【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくこと

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の法令にもとづいて書いています。成年後見制度を見直す改正民法は2026年6月に成立・公布されましたが、施行は公布から2年6か月以内の政令で定める日とされており、現時点では施行前です。本文の成年後見に関する説明は、現行の制度を前提としています。


「年金は親のお金なのだから、通帳とカードを自分に預けてほしい」と子に言われ、断ると機嫌が悪くなるので迷っている。ご相談の中では、そうした親御さんの声を聞くことがあります。反対に、きょうだいの一人が親の年金を管理するようになってから、何に使われているのか分からなくなったという、ほかのご家族からのご相談もあります。

 親の年金や預貯金をめぐる解説は、使い込みが分かった後にどう取り戻すか、相続の場面でどう清算するかを中心に書かれているものが多く見られます。その説明自体は誤りではありませんが、親が元気なうちに「渡すかどうか」「渡すならどこまでか」を決める段階については、あまり触れられていません。

 この記事では、判断能力のある親が、成人した子から年金の管理を任せるよう求められている場面を取り上げます。すでに預貯金を引き出されてしまった場合の対応は【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道で、通帳やカードを取り上げられてしまった場合は【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応で詳しく扱っています。

「年金の管理を任せる」とは、何を渡すことなのか

年金を受け取る権利そのものは、子に移せない

 公的年金を受け取る権利は、譲り渡すことも、担保に入れることも法律で禁じられています(国民年金法24条、厚生年金保険法41条1項)。年金の振込先として指定できる口座も、原則として受給者本人名義の口座に限られています。家族だからという理由で、子の名義の口座に年金を振り込んでもらうことはできません。

 そのため、子が「年金を管理する」といっても、年金が子のものになるわけではありません。実際に子の手に渡るのは、親名義の通帳やキャッシュカード、暗証番号といった、親の口座からお金を出し入れするための手段です。

任せることは、法律上は「委任」にあたる

 親が子にお金の出し入れや支払いを頼むことは、民法でいう委任、あるいは準委任にあたると考えられます(民法643条、656条)。家族の間の口約束であっても、任された側には一定の義務が生じます。民法には、次のような義務が定められています。

  • 親のために、注意を尽くしてお金を扱う義務(民法644条)。
  • 親から求められたときに、管理の状況を報告する義務(同法645条)。
  • 管理の中で受け取ったお金を、親に引き渡す義務(同法646条)。
  • 親に渡すべきお金を自分のために使ったときに、利息を付けて返し、損害があれば賠償する責任(同法647条)。


任せた後でも、親はいつでもやめられる

 委任は、それぞれの当事者がいつでも解除できます(民法651条1項)。管理を任せても年金は親のものであり、親は報告を求めることも、任せるのをやめることもできます。「一度渡したら取り返せない」という性質のものではない点を、まず押さえておくとよいでしょう。

渡すかどうかを考えるときの確認点

管理を求める理由が、親の生活のためか、子の生活のためか

 物忘れが増えた親の支払いを手伝いたいという申し出と、子自身の生活費を年金から出したいという求めとでは、同じ「管理」という言葉でも中身が違います。「管理」という言葉が、親の生活の手伝いを指しているのか、子の生活費の確保を指しているのかを分けて考えることが出発点です。

 後者は管理というより、親から子への経済的な援助の話です。成人した子への援助をどこまで続けるかは親が決めることであり、扶養の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで整理しています。子の生活が親の年金に頼っている場合の先の見通しは、【親子問題】親の年金で生活している子|年金が止まった後の設計で取り上げています。

困っているのは、どの事務なのか

 公共料金や施設の利用料の支払い、銀行の窓口に行くこと自体が負担になっているなど、困っている事務が限られているのであれば、口座振替の設定や、必要な事務だけを頼む方法で足りることもあります。通帳とカードと暗証番号をまとめて渡すことが、唯一の方法というわけではありません。

求め方に、威圧や暴力が伴っていないか

 断ると怒鳴られる、物に当たられる、渡さなければ困ったことになると言われるといった状況で渡すのは、任せるというより、断れずに取り上げられている状態に近いといえます。こうした場合は、渡すかどうかより先に、親自身の安全と、子からの金銭の求めにどう向き合うかを考える必要があります。断ることの法的な位置づけは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。

