【親子問題】保護観察中の子と同居する家族の役割
「最近、出かけた先を子に言い当てられる」「買い物から帰ると、どこに寄っていたのかを問い詰められる」。このような違和感から、自分のスマホに見覚えのない位置情報アプリが入っていることに気づく親御さんがいます。同居している成人した子が、親の居場所を把握するためにアプリを入れていたり、共有の設定を変えていたりする場面です。
本記事は、2026年10月時点の法令をもとに、成人した子が親のスマホに位置情報アプリを入れていた場面を想定して解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。
家族の間のことなので大げさにしたくない、と感じる方も多いと思います。一方で、親に無断で居場所を把握し続けることは、法律上問題になることがある行為です。この記事では、アプリに気づいたときに確かめたいこと、法的な位置づけ、削除する前に考えておきたいこと、相談先の選び方を順に整理します。
まず確かめたいこと|アプリが入っているのか、設定が変えられているのか
位置情報が知られてしまう経路は、新しいアプリを入れられる場合だけではありません。スマホにもともと備わっている機能の設定を変えられている場合もあります。どちらなのかによって、法的な評価も、対処の方法も変わってきます。
確認しておきたい場所
次のような場所を、落ち着いて見ておくと状況がつかみやすくなります。
- ホーム画面やアプリ一覧に、自分で入れた覚えのない見守りアプリや位置共有アプリがないか。
- 「探す」機能やGoogleの位置情報共有で、自分の居場所が誰かと共有されていないか。
- 家族共有(ファミリー共有・ファミリーリンクなど)に、子のアカウントが管理者として登録されていないか。
- スマホやアカウントに、知らない端末からのログイン記録が残っていないか。
- バッグや車の中に、紛失防止タグなど見慣れない小さな機器が入っていないか。
iPhoneには、共有している情報や連携している端末をまとめて見直せる「安全チェック」という機能があります。操作に自信がない場合は、携帯電話会社のショップで確認を手伝ってもらう方法もあります。共有アプリや見守りアプリの解除の流れについては、別れた後も位置情報を見られている|共有アプリ・見守りアプリの解除と法的対応でも解説しています。交際相手との場面を想定した記事ですが、設定の見直し方は親子の場合も共通します。
法的にはどう扱われるのか
親子の間であっても、親のスマホやアカウントを無断で操作して居場所を把握することは、次のような法律との関係が問題になります。ただし、どの法律に当たるかは、何をどのように行ったかによって変わります。
| 行為の例 | 関係する可能性がある法律 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 親のスマホに無断で位置情報アプリを入れた | 刑法の不正指令電磁的記録供用罪 | 親の意図に反して動くプログラムといえるか |
| 親のIDとパスワードで無断でログインし、居場所を見た | 不正アクセス禁止法 | 他人の識別符号を無断で使ったか |
| もともとある機能の共有設定を無断で変えた | 電磁的記録に関する罪、民事上のプライバシー侵害 | 設定変更の内容と、親の承諾の有無 |
| 居場所を把握したうえで待ち伏せや押しかけをした | ストーカー規制法、そのほかの刑法上の罪 | 行為の目的と、付随する言動 |
無断でアプリを入れた場合|不正指令電磁的記録供用罪
持ち主の意図に沿わない動作をするプログラムを、正当な理由なく他人のスマホで動く状態にする行為は、刑法168条の3の不正指令電磁的記録供用罪の対象になるおそれがあります。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。
これまでにも、交際相手や配偶者のスマホに位置情報を共有するアプリを無断で入れたとして、この罪の疑いで逮捕された例が報じられています。親子の間でも、親の知らないうちにアプリを入れ、親の居場所が子に送られる状態にしていたのであれば、同じ観点から問題になる可能性があります。
親のアカウントに無断でログインした場合|不正アクセス禁止法
