【親子問題】子が飲食店でトラブルを起こし、店から親に請求が来たら?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

成人した子が飲食店で騒ぎを起こし、後日、店から親のもとに「代金と修理費を払ってほしい」という連絡が来ることがあります。家族として申し訳なさを感じ、言われた金額をその場で払ってしまう方も少なくありません。ただ、法律上、誰が何を負担するのかは、子の年齢や請求の中身によって分かれます。この記事では、店から親に請求が来たときに確かめておきたいことと、親が支払うと決めた場合の注意点を整理します。

本記事は、成年年齢を18歳とする現行の民法を前提にしています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。


店から親に請求が来たときに、まず押さえる原則

 飲食店でのトラブルで店に損害が生じた場合、損害を賠償する責任を負うのは、原則として行為をした本人です。親子であっても、親が子の代わりに当然に支払う義務を負うわけではありません。

子の年齢によって、親の責任は変わる

 民法は、自分の行為の責任を理解できるだけの能力(責任能力)がない人は賠償責任を負わないとし(民法712条)、その場合には監督する義務のある人、典型的には親が責任を負うと定めています(民法714条)。裁判例では、責任能力の有無の目安はおおむね12歳前後とされています。

子の年齢・状況主に責任を負う人親の責任の考え方
おおむね12歳前後より下の子監督義務者である親親は監督を怠っていなかったことなどを示さない限り、責任を負うのが原則です。
責任能力のある18歳未満の子子本人親の監督の不足と損害との間に因果関係がある場合に限り、親自身の責任(民法709条)が問われることがあります。
18歳以上の子子本人親が保証人になっていた、自ら支払いを約束したなどの事情がなければ、親が支払う法的な義務は通常ありません。


 この記事で主に取り上げるのは、18歳以上の子のケースです。成人した子の行為については、同居しているかどうかにかかわらず、親が監督義務者として責任を負う場面は限られます。

親が支払いを求められる理由になり得る事情

 成人した子のトラブルでも、次のような事情があると、親自身に支払いの義務が生じることがあります。請求を受けたら、まず自分に当てはまるものがないかを確かめてください。

  • 子の飲食代や賃料について、親が保証人や連帯保証人になっていた。
  • 親名義のカードや予約で利用しており、親自身が契約の当事者になっている。
  • トラブルの後に、親が「私が払います」と書面や口頭で約束した。
  • 親が子の行為に関わっていた、または止めるべき立場にありながら放置していた。


 とくに3つ目は見落とされやすい点です。店から呼び出され、その場で念書や支払いの約束書に署名すると、それ自体が親の支払い義務の根拠として扱われるおそれがあります。子の借金と親の返済義務の関係は、【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのかでも解説しています。

請求の中身を項目ごとに分けて確かめる

 店からの請求は「損害一式」とまとめて示されることもありますが、項目ごとに性質が異なります。支払うかどうかを考える前に、何に対していくら求められているのかを分けて確認することが大切です。

請求の項目確認しておきたいこと
飲食代注文の明細と金額、子が実際に注文・飲食した分か。
壊れた物の修理・買い替え費用壊れた物の写真、見積書、購入時期(古い物は時価で考えることがあります)。
店員や他の客のけがの治療費診断書、通院の記録、子の行為とけがとの関係。
清掃・消毒の費用実際にかかった費用の領収書や見積書。
休業や営業への影響営業を止めた時間、その間の売上の見込みを示す資料。
迷惑料・慰謝料請求の根拠と金額の算定方法。


 飲食代や修理費のように金額を確かめやすいものと、営業への影響や迷惑料のように算定に幅があるものとでは、話し合いの進め方が変わります。金額に疑問がある項目は、資料の提示を求めたうえで検討しても差し支えありません。

店から連絡が来たときに、親が避けたい対応

 店側も被害を受けた立場であり、誠実に向き合う姿勢は大切です。そのうえで、後から取り返しがつきにくい対応は控えるようにしてください。

  • 事実を確かめる前に、全額の支払いを約束すること。
  • その場で念書や借用書、保証の書面に署名すること。
  • 子に事情を聞かないまま、親の判断だけで話を進めること。
  • 請求の根拠を尋ねずに、言われた口座へ振り込むこと。
  • 感情的になって店側を責め、話し合いをこじらせること。


 まずは店に「本人に事情を確認したうえで、改めてご連絡します」と伝え、時間をもらうのが一つの方法です。あわせて、店の名称と担当者、連絡の日時、伝えられた内容をメモに残しておくと、後の話し合いで役立ちます。

親が代わりに払うと決めた場合の注意点

 法的な義務がなくても、「子が払えないので、親として支払って終わらせたい」と考えるのは自然なことです。親が子の債務を代わりに払うこと自体は、民法上認められています(第三者による弁済、民法474条)。ただし、払い方によっては同じ問題が繰り返されたり、後から追加の請求を受けたりするおそれがあります。

