の期間で終わります。刑事手続は兄を家から出すための手続きではないため、釈放後に兄が家に戻ってくる可能性も考えておく必要があります。被害届を出すかどうかの判断については、【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることも参考になります。

 また、接近禁止の仮処分は、同じ家で暮らし続けている間は効果を発揮しにくく、別々に暮らすようになった後に意味を持つことが多い手段です。仮処分の位置づけについては、接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。

鍵を替えて締め出すことは避けたい

 兄が外出している間に鍵を替える、荷物を外に出すといった方法は、手早く見えるかもしれません。しかし、法的な手続きを経ずに相手の生活の場を奪うことは「自力救済」にあたり、原則として認められていません。かえって兄から損害賠償を求められたり、逆上を招いて危険が増したりするおそれがあります。詳しくは【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で解説しています。

 話し合いで解決しない場合に、法的な手続きで退去を実現する流れは、おおむね次のとおりです。

  1. 内容証明郵便などで、使用貸借の解除と退去を求める意思を伝えます。
  2. 必要に応じて占有移転禁止の仮処分を申し立て、ほかの人を住まわせるなどして手続きを妨げられないようにします。
  3. 建物明渡請求訴訟を起こし、退去を命じる判決を求めます。
  4. 判決が確定しても退去しない場合は、強制執行を申し立てます。


 訴訟から強制執行まで進むと、数か月から1年程度、事案によってはそれ以上の時間がかかることもあります。費用や時間の負担に加え、手続きの間も同じ家で暮らし続けることになる場合がある点は、あらかじめ考えておきたいところです。

退去を求める前から残しておきたい記録

 解除が認められるかどうかは、暴力が繰り返されてきた事実をどこまで示せるかに左右されます。次のような記録を、日付が分かる形で残しておくことが大切です。

  • けがをしたときの医療機関の受診記録や診断書。
  • 壊された家具や壁などの写真。
  • 暴言や物音を録音した音声。
  • 警察に相談した日時と、相談した警察署の記録。
  • いつ、どこで、何をされたかを書き留めたメモや日記。
  • 家の登記事項証明書。


 診断書を取るタイミングや、警察への相談記録が持つ意味については、【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証と【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で詳しく説明しています。

裁判の前に検討したい「話し合いで家を出てもらう」道

 法的な手続きは最終的な手段であり、実際には、兄本人が納得して家を出る形を目指したほうが、家族の負担が小さく済むことも少なくありません。ただ、暴力をふるう家族と家族だけで話し合うことには危険が伴い、感情的な衝突も繰り返されやすくなります。

 当事務所では、親御さんの代理人として弁護士が介入し、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで対応しています。弁護士が家族への暴力や金銭の要求を窓口として受け止め、カウンセラーが家探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理など、家を出た後の生活の基盤づくりを支えます。必要に応じてご自宅を訪問し、本人と時間をかけて話をすることもあります。

 家を出た後の生活の見通しが立たないことが、本人が家にとどまる理由になっている場合もあります。生活の手立てを一緒に考えることで、本人が自ら家を出る決断をするケースも少なくありません。危険が予想される事案では、警察と連携を取りながら、安全に配慮して進めます。具体的な進め方は、【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順や【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際でご紹介しています。

危険が差し迫っているときは、まず安全を確保する

 刃物を持ち出す、首を絞めるなど、命に関わる危険があるときは、ためらわずに110番通報してください。親や弟妹が一時的に家を離れ、親族の家や宿泊施設に避難することも、身を守るための大切な選択肢です。

 兄に精神的な不調がうかがわれる場合は、保健所や精神保健福祉センターに相談する方法もあります。自分や他人を傷つけるおそれがある状態であれば、警察官の通報などを経て、精神保健福祉法にもとづく入院の手続きにつながることもあります。

 避難の考え方は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で、通報するかどうかの判断は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで解説しています。

まとめ


  • 兄に退去を求められるのは、原則として家の所有者です。
  • 無償で住む兄の立場は使用貸借と考えられることが多く、暴力が続いていることは解除の理由として主張できます。
  • 兄が共有者や相続人である場合は、共有物分割や遺産分割の中で整理する必要があります。
  • きょうだい間の暴力にはDV防止法の保護命令が使えないため、刑事手続や仮処分などを組み合わせて考えます。
  • 鍵の交換などによる締め出しは避け、記録を残しながら手続きを進めることが大切です。


 兄の暴力が続く家では、名義の確認や記録の整理といった準備を、危険を避けながら少しずつ進めていくことになります。家族だけで抱え込まず、早めに第三者を交えて方針を考えることで、取れる手段は広がります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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