 ここまでの確認点を整理すると、次のようになります。

確認すること考え方の目安
管理を求める理由親の生活の支払いのためか、子自身の生活費のためか
困っている事務の範囲支払いの一部だけか、お金の管理全体か
親の判断能力親自身が残高や支出をおおむね把握できているか
求め方話し合いでの申し出か、威圧や暴力を伴う求めか
ほかの家族との関係きょうだいなど、ほかの家族にも説明できる形か


任せた後に問題が起きると、警察に頼りにくい理由

親子の間では、刑が免除される仕組みがある

 子が親のお金を無断で引き出したり、預かったお金を自分のために使ったりすれば、窃盗罪や横領罪にあたる可能性があります。ただ、配偶者、直系血族、同居の親族との間でこれらの罪を犯した場合は、刑が免除されると定められています(刑法244条1項、255条)。詐欺罪や恐喝罪にも、同じ扱いが準用されます(同法251条)。子は親から見て直系血族にあたるため、同居しているかどうかにかかわらず、この特例の対象になります。

 なお、同じ条文の2項は、それ以外の親族、たとえば別居しているきょうだいやおじ・おばとの間の事件について、告訴があれば起訴できるとする定めです。親子の間の事件は1項の対象であり、告訴をすれば処罰されるという仕組みにはなっていません。特例の適用範囲には細かな論点もあるため、個別の事情に応じた検討が必要ですが、親子の間では、預けたお金が使われても刑事事件として扱われにくいため、渡す前の段階で仕組みを整えておく意味が大きくなります。一方で、暴行や脅迫にはこの特例はありません(同法208条、222条)。

お金を取り戻す請求は残るが、裏付けが課題になる

 刑が免除されても、民事上の責任は残ります。親は子に対して、使われたお金の返還(民法703条、704条)や損害賠償(同法709条)を求めることができます。ただ、子の側から「親に頼まれて引き出した」「親の生活のために使った」と言われると、どちらの言い分が実際に沿っているかを裏付ける資料が問題になります。

 誰に、何を、どこまで任せたのかが分かる記録があるかどうかで、その後の見通しは変わります。記録が後でどのような意味を持つかについては、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかで取り上げています。

65歳以上の親であれば、行政が関わる仕組みもある

 高齢者虐待防止法は、養護者や高齢者の親族が、高齢者の財産を不当に処分すること、高齢者から不当に財産上の利益を得ることを、経済的虐待として定めています(高齢者虐待防止法2条4項2号)。この法律でいう「高齢者」は65歳以上の方です(同法2条1項)。

 厚生労働省の令和6年度の調査では、養護者による虐待を受けたとされた高齢者17,472人のうち、経済的虐待を受けていたのは2,857人(16.4%)でした。虐待をした養護者の続柄は、息子が38.9%で最も多くなっています。市町村や地域包括支援センターが関わる流れは、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで解説しています。

すべてを渡さずに負担を減らす方法

年金の受取口座と、日々の支払いの口座を分ける

 年金が振り込まれる口座の通帳とカードは親が持ち続け、日々の支払いに必要な額だけを別の口座に移して、その口座の範囲で子に手伝ってもらう方法があります。任せる範囲を口座や金額で区切っておくことが、親子双方にとって行き違いを防ぐことにつながります。親は全体の残高を把握しやすくなり、子の側にとっても、何をどこまで任されたのかが明確になります。

任せる場合は、範囲と報告の方法を書き残しておく

 家族の間で契約書を作ることに抵抗を感じる方もいますが、短いメモでも、次のような点を書き残しておくと後の行き違いを減らせます。

  • 任せる事務の範囲(どの口座の、どの支払いか)。
  • 1回または1か月に引き出す金額の目安。
  • 領収書や明細の保管と、親への報告の頻度。
  • 親が求めたときには、通帳やカードを返すこと。
  • ほかのきょうだいなどにも、同じ内容を共有すること。


家族以外の第三者が関わる仕組みを使う

 社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業では、本人との契約にもとづいて、福祉サービスの利用手続や日常的な金銭管理の手伝いを受けられます。判断能力が衰えたときに備える方法としては、親が元気なうちに、任意後見人となる人と任意後見契約を結んでおく方法があり、この契約は公正証書で作成します(任意後見契約に関する法律3条)。

 任意後見は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任したときから効力が生じるため(同法2条1号、4条1項)、子を任意後見人にする場合でも、第三者の目が入ります。すでに判断能力が衰えている場合には、家庭裁判所に成年後見等の開始を申し立てる方法があります。冒頭でふれたとおり、成年後見制度は改正法が成立しており、施行後は利用の仕方が変わる見込みです。第三者が金銭管理を担う仕組みの違いは、【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いでまとめています。