合意書を作り、清算条項を入れる

 支払う場合は、口頭のやり取りだけで済ませず、合意書を作ることをお勧めします。合意書には、当事者が子本人であること、親が子に代わって支払うこと、支払う金額と方法、これ以外に請求し合わないことを確認する条項(清算条項)を入れておくのが一般的です。

子の意思を確認しておく

 子が「自分は悪くない」「払う必要はない」と考えている場合、親が頭越しに支払うと、親子の関係がさらにこじれることがあります。また、法律上の利害関係のない第三者による弁済は、債務者本人の意思に反する場合に制限がかかる場面もあります。できる範囲で子の考えを聞き、支払った分を子に後で返してもらうのか、贈与として扱うのかも決めておくと安心です。

 示談金を親が負担するかどうかの考え方は、【親子問題】示談金を親が払うべきか|払う場合の条件で詳しく取り上げています。

刑事事件として扱われている場合

 飲食店でのトラブルは、内容によっては犯罪として扱われることがあります。最初から払うつもりがないのに注文した場合の詐欺罪(刑法246条)、店員への暴行罪・傷害罪(刑法208条・204条)、店の備品を壊した場合の器物損壊罪(刑法261条)、大声や暴れる行為で営業を妨げた場合の威力業務妨害罪(刑法234条)などです。

 警察が関わっている場合、店との話し合いは民事上の賠償と刑事手続の両面を持つことになります。「お金を払えば被害届を取り下げる」と持ちかけられることもありますが、刑事手続への影響は事案によって異なるため、約束の内容を合意書に正確に書き残すことが重要です。子が逮捕されている場合は、弁護人を通じて示談を進めるのが通常の流れです。逮捕直後の親の動き方については、【親子問題】子が逮捕された|親が最初にすべきこと、成人した子の刑事事件で親が関われる範囲については、【親子問題】成人した子の刑事事件で親ができること・できないことをご覧ください。

個人賠償責任保険が使えないか確認する

 自動車保険や火災保険、クレジットカードなどに、個人賠償責任保険(日常生活賠償)が特約として付いていることがあります。契約によっては、記名された被保険者の同居の親族や、別居している未婚の子も補償の対象に含まれます。

 ただし、わざと物を壊した場合など故意による損害は補償の対象外とされることが多く、酒に酔った上での行為の扱いも契約によって異なります。示談の前に保険会社へ連絡しないと補償を受けにくくなる場合もあるため、店と金額を決める前に、加入している保険の内容を確かめておくとよいでしょう。

トラブルが繰り返される場合は、親子の問題として向き合う

 一度きりのトラブルであれば、請求を整理して支払いを済ませることで区切りがつくこともあります。しかし、飲酒や浪費、暴力をきっかけに同じようなトラブルが何度も起き、そのたびに親が後始末を引き受けている場合は、支払いだけでは問題が解決しにくいといえます。親が払い続けることで、子が自分の行為の結果に向き合う機会を失っている可能性もあります。

 近所の人との間で起きたトラブルの賠償については、【親子問題】子が近所の人とトラブルを起こした|成人した子の賠償と親の責任でも解説しています。また、店との窓口を弁護士に代えるという選択肢については、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択をご参照ください。

よくあるご質問


同居している成人の子のトラブルでも、親は払わなくてよいのですか?

 同居しているという事情だけで、親が成人した子の賠償責任を負うことは通常ありません。ただし、親が保証人になっていた場合や、親自身が支払いを約束した場合などは別に考える必要があります。

店から「親の勤務先に連絡する」と言われました。

 親に支払いの義務がないにもかかわらず、勤務先への連絡をほのめかして支払いを迫る行為は、内容によっては不当な要求にあたるおそれがあります。やり取りを記録し、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。

すでに一部を払ってしまいました。残りも払う必要がありますか?

 一部を支払ったことで、残りの請求をすべて認めたと扱われるかどうかは、そのときのやり取りや書面の内容によって異なります。支払った金額と経緯を整理したうえで、残りの請求の根拠を改めて確かめることが大切です。

まとめ


  • 成人した子が飲食店で起こしたトラブルの賠償責任は、原則として子本人が負います。
  • 保証人になっていた場合や、親自身が支払いを約束した場合には、親に支払いの義務が生じることがあります。
  • 請求は項目ごとに分け、金額の根拠となる資料を確認してから検討するのが安全です。
  • 親が代わりに払う場合は、清算条項を入れた合意書を作り、子の意思も確かめておくと安心です。
  • 同じトラブルが繰り返される場合は、支払いだけでなく、親子の関係そのものを見直す必要があります。


 当事務所では、子の行為をめぐって店や相手方から請求を受けた親御さんからのご相談をお受けしています。請求の中身の整理や合意書の確認、店との窓口の引き受けのほか、トラブルが繰り返される背景に家庭内の問題がある場合には、自立支援カウンセラーと連携した対応も行っています。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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