親のApple IDやGoogleアカウントのパスワードを知った子が、親に無断でログインし、「探す」などの機能で親の居場所を表示させる場合があります。他人のIDとパスワードを無断で入力して利用する行為は、不正アクセス禁止法の不正アクセス行為に当たるおそれがあり、法定刑は3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
過去に親がパスワードを教えたことがあっても、その目的や範囲を超えて使っている場合には、問題がなくなるとは限りません。
もともとある機能の設定を変えた場合
新しいアプリは入れず、スマホに備わっている位置情報の共有機能をオンにして、子の端末で親の居場所が見られるようにする場合もあります。この場合、不正指令電磁的記録供用罪には当たりにくいと考えられています。もっとも、設定の内容によっては電磁的記録に関する別の罪が検討される余地があるとする見解もあり、少なくとも民事上のプライバシー侵害として問題になる可能性は残ります。
ストーカー規制法は親子の間でも使えるのか
ストーカー規制法は、相手の承諾を得ずに位置情報を取得する行為や、所持品に位置情報を送る機器を取り付ける行為を規制の対象としています。2021年の改正で、スマホに入れたアプリなどを使った位置情報の無承諾取得が対象に加えられ、その後の改正では紛失防止タグへの対応も進められました。
ただし、この法律が対象とするのは、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行われる行為です。親子の間の行為がこの目的に当てはまるかははっきりしないことが多く、ストーカー規制法の対象にはならない場面も少なくありません。そのため親子の事案では、ストーカー規制法だけに頼るのではなく、上に挙げた刑法や不正アクセス禁止法、民事上の手段を含めて考えるのが現実的です。位置情報をめぐるストーカー規制法の仕組みは、GPS・AirTagで居場所を追跡された|改正ストーカー規制法と位置情報無承諾取得の罪で詳しく解説しています。
「親子だから罪にならない」とは限らない
刑法には、親族の間の窃盗などについて刑を免除する「親族相盗例」という特例があります。しかし、この特例は財産に関する一部の罪を対象とするもので、不正指令電磁的記録供用罪や不正アクセス禁止法違反には及びません。家族だから問題にならない、と考えるのは正確ではありません。
とはいえ、法律上問題になり得ることと、実際に警察が立件するかどうかは別の話です。家族間の事案では、警察がまず相談として受け止め、注意や助言にとどまることもあります。その場合でも、相談した記録は後の手続で意味を持つことがあります。詳しくは【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。
「見守りのつもりだった」と言われたとき
子に問いただすと、「心配だから入れた」「前に親が了承した」と返されることがあります。この言い分をどう受け止めるかは、次の点で分けて考えると整理しやすくなります。
- 設定した当時、親が内容を理解したうえで承諾していたか。
- 承諾していた場合でも、親がやめてほしいと伝えた後も続いているか。
- 居場所の情報が、安否の確認を超えて、行動を問い詰めたり外出を制限したりすることに使われていないか。
- 親の判断能力が低下していて、家族による見守りが必要な状況にあるか。
たとえば、高齢の親の外出時の安全のために、家族で話し合って位置共有を始めたという場合は、それ自体が直ちに問題になるわけではありません。一方で、最初は承諾していたとしても、親がやめてほしいと伝えたのに続けている場合や、居場所を把握して帰宅後に責め立てる、外出先に現れるといった使い方をしている場合には、見守りの範囲を超えていると評価される可能性が高まります。
親が65歳以上で、子が親の世話をしている立場にある場合には、行動の過度な監視や制限が、高齢者虐待防止法の心理的虐待として扱われることもあります。行政が関わる仕組みについては、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで解説しています。
削除する前に考えておきたいこと
見覚えのないアプリに気づくと、すぐに削除したくなるのは自然なことです。ただ、同居している子が相手の場合、削除したことはいずれ子に伝わります。削除をきっかけに子が強く反発するおそれがある場合には、順序を考えてから動くほうが安全です。