すでに通帳やカードを渡している場合

返却と報告を求め、手段を切り替える

 委任はいつでもやめられるため、親は子に対し、通帳やカードの返却と、これまでの管理状況の報告を求めることができます(民法645条、646条、651条1項)。渡した後でも、返却と報告を求めることはできます。

 返却に応じてもらえない場合でも、親本人が金融機関で手続をすれば、カードの利用停止や再発行、暗証番号の変更ができます。年金の振込先を、親が新しく用意した本人名義の口座に変える手続(年金受給権者 受取機関変更届)もあります。ただ、子と同居していて、手続をしたことが分かると衝突が予想される場合には、手続の順序や時期、親がいったん身を寄せる先などを先に考えておくことが大切です。

取引の履歴を取り寄せて、使われ方を確かめる

 預金の名義人である親は、金融機関に取引履歴の発行を求めることができます。いつ、いくら引き出されたかを確かめ、親自身の支出として説明がつくものと、そうでないものを分けておくと、子との話し合いでも、後に返還を求める場合でも、出発点になります。

直接話すのが難しいときは、窓口を代える

 子と顔を合わせて返却を求めることが難しい場合には、弁護士が親の代理人となり、返却や報告を求める窓口を引き受ける方法があります。親が直接やり取りをしなくて済むことで、話し合いが落ち着いて進む場合もあります。弁護士が窓口になる意味は、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で解説しています。

よくあるご質問

子の口座に年金を振り込んでもらえば、管理が楽になるのではないですか

 年金の振込先は、原則として受給者本人名義の口座に限られており、家族の口座を指定することはできません。年金を受け取る権利を子に移すこともできません(国民年金法24条、厚生年金保険法41条1項)。管理の負担を減らしたい場合は、本文で取り上げたように、口座を分ける方法や第三者が関わる仕組みを検討することになります。

認知症と診断されたら、子が通帳を管理するしかないのでしょうか

 判断能力が衰えた後の金銭管理には、成年後見制度があります。また、全国銀行協会は2021年に、認知症などで判断能力が低下した顧客の取引に親族などが関わる場合の考え方を示していますが、実際の取扱いは金融機関ごとに異なります。親が元気なうちに任意後見契約などで備えておくと、子が管理する場合にも、その範囲と監督の仕組みがはっきりします。

任せたくないと伝えたら「親不孝だ」と言われました

 年金を誰が管理するかは、年金を受け取る親自身が決めることです。断る場合は、理由を長く説明するよりも、「自分で管理を続ける」「支払いのこの部分だけ手伝ってほしい」など、親としての方針を短く伝えるほうが、話がこじれにくい傾向があります。求めが強くなる、威圧を伴うといった場合には、親だけで受け止めずに、早めに外部へ相談することをおすすめします。

まとめ


  1. 年金を受け取る権利は譲り渡すことが禁じられ、振込先も原則として本人名義の口座に限られる(国民年金法24条、厚生年金保険法41条1項)。
  2. 子に年金の管理を任せることは委任にあたり、子には報告や引渡しなどの義務が生じる(民法644条〜647条)。
  3. 任せた後でも、親はいつでも委任をやめ、通帳やカードの返却を求められる(民法651条1項)。
  4. 親子の間では窃盗や横領などの刑が免除されるため、渡す前の段階で仕組みを整えておくことが大切になる(刑法244条1項、251条、255条)。
  5. 65歳以上の親の財産を不当に処分することは、経済的虐待として行政が関わる対象になる(高齢者虐待防止法2条4項2号)。
  6. 口座を分ける、範囲と報告を書き残す、日常生活自立支援事業や任意後見契約を使うといった方法で、すべてを渡さずに負担を減らせる(任意後見契約に関する法律3条、4条)。
  7. すでに渡している場合も、返却と報告を求め、取引履歴で使われ方を確かめることができる(民法645条、646条)。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子の家庭内暴力やひきこもり、お金の求めなど、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方の方からのご依頼にも対応しており、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、親御さんの保護と子の自立の両面から取り組んでいます。

子から年金や通帳を預けるよう求められて迷っている方、すでに渡してしまい使われ方が分からなくなっている方は、ひとりで抱え込まずにご相談ください。ご相談から自立までの流れは、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご案内しています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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