- アプリの名前、共有の設定画面、ログイン履歴などを画面の写真やスクリーンショットで残す。
- 気づいた日付、思い当たる経緯、子から居場所について言われた言葉をメモにしておく。
- 子が逆上するおそれがあるかを考え、必要であれば先に警察や弁護士に相談する。
- 削除や設定の変更をするときは、パスコード、Apple IDやGoogleアカウントのパスワードもあわせて変え、二段階認証を設定する。
- 削除の後に暴言や暴力が強まった場合に備えて、身を寄せられる先や連絡手段を確保しておく。
記録を残しておくのは、子を責めるためではありません。後に警察や弁護士へ相談するとき、何が起きていたのかを具体的に伝えるためです。介入の後に子の反応が強まった場合の備えについては、【親子問題】介入の後に子が逆上した|再度の暴力への備えもあわせてご覧ください。
位置情報の監視とあわせて起きやすいこと
当事務所にご相談いただく親子の問題では、位置情報の把握が単独で起きているというより、ほかの問題と重なっていることが少なくありません。たとえば、次のような状況です。
- 外出先や帰宅時間を細かく問い詰められ、答えないと怒鳴られる。
- 外出先に子が現れたり、何度も電話をかけてきたりする。
- 居場所の情報や、家の中での録音・撮影を材料に、お金を求められる。
- 暴言や物を壊す行為が続いており、身の危険を感じる場面がある。
このような場合には、スマホの設定を直すだけでは問題が解決しないことがあります。暴力がある場合の初動は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、録音や撮影を材料にされている場合は【親子問題】子が家の中で親を録音・撮影し、それを材料に脅してくる|録音の評価と親が避けたい対応で、それぞれ解説しています。
どこに相談すればよいか
相談先は、何を優先したいかによって選び分けます。
| 相談先 | 主に相談できること |
|---|---|
| 警察(緊急時は110番、緊急でない相談は#9110) | 身の危険があるとき、アプリの無断インストールや不正ログインを被害として相談したいとき |
| 携帯電話会社のショップ | アプリや共有設定の確認、端末やアカウントの安全の見直し |
| 地域包括支援センターや市区町村の窓口 | 親が高齢で、子からの監視や行動の制限が続いているとき |
| 弁護士 | 子との窓口を代えたい、記録を整理して警察相談に臨みたい、子の自立も含めて家庭の状況を見直したいとき |
どこに相談すればよいか迷う場合の考え方は、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。
弁護士が間に入るとできること
親が直接「アプリを消してほしい」「居場所を見るのをやめてほしい」と伝えても、話がこじれてしまうことがあります。弁護士が親の代理人として入ることで、親に代わって子に伝え、その後の連絡の窓口を弁護士に移すことができます。
当事務所では、親子の問題について、弁護士が親の側に立って対応し、自立支援カウンセラーが子の生活の立て直しを支える形で取り組んでいます。位置情報の監視が、同居の中での強い依存関係や、お金をめぐる問題の一部として起きている場合には、スマホの問題だけでなく、家庭全体の状況を踏まえて対応方針を考えます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
まとめ
- 位置情報が知られる経路には、アプリを入れられる場合と、もともとある機能の設定を変えられる場合があります。
- 親子の間でも、無断のアプリのインストールや不正ログインは、刑法や不正アクセス禁止法との関係で問題になることがあります。
- ストーカー規制法は、親子の間では目的の要件に当てはまらず、使えない場面も少なくありません。
- 削除する前に記録を残し、子の反応を考えたうえで順序を決めることが大切です。
- 監視が暴力や金銭の要求と重なっている場合は、スマホの問題だけでなく家庭全体の問題として相談先を選ぶことが考えられます。
自分の居場所を家族に知られ続けることは、日々の外出や人づきあいにまで影響しかねない問題です。家族のことだからと一人で抱え込まず、まずは何が起きているのかを整理するところから始めてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


